魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第129話 どちら様でしたっけ?

「ぶっ殺してやらァ!!」

 

「こっ、こいつ!?」

 

 

トサカの憤怒の一撃が繰り出される。

シモンは咄嗟にブーメランを瞬時に装備し、トサカの剣を受け止める。

しかしその一撃は、予想以上に重かった。

 

 

(ぐっ、こいつ・・・意外に強いぞ・・・・)

 

 

現役拳闘士のトサカはバルガス同様に十分強い。

しかもシモンを知らずに最初から舐めてかかって油断したバルガスと違い、トサカは本気でシモンを殺してしまうぐらいに力と気迫を込めていた。

 

「ウラアア!!」

「ちっ、舐めんなよ!」

 

その力でトサカは何度も何度もシモンを攻撃する。その気迫に圧されて、シモンは反撃するどころか、防戦一方で圧されていた。

 

「シモン!? くっ、今援護する!」

「おっと、テメエの相手は俺たちがやってやるぜえ!」

「へっへ、トサカの兄貴が本気を出したみたいだぜ」

「へん、うるせえ! どけよ、チンピラ!!」

 

追いつかれたシモンたち。

しかし今のシモンたちの力は、たとえトサカたちでも簡単に捕らえられるほど柔なものではなかった。

短剣を振り回すトサカ。しかしその剣をシモンはブーメランを振りかぶり、力でトサカの手元から弾き飛ばした。

 

「チャンス!」

「この野郎!」

 

武器が無くなったトサカ。

しかしトサカの拳も十分立派な凶器だった。たとえ素手でも構わずにトサカは殴りかかってきた。

 

「グッ!? こいつ・・・・・」

 

好機かと思ったが、慌ててトサカの拳をブーメランの腹でシモンは受け止める。

その拳の重さは振動となってシモンにまで伝わってきた。

だが、その隙にトサカのもう一つの手が、シモンの顔の前まで来ていた。

 

「しまっ!?」

 

シモンがハッとなって殴られることを覚悟した。

しかしその拳は飛んでは来なかった。

その握った拳は開かれ、トサカは突如シモンの胸倉を力強く掴んだ。

 

 

「俺たちはコツコツ返済してやっと奴隷から自由を掴んだんだぞ!」

 

「・・・何?」

 

 

シモンの胸倉を掴みながら、トサカは自分の想いを叫んだ。

その言葉にトサカの子分たちも、そしてサラも動きを止めた。

 

 

「18年だぞ! 俺や兄貴が・・・ママが18年死に物狂いで手にした自由だ! それをテメエはその日々を踏み倒してトンズラしようってのかァ!? んな真似俺が許さねえよ!!」

 

「・・・・お前・・・・・・」

 

「兄貴・・・・」

 

「アイツ・・・・・・まさか・・・・アイツも昔は・・・・・」

 

 

サラの思ったことは当たっていた。

気になってトサカの子分たちの顔を見ると、彼らは気まずそうに視線を逸らした。

 

そう、トサカも幼いときは奴隷だったのだ。

 

自由を勝ち取るまでにどれほど地べたを這いずり回ったかも分からない。

それは18年間という途方も無く長い日々。

そんな彼だからこそ、シモンの事が許せなかった。

自分たちの苦節を無視して、自由になると告げるシモンが我慢できなかったのだ。

 

 

「常識で考えろよ・・・・決まっちまった奴隷の運命なんだよ・・・・クズはクズ、悪党は悪党・・・・奴隷は奴隷だ・・・それ以外の生き方なんて出来ねえのさ・・・・それぐらい分かれよ・・・・クソ野郎がァ!」

 

 

そしてトサカはもう一度拳を振り下ろす。

心に絡みついたやるせなさを吐き出そうとシモンの顔面を打ち抜こうとした。

だが、

 

 

「・・・・だから・・・・お前はひねくれたのか?」

 

「なっ!?」

 

「だからお前は受け入れて・・・・その代わりに・・・ひねくれたのか?」

 

 

しかしその一撃をシモンは掴み取った。

そして揺らぎのない光る瞳で睨み付けた。

 

「お前に何があったかは知らない。・・・だが、俺は・・・・・・そんな道理を蹴っ飛ばす! お前が選ばなかった無理な道を行く!」

「テ・・・・テメエ・・・・」

 

シモンは決意した。

 

「サラ・・・・これでお前の為だけじゃなくなった。こうなったら意地でも突き進むぞ」

「えっ、・・・・シモン?」

「やりたくねえことは死んでもやらねえ! 無理だと言われたら尚のこと、意地でも可能にしてやるさ!」

 

シモンは抗う決意をした。

初めはただの勘違いである。

だからこうなった原因はシモンの借金だと初めから知っていれば、こんな言い合いにはならなかったかもしれない。

真面目なシモンのことだから、潔く借金の返済に身を注ぐ日々になっていたかもしれない。

シモンに非があると言われればそれまでである。正式な契約である以上トサカたちが正論だと言われるのも仕方ないだろう。

踏み倒しといわれても仕方ない。

しかしシモンは言われた常識に抗うことにした。

無理だと言われたことに立ち向かうことにした。

奴隷という生き物が決められた生き方しか出来ないのなら、その生き方から抗うことにした。

それがこの世界の法則でも、シモンは自分の決めた生き方をすることを決めた。

 

「この・・・・野郎・・・・・・」

 

トサカは歯を食いしばり、拳を力強く握り締めた。

シモンの言い分に自分の大人しく奴隷として過ごした日々が否定されるかもしれないことにどうしようもない怒りが湧き上がってきた。

その瞬間、トサカの頭から奴隷の扱いや契約のことは頭から消えた。

本気でシモンを殺そうと思った。

トサカがどうしようもない怒りを込めて、シモンに殴りかかろうとした・・・、

 

 

しかし、その時だった。

 

 

 

――――!?

 

 

 

その場に居る全員が突き刺さるプレッシャーに襲われた。

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 

シモンもサラもトサカも子分たちも思わぬ寒気に肩を震わせた。

 

ラカンのような強烈な覇気ではない。

 

だが、その場に居るだけで死を想像してしまうかもしれない不気味な感覚は、ある意味ラカン以上の恐怖を感じた。

 

 

「なっ・・・・誰だテメエは!?」

 

「い、いつの間に!? ここ、小僧、何の用だ!?」

 

 

トサカの子分達が振り返るとそこには一人の少年が居た。

無表情で冷たい瞳をした少年。

 

 

「な、・・・・なんだテメエは! 今取り込み中なんだよ!」

 

 

少年の存在に鳥肌を立てるトサカ。

しかし少年はトサカや、その子分やサラたちに目もくれず、一人の男だけを見た。

 

そして見つめたその男にゆっくりと歩み寄りながら口を開く。

 

 

「昨日この近くで大きな二つの力の波動があったと聞いて、少し気になってこんな辺境まで来てみたが・・・・」

 

 

少年の闊歩を誰も妨げない。

トサカたちには動くことも出来なかった。

そしてその歩みはシモンの目の前で止まった。

トサカは思わずプレッシャーに気おされて、一歩ずつ後ずさりしてしまう。

 

 

「お、・・・・お前は・・・・・」

 

「ぶっ、ぶぶ!?」

 

 

シモンの目の前に立つのは不気味な白髪の少年。

その存在をブータは知っている。

 

 

「来て正解だったね。どうやらネギ君たちの言っていたことは間違いだったようだ。一緒に来ていないとは言っていたけど、彼らは知らなかったのかな?」

 

 

ネギたちの旅路を狂わせた全ての元凶。

そしてシモンが新たな世界で出会った初めての宿敵。

フェイト・アーウェルンクスが目の前に居た。

 

 

「久しぶりだね、シモン。こんなところで何をしているんだい?」

 

 

再戦誓った相手。

それはシモンもフェイトも合意の上だった。

今度会ったときには決着を付けようとの約束。

勿論フェイトはそのことを覚えていた。

顔には出さないものの、その雰囲気は既に臨戦態勢に入っていた。

だが、フェイトは知らなかった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

ポカンとフェイトを見下ろすシモン。

 

そう、今のシモンはフェイトが決着をつけようと約束し合ったシモンとは少し違ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・どちら様でしたっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 

 

 

 

予想外の言葉にフェイトが首を傾げてしまった。

 

 

「だから・・・・・・・・・僕だよシモン・・・・・」

 

「・・・・・だから・・・・・・誰だ? (あ・・・・でも・・・・どこかで見たような・・・)」

 

 

「・・・・・ふざけているのかい?」

 

「ううう~~ん・・・(言われてみれば・・・・コイツは・・・・う~ん・・・でも)・・・ゴメン分からないや」

 

 

顔には出さないがフェイトはかなり動揺していた。

そんな様子をトサカもサラも訳が分からず口を挟んだ。

 

 

「おい、シモン。・・・・こいつお前の知り合いじゃないのか?」

 

「おい、よくわからねえけど、今コイツとは取り込み中なんだよ。後にしろ、ガキ!」

 

 

訳が分からず少し悲しいフェイトだった。

 

 

「・・・君に何があったんだい?」

 

 

フェイトが、そしてついでにサラとトサカがシモンの記憶喪失を知るのに、この後数分の時間を要した。

 

ようやく再会した宿敵同士の決着は、まだ当分先になりそうだった。

 


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