魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
再びグラニクスの街中で戦闘が始まった。
「おい、また何か始まったぞ!」
「俺はさっきの男に200!」
「じゃあ俺は女剣士に300だッ!」
辺境のそれほど治安のいい地域ではないため、街のものたちは大して普段から争いに驚いたりはしない。
だが、その代わり今日この日の戦いを極めて印象深い戦いとして彼らの記憶に残ることになる。
「神鳴流・・・・にとーれんげきーざんてつせーん」
「うおおおおおおおおおお!!」
二つ・・・いや、三つの刃が交錯しあう。両者の激しき剣閃が互いの周りの空気を斬り裂いていく。
「なっ!? 神鳴流って・・・・・素子と・・・・素子と同じ・・・・・」
サラの呟きは両者の剣の打ち合いの音に掻き消された。
「うっふっふ、児戯にも等しい剣ですな~、こんなんでセンパイを虜にしたんですか~?」
「ったく、さっきから訳のわかんねえこと言いやがって!!」
「ざーんがーんけーん」
「ぐっ!? 何だコイツ、変態のクセ強い!?」
「ふっふっふ、この程度じゃウチはまったく濡れることも無いですわ~」
長刀と小刀の連撃は間合いが取りづらく、シモンも対処に手こずった。
(こいつ・・・・やりづらい・・・)
激しい連戦の末に螺旋力や技、体の扱い方を徐々に思い出してきたシモンだが、月詠の純粋な剣の技術レベルはこれまで戦った中でも最強レベルとも言えた。
魔獣やラカンのようなバグキャラとも違う純粋な技術はシモンをいとも容易く追い詰めていく。
以前シモンは同じ門下の剣士でもある刹那に学園祭で戦い、勝利したことがある。
正直刹那と月詠の剣のみの技量なら今のところ互角と言えるだろう。いかに最強レベルの技術が相手とはいえ、シモンが容易く追い詰められるはずも無いのだが、今のようやく戦い方を思い出してきたばかりのシモンに求めるのは酷な話だった。
そしてもう一つ、今のシモンには抱えている問題があった。
「ぐっ・・・・・・・・・・・・はあ、はあ・・・・」
「ん~? どうしたんですか~?」
戦いのさなか、シモンの顔が歪み、動きが格段に鈍った。
その様子を見てサラがハッとなり、肩を震わせた。
「シモン!? お前、昨日の化け物との戦いの傷がまだ!?」
当たり前だ。直っているはずがない。
よっぽどの力の差がある相手なら螺旋力を身に纏った強力な一撃で倒すことができるが、今の月詠のように技術で上回る相手にはシモンの一撃は軽やかに交わされてしまう。
長引けば長引くほどハンデを抱えているシモンが不利になっていく。
「おいおい、あの野郎ヤベエんじゃねえか?」
「シモン・・・・・・・・(どうしよ・・・・・私の所為だ・・・・・)」
サラは顔を歪めて戦うシモンを見て胸が締め付けられる思いだった。
今のシモンが負っている傷は、全てサラをラカンという化け物から逃がしてくれるために命懸けで戦った証拠である。
そのことに気づいたからこそ、サラは今の自分はどうすべきなのかを思いなおす。
(クッソ~・・・・どうして私がこんなに悩まなくちゃいけないんだよ・・・・・・これも全部・・・・全部・・・・・・)
一体どこから自分の旅はおかしくなったのだ?
父と母の冒険についていくと決めた時からか?
この世界に足を踏み入れる決意をしたときか?
父のために役立ちたいと思い、一人でアリアドネーに向かったときからか?
いや、違う・・・・
(そうだよ・・・・・全部・・・・全部・・・・お前と会った所為で・・・・・・)
アリアドネーでシモンと出会った時から何かが狂い始めた。
だが、狂っただけではない。
「ぶふうう!!」
「っ!? ・・・・・・・・・ブータ・・・・・」
追い詰められていく相棒を指を咥えて見ているだけではいられない。そんな様子でブータは今にもラカンとの戦いのときのように飛び出さんとしていた。
それを見てサラは意を決した。
「お、おいテメエ!?」
トサカの声を無視してサラはブータを抱きかかえ走り出した。
何か作戦があったわけでも勝算があったわけども無い。
しかしシモンが窮地に立たされているのを見て、黙って見ていることは出来なかった。
事情どころか、サラは結局シモンのことを何も知らない。
しかしいつの間にかたった一日でサラはシモンを見捨てることなど出来ないほどになっていた。
「動きが鈍いですな~、まだやるつもりですかえ?」
月詠の言っていることは間違っていない。それはフェイトも感じ取っていた。
以前よりもシモンの身に纏った光の輝きは強くとも、肝心のシモンの体がおぼつかなかった。
正直シモンも全身に悲鳴を上げて、今すぐにでも倒れこみたい気分だった。しかし決して弱音を吐かずに前を見る。
「当たり前だ! 何も知らないまま負けちまったら記憶を失う前の俺に申し訳ない!」
「はあ~、そう言われましてもあんたはウチの好みやないから打ち合っとっても興奮しませんからな~、はよう斬られてくれるとありがたいんやけどな~」
月詠は、シモンとの間合いを詰め、一気に刀を振り上げる。
体が重く反応の鈍いシモンは、辛うじて交わすものの肌の表面が斬られ、胸の包帯が血で滲み出した。
舌打ちするシモン。しかし月詠の剣は終わらずに更にシモンに接近する。
「ほな死んでくださいな~」
目の前に迫る月詠の短刀。
その刃先はシモンの心臓を目指していた。
シモンも頭で交わしているつもりでも、体が動かない。しかし全身の筋肉と怪我の痛みが響いてもシモンは足掻くのを止めなかった。
「終わりです~」
月詠の刀が後一歩でシモンを貫くかと思われたまさにその時だった。
「カオラン砲発射!!」
「「!?」」
月詠を目指し一直線に光の柱が真横から迫ってきた。
月詠が寸前のところで後方に飛び、光の柱が通過した後、光の発信源を見るとそこには、直立したメカタマがいた。
「サラ・・・・・・お前・・・・・・」
「へん! 昨日は怯えてできなかったけど、小さいブータががんばってお前を助けたんだ。私一人でグチグチ言ってるわけにはいかねんだよ!」
「ぶみゅう!」
サラはメカタマ内部から少し怯えながらも懸命に引きつりながら笑みをシモンに送る。そんなサラの肩にはブータが胸を張って乗っている。
「ああ、それは本当に助かるよ」
「だろ? いい女ってのはみんな勇敢なんだよ!」
そしてサラの想いを正面からシモンも受け止め、ニヤリと笑みを返した。
「そうか、・・・・そいつは助かるぜ。なら遠慮なく力を借りる! サラ、アレをやるぞ!」
「アレ? アレって何だよ?」
シモンの突然の提案にサラは何のことを言っているのか分からずに首を傾げるが、サラの肩に乗っているブータは激しく体を振るわせた。
シモンの言っている「アレ」という言葉が、もしブータが想像したとおりのものだったとしたらと、期待と興奮を隠し切れなかった。
そしてシモンはブータの期待通りの言葉を自信満々に言い放つ。
「アレって言ったら決まってるだろ!」
アレをやるぞ! その言葉はシモンも自然に出た言葉だった。
自分でも何故そんなことを口に出したかは分からない。
しかし口から出たその言葉を、シモン自身はまったく変だと思わなかった。
シモンは瞳をキラリと光らせ、力強く叫んだ。
「合体だァ!!」
その言葉を言っただけでシモンは己の奥底から熱さと力が湧き上がってくるような気がした。
「はあ!?」
「合体!?」
「「「「「「「合体!?」」」」」」
「合体!?」
「・・・・・・・何を言っているんだい、君は?」
広場に居たシモンとブータ以外の全てのものが、シモンの言葉を繰り返し驚愕してしまった。
最初は必殺技か、巨大魔法か、と思っていたが、どちらにせよ市民たちの期待していた展開とは想定外の言葉だった。
「あ、あのあのあの・・・・・ががが、がったいいいいいって・・・・」
そして何より、直接言われたサラは、何を勘違いしたのか顔を真っ赤にして、頭から湯気をだし、プルプル震えながらメカタマのヒレでシモンを殴った。
「このスケベー!? セクハラァ!?」
「ぶほっ!?」
「お、おまおま・・・お前、言い方ってもんがあるだろ~!? そりゃあお前も男だし・・・・・私も女だけど・・・・・合体なんて直球な言い方あるわけないだろ! しかも戦いの最中に何言ってんだよ! ムムム、ムードを考えろよなー! お前も変態がうつったのかよ!?」
「はあ?」
「そそそ、そりゃあお前も少しかっこいいとこもあるけど・・・・私たち会ったばっかだし・・・・そういうのは大事にしろってハルカも言ってたし・・・・・」
何やら別の意味で解釈してしまったようだ。
この戦いの後、シモンがサラに合体の意味をどういう意味と勘違いしたかを問いただそうとしたが、その謎は永遠に謎に包まれた。
何はともあれ、シモンの合体とサラが思った合体の意味は違う。
「何だかよくわからねえが、安心しろ! 問題ない! 俺たちなら出来るはずだ! 俺の忘れちまった何かがそう叫んでいるんだ!」
「忘れちまったナニって!? むむむ、無理だよぉ!? ・・・そりゃあ・・・・私はもう15だけど・・・・まだ・・・早いよぅ・・・・胸だって・・・・ちっさいし・・・・・」
「やってみなくちゃわかんないだろ!! 重要なのは胸の中に秘めた想いの大きさだ!」
「///!?」
勘違いしたまま、サラはフルフルと真っ赤になって震えだした。
一見意地の悪いマセガキに見えても、すでに思春期の彼女には男女間の知識は持っている。
今まで男っ気が無かっただけに、シモンの直球な言い方はある意味胸に響いた。
(えっ、なになに、こいつってそんなに私のこと・・・・あっ・・・・でもさっき刹那って女がどうとかあの女も言ってたけど・・・・・あ~~でもでも・・・)
サラは頭を抱えて何度も唸り始める。
しかし切羽詰ったこの状況で考えている暇はない。
決心したサラは顔を真っ赤にしながら両手を広げて叫んだ。その動きに合わせてメカタマが両ヒレを広げた。
「わ・・・・・わかったよ・・・・・でも・・・でも! 私・・・・やり方分かんないんだよ! だから・・・だから・・・」
「ああ、俺に任せろ!!」
シモンは空高く舞い上がる。
何故それほど勢いよく助走をつけるのかは知らないが、この瞬間を広場のものたちは眼を見開いて見守った。
そして観念したサラは目を瞑り数秒後に自分に飛び込んでくるシモンを待ち続ける。
そして・・・・・
「シモン・インパクトォォーーーーーッ!!」
「へっ?」
「あらら?」
「「「「んだそりゃあ!?」」」」
シモンがドリルを真下に向けて、サラというよりもサラが武装したメカタマの頭部に螺旋力を放出しながら突き刺した。
メカタマの頭部部分にドリルを突き刺し、そのまま頭の上に立つシモン。
それはただ単に二つの足で立ち上がったカメの頭に男がドリルを突き刺して立っているだけにしか見えなかった。
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
この場にいた全てのものが、シモンの言う合体という言葉から想像していた形とはまったく予想がはずれ、唖然としているものの、シモンは静寂する街の中心部で高らかに叫んだ。
「見たか! これが俺たちの合体だァ!!」
しかし周りの者たちの反応は悪く、しばし沈黙が漂ってしまった。
「ウケ狙いにしては、センスがありませんな~」
常に不気味な笑みを浮かべていた月詠も、この時ばかりは呆れて笑顔が消えていた。
「ねえ、・・・・これって訴えたら死刑に出来るだろ? 女の純情踏みにじったって言えるだろ? 勘違いしてたのって私だけじゃないよな?」
「おい・・・・あの野郎は本当にバカなのか?」
サラやトサカを含めて周りの者たちも呆れていた。
口を半開きにしながら固まっていた。
例外はブータ、そして只一人シモンのことをある程度知っている男を除いて、みんながため息をついていた。
「ドリルか・・・そういえば君はそうだったね・・・・・・さて・・・・・・バカな奴で終わるのか・・・・・・それともバカみたいなことが起きるのか・・・・・見せてみるんだね」
只一人この状況でフェイトは無表情な様子とは裏腹に、僅かな期待を抱いていた。