魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「へえ、・・・・それはまた随分と面倒な展開だね」
「信じてくれるのか? 俺が記憶喪失って」
「おいおいおい、シモン! お前そんなこと一言も言ってなかったじゃないかよ!?」
「マジか!? どうりで話の通じねえ野郎だと思ったぜ・・・」
グラニクスの中心部のカフェにて、変な四人組が客として丸いテーブルを囲んで座っていた。
それは超異質な光景だった。
記憶を失ったとはいえ大グレン団のシモン。
現実世界の考古学者の娘、サラ・マクドゥガル。
魔法世界の拳闘士トサカ。
そしてフェイト・アーウェルンクス。
本来なら一生縁の無いはずの者たちが四人揃ってティータイムをしていた。
提案したのはフェイトだった。
状況をどうしても知りたく、落ち着ける場所としてカフェテリアに腰を掛けた。
「まさかネギ君や僕だけでなく、自分自身の名前以外を忘れているとは・・・・・随分とタチの悪い魔法を掛けられたものだ・・・・」
「それは否定できないな。・・・っで、ネギって誰だ? いや、・・・その前にお前は何者だ? 俺の・・・・友達・・・っていうには随分と目つきが悪いな」
「ふう、やれやれ・・・・・さて・・・どう説明したものか・・・・」
フェイトはカップのコーヒーを飲みながら、この意外な展開の行く末をどうしようかと考えた。
そんなフェイトの一挙一動をサラとトサカは神経を張り巡らせて警戒していた。
こうしてほのぼのと談笑しているかと思えばとんでもない。フェイトからは戦闘の気配は感じないものの、身に纏う不気味さと、底知れない瞳は二人には初めて見る存在だった。
(こいつ、・・・なんか嫌な感じがする・・・・・)
サラもこれまで強い力を持つものはいくらでも見てきた。だが、フェイトほど不気味な存在と会うのは初めてだった。
(ちっ、・・・・なんだよこのガキ。人の存在にまったく興味を示さないような目をしやがって・・・・)
トサカも同じだった。
座りながら背中に汗が吹き出ていた。
これで何度目か分からないが、緊張した彼らは既に空っぽのはずのカップを気づかず口元に近づけて、のどを潤そうとした。
それほどまでに二人は緊張していた。
だが、シモンは少し違った。
記憶を失ってからたびたび見せられた、忘れた記憶の断片とコアドリルに眠る記憶。
あの男でもない。
あの女でもない。
そしてアンチスパイラルやロージェノム、彼らとも違う。
目の前の男に関する記憶は無い。
しかし目の前の男はシモンを知っている。
そう言われてシモンも何となく心に引っかかりを感じた。
自分もひょっとしたら目の前の男を知っているかもしれないと思った。
だが、仮に知り合いだったとして、それはどういう関係だったのか。それがシモンには気になっていた。
いや、本当は何となく気づいている。
この少年の気に食わない目を見ていると、忘れたはずの心の底から声が聞こえてくる。
記憶を失う前の自分と、目の前の男はどんな関係だったのか・・・・・・
「お前は・・・・・・・俺の・・・・て「たしかに」・・・・?」
「・・・たしかに言われてみれば、僕は君の事を、それほど知っているわけではない・・・・」
「?」
シモンが確認しようとした言葉を遮るようにフェイトが口を開いた。
「因縁は少なからずあるが、君が忘れているならその約束も意味を成さないしね・・・・」
「・・・・約束?」
「・・・・そして、言わせて貰えば僕の計画に君は組み込まれていない。僕を忘れて邪魔することも無いのなら、脅威にもなりえないだろう。つまり・・・・・今ここで僕たちが争う理由は何も無い・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シモンの勘は間違っていなかった。
間違いなく自分と目の前の男はかつて戦っていたのだろう。
だからこそフェイトが戦う理由が無いと言っても、それを信じて話を中断できるはずも無かった。
だが、対するフェイトは少しがっかりしたようなため息をついた後、シモンを見た。
それは対象のものに興味を無くしたかのように思わせるような瞳だった。
「今の君には興味も沸かない。・・・・・楽しみを一つ削がれた気分だよ。まあ、構わないけどね」
「・・・・・・・・ま・・・待てよ、興味あるとか無いとかじゃなくて、・・・・お前は俺の何を知っているんだ? 俺は・・・・一体何者なんだ?」
「・・・・ふん、今のネギ君たち同様に君も僕の敵ではなくなったが・・・・以前の借りを返さないままでいい理由にもならない・・・・ならここは・・・・」
その瞬間フェイトは指をパチンと鳴らした。
その音が合図となり、この場に一つの殺気が迫ってきた。
「「「!?」」」
殺気の方向へ三人が目を向ける。
すると輝く太陽と重なって、剣を振りかざしながら、一人の女が飛び込んできた。
「なっ!?」
「な、何だよ!?」
「ちっ、敵かァ!?」
三人が慌ててテーブルから飛び退くと、円卓が現れた少女により真っ二つに両断された。
一方フェイトはその事態にまったく動じず、テーブルから自分のコーヒーだけを避難させ、椅子に座ったまま口を開く。
「少しつまらないけど仕方ない。君に恨みを抱いている彼女に譲るとしよう」
フェイトの言葉と共に、現れた少女はゆらりと立ち上がった。
「お久しぶりですぅー。こうして話すのは初めてですなー」
フェイトとはまた少し違う不気味な空気を醸し出す眼鏡を掛けた少女は、笑みを浮かべながら飛び退いたシモンに微笑みかける。
「テメエは・・・・・・・」
「シモン、この女もお前の知り合いか?」
「う~~~ん、・・・・・どこかで会ったような気もするが・・・・・・・」
「ちっ、次から次へと、テメエらは一体何者なんだよ!?」
顔を上げた少女は、実にのほほんとした口調でこちらを見ている。
彼女こそ京都で戦った神鳴流剣士、月詠だった。
しかし当然シモンは覚えていない。
それどころかいきなり斬りかかる人間にしては随分と、気の抜けた女だと思い、少し拍子抜けをした。
しかしその考えは一瞬で改めさせられる。
「ずっとあんたを斬りたくてウズウズしていましたわ~」
「・・・・なんだと?」
空気が寒気に変わった。
少女は小刀と、長刀を取り出し、シモンに向けて構える。
眼鏡の奥に光る瞳はより一層不気味さをまし、シモンとサラとトサカの鳥肌を立たせた。
「シモン、恨みって・・・・お前コイツに何したんだ?」
「いや、・・・・・・だからそれを覚えていないんだよ・・・・・・」
こんな不気味な女にどんな恨みを買ったのかと、シモンは忘れた記憶をフル回転して思い出そうとするが、まったく心当たりはない。
すると少女は長刀の刃に舌を這わせながら、答えを告げる。
「うっふっふっふ、強くて・・・・凛々しくて・・・・刃のように鋭い眼をしたウチの刹那センパイを、アンタはメチャクチャにして、ただの恋する女にしてもうた・・・・許せませんわ~」
「「「・・・・・・はあ?」」」
「あんな可愛らしいセンパイもそれはそれで食べてしまいたいぐらいおいしそうですけど~、ウチが興奮したセンパイをアンタがつまみ食いしてもうた~、もうウチ・・・・悔しゅうて、悔しゅうて・・・・・」
顔を赤らめながら、興奮しているのか激しくあえぎ声を出しながら、月詠はシモンにありのままを伝える。
しかし対するシモンたちは答えを聞いた事で反応するよりも、只単純に月詠そのものにゾワゾワと鳥肌を立てながらドン引きしていた。
「な、・・・・・・なんだこの変態女は・・・・・」
「あん♪ 言葉攻めは嫌いですう~~、ウチをイカせたいんなら、激しく打ち込んでくれへんと・・・・」
「シモン・・・お前・・・・・女をメチャクチャにしたってどういうことだよ!? しかもつまみ食いって、このスケベ!」
「テメエ、人を変態呼ばわりしているがテメエも人のこと言えねえじゃねえか!」
「ま、まてまてまて、まったく心当たりが・・・・・」
「無いとは言わせませんよ~、あんたの所為で、センパイの瞳と匂いは恋焦がれる乙女のモンや。アンタに焦がれてイケナイ妄想を毎晩して自分を慰めとる瞳や~、京都で会った時には既に兆候があったんやけど、メガロメセンブリアで見た先輩は完全にウチと同じ雰囲気でしたから分かりますえ~」
「「「うっ・・・・・・・」」
全身の鳥肌が全て立った。
「シモン・・・・お前こんな変態と同じような女を堕としたのか?」
「そんなこと・・・・無いとは記憶に無いから言えないよ・・・・・・」
「おいおい、奴隷がどうのとか文句言っているお前が実は一番やべえんじゃねえか?」
目の前の女の言葉をこれ以上聞きたくないほど、シモンたちは気持ち悪くなった。
すると、激しく喘ぎながらも月詠は光る二本の刃を構え、不気味さと含めて、一本の殺気をシモンに飛ばす。
「ですから~、その報いをうけてもらいますえ~」
「!?」
月詠の興奮した震えは止まり、真っ直ぐシモンに向かってくる。
「下がってろ、サラ! ブータ!」
「シモン!?」
「おいおい、テメエら! 人を無視して何勝手に・・・・「バカ! お前も巻き込まれるぞ!」」
サラはトサカの腕を掴み、急いでその場から飛びのいた。
シモンは逃げずにブーメランを構えて迎え撃つ。
そんな二人のぶつかり合う瞬間を、フェイトは一人優雅にコーヒーを飲みながら眺めていた。
「さあ、見せてみるんだね。君が僕の敵になりえなくなったのかを・・・・」