魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第135話 真っすぐな気合を持ってるくせに

 

「けっ、いつまでそうやって突っ立ってるつもりだ?」

 

空を眺めるシモンに、地面に腰をついているトサカが気に食わないといった感じで声を掛ける。

しかしその言葉には何か突き放したような感情が込められているような気がした。

 

 

「奴隷の分際で、ハシャギやがって・・・・」

 

「・・・・・お前のほうこそ・・・・・」

 

「あん?」

 

「さっきみたいな・・・・あれほど真っ直ぐな気合を持ってるくせに何でお前は・・・・ひねくれている?」

 

「・・・・・・・・・・・・・ちっ・・・・・・・」

 

 

シモンは先ほどその問いかけをしたかった。

自由に生きることを、運命という言葉で否定した、ひん曲がった性格をしているかと思っていたトサカの、降り注ぐ巨大な魔法に立ち向かう気合は一体なんだったのかと。

しかしトサカは舌打ちをして目を逸らすだけで、答えはいくら考えても出てこなかった。

 

 

「ちっ、・・・・分かんねえよ・・・・ただ体が勝手に・・・・」

 

「そうか・・・・俺もだよ」

 

「なに?」

 

「結局俺は何も分からないんだ。でも、何も分かっていなくても、自分がこうしたいと思ったことだから俺はお前とも、アイツとも戦った・・・・結局、自分で決めたことを自分の意思でやる・・・・それだけだよ」

 

「・・・・・けっ、何も分からねえなら、何もすんじゃねえよ・・・・ったく、気に食わねえ・・・・・」

 

 

そう呟いてトサカは何かをあきらめたかのように肩の力を抜いて、シモンとサラに告げる。

 

 

「なあテメエら・・・・この街からさっさと消えろよ・・・・・」

 

「何?」

 

「はあ?」

 

「首輪がねえ今なら・・・・当局には俺が適当に誤魔化しておくから・・・・頼むからこの街から・・・・いや、俺の前から消えてくれよ」

 

「なんだと?」

 

「えっ、いいの!?」

 

 

それはあまりにも意外な言葉だった。

頑なに奴隷の逃亡を否定して来たトサカの発言には、奴隷長もバルガスも目を見開いて驚いていた。

 

 

「テメエらみてえな奴隷がウロチョロしやがると・・・・俺が俺じゃなくなっちまいそうで、むかつくんだよ! 奴隷の・・・クソッタレ共の地べたを這いずる人生を知らねえくせに文句ばっか言いやがって・・・」

 

「なっ、ふざけんな! そもそも奴隷っていう制度自体が、「よせよシモン!!」・・・・・・サラ?」

 

 

シモンが何かを言い終わる前にサラが言葉を遮った。

 

「お前の言いたいことは私も分かるよ。けど言っちゃダメだ」

「・・・・・えっ?」

「出て行けって言ってくれたんだ。もうそれでいいじゃん!」

「サラ・・・・・・・・・」

 

シモンは奴隷制度自体に噛み付こうとした。

しかしその言葉を予期したサラは逸早くシモンを止めた。

彼女自身も気持ちはシモンと同じだろう。

しかしサラは幼い頃から父と世界中を旅しているからこそ、その言葉を言ってはならないと分かっていた。

国や地域には受け継がれてきた宗教や文化がある。

それを余所者の自分たちが心の中でどう思っても、それを否定してはいけないとサラはサラなりに理解していた。

奴隷という制度から逃げ出そうとしたサラだが、受け入れない代わりに否定はしなかった。

シモンもサラの目を見て、何となくサラの言いたいことは理解できた。

しかし心のどこかで、引っ掛かりがいつまでも残った。

 

 

(ダメだ・・・分からない、結局俺には何もかもサッパリ分からないよ・・・・・)

 

 

色々なことがありすぎた。

記憶を無くして数日の出来事だけでも既に語りつくせないほど濃いものとなっていた。

しかもそこには分かったこともあれば余計に分からなくなったことも山ほどあった。

そんな時、アンチスパイラルの言葉を不意に思い出した。

 

 

「己とは何か・・・・・命とは何か・・・・・宇宙とは何か・・・・か・・・・・」

 

 

結局、己の事も世界のことも、何も分からない今のシモンに答えられるはずは無い。

奴隷という世界の常識、フェイトという自分を知る男との出会い、しかしそれらはシモンの頭の中を余計に分からなくさせるだけだった。

だからこそシモンは思った。

自分が何者なのかを思い出したい。

世界とは何なのかをこの目で確かめたい。

ラカンとの戦いで絶望に囚われた自分を救ってくれた女の言葉が真実だと確信したい。

サラとブータと共に、グラニクスの都市に背を向けながらシモンは心の中で思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのかい? 逃がしちまってさ」

「はん、あんな奴ら置いといても騒ぎを直ぐ起こして余計に金が掛かるだけだからよ。単なる厄介払いだよ」

「はいはい、そうゆうことにしておくさね」

 

トサカの勝手な許可で立ち去る二人の奴隷を奴隷長は引き止めることはしなかった。

いつもトサカを殴り、バカな行動を注意してきた奴隷長にしては珍しいことだった。

そして奴隷長は少し機嫌よさそうに疲れた体を起こした。

 

 

「まあ、奴隷二人分はアンタがちゃんと働くんだよ?」

 

「ああ~~ッ!? って・・・・・ちっ、・・・・分かったよ。俺は一生それでいいんだよ」

 

「ったく、無理にひねくれちゃったね、この子は」

 

「お~お~、ひねくれ者で結構だよ」

 

 

トサカはつまらなそうに呟きながら、たった今立ち去ったシモンとサラの向かった方角を見つめ、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。

 

 

「けっ、・・・・テメエなんかに・・・・テメエなんかに分かってたまるかよ・・・・」

 

 

それは悔しさではない。

負け惜しみではない。

純粋なシモンに対する嫉妬だった。

 

 

「お前みたいに・・・・地上の太陽の光を一身に浴びる奴なんかに・・・・光の届かねえ奴の気持ちが分かってたまるかよ・・・・・・・」

 

 

決して人には言わないだろうトサカの気持ち。

ボロボロになりながらも何とかするシモンを見て、自分もやれば何とか出来るのではないかと、一瞬でも思ってしまった自分自身を卑下していた。

なぜなら結局シモンも自分では一生届かない領域にいる人間である。

「俺を誰だと思っていやがる」そう言った時にまるで太陽の光をスポットライトのように浴びているシモンを見て、自分には一生出来ないことだと理解した。

だからこそ、甘い夢を見ないためにもシモンとサラを逃がすことにしたのだった。

 

 

「俺は一生光が届かねえ・・・・・・穴の中だ・・・・」

 

 

だが、変わらないためにシモンとサラを逃がしたトサカだったが、この事件をキッカケに何かが変わったのである。

 

 

シモンとサラがいなくなって数日後に再び新たな奴隷が自分たちの前に現れた。

 

 

奴隷になった理由はサラと同じ理由で、病気になった友を救うために借金した少女たちだった。

彼女たちは魔法も何も使えない旧世界のただの三人の女子中学生である。

しかし金が絡めばそんなことはどうだっていい・・・・・・はずだった・・・・・

数日後のグラニクスで首輪をしてメイド服を着た新たな奴隷がフラフラの状態でカフェテラスを掃除していた。

さらに少女の顔は赤く、誰がどう見ても体調が悪いのは一瞬で分かる。

しかし奴隷となった少女は同じ奴隷になった二人の友に心配掛けまいとかなり無理をしていた。

だが、その無理はいつまでも続かない。やがて少女は意識が朦朧とし、そのまま倒れてしまった。

 

 

「きゃあ!?」

 

「亜子!? しっかりして!」

 

「和泉さん!?」

 

 

倒れた少女に仕事をほっぽりだして急いで駆けつける二人の少女。しかし倒れた少女は懸命にハニカンで見せた。

 

 

「ご、ゴメン・・・少しクラクラして・・・・せやけど大丈夫や」

 

「うそ言うな! 寝てなきゃダメじゃないか! まだ熱があるんだし・・・・あとは私と村上が・・・」

 

「ううん、大丈夫やアキラ。ウチの所為でこないなことになってもうたんやし、ウチだけ寝とるわけにもいかへんよ」

 

「でも・・・・」

 

 

二人になんとも無いと言って直ぐに立ち上がろうとした亜子だが、体に力が入らない。

アキラも夏美も自分たちを気遣って無理をしようとしている亜子に涙が出そうになるほど悔しく思った。

だが、どうすることも出来ない。

正直夢なら覚めろと、何度もこの目に見える現実に叫んだか分からない。

するとその時、仕事をしていない自分たちに怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 

「おい、何サボってやがる!!」

 

「「「!?」」」

 

「何サボってんだって聞いてんだよ!」

 

 

アキラたちは恐怖で肩を震わせながら振り返った。そこには不機嫌そうな男が自分たちに歩み寄ってきていた。

その男こそトサカだった。

 

 

「ごめんなさい、ウチのせいで・・・・・」

 

「ああ~~ん?」

 

 

亜子は必死になって二人を庇おうとするが、その言葉を聞いてトサカは益々不機嫌そうになった。

このままでは何をされるか分からない。

するとアキラは勇敢にもトサカの前に立ちはだかって、足を震わせながら口を開く。

 

 

「私たちが亜子の分も仕事をします。だから亜子を休ませて欲しい」

 

「アキラ!?」

 

「いいから!」

 

「あ~んテメエ・・・・、まさか体調が悪いとでも言うのかよ?」

 

 

亜子を守るために恐怖で震えながらもアキラは現れたトサカに懇願する。

するとトサカは奴隷であるアキラたちに言われたのがムカついたのか、睨みつける目を余計に鋭くさせた。

ヤバイと直感で感じた亜子が必死になって首を横に振ろうとする。

しかし・・・・・

 

 

「だ、大丈夫です! せやから・・・「だったら!」・・・・・はい?」

 

「だったら無理しねえで寝てりゃ良いだろうが」

 

「「「・・・・・・・・・・・・へっ?」」」

 

 

一瞬何を言われたのか分からない亜子たちだった。

 

 

「・・・・・・・・・いいんですか?」

 

「あ~? いいわけねえだろうが! だが仕方ねえだろ! 貴重な奴隷が早々と潰れたらこっちが迷惑すんだよ! ほら、治ったらコキ使ってやるから、さっさと戻ってろよ!」

 

「えっ、えっ? ・・・・・・・・は、・・・・・はい」

 

 

あまりにも意外すぎる言葉に三人がキョトンとしてしまった。するとトサカは舌打ちしながら、その場に背を向ける。

 

 

「けっ、大体俺はよ~~」

 

「「「?」」」

 

「無理して何とかしようとするバカが死ぬほど嫌いなんだよ! 無理なら無理しねえで、大人しくしてりゃいいんだよ!」

 

 

トサカはそれだけを言い放ちその場を後にする。

一瞬呆然としてしまった三人だが、立ち去るトサカの背を見て、アキラは慌てて頭を下げる。

 

 

「あの・・・・その・・・トサカさん・・・・ありがとう・・・・亜子を気遣っくれて・・・・」

 

 

するとトサカは勢いよく振り返り、顔を真っ赤にさせながら叫んだ。

 

 

「べ、別にテメエらのためなんかじゃねえんだからな!! 勘違いすんなよな! 俺がムカつくからだよ!」

 

 

そして再び舌打ちしながらトサカはその場から逃げるように走って立ち去った。

何だか訳の分からないことになったが、とにかくホッとしたアキラは倒れている亜子をゆっくりと起こす。

 

 

「亜子、戻ろう」

 

「良かったね、和泉さん!」

 

「ウン、・・・せやけどあの人・・・・・」

 

「うん、怖いけど、根はいい人なツンデレさんなのかも」

 

 

この出来事は恐怖と不安で溜まらなかった三人の奴隷生活に僅かな安堵をもたらす物だった。

 

素直ではないトサカの不器用な心遣いに、亜子たちは逃げるように立ち去るトサカの背中を見ながら、この世界に来て初めて笑った。

 

そしてこの後、トサカは自分の行為と言葉に、もの凄い恥ずかしさと自己嫌悪に陥り、何度も何度も壁に頭を叩きつけて後悔していたところを、奴隷長に見つかったそうだ。

 


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