魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
数には数で、デカさにはデカさの両方でシモンは戦った。
たとえ全身が壊れようとも、口から血が大量に吐き出され、傷口が大きく開こうとも、シモンは構わずドリルをぶっ放した。
無数に出現したギガドリルが、フェイトの魔法を砕いていく。
だが、それだけでは有効な手段ではない。
なぜなら砕いた柱の破片が粒になった大量に街に降り注いでいるからである。
このままでは被害に大差は無い。
だが、それはシモン一人で闘っていたらの話である。
「メカタマ・ドリルミサイル一斉射出!! うりゃあああああああああああああ!!」
「ぶみゅうううううう!!」
シモンが離れて螺旋力の供給が成されなくなったにも関わらず、メカタマは更なる螺旋力を身に纏い、只のミサイルを螺旋の弾丸と変えて、シモンが砕いた柱の破片全てにロックオンして打ち落としていく。
「サラ! ブータ!」
「へへ、よく分かんないけど、ブータがいるお陰で色々出来るようになっちゃった!」
「ぶみゅっ!」
そう、シモンの螺旋力がなくてもブータがいた。
メカタマの変形強化の原因はシモンのドリルとラガンと同じ能力によるものである。しかし、今の技とシモンは関係ない。
原因はブータの螺旋力にサラが応えたのである。
この土壇場の状況にて、初めて螺旋力と異世界のメカの力が融合した。
シモンが学園祭で鬼神やエンキに似たようなことをしたことがあるが、今回は少し違う。
魔法の力を一切借りていない純粋なメカと人と螺旋力の合体。
それは最早ガンメンと同じ存在だといっても過言ではなかった。
「ははっ、頼もしい限りだぜ!」
「へへん、今頃気づいたのかよ! ほら、ぼやっとしないで、どんどん行くぞォーーーッ!!」
サラの言葉と輝くブータの螺旋力の光にシモンは力を貰った。
全身の痛みも血の味も全てを飲み込んで、気合の限りを尽くし空一面にドリルの弾丸を無数に放つ。
無数のドリルと石柱のぶつかり合いは、嫌でも街中の注目を集めた。
戦争と呼べるほどの規模をただの喧嘩として捉える者たちのぶつかり合いは、人々の心に何かを感じさせた。
少なくとも呆然と口を半開きにして眺めているトサカはその一人だった。
「こいつら・・・・・・・なんなんだよ・・・・・・・・この・・・・・人の力をあざ笑っちまうようなとんでもねえ力は・・・・・クソッ・・・・・むかつくぜ・・・・そんな力がある奴に・・・・・俺の気持ちが分かってたまるかよ・・・・・・・・・」
何も出来ずトサカはただこの攻防を、拳を強く握り締めて眺めているだけだった。
ただ悔しく、歯も食いしばりながら、生涯賭けても自分では決して届かない領域の力のぶつかり合いを眺めているだけだった。
だが、次の瞬間ハッとした。
「なっ!?」
「お、おいヤベえぞ! 柱が一個落ちてくる!」
「しししし、死ぬぬうううううう!?」
「逃げろォ!!」
騒ぎを聞きつけ集まった市民たちが次の瞬間悲鳴を上げて一斉に逃げ出した。
それはシモンとサラが捉えきれなかった柱だった。
「し、しまった!?」
「やべえ、落ちる!? ま、間に合わない!」
二人と一匹だけでは数が多すぎた。
いかにフェイトの呪文を破壊できても、破壊した柱の欠片全てを打ち落とすにはいくら二人でも無理だった。
そして二人の攻撃を逃れた巨大な柱は重力に任せて真っ直ぐにグラニクスに落とされる。
そう思った瞬間、一人の男の雄叫びが聞こえた。
「クソッタレがアアアアア!!」
その叫びはシモンではない。
フェイトでもない。
「「トッ・・・・・・・・・トサカの兄貴ィ!?」」
降り注ぐ巨大な柱の下で、両手を翳して柱の落下を防ごうとするのは、トサカだった。
その意外な行動にシモンとサラ、そして街中の騒ぎが一斉に止まった。
そしてトサカは少ないながらも全魔力を両腕から放出して巨大な柱の落下に持ちこたえた。
「どいつもこいつも、余所者が人を無視して勝手なことしやがって!! こちとら、チンピラにはチンピラの意地ってもんがあるんだよォ!!」
防ぎきれるはずはない。
その証拠にトサカの両足は重さに耐えられずに徐々に地面に埋まっていく。
しかしトサカは柱の落下を僅かにでも止めた。
そしてその僅かの瞬間にトサカの元にトサカの仲間が現れた。
「バルガスさん!?」
「奴隷長まで!?」
それはメイド服を着た熊のような獣人と、頭髪のない筋肉の盛り上がった大男だった。
「ぐぬぬぬぬぬぬ、気張れよ、トサカァ!!」
「まったく、拳闘士は引退したってのに、人使いが荒いさね!!」
飛び出したのは奴隷長とバルガスの二人だった。
二人はトサカと共に全魔力を解放して、三人がかりで巨大な柱の落下を持ちこたえる。
雄叫びを上げる三人の魔法世界の住人。
そしてトサカは悔しそうに顔を歪めながら、呆然とするシモンとサラに向かって叫ぶ。
「さっさとやりやがれぇ! クソッタレ奴隷共がァ!!」
その叫びに顔を上げて二人はトサカたちが押さえている柱に向けて、最後のドリルを解き放った。
「ああ! 穿孔ドリル弾!!」
「へっ、命令すんなよな! スパイラルカオラン砲!!」
二人の放った螺旋の力は、結果的にフェイトの魔法を全て消し去り、被害状況ゼロという快挙を成し遂げた。
その快挙に街中が一斉になって歓声を上げる。
だが、シモンとサラはその歓声に応えたりはしない。
その視線の先には、全魔力と気力を放出し、激しく消耗して地面に腰を下ろしている影の英雄を見ていた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・」
「ふう~~~、・・・・・トサカ、大丈夫かい?」
「ああ、・・・・ママや兄貴は?」
「ふん、俺の心配するのは10年早いぞ?」
今の一瞬で鍛え上げた魔力全てを出し切ってしまった三人は力なく地面に腰を下ろしていた。互いに互いを苦笑しながら、一仕事を終えたような表情をしていた。
そんな彼らに・・・・・・というよりもトサカにどうしても問いただしたいことがシモンにはあった。
だがその前に、上空からの声に遮られた。
「やれやれ、たしかに君はシモンだけど・・・・それでも、まだまだと言ったところだね」
「て、テメエ!」
「喧嘩と捉えるのは構わないが、やはり決着はもっとちゃんとした形がいいね」
建物の屋上から見下ろして告げるのはフェイト。そしてその隣には折れた刀を二刀抱えながらフェイトと同じような表情でこちらを見つめる月詠がいた。
「シモン、・・・・オスティァで待っている」
「・・・・・・・オスティァ?」
「それまでに記憶を取り戻し、僕の知っている君になってから、約束を果たそう」
「まっ、待て! 勝手なことばっかヌカしてんじゃねえ!」
シモンの言葉にフェイトは耳を貸さない。するとフェイトの足元に水溜りが出来、その水が渦を巻いてフェイト自身を包み込んでいく。
「それじゃあ、また会おう」
「まっ、待ちやが・・・・・・・」
そしては渦巻いた水が元に戻った瞬間、先ほどまでいたはずのフェイトは完全に姿を消した。
おそらく移動魔法の一種なのだろうが、そんなものはシモンにはどうでもよかった。
ただ、フェイトが言い残した自分の忘れた何かをずっと心の中で考えていた。
「ウチもまたアンタに会いに来ますえ~」
そしてフェイトが消えた場所の隣で、月詠が折れた二本の剣を抱えながら、札を取り出した。
その札が合図となり、月詠の体の周りに花吹雪が舞い上がり、フェイと同様にその身を包み込んだ。
「刹那センパイを手に入れるために可愛がっていたウチの大事な剣を二つも折ってくれたんですからな~。次は・・・・・・次は・・・・・」
月詠が微笑みながらもその瞳だけを異常な眼差しに変えた。その目に込められた感情は憤怒か、それとも恨みかは分からない。しかしそんな背筋も凍るような瞳で月詠はシモンに告げる。
「ウチの大事なモンをメチャメチャにしたドリルごと、アンタをズタズタに斬り裂いてみせますえ!」
そして花吹雪が完全に月詠の存在をグラニクスから消した。
捨て台詞にしては、ありきたりだろうが不気味な瞳で告げる月詠から、決して大げさではないとサラは感じた。
しかしシモンは震えない。
臆すこともない。
目の前で消えた女の因縁よりも、今は自分のことしか頭になかったからである。
「ったく、結局何も教えてくれなかったなアイツら・・・・・。終わってみれば分からないことが増えただけじゃないか」
シモンの呟く自問自答。
いくら考えても答えは出ない。
結局全ては自力で思い出すしかないのである。
「シモン?」
「・・・・なんでもない。なんでもなくはないけど・・・・今は・・・もういいよ」
どうしようもなくただ天を見上げるシモン。
しかしそこには、懐かしいと思う空はなかった。