魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
地図にしてみればそれなりに離れているものの、アスナたちにとっては目と鼻の距離にシモンとサラはいた。
メカタマの移動時間を考えて数時間という距離であり、待てなくも無い時間である。
しかし賞金首である自分たちがのんびり出来ないこと、そして早く仲間の元へと駆け付けたいという思いから、まだ朝靄の掛かる早朝にアスナ達は旅立つことにした。
「では、我々は行きます」
「瀬田さんもハルカさんも色々とありがとな」
「いや~、大した力になれなくて済まなかったね」
「そんなことないわよ。それに瀬田さんたちもオスティアに来るかもしれないんでしょ? だったら、また会おうね」
僅か一晩の出会いであったが、同じ同郷ということから、瀬田とハルカとはすっかり打ち解けてしまった。もとより、瀬田もそれほど細かいことを気にする人間ではないだけに、アスナ達がお尋ね者ということに大した警戒心も見せずに、気さくな態度で接してくれただけに、少しアスナ達も名残惜しかった。
「でも、残念やな~、瀬田さんとハルカさんには、ウチらがモルモル王国に住むことになったときのために、色々聞きたいことがあったんやけどな~」
「はい、それに青山素子さんのことも聞きたかったのですが・・・・我々もあまりゆっくり出来ませんから・・・」
「うん、そのことに関してはもしオスティアで会えることになったらゆっくりと話そう。取り合えず今は君たちの仲間のところへ駆け付けるんだね」
「そん時面倒なことになったら、手ぇ貸してやるよ」
「はい、よろしくお願いします!」
一人ずつと軽く握手を交わして、瀬田たちに手を振りながら、アスナ達はまだ早朝の村から飛び出し、真っ直ぐオスティアへと進路を目指す。
ネギがいる。
他の仲間もきっと目指している。
その思いが一歩、また一歩、進む速度が速くなっていく。
そしてもう一度、後ろで視界に写る大きさが小さくなっていく村を眺めながら、アスナは呟いた。
「アッサリと別れちゃったけど、なんかスッゴイ人たちだったね!」
「はい、好奇心で家族三人魔法世界に密入国とはメチャクチャですね。それにまさか神鳴流宗家の方とお知り合いだったとは・・・」
「うむ、拙者らが束になっても太刀打ち出来ぬとは、世界は広いでござるな~。まだまだ修行が足りん」
「そうね~、あんだけ強くて、かっこよくて、優しくて、少年っぽい心も持ってるって反則よね~」
アスナが心底残念そうにため息をつきながら、瀬田の顔を思い出して、顔を思い出す。
昨日、瀬田の微笑を見ただけで緊張の余り失神してしまったアスナだったが、目が覚めたとき、瀬田は既に既婚者で、自分たちと同じ年齢の娘が居ると聞かされて、それはとてもショックだった。
「あ~あ~、瀬田さんが結婚してなければな~~」
するとアスナの呟きに、反応した木乃香が、頬をぷくっと膨らませてアスナに講義する。そしてそれにつられて刹那もアスナに異議を唱えた。
「む~、アスナ~、結婚した人好きになったらアカン決まりなんかないえ~」
「そ、その通りです。本気で慕っているのであれば、些細なことです」
「あ~もう、はいはい! そりゃあ~、シモンさんの場合は特殊だからね~」
「・・・・・・・・む~・・・・」
「・・・・もう、・・・アスナさんは・・・・」
「ふっふっふ・・・シモン殿・・・か・・・・」
シモン。
その名をアスナが呟くと少しだけ場が静かになった。
そして次に口を開いたのは木乃香でも刹那でもなく楓だった。
「・・・・瀬田殿を見ているとまったく似ていないのに、何故かシモン殿を思い出したでござるよ」
楓の言うとおり、シモンと瀬田はまったく似ていないだろう。
しかし何故か楓の言葉はアスナ達も納得できた。
「あっ、それ私も! なんか分かるかも」
「うむ、瀬田殿はシモン殿と同じ土の匂いがしていたでござるからな~」
「そやったん? ウチは気づかんかったわ~」
「そうですか・・・・しかし確かにあの人は考古学者。つまり穴を掘る人ですからね」
「・・・・うん・・・そうだね~」
そこでもう一度静かになったが、その空気に耐え切れず、アスナが一度大きくため息をついて空を見上げて呟いた。
「・・・・・・・・・・シモンさんか~、・・・なんか会いたいよね」
「・・・うん、ウチもや・・・・」
「そうですね、一言でもいいから、何か言って欲しいです」
「・・・・しかしあの方が居たら、魔法世界での拙者たちは今以上の大事に巻き込まれる気がするがな」
「あっ、それ絶対にそうだわ!」
「う~ん、ウチはそれでもええからシモンさんと一緒にいたかったわ~」
「はいはい、ご馳走様」
「も~、アスナ~・・・・・ん?」
その時、木乃香は途中で足を止めて、空を見上げた。そして不思議そうに首を傾げながら、後ろを振り返っていく。
それに気づき、アスナ達も後ろを振り返ると、木乃香は無言で自分たちの来た道の空を眺めていた。
「・・・・木乃香?」
「・・・・ん? う~ん・・・・・・・・今・・・・大きなカメが飛んでたんやけど・・・・」
「カメぇ? う~ん、まあ首都に着いたとき、空飛ぶクジラとかいたし、別に不思議じゃないんじゃない?」
「う・・・・ん・・・・そなんやけど・・・・」
「もういいから~、先は長いんだしさっさと行くわよ」
「あっ、アスナ、置いていくんは嫌や~」
木乃香は慌てて前を行く三人を追いかける。
彼女は一体何故空飛ぶカメを気にしたのかは分からない。だが、木乃香の気になったことに他の面々も気づいていれば、彼女たちの願いは叶っていたのだが、そう簡単にはいかず、空飛ぶカメは真っ直ぐアスナ達が来た方向へ向かって飛んでいた。
間違いなく風は自分たちに吹いている。
しかし完全な向かい風ではなかった。
彼女たちがそれを分かるのはもう少し先のことだった。
だが、この時彼女たちが気づいていなかったのは、シモンのことだけではなかった。
そしてシモンも気づいていない。
当然ネギや、他の仲間たちも、そしてこの魔法世界の住人は誰一人として気づいていなかった。
十数年間、無風だった魔法世界の風は、シモンが来て、そしてネギたちがやって来たことに徐々に風が吹き始めた。
そしてもうじき、この風は大嵐のように吹き荒れて、魔法世界に大きな影響を及ぼすことになる。
そして場面は、魔法世界から麻帆良学園に移る。
今は夏休みに入り、生徒たちも居ない静かな学園・・・・のはずだった。
しかしその学園の敷地内で、目をギラギラさせて、己を高める男たちがいた。
シモンが・・・・
ネギが・・・・
アスナ達が、それぞれ遭遇した事態に臆すことなく立ち向かい、精神も力も身に付けていた頃、彼らの旅立った麻帆良学園では、可憐な少女たちとは正反対のむさ苦しい男たちが汗みどろになっていた。
「ちっ・・・四人がかりでも、勝てねえか・・・・喧嘩三十段のこの俺がよォ・・・」
「ふっ、さすがは高畑先生というところか」
膝を突きながら肩で息をする四人。
対する高畑は余裕の表情でニコニコ笑いながら両手をポケットに入れたままである。
力の差は誰の目から見ても歴然。しかし四人は一人も諦めの目をしていない。
「けっ、だがよ、意地の一太刀でも入れなきゃグレン団が廃るってもんだぜ。なあ、薫ッち、山ちゃん、ポチ?」
「無論」
圧倒的な力の前に四人の男たちは立ち上がる。
豪徳寺薫、山下慶一、中村達也、大豪院ポチ。一般人では麻帆良学園高等部男子最強の四人は、裏表問わずに学園最強クラスのタカミチと戦っていた。
「ふっふ、夏休みに入ってイキナリ修行してくれって言われて驚いたけど。随分頑張るね」
豪徳寺たちのギラついた目を見ながら、タカミチが機嫌よさそうに言うと、全員の気持ちを豪徳寺が代弁する。
「へっ、シャークティの姐さんが言ってたんすよ。美空ちゃんも、ココネちゃんも、この夏は一皮向けるために気合入れてんだって。だったら、俺たちだけ遊べるかってんだよ!」
「「「おうよ!!」」」
男たちが四方に分かれた。
そして正面から豪徳寺とポチが迫ってくる。
近接近の打撃技を得意とする二人である。その打撃は一般人からすれば最強レベルだろう。しかし、タカミチには遠く及ばない。
それは彼らにも分かっている。
しかし無謀だろうと力の差がどうであろうと、彼らに後退のネジは無い。己の拳にと心に気合を込めて、強固な壁へと殴り続ける。
「うりゃああああ! 喧嘩殺法・タコ殴りィ!!」
「豪乱打!!」
豪徳寺の喧嘩パンチと、ポチのカンフーのように無駄の無い連撃。しかし計四つの拳の嵐を前に、タカミチは未だに余裕を崩さない。
その場を一歩も動くことなく二人の拳を弾いていく。
「おっ、よっ、ほっ。うんうん、大したものだ。攻撃力も夏に入って遥かに向上している。ダテに毎日修行していたわけではないね」
「当ったり前よォ! 実らない気合を持った覚えはねえんだぜ!」
「練磨の日々は裏切らない・・・・」
「ふっふっふ、いいなあガムシャラで、真っ直ぐで、諦めが悪い。昔の僕を見ているようだ」
魔法使いとしては落ちこぼれ。それでも死に物狂いの努力で今の力をタカミチは手にしている。そんな彼にとっては天才肌のネギやアスナよりも、目の前の泥臭くも前向きに吼える豪徳寺たちに共感できた。
「いくぜ! 新技・疾空掌!!」
空中から叩きつけるような形で、気の塊を飛ばす達也。まるで合図をしたかのように豪徳寺とポチは左右に飛び退き、達也の気は真っ直ぐタカミチに迫る。左右は飛び退いた豪徳寺とポチが構えている。
しかしその程度で手がなくなるタカミチではない。左右がダメでも上には活路がある。
タカミチは軽々とその場でジャンプをして達也の気弾を交わす。しかしそれも全ては四人の作戦である。
もっともタカミチには全てはお見通しなのだが・・・
「やるね! で? 僕を上空に誘ってどうする気だい?」
四人がタカミチを上空に飛ばせようとしていたのは最初からタカミチは気づいていた。だが、あえて乗ることにした。すると上空には同時に飛んだ慶一が迫っている。
「全てを読んでいましたか、流石ですね! しかし、僕たちの全てを読めたわけではないでしょう!」
「さあ、どうかな?」
タカミチはポケットに入れた拳を軽く握り締める。
それは学園祭でネギと戦った時とは比べ物にならないほど手加減した一撃だが、速さも威力も並みのものが対応できるものではない。
「居合い拳!」
タカミチのポケットを鞘代わりにしたストレートパンチ。しかも空中では慶一に交わすすべは無い。
だが、慶一はその技を待っていたかのようにニヤリと笑みを浮かべた。
「かかりましたね! 3D柔術・弾丸(たま)すべり!」
「おっ!?」
慶一は交わしたわけではない。
しかしタカミチの拳は絶妙なタイミングで体を捻らせた慶一の体をなぞる様に滑り受け流されていく。
流石にタカミチもこの意外な技に目を見開いた。
「地上も空中も関係ない。縦・横・そして高さを加えた格闘技、それが3D柔術ですよ」
そして慶一はその一瞬を逃さずに、タカミチのポケットに入れた状態の両手を掴み取った。
「一度鞘から出した剣を再び鞘に戻した瞬間の手は、隙だらけ! それに先生の居合い拳は接近では使用不可能。対する僕はこの状態が得意分野。そうなると・・・・」
空中で高畑の両手を封じ、ねじ上げ、間接技を決める。
それは地に足が着いた状態のように見えるほど見事な一連の動きだった。パワーではなく、相手の筋肉の反射と硬直の隙間をつくかのような動きだった。
(これは・・・抜け出せないな。しかも空中だから力が入りづらい。僕の居合い拳を交わした動きといい、見事だ・・・)
高畑はタバコを咥えたまま、自分のピンチを忘れて、教え子の見事な動きに感心する。
すると慶一はひねり上げた高畑の両拳を交差させ、受身の取れない状態にしたまま、高畑の腹の上に両足を乗せて、そのまま地面に叩きつけようとする。
「決まっている、勝つのは僕だ!」
「うぉっ!?」
背中から受身も取らずにタカミチが音を立てて落下。さらにアバラには落下の衝撃の瞬間、慶一が両足で踏みつけた。
常人ならば交差させられた両腕を落下の際に骨折して、背骨を折り、アバラを粉砕していただろう。
それほどまでに涼しい顔をしながらも慶一の攻撃はえげつなかった。
しかし相手はあくまで超人クラス。これでやられるはずも無い。
落下して数秒後、タカミチは封じられた腕をほどき、寝そべったまま拳を腹の上にいる慶一に突き上げた。
「はっ!」
「ぐっ!? 流石は高畑先生! この程度ではやられませんか」
「ふっふっふっ、そんなことは無いさ。結構痛かったよ?」
咄嗟に反応して後方に飛んで回避する慶一。確かな手ごたえの一撃を叩き込んだというのに、顔をまったく歪めないタカミチに寒気がした。
だが、タカミチの言っていることは嘘ではない。
慶一の攻撃は、骨折とまではいかないが、タカミチには確かにダメージを与えていた。
「後はまかせるよ!」
「心得た!」
そして慶一もまた、この一撃でタカミチを倒せるとは思っていなかった。タカミチが起き上がろうとした瞬間を狙い、ポチが地面を思いっきり殴りつける。
「ふんぬらばァ!!」
その振動が地面を伝わり、タカミチは起き上がろうにもバランスを崩してしまう。
そして残りの豪徳寺と達也の二人が空中に飛び、その両拳に鍛え上げた気を練り上げて一気に叩きつける。
「いくぜえ! ギガ・漢魂!!」
「ダブル・疾空掌!!」
「はっはっは、これはすごい! 大した連携だ! まさに一本取られたね♪」
学園祭も終わりネギたちが居なくなった学園は静か?
それはとんでもない間違いだった。
騒がしい学園の生徒たちはネギの生徒達だけではない。
たとえ夏休みに入ろうと、むしろ夏の太陽より熱い炎を燃やした男たちがシモンの残したグレン団の誇りを背に乗せ戦っていた。
麻帆良武道大会、そして学園祭最終日の大喧嘩。二つの大イベントを乗り越え、夏を迎えた彼らに待っていたのは、シモンとヨーコの帰郷。そして美空とココネが更に強くなるために旅立ったという知らせだった。
シモンとヨーコが何を思って帰ったのか彼らは分からない。そもそも二人についてそれほど詳しく知っているわけではない。
だがそれを詮索するつもりは無い。二人には二人の事情があるのだと言うシャークティの言葉に簡単に彼らは納得した。
それよりも、彼らの心を揺らしたのは、かけがえの無い二人の帰郷に涙を流すことなく、二人と最も仲のよかった美空とココネは、懸命に自分たちの道を進んでいるということだった。
気づいたら彼らはタカミチの元へと向かった。
特に何かやりたいことがあったわけではない。進むべき道が何かあるわけでもない。
しかし何かがしたかった。
今この学園に居ない四人のグレン団たちに負けないよう、彼らも自分を追い込みたくて、この夏を過ごしていたのだった。
そして、彼らも旅立つのだった。