魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
赤き絶望の光を放つ男から放たれる禍々しい空気は、ラカンの鳥肌を立たせた。
「俺が手に汗を?・・・・何年ぶりだ?」
最強無敵を誇ったこの男は、テキトーな力でも身に掛かる火の粉を払うのに十分過ぎるほどの力を持っている。
故に全力を出すことなど十年近くないことである。
ましてや戦いに恐れを抱くなど、ほとんどありえないことだった。
「マジでお前は何者だ? どうやったら人間が、こんな胸糞悪い空気を放てるんだ?」
ラカンが恐れたのはシモンの力ではない。
突如変貌したシモンから出される禍々しいプレッシャーだった。
だがシモンは答えない。それどころかラカンの言葉を聞いているかどうかも怪しいところである。
そして遂に顔を上げてラカンを睨む。
その瞳の中には赤い光の渦が巻いていた。
「消え失せろ」
「!?」
不気味すぎるほどの低い声。
シモンが両手を前に出す。するとシモンから無数のドリルが伸びる。それはフルドリライズではない。
回転したドリルが、ラカン只一人を目指して何処までも伸びていく。
「けっ、つまんねえな。真っ直ぐな奴だったくせに屈折しやがって!!」
ラカンは失望したかのようにため息をつきながら両手にアーティファクトの剣を出した。
目前まで迫り来るドリルの束。しかしラカンは幾多の束になり伸びるドリルの全てを両手の剣で切り裂いていく
「お前のこと、嫌いじゃなかったぜ・・・」
次々と伸びる数十のドリルを斬りながらシモンに告げる。
その声がシモンに届いているかどうかは知らないが、ラカンは構わず告げる。
「酒でも飲みゃ、俺たちは十秒で親友になれたはずだ・・・」
ラカンは残念そうに苦笑しながら告げるが、シモンには聞こえていない。ただ黙々とラカンへ向けて次から次へと折れたドリルの代わりに新たなドリルを伸ばしていた。
このままでは限が無い。
ラカンは剣を捨てて、気合で真っ直ぐ突き進むことにした。
「今そのツラに一発かましてやるぜ!」
ドリルの雨の中を掻き分けながらラカンは進む。
しかし致命傷は避けるものの全ての回避は不能。
一つ、また一つとドリルがラカンの薄皮を捻じ切っていく。
戦いで血を流したのも久しぶりだろう。ついにシモンはラカンに傷をつけるまでに至ったのである。
しかしラカンは大して慌てない。
確実にシモンに近づき、その瞬間右腕に強烈な気を込めた。
「言っとくが俺は、素手のが強えぜ! 羅漢本気で右パンチ!!!」
直撃した! ラカンはそう確信していた。
しかし右の拳を繰り出した時にはシモンは既にそこに居ない。
「回避しただと!?」
シモンは軽々と宙へ逃れ、降り立った直後両腕に伸ばしたドリルを構えながら、ラカンに向かってくる。
ラカンもとっさに身構えて迎え撃つ。
接近戦だ。自分が遅れを取るはずなどは無い。
だが、コアドリルに込められた遥か昔の戦士の絶望の力は、ラカンの想像を遥かに上回っていた。
「ガアアアアアアアッ!!」
「ぐっ、お、重ぇ!?」
シモンの両腕から伸びたドリルをラカンは素手で掴み取ろうとする。
しかし先ほど容易く鷲摑みに出来たシモンのドリルは掴まれたラカンの手の中で激しく回転し、ラカンの両手を弾き飛ばした。
両手の平の皮を持っていかれたラカンの両手からは激しく血飛沫が舞うが、ラカンにとっては痛みよりも驚きのほうが大きかった。
スピード、パワー、そして戦い方が先ほどまでより遥かに上回っていた。シモンが繰り出すドリルと拳打は、決してテキトーに払うことが出来るような代物ではなかった。
(こいつは・・・・・・・・力の暴走とかそんなレベルじゃねえ。まるで何かに乗っ取られたかのような戦い方だ)
数度の拳を交え、ラカンはシモンの現状に何かを感じ取った。
よく怒りに任せた戦士が、内在する魔力や気を暴走させて一時的に驚異的な力を発揮することがある。
しかしそれは暴走であるがゆえに単なる力任せの戦いに過ぎず、周りも何も見えない闇雲の二流三流が陥りやすい事故でもある。
だが、今のシモンは暴走ゆえの力任せであっても、その戦い方は熟練した戦い方に見えた。
そしてもう一つの異変に気づいた。
それは今のボロボロのシモンの状態である。
痛みは人体の危険信号でもある。それが限界を超えると自らの意思ではなく脳からの命令により、人間はそれ以上の痛みを受け入れないように体に力を入れないようにする。
しかし今のシモンはどうだ?
明らかに傷が体を蝕み、動くことすら難航しそうな状態でありながら、ラカンに正面から向かって行けるほどの力を振るっていた。
それは自らの意思に反して、何かに無理やり体を動かされているようにも見えた。
「うっぐ!? がはァッ・・・・・ごほッ・・・・」
その瞬間シモンが再び咳き込んだ。その口元から溢れるのは螺旋力と同じ色、赤い血だった。
「おいおい、テメエ死ぬぜ?」
「消え失せろ。ごほっ・・・はあ、はあ・・・・真実の果ての絶望に呑まれて、無と帰れ!」
「・・・ふん」
ラカンに迫る力を振るうシモンの口から血以外にも絶望というありえない言葉が吐き出された。
舌打ちするラカン。
呆然とするサラ。
そんな中、動いたのはブータだった。
「お、おい!? どこ行くんだよブータ!!」
「ブウーーーッ!!」
サラの肩から飛び降りたブータは無我夢中でシモンに向かって走り出した。
この世でたった一人の相棒を救うため、その小さな体から溢れんばかりの光を放ちながら走る。
ブータの体から溢れる緑色の光。それこそが希望の光だった。
「これが真実。 これが・・・滅びへの道なんだ・・・」
しかし今のシモンは相棒など見ていない、己の滅ぼすべき対象としてラカンを見ていた。
「ケッ、何言ってやがるか知らねえが、あのバカ達と共に命賭けて守った世界が、簡単に滅んでたまるかよ!」
対するラカンも、今のシモンに対して気になることがいくつかあるが、今はシモンを止めることだけを考えた。
「ウラァァ!」
「~~~~ッ!?」
ラカンの拳が深々とシモンの水月に突き刺さった。
これまでより遥かに強力な螺旋フィールドを展開しているにもかかわらず、シモンの内臓のものを全て吹き飛ばしたかと思えるほどの威力である。
だが、シモンは倒れない。
蝕む痛みを精神が凌駕して、死に向かっているようにも見えた。
そしてシモンは再び体中に螺旋力を流す。するとシモンの周りに無数のドリルの形をしたエネルギーの塊が姿を見せる。
そしてシモンは全てのドリルをラカンに向けて射出する。
「穿孔ドリル弾!」
その数は無料大数。猛烈な数の穿孔ドリル弾をラカン一人に目掛けて放つ。
しかし相手はあくまで規格外。
絶望に負けたドリルで風穴を開けられるはずは無い。
「ウルアアアアアッ!!! 大気合防御!!!」
ラカンが開放した気の大バリアにより、全ての穿孔ドリル弾がラカンの気の波動に耐え切れずに潰され爆発した。
「これで終いか? 穴掘り野郎!」
全てのドリルはラカンに届くことなく爆発し、ラカンの肉体には微塵もダメージが無い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉もなくして呆然とするシモン。だが、直ぐに体勢を立て直して、再び螺旋力を搾り出す。
「うおおおおおおおお!!」
「何度やっても同じだぜ? テメエごときの絶望なんざ、この俺にとっちゃ、どってことねえよ」
ラカンもシモンを見て、己の気を高める。
唸る両者。
その体から光がほとばしる。しかし両者の違いは明らかだった。
神々しくどこまでも力強い光を放つラカンに対して、シモンの放つ光は禍々しく心の冷たさを感じた。
そして絶望の光を放つシモンが宙に浮かぶ。その光はやがて螺旋の渦となり、徐々に形を変えいく。
やがて巨大な螺旋の渦はシモン自身を包み込み、ラカンの体の何倍もある巨大なドリルそのものとなった。
しかしラカンも負けてはいない。
(甘えよ・・・力任せのパワー勝負で俺に勝てる奴なんざ居ねえ!)
地響きが起こるほどに高められた気の全てを拳一つに込める。
まるで大気の全てがラカンを中心に渦巻いているように見えた。
その最強の一撃を鋭く尖って自分を貫こうとしているドリル目掛けて開放する。
「カテドラル・・・」
「ラカン・・・」
互いに相手を打ち滅ぼそうとする力が叫びと共に解き放たれる。
「「インパクトォォーーーッ!!!」」
放たれるのは魔法世界全体をも震えさせていると思えるほどの技同士がぶつかりあった。
赤き輝きを放つドリルと地上最強の拳のぶつかり合いは大陸に衝撃を与えていく。
ラカンも歯を少し食いしばる。全力の一撃は久しぶりだった。
「俺の本気を一撃でも出させたんだ、それなりには認めてやるよ・・・でもな! 飲み込まれるヘタレなんか相手じゃねえ!!」
ラカンの全力が拳を伝わり徐々に威力を増していく。その拳はシモンのドリルに亀裂を走らせ、確実に押し返していく。
しかし絶望に飲み込まれたシモンは構わずに絶望を叫ぶ。
「・・・・・・これが・・・・俺の・・・螺旋族の滅びへの・・・み・・・・」
突き進むはずのドリルはやがて回転を止め、僅かな亀裂が全身に走っていく。
しかしこの時両者は気づいていなかった。
シモンの体を螺旋の渦が包みきる前に、一匹の勇敢なブタモグラが渦の中に飛び込んでいたのだった。
「ブミュウウウウウ!!!」
螺旋の渦に身を包むシモンに、螺旋力を身に纏ったブータが体当たりをする。
かつて道に迷ったシモンを殴ったカミナほどとは言わないが、それでもブータは己の全力の体当たりをシモンの胸に目掛けて飛び込んだ。
そしてブータの体当たりは、シモンの首から提げられている指輪にぶつかった。
「!?」
シモンの視界にブータと指輪が入った。
その指輪が、シモンの脳裏に何かを焼き付けた。
それは自分が忘れてしまった、絶対に忘れてはいけなかったはずのものを予感させた。
その瞬間、禍々しき光で包まれるシモンの心の世界に指輪から放たれる優しい光が広がったように感じた。
そしてシモンは、何かを思い出した。
晴れた日に美しき純白のドレスに身を包んだ女。
大切で、とても愛おしく、しかしその身体はまるで花のように散っていく。
そして散りゆく彼女の最後の一言が、シモンが囚われた絶対的絶望から解き放った。
――ばかね、滅びないわ
「!?」
――そのためにみんな頑張ったんじゃない
無限の闇が光となった瞬間だった。
頭の中に響くたった一人の優しく温かい女の声が、全ての絶望を否定した。