魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「あっ・・・・・あ・・・・・・」
口を開いても、なんと発すればいいか分からない。
自身を覆った絶望を力ではなく、たった一言の言葉と微笑みだけで、取り払ってくれた女。
「うう・・・あ・・・あ・・・うっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
記憶喪失だろうと関係ない。今すぐにでも女の名を呼び、この手で抱きしめたかった。しかしどうしても名を呼ぶことが出来ない。
だが、闇を光で照らした女に向けて、シモンは無我夢中で手を伸ばした。
その瞬間、身に纏った赤き螺旋の渦が砕け散った。
「砕いた!」
その時、外からラカンの声が聞こえてきた。
それはシモンの技に亀裂を入れたのは自分自身だと思っていたからである。
だからラカンは気づいていなかった。
「終わりだァ! って・・・・なっ、・・・・なんだとッ!?」
ドリルはラカンの拳で砕けたのではない。
絶望で覆われた殻をシモンが自らの意思で砕いたのだ。
「愛しき者の意志を受け取り・・・・」
そして砕け散ったドリルの中から、再びシモンの緑色に輝く螺旋の光と、巨大なドリルがあった。
「無限の絶望・・・・希望に変える超銀河ァ!」
叫ぶシモンの両目からとめどなく涙が流れながらも、シモンは己のドリルを掲げ、肩にはブータが乗っていた。
「ど、どうなってやがる!? あの赤い光が取り込まれただと!?」
シモンの記憶の中の女の一言がキッカケとなり、全ての赤き絶望の螺旋の力をシモンの螺旋力に変換した。
抱いた絶望の分だけ緑色に輝くシモンの螺旋力に変換され、シモンの螺旋力は増大した。
「ぶーむッ!」
ブータはこの力を確信していた。
それは麻帆良学園の学園祭で行われた武道大会でネギと戦った時と同じ雰囲気だった。
あの時シモンに新たな力をくれたのは、かつての大戦で散った大グレン団たちの魂の集い。
だが、仲間たちの魂が眠ったコアドリルはここにはない。
しかしシモンの胸にはヴィラルが餞別で渡してくれた遥か昔の螺旋族たちのコアドリルがある。
かつて宇宙の命運に抗おうとして散っていた螺旋族の無念の魂。その絶望は、記憶を無くしたとはいえシモンを飲み込んでしまうほどだった。
しかしたった今、シモンの過去の記憶に出てきた一人の女の言葉が、全ての絶望を逆に取り込んで、シモンに新たな力を与えてくれた。
シモンを救った女、それこそがシモンが愛したニア・テッペリン。
死してもなお、シモンの背中と胸の中に一つになって生き続け、生前と同じように、今またシモンを救ってくれたのだ。
やがてラカンが砕いたと思っていた赤き螺旋の渦の残骸も、シモンの掲げるドリルに取り込まれた。
シモンの頭の中で見せられたた遥か昔の絶望も、砕け散った絶望も、一つ残らず取り込んで、より大きなドリルへと進化した。
「はあ、はあ・・・・あの子は・・・・この胸の温かさと切なさは・・・・・」
流れる涙は止まらない。
この戦いの中でシモンの頭の中にはいくつかのキーワードが生まれた。
スパイラルネメシス、螺旋族、螺旋力、アンチスパイラル、そして今のシモンのように絶望に飲み込まれたロージェノムという男。
この全ての言葉が、シモンに螺旋の力と破滅への道を教えた。
そして螺旋の力が宇宙を滅ぼす映像を見せられたのだ。飛びぬけた螺旋力を持つシモンがロージェノムのように真実だと確信してしまうのは仕方がなかった。
しかしシモン自身の記憶に出てきた女は、滅びないと笑顔で告げてくれた。
何故なのかは分からない。
しかしアンチスパイラルが見せた宇宙の行く末の映像よりも、何故か女の言葉のほうをシモンは信じることが出来た。
(アンチスパイラル・・・奴らが言っていたスパイラルネメシスは真実だ・・・俺には分かる・・・・でも・・・・真実はそれだけじゃない! あの子が言った言葉も・・・・真実だ!)
願望でも期待でもない、女の言葉に嘘は無いとシモンは何故か確信出来た。
だからこそ、女のことを思い出せない自分自身に涙を流した。
「なんて事を忘れているんだ俺は・・・・でも、・・・でも! 君の言葉を・・・・俺は信じる!!」
シモンは涙を流しながら、ゴーグルを装着する。その瞬間ゴーグルが星型のサングラスへと進化した。
「シモン!? ブータ!?」
場を覆いつくしていた禍々しき光は去った。再び緑色の美しい螺旋の光を放つシモンにサラは目を輝かせる。
そしてラカンはため息をつきながらも、うれしそうに口元を吊り上げた。
「ふう・・・・結局そうなんのかい? よく分からない奴だぜ・・・。飲み込まれたと思ったら、逆に飲み込んだってか?」
絶望に飲み込まれたと思った男は、少しの間を置いて、元に戻るどころか、余計に眩しく真っ直ぐな魂を掲げて戻ってきた。
「男じゃねえか、・・・テメエ!」
最早興味が尽きなかった。
「ったく、またしても俺様の見立てを裏切りやがった。俺の失望を引っくり返すとは、やるじゃねえか」
この瞬間のラカンの頭の中にはサラもその父親も、もう直ぐこの世界に来る親友の息子のことも忘れていた。
ことごとく自分の想像を外していくシモンのことだけしか見ていなかった。
「確か・・・嬢ちゃんが言ってたお前の名前は・・・シモン・・・だったか? よし、上等だ! 来やがれ、シモン!!!」
ラカンが初めてシモンの名を叫んだ。
それがこの男なりの戦いの礼儀でもあった。その後ラカンは高らかに大笑いをしながら真っ直ぐシモンに向かっていった。
対するシモンは返事をする事も頷くこともしない。
ただ、言葉ではなくラカンの期待にシモンは力で見せる。
「超銀河ギガドリルブレイクゥッ!!!」
「はっはははははは!! 銀河を貫くドリルってか? だが、この最強無敵の俺様を貫けるのかッ?」
シモンは流れる涙を振り払いながらその手に掲げる超絶怒涛級の超螺旋を、最強の壁にぶつける。
「銀河じゃねえ! 誰かが言っていた! これが天をも貫く俺の螺旋の力だァーーー!!」
「ガァッハハハハハハハハ!!! 最高だぜ、面白え! 受けてやるから試してみやがれ!!」
魔法世界に二人の戦士の魂が輝いた。
決して歴史で語られることのない伝説級の戦いの立会人は一人の賞金首と一匹の小動物のみだった。
気づけば朝日が世界を照らしていた。
これがシモンとラカンのファーストコンタクトだった。
「いやあ、逃がしちまったか、リカードの野郎に謝んなくちゃいけねえな。まさかこの俺様が獲物をみすみす逃がすとはな」
荒れ果てた荒野の瓦礫の上で、ラカンは貫かれた腹を押さえながら苦笑した。
「にしてもだ・・・あの野郎はどうなったのか・・・まっ、死んでねえだろうけどな」
ラカンは辺りをグルッと見渡す。
戦いの爪跡を残す大地は、さきほどまでとは一変して静まり返っていた。
そしてそこにシモンはいない。サラもブータも見当たらなくなっていた。
依頼を受けたラカンとしては、ここでサラを逃すわけには行かなかったのだが、自分の体がこれ以上動かなかった。
「ったくよ~、人の体にデカデカと穴空けやがって。本当にぶっ飛んだ野郎だぜ。油断して手を抜きすぎたな・・・ハナからガチでやりゃあよかったぜ。つうか最後の一撃は避けた方が良かったな」
しかし笑みが耐えなかった。
犯罪者を逃し、自身は深手を負ったというのに、今のラカンの気持ちは久しぶりに満たされているような気がした。
戦いでしか生きられぬ自分の心を満たしてくれる相手が、かつての自分の友以外にいるとは思って居なかった。
だからこそこの状況に彼は自然と笑ってしまった。
しかしラカンは急に大切なことを思い出して途端に青ざめる。
「くっくっくっ、・・・・ってヤベエ!? たしか明日辺りにナギの息子が来やがるんだった・・・・タカミチに迎えに来てくれって言われてたのすっかり忘れてたぜ・・・。う~む、いかに無敵の俺様といえどもこんだけデカイ穴を腹に開けられたままメガロメセンブリアなんて遠いとこ行けねえわな・・・・」
顎に手を置き悩むラカン。だが、それも一瞬で終わった。
「だっはっはっは、仕方ねえ。遠くてダリーから約束すっぽかしたってことにしとくか!」
とても軽い気持ちで親友の息子の出迎えをサボってしまうラカン。
しかしこの時ラカンがネギたちを迎えに行かなかった、というより行けなくなったことがキッカケでネギたちの魔法世界の旅は果てしなく困難になることを、ラカンは知らない。
それどころか知っても開き直ってしまうぐらいである。
とにかく今は、自分の腹に風穴に空けた男で頭の中は一杯だった。
「俺にこんな言い訳考えさせたんだ。次があったらマジで本気を出してやるよ。そん時まとめて返すぜ、シモン!!」
既にこの場にいない新たに任命したライバルに向けて、ラカンは致命傷の傷を負いながらも楽しそうにケラケラと笑った。
翌日、二人の男の戦いが繰り広げられた地より南の都市に事件が起こることになる。