魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第125話 君のことを思い出してみせる

魔法世界全体の地理で言えば西方の辺境の地。

 

 

そこは自由交易都市グラニクス。

 

 

首都から遠く離れた辺境のこの地では、定められた法律内の事なら、如何なる事も許されていた。

 

故にそれほど治安の良い場所ではない。

 

その地で今、一匹のメイド服を着た熊のような獣人が大声を張り上げて、鶏の頭のように髪を逆立たせたチンピラのような男を殴り飛ばしていた。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! なんで俺がそんなことすんだよ? 俺には拳闘の仕事が・・・・」

 

「口答えすんじゃないよ、穀潰しがーッ!! どうせアンタは大して戦わないだろうがーッ!」

 

「いっ、いってえ!? 殴ることはないだろママ!」

 

「どうせ暇なんだろ! だったら少しぐらい手伝ったらどうだい!」

 

 

辺境とはいえ交易により発展したこの地は、大都市といっても過言ではないほど国が活性化されていた。

行き交う人々、中には辺境の地ゆえに犯罪者も賞金首もいるだろう。

そしてこの国には現実世界とは異なる制度があった。

 

「だからって何で俺が新しい奴隷を見張らなきゃいけないんだよ?」

「急なことだったから予備の奴隷用の首輪が無いそうなんだよ。明日の昼には新しいのが出来るから、それが出来るまでに逃げないようアンタが見張っときな!」

「けっ・・・メンドクセー、なんで俺が、んな事としなくちゃいけねんだよ。他の奴隷にでもやらせとけよな・・・・。大体俺じゃなくて奴隷長のママが・・・・」

「ガタガタ言ってんじゃないよ、トサカ!! そろそろ拳闘の興行があるから客がバンバン入って忙しくなるんだよ! アンタも少しぐらい働きな!」

 

それは奴隷という制度、そして奴隷商業が法的に認められている地でもあった。

この辺境の地が繁栄する要素はいくつかある。

まず始めに最初に述べたように交易。そして次に拳闘の仕事である。この都市にはいくつもの闘技場があり、何人もの戦士たちが戦い報酬を貰う。そのためにこの地には腕に自信のあるものなどが行き交っている。

 

そしてもう一つが奴隷商業である。

 

そしてこの熊のメイドは全ての奴隷を統括する奴隷長という役割についていた。そしてその権限と迫力は並みの者では太刀打ちできぬほどのものである。現役の拳闘士であるチンピラの様な男でも、彼女にだけは頭が上がらなかった。

 

 

「ほら、新しい奴隷は部屋にいるからさっさと行って来な!!」

 

「ああ~~っ、くそっ! わかったよ、やりゃあいいんだろ! その代わり首輪が出来たらソッコーでやめるからな!」

 

 

チンピラ拳闘士のトサカは舌打ちをしながらしぶしぶと承諾した。

言われた仕事は荒野で奴隷商人たちがつれてきた二人の男と女である。

数時間前どういうわけか瀕死の重症を負っている男をカメ型のメカで運んでいた少女が出会った商人たちに助けを求めた。

そして商人たちは親切にも男に最高級の魔法薬を後払いで売り、男は意識だけは取り戻さないものの、何とか重大な危機を乗り越えた。

安堵の息をもらす少女。しかし彼女に最高級と言われる魔法薬の返済能力は当然無かった。

ゆえに借金の契約を結び、二人はこの地に連れてこられたのである。

トサカの仕事は奴隷を拘束し反逆しないための首輪が出来るまで、二人を見張っていることだった。

 

「おいっ! 入るぞ!」

 

やがてトサカはとある部屋の一室の扉を勝手に開けた。

すると中にはベッドで静かに眠る男と、その隣で心配そうに顔を舐める小動物。そして男の傍で看病している少女が振り返り、トサカに睨みつけてきた。

 

「だ、誰だよ!?」

「あ~ん? お前が新しい奴隷か? そんでそこに寝ている男もか? お前ら二人何をやったんだ?」

「・・・ふん、・・・」

 

睨みつけられたのが癇に障ったのか、トサカは乱暴な口調で睨み返す。しかし少女は微塵も怯まなかった。

 

「テメエ、奴隷の分際で何睨んでやがる! 立場がわかってねえのかよ」

「うるせえ! 首輪が付けられるまではまだ奴隷じゃねえやい! 契約もそうなってんだろ?」

「あ~ん!? てめえ・・・・・・ん?」

 

少女の荒々しい言葉に血が上ったとトサカだったが、少女の顔を見た瞬間冷静になり、顎に手を置き少女の顔をマジマジと見る。

 

「テメエのツラ・・・どっかで・・・・・」

「うっ!?」

「あっ!」

 

少女が慌てて顔を逸らすが既に遅かった。トサカは少女の正体に気づいてしまった。

 

「テメエ確か賞金首のサラ・マク・・・何とかって奴じゃねえか!」

「ちっ」

 

素性を知られたサラは舌打ちしながらトサカを睨むが。今度はトサカがニヤリと口元を吊り上げた。

 

「はっ、こいつはいいぜ。テメエ密入国一家の娘かよ! このまま首都に叩き出してやると言いてえところだが・・・」

「・・・んだよ・・・・」

「へっ、テメエにはここで従順に借金分働いてもらうぜ! 俺の言うことは何でも聞いてもらうぜ! くっくっく、もし逃げようとしても反抗しようとしても通報するぜ? 分かったか!!」

「こ、この野郎!?」

「あっ? なんだよ、逆らうってか? 通報されても良いのかよ?」

「くっ・・・・・」

「ひゃっはは、精々死ぬほど働いてから監獄行きやがれ!」

 

サラは殴ってしまいそうな拳を懸命に堪えながらも、トサカの命令に従うしかなかった。

たしかに通報されるわけには行かない。しかし首輪が無い今こそ絶好の逃げる機会でもある。

だが、サラは今ここで逃げ出すわけには行かなかった。

 

「おい、仕事はしてやるよ。命令は聞いてやる・・・でも・・・こいつは・・・・シモンは本当に助かるんだよな!?」

 

サラがここを離れない理由。それはベッドの上で寝かされているシモンのことだった。

今のシモンには安静と介護が絶対不可欠である。

もしサラ一人なら逃げ出すことは出来るかもしれない。しかしそのためにはシモンを置いていかなければならない。

それがサラには出来なかったのである。

 

「さ~な。だが貴重な奴隷を死なせるようなことはしねえだろうよ。まっ、その分てめえらには働いてもらうがよ」

「・・・・分かってるよ・・・・でも、こいつは本当に死にかけだったんだ。目を覚ましてもしばらくは働けねんだ。それまでは私がコイツの分も働くからそれでいいだろ?」

 

シモンの前に立ちながらサラはトサカに告げる。その真っ直ぐな目は、先ほど自分を睨みつけた敵意のある目よりも、ひねくれたトサカには気に食わなかった。

トサカは舌打ちしながら振り返り、扉の外へ出た。

 

「ああ、好きにしな。その代わり借金分働くまで逃がさねーぜ?」

 

それだけを言い残して、狭い部屋の扉はガタンと閉められ外側から鍵を掛けられた。

まるで檻の中のような感じである。

そしてサラは一度深呼吸をして、トサカの気配が無くなったのを確認した後、扉に向けて舌を出して声を張り上げる。

 

「へん、バーカ! オマエの思い通りになんかなるかよーッ」

 

閉まった扉に向けてサラはアカンベーをする。

 

「ぶっ・・・ぶむ?」

「ふん、安心しろよブータ。幸い首輪が届くのは明日って言ってた。明日までシモンを休ませて、そっから逃げるぞ! こんなとこで奴隷になんかなってたまっかよ!」

 

拳を握り締め、サラは頼もしく告げる。ブータもその言葉に頷いた。

そしてサラは再びベッドに近づき、シモンの顔を覗き込む。薬が本当に高価なものだったか知らないが、よく効いているのは本当のようである。息も安定して顔色も悪くない。

 

「頼むぜ~。メカタマは今、外で充電中だ。明日にはきっと動くようになってるはずだ。でも、お前が目を覚ましてくんなきゃ、ここを離れるわけにも行かねんだよ」

 

メカタマは多少壊れているものの動かないほどではない。

飛ぶことは出来ないだろうが、逃げ出す時の役に立つはずである。しかしその計画も、シモンが無事に目を覚まさない限り実行できないのである。

意識の無いシモンを担いで逃げ出しても良いが、ここは辺境の都市である。ゆえにここから離れると医療技術の整った街を次に見つけるには相当時間が掛かるだろう。

心配ないと言われているが、本当にシモンが目を覚まして後は医者の心配がないとハッキリ分かってから、サラはシモンとブータと一緒に逃げ出したかった。

それが彼女なりの恩返しだった。

 

「あ~あ、お前がケータロみたいに不死身で直ぐに怪我が治ればこんな心配しないんだけどな~」

 

サラは寝ているシモンの鼻の頭をツンツンと指でつきながら呟いた。そしてもう一度ため息をつく。

 

 

「シモン・・・・お前は一体誰なんだよ・・・・・。バカみたいな奴で・・・・賞金首の私を信じて見逃すようなバカで・・・、見逃すために本当に命を賭けるバカで・・・・怖いと思ったら・・・急にチョットだけカッコいいバカで・・・」

 

 

出会ってまだ僅かの関係である。

多少心の痛みさえ抑えれば見捨てていくという選択肢も無くは無い。しかし心の痛みが既に多少で済まなくなったために、サラはこうしてシモンを見捨てずに傍に居た。

 

 

「パパ・・・はるか・・・ゴメン・・・・ちょっと遅れるよ。このバカに助けられた借りを返さなくちゃいけないんだ・・・・」

 

 

今日は色々ありすぎた。

サラの身体も相当疲れていた。しかし彼女は自らの意思ではなく、身体が強制的に目を閉じて眠りに落ちるまでずっとシモンの傍で看病を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッ、生意気なガキだぜ。まあその分いびってやるがな」

 

 

部屋から出たトサカはサラの態度が気に食わず、イライラしている様子である。首輪が出来たらどのように苛めるかを今から考えていた。

だが、その思考が途中で遮られた。

 

「大変だぜ、トサカの兄貴!?」

「あん? 何だテメエらゾロゾロと?」

 

数人のチンピラが少し焦った表情でトサカに駆け寄ってきた。恐らくトサカの子分のような存在だろう。

 

「今・・・今ニュースで世界各所のゲートポートが同時に魔力暴走で全部壊れちまったってよ!?」

「あん?」

 

ゲート、それは魔法世界と現実世界を繋ぐ橋のような存在である。その橋が全て壊れたということは、こちらの世界と現実世界を行き来する手段を完全に絶たれたということである。

 

「犯人はまだ公表されていないが、テロリストの犯行って噂が流れてるぜ」

「しかも完全に破壊されてるらしいから、数年はゲートも使えないってよ」

 

まるでテロのようなこの事件は魔法世界の大事件として取り扱われることになるが、トサカは大して興味のなさそうな顔である。

 

「はん、別にゲートが壊れようが俺らには関係ねえだろうが」

「えっ、・・・あっ・・・いや・・・そうだがよ・・・」

「だったらくだらねえことで呼び止めんじゃねえよ。俺は明日からどうやってあの新しい奴隷をコキ使うかしか考えてねえよ」

 

それだけを言い残してトサカは子分たちに背を向けて立ち去った。

子分が知らせた事件が自分にも関わることになるとも知らずに。

そしてこの事がキッカケで、彼の人生は大きく変わることになるのを、まだトサカは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、・・・・俺は・・・・生きているのか? っつう、・・・あの男は?・・・ここは?・・・ブータ?・・・サラ?」

 

 

目覚めた場所は薄暗く狭い部屋のベッドの上だった。

見渡してみると自分の隣にはブータ。そしてベッドの傍にある椅子でサラが寝息を立てていた。

 

「そっか・・・お前が看病してくれたんだな・・・・・逃げるチャンスだったってのに。口は悪いけど、結構いい奴なのかもな」

 

サラもそれなりに疲れているであろうに、自分を看病していてくれたと分かり、意地の悪い少女の優しさに思わず笑みが零れてしまった。

 

「それにしても・・・・痛っ・・・ふう、・・・・もうあんな化け物とは二度と戦いたくないや・・・・」

 

シモンはガタガタの身体を引きずりながら、サラを起こさないようにサラの肩に毛布を掛け、窓の外を見る。

そこにあるのはアリアドネーよりも遥かに発展した都市があった。

既に空は暗く、夜を回っているのに街の中で未だに光る明かりが大都市である証明をしているように見えた。

 

「まったく・・・これだけ大きな都市なのにまったく心当たりがないや。俺はどれだけコレットの魔法で忘れちゃったんだ?」

 

またしてもまったく心当たりの無い土地の光景を見せられ、シモンは少しため息をついた。

 

「でも、忘れていたものは少しだけ思い出せたな・・・・スパイラルネメシス・・・・螺旋族・・・・螺旋力・・・そして、アンチスパイラル・・・それにロージェノムとか言う男・・・あの男、絶対にどこかで会ったことがある・・・それにアンチスパイラルとかいう奴の声も・・・どこかで・・・」

 

シモンは胸元にあるコアドリルを弄ってみる。その用途が何なのかを思い出せないが、この小さいものが、自分自身を左右させた。重くズッシリした感触を確かめながら、シモンはコアドリルを強く握る。

しかし視線は直ぐに隣に移る。

コアドリルと同じように首から提げた指輪だ。

 

「だが、宇宙の崩壊や人類の罪よりまず・・・・この子だな・・・・」

 

そう言ってシモンは部屋にかかっている自分のコートに手を伸ばす。そしてアリアドネーで見た胸元のポケットにしまわれた一枚の写真を取り出し、眺める。

自分の腕に手を絡ませて微笑む女。それは間違いなく、ラカンとの戦いで自分を救ってくれた女だった。

 

 

「・・・俺を襲った絶望なんかアッサリと消してくれた・・・・心がとても温かくなる・・・・でも、切なくもなる・・・」

 

 

絶望に取り込まれた自分を助けてくれた女。

美しい微笑とたった一言で暴走した自分の目を覚まさせてくれた。

いかにこの写真に写る女が自分にとってかけがえの無い人なのかが分かる。

だからこそこの胸を襲う切なさと、意識の中で微笑みかける女に手を伸ばした時、砕け散った光景だけでシモンは全てを理解した。

 

 

「そうか・・・・君は・・・・・もう・・・・・この世に居ないんだな・・・・・」

 

 

本当に大切で、愛していたから分かるのだろう。

シモンは直感的にこの女が既にこの世に居ないことを理解した。

そしてもう一つ分かった。

胸を襲う切なさは女が既にこの世に居ないからではない。

そんなことすら忘れている自分自身が悲しかったのである。

だからこそシモンは写真を胸の中で強く抱きしめ、約束する。

 

 

「ふう、・・・破滅への道か・・・・・君が何を根拠に滅びないと言ったのかはまだ分からないけど、・・・・でも・・・・これだけは約束する。俺がこれから進む道が破滅かどうかは分からない。でも、君の事は・・・・君だけは・・・絶対に直ぐに思い出すよ」

 

 

たとえこれから先に何が起ころうとも、それだけは絶対に譲れなかった。部屋の片隅でシモンはいつまでも失った女の写真を抱きしめて心に誓った。

 

 

新たに誓ったシモン。

 

 

そして次の日シモンは、この世界の法に抗う。

 


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