魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第120話 俺がそう決めたんだ。だったらやるしかねえじゃねえか!

ただ真っ直ぐ立つこと。

両の足で自分を支えることがこれほど大変なことだとは知らなかった。

気を抜けば地に腰を付いてしまうかもしれない。目の前の男が醸し出す威圧感に飲み込まれないように必死に抗っていた。

すると男はやせ我慢しているシモンに向かってニヤリと笑いながら告げる。

 

 

「そうビビんなよ兄ちゃん。用があんのはその嬢ちゃんと、親父の冒険王とかいう奴とその女房だけだ。お前のことは知らねえから逃げて構わねえぜ」

 

 

それは冗談などではない。

ラカンはやっとの思いで自分の足で立っているシモンよりも、尻餅をついているサラしか見ていない。

それが何を意味するのかは簡単に分かった。

 

 

「冒険王瀬田の娘、悪戯(イタズラ)サラだったか? ちぃ~っと聞きてえことがあるんだけどよ~」

 

 

ラカンは既にシモンを見ていない。

それはどういう事なのか?

簡単である。

ラカンは最初からシモンに興味が無いのである。

 

 

「な、何だよ・・・お前賞金稼ぎかよ!? 私を捕まえに来たのか!?」

 

「あ~~、賞金稼ぎっつうか、首都からの依頼でよ~ 。お前ら相当騎士団相手にやらかしたそうじゃねえか」

 

「そ、それは・・・・」

 

「しかも、もう直ぐ大戦の終戦記念祭が行われるから、首都側も大っぴらに軍を動かしたくねえそうだ。しかしそれまでには解決したい。だからそこで俺様の出番ってわけよ!」

 

 

ラカンは己を親指で指差しながら不敵に告げる。

首都の騎士団たちでも手を妬いたサラの家族たちでも、自分なら容易いことだと言い切っているような態度である。

いや、既に言い切っているとも言える。

戦ってもいない相手にここまで自信に満ちた姿を見せるのは、それほどの確信があるからなのだろう。

するとサラが、歯を食いしばりながら立ち上がった。

 

 

「舐めんなよな!! メカタマミサイル一斉射撃!!」

 

 

シモンとの戦いで武装は出来ないものの、砲撃だけは出来た。メカタマの甲羅によじ登ったサラはメカタマにセットされたミサイルの束を一斉にラカンに向けて放つ。

 

 

「おっ、イキナリだな! だが大歓迎だぜ!」

 

 

すると大量に降り注ぐミサイルの雨を、本当に只の雨が降ってきた程度の反応しかラカンは見せない。

そしてラカンはミサイルという雨を完全に防ぐ反則の傘を使用する。

 

 

「気合防御!!」

 

「!?」

 

 

それがラカンの傘。

何もせず、一歩も動かず、ただ降り注ぐミサイルを一心に浴びた。

全段命中して巨大な爆音につつまれ、サラは意外な展開に唖然とする。

 

 

「えっ? あれ? ・・・・倒しちゃったのか?」

 

 

勿論そんな事はありえない。

数秒後にその言葉は180度返られてしまう。

 

「っか~~、容赦ない嬢ちゃんだぜ。まっ、度胸は認めてやるがよ」

「なっ!?」

 

爆煙の中から、まったく異常の無い声が聞こえてきた。

 

「だが、その程度の熱さじゃ俺様には火傷もできねえぜ?」

 

全てが何事も無かったかのようにラカンはやり過ごした。

 

「なっ・・・・なんだそりゃ、・・・・これくらって・・・。こいつ・・・・・」

 

もはや夢でも現実でも大差は無い。

これを現実と呼べるのなら、悪夢とはどれほどのものなのだとサラは思いたくなった。

メカタマはまだ動く。シモンに放ったレーザーや、他の隠し武器も使えるだろう。しかしまったく使う気になれなかった。

サラは賢い子だ。だからこそ今ので十分に分かってしまった。

自分の持っている全てを駆使しても傷一つ付けられぬほどの圧倒的な戦力差に、サラは茫然自失としながら理解した。

 

 

「本物の化け物は・・・・初めて見た・・・・」

 

 

ようやく動かせた口で言えた言葉はそれだけである。

抵抗する気も失せたサラはガクッと肩の力を抜き、メカタマの甲羅の上に座り込んだ。

 

 

「おいおい、諦めんのはえ~な、・・・と言いてえが懸命だな」

 

 

ラカンはそのままゆっくりと近づいてくる。

 

 

「まあ、俺も嬢ちゃん相手に手荒な真似はしたくねえから観念してくれりゃあ言うことはねえ。大人しく捕まって、親父の居所を教えてくれよ」

 

 

そう言ってラカンはメカタマの上で身動きせず座り込むサラに腕を伸ばす。

しかし・・・・

 

 

「・・・・ん?」

 

「なっ、ちょっ、お前!?」

 

 

ラカンの腕が掴み取られた。

ラカンが掴み取った人物を見ると、興味を無くしていたシモンが汗を噴出しながら、ラカンの腕を力強く掴んでいた。

 

 

「・・・・どうした、兄ちゃん?」

 

 

ラカンがニヤリと笑ってシモンを見る。

するとシモンは徐々に握る力を強めながらニヤリと笑みを返す。しかしそれは只の苦笑でしかなかった。

 

 

「本当だ。・・・・どうしちゃったんだろうな・・・俺・・・」

 

 

しかしシモンは強大な敵を前にしても、怯えながらも決して背を向けず、視線も逸らさない。

 

 

「こえーのかい?」

 

「怖い? ああ、怖いよ。怖くてたまらない。震えが止まらないよ・・・・・」

 

 

相手の力が分からないほどシモンも愚か者ではない。サラ同様にシモンも分かっている。ラカンのまったく底の知れない強さぐらい体中が理解していた。

 

 

「ほう。だったらこの手は何だ? 言ってることとやってる事が正反対じゃねえか。俺は逃げても良いって言ったんだぜ」

 

「俺がダメだって決めたんだ!!」

 

 

それでも抗うことを決めた。

逃げずに立ち向かうことをシモンは最初から決めていた。

 

 

「俺がそう決めたんだ。だったらやるしかねえじゃねえか!!」

 

 

シモンは右腕にドリルを持った。

勇敢な言葉とは裏腹にカタカタと震えている。

しかしその刃先は真っ直ぐにラカンに向いていた。

 

 

「ひゅ~う、カッコいいじゃねえか。しかし、お前さんが庇ってる奴は一応犯罪者だぜ? それでもこの無敵の俺様に挑む気か? 俺はツエーぞ?」

 

 

ラカンは機嫌よく口笛を吹き、シモンに向かって面白そうに告げる。

それは興味の無かった男に、僅かな興味を抱いた瞬間だった。するとシモンは真剣な眼差しで答えを返す。

その答えはラカンの期待通りの答えだった。

 

 

「当然だ!! 俺はサラを見逃すって約束したんだ。誓った言葉を曲げることは、もっと嫌だ!!」

 

 

その瞬間シモンはラカンの腕から手を離し、今の自分に出来る最大限の足掻きを始める。

シモンの雄叫びと共に高速回転をしだしたドリルは、真っ直ぐラカンへと突っ込んでいく。

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 

対するラカンは避ける気はなさそうである。足がまったく動いていない。

だが、何の心配も無いことなど最初から分かりきっていた。

 

 

「なるほどな、筋も通っていて悪くねえ。嫌いじゃねえぜ、そういうの! テメエみたいな馬鹿も大歓迎だ!!」

 

 

真っ直ぐ向かってくるシモンのドリルに対してラカンはシモンの何倍も太く強靭に見える左腕だけを動かした。

その片腕で何をするのか?

ガードするのか?

なぎ払うのか?

カウンターか?

左腕一本だけでも手段はいくらでもありえた。

その中でラカンが選んだ手段はこれだった。

 

 

「必殺・豪快ドリル鷲掴み!! (今・命名)」

 

「なっ、・・・んだと!?」

 

「げええええ!?」

 

「ぶっ、ぶふううう!?」

 

 

シモン同様に、サラとブータも顎が外れそうなぐらい驚いてしまった。

記憶を忘れても魂は健在。

幾多の困難も、銀河の運命に風穴を開けてきたシモンのドリルを、なんとラカンは左手一本で掴み取ってしまった。

それだけではない、ラカンの強靭な握力に抑えられ、ドリルの高速回転そのものが止まってしまった。

 

「なっ、・・・・・」

 

サラがミサイルを放った後と同じぐらいのショックを受けるシモン。

 

 

「へっ、お前の言葉は真っ直ぐだが、今のレベルじゃあ誓いを曲げちまう前に、お前さんの体が曲がっちまうぜ!」

 

 

そしてラカン余裕の笑みで余った右腕を握り締め、大きく振りかぶった。

 

 

「羅漢適当に右パンチ!!!」

 

「!?」

 

 

迫り来るは拳という名前は絶対に嘘だと言いたくなるほどの弾丸ミサイル顔負けの拳。

シモンも咄嗟に螺旋フィールドを展開するが、焼け石に水でしかない。

死ぬほどぶっ飛ばされるという結果を覆すことなど出来なかった。

 

 

「シ、シモォーーーーーーン!?」

 

「ぶ、ブミュウぅぅぅ!?」

 

 

人間があれほど簡単に殴り飛ばされるものなのかと思うほど強力な一撃だった。

だが、対するラカンは少し首を傾げた。

僅かな変化だがラカンには気づいていた。

死ぬほどぶっとばされる距離が思ったより短いこと。そして殴ったときに感じた違和感に気づいていた。

 

 

(障壁か? いや、・・・詠唱を唱えた感じどころか、魔力を感じなかったが・・・・)

 

 

竜種のブレスを防いだ螺旋フィールドもラカンの前ではただのガラスのように粉々に砕け散ってしまった。

 

元々相手がどのような能力だろうとラカンの力の前では無にも等しい。だからラカンも対戦相手がどんな能力を持っていても、最初から気にしない方だった。

 

しかし今回は少しだけ気になった。

 

何故かは分からない。

 

ただの勘だった。

 

そしてその勘は間違っていない。

 

 

「シモン!?」

 

「ブゥゥ!?」

 

「ほう、・・・・立ったのか?」

 

 

殴り飛ばされた果てで、シモンは立ち上がった。

それを見てヘラヘラ笑っていたラカンの顔が少しだけ変わった。

殴り飛ばされたシモンは、姿はボロボロだが、しっかりとした足取りでこちらに向かってくる。

 

 

「震えが・・・・止まった・・・・」

 

 

そしてその手に持つドリルは、先ほどまでと違ってまったくブレていない。

 

 

「殴られて、・・・歯を食いしばったお陰で、・・・・頭の中に聞こえてきた。・・・・前へ進めってな! 誰だったか思い出せなかったけどな」

 

「・・・何言ってるんだ? ボケたのか?」

 

「バカは認めるけどボケては居ない。そうやって俺は・・・・・道を歩いてきたと思う」

 

 

震えが止まっただけではない。

歩み寄ってくるシモン、その瞳は先ほどとは違う。

怯えながらも勇気を振り絞り向かってきた目とは違う。

その目をブータは以前見たことがある。

ラカンもこの目を知っている。

 

(こいつ・・・この・・・自信に溢れた目は・・・)

 

シモンは笑っていた。ラカンと同じように自信に満ち溢れた不敵の笑み。

ブータは見たことがある。

昔から自分より遥かに大きく数多くの立ちふさがる困難を、いつだって打ち破ってきた目だ。

己と魂をどこまでも信じたシモンの心は、全ての恐れを吹き飛ばした。

 

 

「テメエが何者だろうと知ったこっちゃねえ。俺のドリルは、俺が信じる俺のドリルは、テメエなんかに絶対に負けねんだよ!!」

 

 

強がりにもハッタリにも聞こえるシモンのタンカだが、ラカンには嘘には聞こえなかった。

 

 

(テメエを信じきったこの目は・・・・ナギの野郎と同じじゃねえかよ!!)

 

 

その瞬間ラカンも不気味に笑った。

全身から目で見えるほどの気の塊が体中から溢れ出している。

 

 

「だっははははははははは!! 知ったこっちゃねえと来たか、そりゃあ流石に黙っちゃいられねえなッ!!」

 

 

豪快に笑いながらラカンは一枚のカードを取り出した。

 

 

「来れ(アデアット)! アーティファクト・千の顔を持つ英雄(ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン)!!!」

 

 

輝くカード、唱える言葉、その二つと引き換えに、ラカンの周囲に無数の大剣が出現した。

その一つ一つが見るからに伝説の武具に見えるほど強力なオーラを放っている。

 

 

「知らねえなら、子孫に至るまでビビッちまうぐらい、テメエの頭と遺伝子にとことん叩き込んでやるぜ! 安心しろ、一瞬だぜ!!」

 

 

出現した巨大な剣をラカンは一斉に投げつけてくる。一本だけでも十分に必殺技並みの破壊力を秘めた投擲である。

 

 

「どうかな? 一度ビビッた相手に二度も三度もビビルほど、俺のここは弱くねえぜ!!」

 

 

ドンと胸を叩きシモンは攻撃を交わさず、その場で叫ぶ。

そして全身に流れるエネルギーと己の魂、そして自然と動く体の流れに従った。

 


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