魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第122話 お前ら全員燃えてしまえ!

天をも突き破るドリルが生身の人間目掛けて飛び込んでいく。激しい回転音を響かせて、最大の壁を突き破らんと向かっていく。

しかし壁も只黙っているわけではない。

 

 

「こりゃあテキトーにやり過ごすには、・・・・ちっとヤベエか? ふん、上等だぜ!!」

 

 

迫り来るギガドリルは半端な力では迎撃できぬとラカンは瞬時に判断した。

 

するとラカンはアーティファクトで伝説の武器と呼ばれるほどの矛を右手に出した。神聖さを感じさせる武具は、やがてラカンの気を一心に受け、さらに神々しさを増した。

 

 

「サービスだ。俺も少し力を入れるぜ!」

 

 

尋常を遥かに上回るほどに高められたラカンの気の全てはアーティファクトの矛に込められ、向かってくる巨大な螺旋に向けて投げつける。

 

 

「ウオラァ!! 死んで恨むなよな!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

交錯する気合のぶつかり合い。

シモンの足掻きは遂にラカンに僅かな本気の一撃を出させた。

その一撃はシモンの想定を遥かに超えて、ラカンの矛の前にギガドリルが押し返され始めた。

 

 

「ぐっ・・・・・この野郎・・・・」

 

「だっはははは、地上に戻りな!!」

 

 

神の如き一撃は、シモンのギガドリルにすら皹を入れていく。そのドリルは決して前へ進むことなく押し返され、天に向かうはずが逆に地上へ押し返される。

 

だが、その神の如き力に、シモンも足を踏み入れる。

 

 

「一本でダメなら・・・・これでどうだァァァーーーーーーーッ!!」

 

 

シモンの雄叫びに呼応するように無数のドリルがシモンから突き出していく。

 

 

 

「ギガドリル・マキシマム!!!」

 

 

全てのドリルが巨大化して高速回転しながら伸びていく。

 

 

「んだとおッ!?」

「ぐううううううううう、うりゃああああああああああッ!!!」

 

 

 

無数のギガドリルを前に流石のラカンの投擲も砕け散り、武具に込められたラカンの莫大な気が大爆発を起こし、あたり一面を大規模な爆炎で包み込んだ。

 

 

「おいおいおい・・・・マジかよ・・・・俺が五割の力を出したってのによ」

 

 

種も無い。

仕掛けも無い。

真正面から小細工無しでラカンの一撃をシモンはかき消した。

遂にシモンはラカンから余裕すら奪い取った。

爆炎の煙の中でラカンの引きつった笑みと額に流れる汗が証明していた。

爆発の勢いに飛ばされたサラも埃だらけの体をヨロヨロと起き上がらせながら、炎に包まれる爆発の中心点を見つめる。

 

 

「なんだよ・・・・・・これ・・・・・人間の戦いかよ・・・・・」

 

「ぶう・・・・」

 

 

ブータもサラの傍で、心配そうに眺めていた。

 

爆炎はまだ消えることは無い。

 

それほどまでに互いの力が強力だったことを意味していた。

 

そしてこれだけの力を使えば当然シモンも只では済まなかった。

 

止まない炎の中で無数のギガドリルで身を包み込んだシモン。しかし只でさえ連続で螺旋力を消耗していたうえに、ギガドリル・マキシマムなどという極限技まで使ってしまったのだ。

 

止まらず足掻いて足掻き続けたシモンの動きが遂に止まった。

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・・くっ・・・・体が・・・・ごほっ、ごほっ・・・・」

 

 

鉄の味が口の中に溢れ出す。

 

そして激しい咳と共にシモンから吐き出されたのは赤い塊だった。

 

自分自身の血だった。

 

同時に体全体に悲鳴が上がっていく。

 

無我夢中で使い続けた螺旋力のツケが内臓とシモンの体の節々を痛めつけ、とうとうシモンの体に限界を告げた。

 

痛みを感じる。

 

それはシモンが紛れもない人間である証明だった。

 

 

「くそっ、・・・うっ・・ごはァッ!? ・・・ぐっ・・・はあ、はあ、はあ・・・」

 

 

激しく燃え上がる炎の中で遂にシモンの意識が遠のき始めた。

 

シモンから突き出したギガドリル・マキシマムも回転が止まってしまった。

 

このままでは意識を手放し倒れてしまう。

 

だが、極限まで放出してしまったシモンの螺旋力と、未だ燃え続ける爆炎がキッカケとなり、シモンの頭の中に新たな記憶が流れ込んできた。

 

それは胸の中で輝くコアドリルからだった。

 

流れ込む記憶は遥か昔の物語。

 

かつて見た景色、ささやかな平穏、ささやかな希望。それを踏みにじられた時に男は立ち上がった。

 

天に輝く全ての敵を、その手にある希望、進化のよすが、巨大な力を掲げて戦士は戦っていた。

 

そして男は絶望を知った。

 

無限に広がる宇宙空間を埋め尽くすほどの多くの戦いと犠牲の爆発の光が銀河を照らす中、ようやく螺旋の戦士は絶対的絶望の使者と出会った。

 

絶望の元凶へと男は叫ぶ。

 

すると絶対的絶望の使者は口を開く。

 

 

―――ならば知るがよい・・・・この宇宙の・・・・行く末を・・・・

 

 

それは投げ出された意識の海に漂うシモンを目覚めさせるに十分だった。

 

 

「これは!? クソッ・・・・またこれか・・・・・こんな時に・・・・・」

 

 

血の味がする唇をかみ締めるも、望まぬ記憶が流れ込んできた。

 

流れる記憶には種類が二つあった。

 

それは自分を奮い立たせる記憶と、自分の心を黒く覆う拒絶したくなるような記憶。

 

そして今回の記憶の正体も直ぐに分かった。自分の心を黒く覆う自分のものではない記憶だった。

 

 

―――ふん、戯けた事を。どのような絶望があろうと、無限に天を目指すワシのドリルで砕いてやろう!

 

 

絶望の声に戦士は鼻で笑った。ここまで突き進んできた己の力を信じる確固たる意志が言わせた言葉だった。

 

 

―――愚かだな・・・・その力が破滅への道だと気づかぬとは・・・・・

 

―――・・・・なんだと?

 

――その行いが人類を・・・宇宙を破滅へと導くことも気づかぬとは・・・・

 

―――ふざけるなァ! 破滅をワシらに齎したのは貴様であろう! ワシらこそキサマという破滅の元凶を打ち滅ぼす銀河の戦士也!

 

 

男の言葉に、彼の足元に居るアルマジロの形をした小動物、そして周りを囲む戦士の部下たちも頷いた。

 

 

だが、その戦士の言葉すら、まるで予想していたかのように絶望という黒き闇の色で覆われた人影は、ため息をつく。

 

 

――突き進むことを美と想い、己の本能すら制御できない愚かなる種、それがお前たちだ。私は何度も見てきた。進んだ先に待っていた絶対的絶望に飲み込まれた螺旋族の歴史を全てな・・・・。お前たちなど終わり無く続く我々と螺旋族の戦いの歴史のほんの一部に過ぎん。・・・・これで何度目か・・・・

 

 

突如視界に広がる闇。

 

それは何も無い無の世界。

 

そこに一つの緑色の輝きが光った。

 

そしてその光を中心に星が現れ銀河が広がっていく。

 

止まることなく広がり進む力、それこそが進化である。

 

銀河の中心で光り続ける緑色に輝く光に男は気づいた。

 

 

―――これはまさか・・・・螺旋力か!?

 

 

男の呟きと共に緑色の光は止まることなく銀河の至る所で輝きだす。

 

そして止まる気配など無く過剰に煌く螺旋力の光は、やがて銀河の均衡を乱した。

 

 

―――こ、これは・・・まさか・・・

 

 

銀河の中心で光る螺旋力の光は、やがて無数の螺旋を吐き出して周囲の星々を砕いていった。

 

確固たる意志を秘めたはずの男の目が揺らいだ。

 

その光景に男の仲間たちは状況を把握できずに動揺するばかりである。

 

しかし男は全てを理解してしまった。

 

 

―――その通りだ。暴走した螺旋力を制御できなくなった生命は、生命の数だけ銀河を創る。過剰銀河は互いに食いつくし、全ての宇宙は無に変える。

 

 

雲をも掴む壮大な話にほとんどの者たちが呆然としてしまった。

 

しかし男は悟った。

 

シモンも理解した。

 

直感的に絶望の使者が口にする言葉の全てが真実であることを。

 

 

―――ううう・・・ぬぐうううううう、ぐわああああああ!?

 

―――そ、総司令!?

 

―――どうされました、総司令!? いや、ロージェノム様!

 

 

男は頭を抱えて苦悶の表情を浮かべ苦しみあえぐ。

 

事態を把握できない戦士の部下たち。

 

そんな男に絶望は決定的な一言を告げる。

 

 

 

―――そう、これがスパイラルネメシスだ。

 

 

 

その一言で男は肩で息をしながら呟いた。

 

 

―――これが・・・・・・・・・真実か・・・・・

 

―――その通りだ

 

 

そして黒き闇の絶望は、螺旋の戦士に最後の言葉を告げる。

 

 

 

――それこそが破滅への道。螺旋族の罪・・・・これが真実だ・・・。

 

 

 

その言葉を最後に黒い闇を覆った人影は姿を消した。

 

しかし代わりに男は絶望を知った。

 

絶望を知った男の想いがシモンの中に流れ込んでいく。

 

 

 

「うわああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

流れ込む絶望の想いにシモンが苦痛の声を上げる。

 

 

「ん、どうした? 一体何があったってんだ?」

 

 

「シモン!? どうしちまったんだよシモン!?」

 

 

「ぶいッ!?」

 

 

ようやく爆炎が晴れ、中から無数のギガドリルが顔を出した。シモンのギガドリル・マキシマムである。しかし巨大なドリルに覆われたシモンを見ることが出来ず、シモンの苦しむ声だけ聞こえ、ラカンもサラもブータも目を見開いた。

 

そしてやがてハリネズミのように飛び出したギガドリルは消え、シモンがゆっくりと地上に降り立った。

 

 

「シ、シモン・・・・・・・」

 

 

サラは降り立ったシモンに近づけないでいた。

 

出会ってまだ数時間しか経っていないものの、シモンの醸し出す静けさに違和感を感じてしまった。

 

それはブータも同じである。

 

無言でただ息を整えるシモンにシモンではない不気味な何かを感じ取った。

 

 

(何だ? どうしやがったんだ?)

 

 

ラカンも思わず手を止めて、今のシモンを眺めていた。

 

先ほどまでと打って変わって静寂な空気を纏ったシモンがやけに小さく見えた。

 

何があったか分からず、ラカンが取り合えず口を開いた。

 

 

「どうしたんだ? お前のドリルって奴も種切れか?」

 

 

冗談交じりで尋ねるラカン。

 

しかしシモンは返さない。

 

それどころか顔を俯かせ何かをブツブツと呟いていた。

 

 

「これが・・・・・真実・・・・これが・・・・絶望・・・」

 

 

「は?」

 

 

「シモン・・・・・何言ってんだよ・・・・・」

 

 

いつものシモンではない。

シモンをそれほど知らないラカンもサラも、シモンの変化に気づいた、

 

 

「これが・・・・破滅への道・・・・」

 

 

呟くシモンの頭の中には、絶望を知った男が暴走し、反抗する螺旋の戦士たちの全てを滅ぼす姿だった。

 

 

―――そ、総司・・・・

 

 

―――な、何を!?

 

 

―――総司令が御乱心された!?

 

 

現実を飲み込めない男の部下たち。そして男は彼らが理解する間もなく、次々と打ち滅ぼしていく。

 

共に銀河の果てまで戦った自分の仲間たち。

 

しかし男は構わずに全ての戦士たちをその手に持つ強大な力で滅ぼしていく。

 

宇宙に広がる惨劇の中心で男は叫ぶ。

 

その言葉と己の言葉を重ねてシモンも叫ぶ。

 

 

―――お前ら

 

「お前ら・・・・」

 

―――全員

 

「全員・・・」

 

―――燃えてしまえッ!!!

 

「燃えてしまえッ!!!」

 

 

その瞬間傷だらけでボロボロのシモンの首に掲げられたコアドリルから光が急激に漏れ出した。

 

その光はシモンの緑色の螺旋力の光ではない。

 

それは絶望と暴走の螺旋力の色。

 

漆黒の闇を血で埋め尽くすほどの赤い光だった。

 

 

「お前ら全員燃えてしまえッ!!!」

 

 

赤い螺旋力の光に覆われたシモンの頭部に燃え上がる炎が渦巻いている。

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

それは記憶を無くした男が、希望も知らず、仲間も知らず、愛も知らずに絶望だけを知って暴走してしまった螺旋族の悲しき姿だった。

 

「シモン・・・どうしちまったんだよ・・・・どうしたって言うんだよ!?」

「ぶ・・・・・ぶい・・・・・・・」

 

その波動は傷ついた箇所を治すどころか余計に広がり、シモンの体を蝕んでいく。しかしシモンは気づいていないのか、暴走した彼は痛覚すら失ってしまったのか、本来既に動かないであろう体を構わず動かしていく。

 

人体の危険信号である痛みすら無視するシモンの体からは螺旋力と同じ色の血が流れていた。

 

全身を包み込む禍々しい光。その中で、シモンの首から提げたコアドリルの隣で、指輪だけが違う光を放っていた。

 


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