魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
それはシモンがグラニクスに運ばれ、まだ意識が戻らずに寝かされていた頃の話。
シモンが忘れた現実世界の友たちがこの世界に足を踏み入れて間もなく、窮地に絶たされていた。
舞台はグラニクスよりも遥か東、首都メガロメセンブリアに移る。
首都にあるゲートポートは現実世界と魔法世界の二つの世界を結ぶ道。だがその架け橋が今まさに壊されようとしていた。
そこには未来の英雄が初めて訪れたこの世界の空気に浸る間もなく現れた宿敵に向かって歯軋りしていた。
不意を突かれて重症を追った少年。それはネギだった。
父親探しのために期待と興奮で胸を膨らませながらようやく一歩踏み込んだ新たな世界を見た瞬間に、ネギは背後から襲われた。
彼の肩は敵の攻撃により石槍が右肩を貫通していた。致命傷は間違いない。
しかしネギは両の足で地面に踏ん張りながら、目は鋭く敵を睨みつけていた。
「何故・・・・何故君がここに!?」
ギリッと歯を食いしばりながらも自分を襲った敵を見る。
そしてネギと共にこの世界を訪れた仲間たちも、ネギに必死に駆け寄り、恐怖と怒りと混乱を滲ませながら、近づいてくる白髪の少年を睨みつける。
「なんなのよ・・・・なんなのよ、アンタたち!?」
かろうじてその一言をアスナが叫ぶ。
すると対する白髪の少年、フェイト・アーウェルンクスはアスナの叫びを無視して、ネギたちを一通り見た後に口を開く。
「・・・・シモンはどうした?」
「えっ?」
「「「「「「!?」」」」」」
その一言にこの場に居た全員が肩を震わせた。
「どうして君たちだけしか居ないんだい? シモンはどこへ行った?」
フェイトの言葉に誰もが悔しそうに歯を食いしばる。
そう、フェイトは知らないのだ。
シモンは自分たちとは一緒に居ない。
自分たちを残して彼は故郷へ帰ったのだ。
もし居たのならどれほど頼もしいだろう。どれほど安心できるだろう。彼が居たならこの状況すら苦も無く乗り越えるはずだ。
そんなことはネギたちが一番分かっていた。
しかしシモンはここには居ない。だからネギはフェイトを睨みながら口を開く。
「シモンさんは・・・来ていない・・・・」
その一言はフェイトの興味を削ぎ、少しだけため息をついた。
「そうか・・・来ていないのか。偶然とはいえ君たちと会ったのだから決着をつけようかと思ったが・・・・。彼は来ていないのか」
「偶然!? 偶然ってどうゆうことよっ!?」
「言葉の通りさ。僕の本来の目的はここ、ゲートポートの破壊だ。君たちは無関係さ。ネギ君が僕の気配に気づかなければ見逃していたんだけどね」
「「「「「!?」」」」」
まるで当たり前のように簡単に人を傷つける。
まったく表情を変えずに冷たい言葉を言うフェイトにのどかや夕映たちは足が竦んでしまった。
だが、それなりに実戦経験の多い刹那たちは、木乃香やのどか達の様な非戦闘員を後ろにやり、力の差が分かりながらも勇ましく敵に構える。
「・・・・お嬢様下がってください!」
「小太郎・・・相手は強敵でござるよ」
「ああ、分かっとる」
だがそんな彼女たちの力も勇ましさもフェイトにとっては無にも等しかった。
するとフェイトはやれやれといった感じで、指に嵌めた指輪を光らせてネギたちに告げる。
「どうせならシモンも居れば良かったが・・・・仕方ない。君たちはこの場で僕が舞台から退場させてあげよう」
その言葉を遮ろうと、既に重症のネギが刹那や小太郎たちよりも早くにその身を奮い立たせ、フェイトに向かっていく。
その背中を追いかけるように刹那や楓、小太郎にアスナ、そして古が続く。
「仲間に手は出させないぞ。僕を誰だと思っている!!」
今この場にシモンは居なくとも自分が居る。
決して誰にも手は出させないと叫びながらネギは向かう。
しかし対するフェイトは相変わらずの無表情で、ネギの決死の特攻すら冷静に返す。
「ふん、・・・・・・今の君は誰でもないさ」
この数分後にメガロメセンブリアのゲートポートが破壊されたことが魔法世界全土に知れ渡る。
首都のゲートを破壊した歴史的なテロリストたちの正体は、幼い少年少女達として、その素顔と名前を公表された。
これがシモンの知らない間に起こった魔法世界の大事件の一つ。そして始まりでもあったのだった。
首都のゲートの破壊。それはたしかに魔法世界にとっては大事件であるが、この世界に住む者たちにとってはそれほどの問題でもなかった。
現実世界、この世界では旧世界と呼ばれる世界とは殆どの者に縁が無い。それゆえ一度壊れたゲートの修復に数年掛かるといわれても大して困ることは無かった。
困るのは・・・・・
「うぎゃあああああ、帰れねえええええ!?」
「帰れナイ・・・・・・・・・アニキ・・・・」
「ぎゃああああ、いくら私の速さでもこれはどうにも出来ねえッ!? どうすりゃいいんだァーーーッ!? このままじゃ留年しちまう~~~ッ!?」
「グスッ・・・・アニキと・・・・・・・会えない・・・・・」
「泣くな~~~ッ!? つうか私も泣きたいっすよーーーッ!?」
と泣き叫ぶ旧世界からの訪問者ぐらいのものだった。
だがこの事件で影響を受ける者も居た。
「男なんて・・・・男なんて・・・・」
「お、お嬢様・・・・」
「男なんてみんなバカばかりですわーーーーーッ!!!」
首都より遠く離れたアリアドネーの地で、エミリィは天に向かって大声で叫んでいた。
その様子にベアトリクスも心配で口を挟もうとするが、有無も言わせぬエミリィの気迫に圧され、なかなか声をかけることができなかった。
それほどエミリィは荒れていた。
先週までは荒れるどころか部屋に引きこもっていたエミリィ。
そして数日前には照れながらも純情な可愛らしい女の雰囲気を出したエミリィが今度は荒れていた。
「お、落ち着いて下さい! アニキさんにはきっと何か事情が・・・」
―――ギロッ!!
「うッ・・・」
ベアトリクスの言葉にエミリィはもの凄い殺気で睨みつける。そして次の瞬間不気味に笑い出し、ベアトリクスの鳥肌を立たせた。
「ふっ、・・・ふっふっふ・・・・アニキ? それはひょっとして人に散々言いたいことを言って、別れも告げずに消えたあの方のことですか?」
「お嬢様・・・・」
「あ・ん・な・薄情な男をあなたはまだ兄と呼ぶのですか?」
「も、・・・・申し訳ありません・・・・・」
「まったく。もう顔も見たくありませんわ、あんな男! やはり私の認める殿方はナギ様だけですわ!」
結局シモンは帰ってこなかった。
いくら探しても見つからなかった。
エミリィだけではなくコレットやベアトリクスもシモンを探し、帰りを待ち続けたが、シモンとブータの痕跡はアリアドネーには何も無かった。
ただ彼女たちの胸に穴だけ開けて、シモンは姿を消した。
(お嬢様・・・あんな風に言っていますけど・・・・本当は・・・・)
何があったのかは分からない。
ひょっとしたら何か事件に巻き込まれた可能性も高い。
だからこそベアトリクスは分かっていた。
エミリィの言葉と態度は、シモンのことを気が気でない態度の表れなのだと。
その証拠に一頻り叫んだ後のエミリィはとても寂しそうに天を見上げている。
(まったく・・・あなたは女にこれほど心配させて・・・・・)
ギュっと拳を握りながら、エミリィは決して口には出さない本音を、心の中で呟いていた。
(どこに・・・・どこに行ってしまわれたのですシモンさん? どうしてナギ様といい、男はこうやって女を悲しませるんですの? ・・・・・早く帰ってきてください・・・・)
行く当てのない言葉を心の中で何度も呟きながら、エミリィは目に浮かび上がって来る水分を決してこぼさないように上を見続けた。
心は下を向いているが、決して下を向かずにシモンが言ったようにエミリィはずっと上を見続けた。
するとその時生徒たちの騒ぎが聞こえてきた。
「た、大変大変!? コレットが・・・・コレットがまたバカやったって! 箒に乗ってたら人を轢いちゃったんだって!」
それは突然の出来事だった。
状況は分からないが、コレットが過ちを繰り返したということだけは分かった。
「ええ~~!? それでその人は!?」
「そうそう、どうなったの?」
生徒たちが集まり、状況を聞きだそうとしていた。エミリィとベアトリクスも少し気になり離れた場所から聞き耳を立てる。
すると・・・
「記憶喪失だって・・・・」
「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」
「・・・・お嬢様?」
一瞬の間を置き、その沈黙をエミリィが破った。
「男と・・・・記憶喪失という設定なんか信用できませんわーーーッ!!」
「不憫な・・・・・」
しかし今回の事件がキッカケになり、エミリィもベアトリクスも近い将来シモンと再会することになる。
今回のコレットが轢いてしまった人物との出会いと縁が、再びシモンと結びつくことになる。
だが、その時の再会は実に大きな混乱と修羅場と女たちの戦いを巻き起こすことになる。
なぜならシモンによって心に穴を空けられた少女たちが一斉に会合するからである。
シモンが無意識に立てた全てのフラグの道が捻って交わる恋愛道の果てでの再会だからで
ある。