魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第119話 穴を掘る人に悪い奴はいない

「サラ・マクドゥガル。それが私の名前だよ、んで、お前は?」

 

「シモン。そしてこいつはブータだ」

 

「ぶい~~」

 

 

荒野の星空の下、壊れたメカタマの隣で取り合えず互いの自己紹介を済ませる。そして終わったとたんサラと名乗った少女はジト目でシモンを睨みつける。

 

 

「んで、どうしてくれんだよ。ボケ男」

 

「なっ、悪いのはソッチじゃないか!」

 

「でもここまですることねえじゃんかよーー! お陰でパパとの合流が出来なくなっちまったじゃねえか~~」

 

「パ、・・・パパ?」

 

「そっ、私は夏休みにパパの手伝いとして無理やりくっついてきて、この世界には来たばかりなんだよ。そんでちょっと調べてた遺跡の情報を手に入れるためにアリアドネーに行ったんだよ。他の冒険者の話によると、あそこが一番資料があるって聞いたからさ~」

 

「そうだったのか・・・。でも密入国って言ってたじゃないか。それに賞金首って・・・」

 

「ああ~~~、それ話すのメンドクセーんだよな~。まっお前には迷惑掛けねえし気にすんなよな」

 

「帰り道が分からねえんだ。十分迷惑掛かってるじゃないか」

 

「ああ~? それ私の所為じゃねえだろうが! 大体お前だってメカタマ壊したじゃねえかよ!」

 

「俺の所為なのかよ!?」

 

「ぶい~~」

 

 

少女の言動もある意味でメチャクチャかもしれない。賞金首で盗みを働き、攻撃までしてきたのに、彼女の口ぶりはまるでシモンが悪いといっているように聞こえた。

 

 

(この子・・・凄く開き直りすぎだよ・・・)

 

 

しかしシモンもここまで休むまもなく文句を言われれば、反論する気も萎えて言い返せなくなってきていた。ブータも少女の傲慢ぶりに汗を流していた。

 

 

「あ~あ、翼が派手にやられてるよ。こりゃあ修理に時間が掛かるな~」

 

 

少女はブツクサ文句を言いながら動かぬメカタマを弄り始めた、すると少女がメカタマをいじっていると、僅かにメカが稼動し始めた。

 

 

「おっ、飛ぶのは無理そうだけど、陸を移動するぐらいの動力は残ってるや。しょうがねえ、直しながら進むか」

 

 

メカタマの右腕、即ちメカタマの空を仰ぐための飛行の翼とも呼ぶべき箇所が破損しているのである。流石に飛ぶことは不可能だった。

だが、シモンがメカタマの中心を避けたために、動力部分まで壊滅するという最悪の事態にならなかったため、サラはため息をつきながら、メカタマの機内ではなく、背中の甲羅の部分に座り、陸を移動することにした。

 

「ったく、本来修理代を請求したいけど、痛み分けってことにしておいてやるよ。じゃあな」

「あっ・・・・ああ」

 

そう言い残しカメに跨ったサラはその場を後にしようと・・・・

 

「って、待て待て!? 何ドサクサに紛れて逃げようとしてるんだよ!」

「ああー! 男が小さいこと気にすんなよな! いいじゃねえかよ、後でこの本はちゃんと返すからさ!」

「だからってお前犯罪者なんだろ?」

「うるせえやい、犯罪者なんて言い方止めろよな~!」

「じゃあ・・・・サラ!」

「気安く呼ぶなーーーー!!」

「どうしろっていうんだよ!?」

 

まったく会話が進まない両者。

さすがのシモンもこれには手こずった。プライドの高いエミリとも少し違う傲慢さは、ある意味戦闘以上の強敵に感じた。

両者は互いに言い合いが終わらず、ようやくシモンが大人として少し冷静に場を落ち着けようとする。

 

「分かった・・・取り合えず話を整理しよう」

「なんだよエラソーに・・・・」

「いいから少し聞いてくれ」

 

少女の文句を手で静止、シモンは丁寧に言いたいことを述べることにした。

 

「お前が何をやって賞金首になったかは知らない。仕方ないからそれに関してはこの際置いておくよ」

「ん? ああ・・・。それで?」

「でも、俺はアリアドネーの人間じゃないけど、凄く世話になっているんだ。だから世話になっているところから盗まれたものを見逃すわけにはいかないんだ」

「・・・うっ・・・」

 

うるさく言い合えばサラは止まらなかったが、冷静に自分の思っていることを口にするシモンやり方は、ある意味効果的だった。

 

「だったら分かるんじゃないか? 俺が何か間違ったことを言っているか?」

「いや、・・・まあ・・・・お前の言いたいことは分かったよ・・・」

 

すると傲慢なサラの中にある良心に響いたらしく、サラは気まずそうな顔をして盗んだ歴史書を胸に抱きかかえる。

しかし俯いたままその本をシモンに返そうとはしなかった。

 

「う、うるさいバーカ! ・・・分かってるよ、・・・認めたくないけど私のほうが悪いってのはさ・・・・お前の言いたいことは分かってんだよ・・・」

「そうか?」

 

冷静に話した甲斐あってか、どうやらシモンの言いたいことはようやく伝わったようだ。少しホッとするシモンだが、サラはそれでも言いにくそうな顔で盗んだ本を抱きしめた。

 

「でも・・・・私たちは・・・パパには・・・・これが必要なんだよ・・・」

 

そう言ってサラはギュッと分厚い本を抱きかかえる腕に力を入れる。

 

「パパ? そう言えばさっきも言ってたな。お前のお父さんは何者なんだ?」

 

少女が引かない理由として家族が引き合いに出された。これほど傲慢な少女の父親とは一体何者かと気になったシモンが尋ねてみた。

 

「私のパパは考古学者でいつも世界中を回っている人なんだ。・・・いつもいつも遺跡を調べたり穴ばっか掘ったりしてる変わった奴で・・・」

「・・・・・穴・・・掘り?」

 

少しシモンが気になった単語がサラの言葉の中にあった。しかしサラはまったく気にせず、己の父について語りだす。

 

「パパは・・・一度気になったものはとことん調べなきゃならない人なんだ。メチャクチャで・・・たまに私をほったらかしにしたりするけど、私は好きなことやってる時のパパが大好きなんだよ・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「だから、今回一緒に連れてきてもらえて本当にうれしかったんだ。だから・・・少しでも役に立ちたいんだよ・・・」

 

サラの目が急に幼く感じてきた。それは傲慢さで身を隠していた先ほどとは打って変わって、実に弱弱しく感じる。

しかし言っている言葉に嘘を感じなかった。

父を尊敬し、少しでも役に立ちたいという気持ちは、サラの言葉と瞳からシモンも感じ取ることが出来た。

するとサラは懇願するような瞳でシモンを見つめてきた。それは先ほどとは180度変わった低姿勢な態度である。

 

「なあ、絶対に悪いことには使わないし、必ず返す。だから・・・見逃してくれねえか?」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

演技には見えなかった。

どうやら本気で頭を下げてシモンに頼んでいるのだろう。出会った頃には気づかなかった少女の素直さがにじみ出ているように見えた。

しかしシモンも簡単に頷くわけにもいかない。

 

「・・・・・お前の魂に賭けて、誓えるのか?」

「えっ?」

 

その問いかけの意味はサラには良く分からなかった。

 

「誓えるのか?」

「・・・・ああ、誓うよ」

 

魂などといわれても曖昧すぎてよく分からないものだった。

しかし少なくともシモンが真剣な表情である以上、こちらも頷くしかなかった。

シモンの言う魂というものが何なのかはサラには分からないが、今の自分の言葉が偽りでないと伝えるためには、サラも自分の言葉に嘘はないと誓った。

するとシモンは少しため息をついたと思ったら、少し苦笑した笑みで顔を上げる。

 

「分かったよ・・・・・」

「・・・・・・・・・・へっ?」

 

思わず声を上げてしまった。

 

「分かったって言ったんだよ。俺はお前を見逃す。お前が返してくれるまで誰にも言わない。お前を信じて俺は待つ!」

「い、・・・・いいのかよ?」

 

頼んだのはサラの方なのだが、これはこれでサラには疑問だった。こうも簡単に信じるシモンに訳が分からず尋ね返してしまった。

 

「ああ、いいんだ。エミリィたちに怒られるだろうけどお前のことは内緒にしておくよ」

「で、でもよお。私はその・・・お前の言うとおりお尋ね者じゃんかよ。そんな簡単に信じて良いのかよ?」

「お前がお父さんのためにがんばりたいってのは分かったし・・・それに・・・穴掘り・・・」

「へっ?」

「いや、これはどうしてか分からないんだけど・・・お前のお父さん・・・穴を掘る人に悪い奴はいない・・・そう思ってな!」

 

よく分からない理由であることは分かった。

サラもシモンの理屈は理解不能だった。

しかし分かったのは、シモンが本当に自分の事を信じ、この場を見逃してくれるということだけだった。

しかしそれで十分だった。

それだけが何よりもうれしく、サラは年相応の満面の笑みをシモンに見せてくれた。

 

「ありがとなドリル男! いや・・・シモン・・・・だっけ?」

「ああ、・・・シモンだ!」

「二ヒヒ、お前結構いい男だったんだな~♪ ありがとなシモン!」

 

サラは本を抱きしめたり抱え上げたり飛び跳ねたりと、うれしさを体中で表現していた。

その様子があまりにも子供っぽく見えて、シモンも思わず笑ってしまった。

 

「約束は守れよな?」

「ああ! 絶対守ってやるよ!」

 

お互いニッと笑いあった。

サラは本当にうれしそうに本を抱きかかえながら、かわいらしい笑みを見せてくれた。口は悪いが笑えばとても眩しく美しかった。これがサラの心の底からの笑顔なのかも知れない。

 

(お父さんの役に立ちたいか・・・・嘘を言っている目じゃないな)

 

サラの言葉と笑顔を見てシモンも、サラが賞金首であっても約束は守るだろうと心の中で思い頷いた。

 

「さて・・・帰り道はよく分からないけど・・・仕方ないか、気合で帰るか」

「えっ・・・ああ、その・・・・ワリーな・・・」

「意外と素直だな?」

「・・・・・・うっ、うるせえ・・・・」

 

そう言って互いが笑いあい、争いは終わった。

シモンが見逃し、サラが約束を守る。それでこの場は丸く収まった・・・と思っていた。

 

 

 

 

しかしその時だった!

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

全身に悪寒が走った。

 

「なっ・・・こ・・・これは!?・・・」

「えっ・・・なな・・・・・なんだよ・・・・」

 

いや、悪寒などとそんな言葉では優しすぎるほどの圧迫感。

プレッシャー、そんな言葉では表せないほどの突き刺さる強烈な覇気。

シモンもサラも声が出せなかった。

一歩も動くことが出来なかった。

分かるのが自分の心音がかつて無いほど早く大きく鳴り響き、両手足の振るえと止まることのない汗が地面に流れ落ちることだった。

 

「一体・・・これは何なんだ!?」

「わわ、・・・・分かんねえよ・・・・こんな・・・こんな・・・私・・・」

 

二人の止まらぬ震えが状況を物語っていた。

大気の震えまであたり一面を覆いつくすほどだった。

 

「誰だ!? 誰か居るのか!?」

 

震えながらもシモンは何とか口を動かして辺りを見渡しながら叫んだ。この自分たちを見つめ、強力なプレッシャーを飛ばすのは何者なのかと言い放つ。

すると次の瞬間・・・

 

「シモン、後ろだ!?」

「ぶいっ!?」

 

サラとブータが叫んだ。

シモンが慌てて振り返ると、斜め上の方向から一本の剣が落ちてきた。

 

「!?」

 

シモンは気づいたが避ける事は出来ない。だが避ける必要はなかった。なぜなら剣はシモンに当たることなく、シモンの目の前に突き刺さったからである。

 

「こ、・・・こいつは・・・」

 

目の前に突き刺さっているのは巨大な一本の剣。その大きさは大人一人分より大きな大剣である。

 

「な、なんだよ・・・これ・・・」

 

サラは腰を抜かして思わずペタンと地面に腰をついてしまった。それほどまでにサラも臆していた。

それはシモンも同じ気持ちである。

未だかつて味わったことも無いような強大な威圧感。

だが恐れを振り払い、シモンは剣が飛んできた方向へと顔を向ける。

 

 

「だ、・・・・誰だッ!?」

 

 

シモンの振り向いた先にあるのは巨大な岩山。

その頂には一人の男が立っていた。見るからにも屈強な肉体を持った大男だった。

見た目は人間。

しかしアリアドネーの森で出会った魔獣よりも遥かに化け物に感じてしまった。

 

 

「だっはは、脅かして悪かったな。逃げられるのは面倒なんでな、ちっとばかし驚いてもらったぜ」

 

 

岩山のうえで仁王立ちする男は、シモンとサラを見下ろしながら豪快に告げる。そして服の中から数枚の紙を取り出して眺め、紙とシモンたちの顔を交互に見る。

 

 

「ふむ、男のほうは知らねえが・・・女のほうは手配書の写真に間違いねえな。あと残りの二人はいねえみてえだが、まあ嬢ちゃんの方が知ってんだろ」

 

「「!?」」

 

「テキトーに探してみるもんだぜ。こんなに早く見つけられるったァな。この分ならナギの息子が来る前にメガロメセンブリアの頼まれごとを解決できそうだな」

 

 

男の正体は分からない。しかし目的は今の一言で全てが分かった。

シモンは思わず腰を抜かしたサラの前に立ち、男の前に立ちはだかる。

 

「だ・・・・・誰だ・・・お前は・・・・」

 

サラを庇いながらも、シモンも汗が大量に流れるほど緊張していた。あまりにも非常識すぎる男の威圧感に、いつ意識を手放しても不思議ではないぐらいだった。

するとシモンの問いかけに男は面白そうに顎に手を置いて笑った。

 

 

「おっ! 俺の顔を知らない奴が居るったあ、時代の流れを感じるぜ。まあいいぜ、聞いてビビッて逃げ出すってのは無しにしろよな」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべて男は叫ぶ。

 

 

「伝説の傭兵剣士!! 自由を掴んだ最強の奴隷剣闘士!! それがこの俺、紅き翼(アラルブラ)、千の刃のジャック・ラカンだ!!」

 

 

名乗りを上げた男は余裕の笑みだった。

自信と確信。

まるで最初から自分に万が一のことなどありえないと言っているような雰囲気だった。

そしてラカンと名乗った男は、投げつけた大剣とは別の剣を肩に乗せながら、睨みつけるシモンに向かって告げる。

 

 

「遊ぼうぜ、お二人さん!」

 

 

魔法世界に来て三日目の夜、シモンは「最強」と出会った。

理不尽で非常識な最強、正に存在自体が反則の男である。

これが銀河の英雄と魔法世界の英雄、二人の英雄の出会いだった。

魔法世界の流れがうねりを上げて加速していく。

 


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