魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「冒険王? この男がですか?」
「ええ、旧世界・・・すなわち現実世界では表裏問わずに相当有名な考古学者として名を馳せているわ」
一人の男が写った賞金首のリストを指差しながら、セラスは頷いた。
「考古学者・・・それがこの男の仕事ですか?」
「ええ、幾多の遺跡の謎や隠された歴史の発掘活動、その際に宝を狙った盗賊や組織を返り討ちにした男。そんなこの男を皆が尊敬して呼ぶのよ、冒険王とね・・・」
「では・・・この男と一緒にいる二人は・・・・」
「ええ、彼の妻と娘よ。しかも両方ともがかなりの実力者という情報よ」
そう言ってセラスは校長室の椅子から立ち上がり、窓の外を見る。そこに広がるのはいつも通りの魔法世界の夜の景色だった。
既に問題が起こっているとも知らずに、いつもと変わらぬ光景を眺めている。
「しかし・・・冒険王とまで呼ばれたその男が、なぜ密入国を? 犯罪者でもなく、裏の世界でも有名なら、入国の許可ぐらい下りたのでは?」
コレットたちの担任の女性は、冒険王と呼ばれる男の手配書を眺めながら疑問の声を上げる。
するとセラスが振り返り、聞かされた手配書の男の情報を告げる。
「首都から取り寄せた情報から見て、考えられる理由があるわ。彼・・・旧世界・・・モルモル王国の王族のお気に入りの考古学者らしいわ」
「モルモル王国!? 表向きではただの小国と装っていますが、その正体は旧世界最高の科学技術国家と呼ばれているあの・・・」
「ええ、そうよ。・・・・実際その存在を理解している他国は少ないわ。だから国連の上層部の中でも一部の者しか知らない魔法使いや、この世界の存在をモルモル王国は知らなかったはず・・・しかし・・・」
「なるほど・・・どこでこの世界の存在を知ったのかは知りませんが、この男が元の世界に帰り、この世界を一般的に公表することを恐れているのですね・・・」
「そのとおりよ・・・・。ましてや相手は科学技術最高峰の国家の息がかかった人間・・・・簡単には許可を降ろすことが出来ない・・・現に首都の入国管理局は許可を出さなかったそうよ」
「たしかにそうですね・・・・この世界の存在を、あまり現実世界の科学側の者たちには知られたくありませんからね・・・・」
「まあ、・・・・科学側がこの世界を侵略する・・・なんてことは無いでしょうけど・・・このままこの世界を調べられるだけ調べられて、黙って返すわけにもいかないってことね」
魔法が現実世界では秘匿であるのは周知の事実である。
魔法使いの総人口は約6千7百万人に登る。これは相当の人数である。しかし人並みはずれた異形の力を身一つで使うことの出来るものたちは、存在だけでも脅威になる。だからこそ世界の均衡を保つためにも魔法の存在は秘匿という決まりごとになっている。
いかに魔法使いの総人口が多かろうと、この星の総人口の100分の一程度である。
魔法が使えない一般人という枠組みの中でも魔法の存在を受け入れたり、ネギの生徒たちのように自らその道に進むものも当然居るが、全ての人類が魔法という存在を認めるようなことはありえない。
その気になれば魔法使いが世界の覇権を手にする事も可能ではないかと心の中で不安に思うものだって居る。
もちろん不安の目を取り除くために魔法使いを根絶やしにするなどと妄言を吐くものはこの時代には居ない。もしそうなれば、どちらが勝っても負けたも同然の結果しか残らない。
だからこそ、均衡を保つためにも魔法という存在を限られたもの以外には秘匿とされ、極力世間から知られない存在としなければならないのである。
しかし今回その存在を、表向きではそれほどの国力を持っていないと認知されていながら、裏では極めて優れた科学技術を誇る国の人間に知られたのである。
優れた科学技術を誇る国に存在を知られるのは、あまり良い気分ではない。
「でもそれが返って相手に火を付けたみたいよ。ダメと言われたら余計に気になるのが好奇心というもの。冒険王と呼ばれたこの男なら尚更ね」
「それで抑えられなくなり密入国を・・・・無茶苦茶ですね・・・」
セラスはため息を吐きながらもう一度手配書を手にとって眺める。
そこには白衣の服で眼鏡を掛けた無精髭を生やした男が写っている。そしてその隣には同じく賞金を掛けられた妻と娘が写っている。
「ええ、彼の目的の詳細は今の所不明だけど・・・・無茶苦茶ねこの・・・・瀬田記康という男は・・・・そしてその妻の瀬田はるか・・・娘の・・・・」
しかしその時だった。
「しっ、失礼します!」
校長室の扉がノックもせずに開けられ、セラスの言葉を遮った。
「どうしたの? 騒々しいわね」
入ってきたのはコレットとエミリィの二人だった。彼女たちは息を荒く相当焦っている様子である。
「も、申し訳ありません! でも、でも・・・アニキが・・・アニキが・・・」
「シモンさん? シモンさんがどうしたの?」
「シモンさんが・・・シモンさんが何処にもいないのです!」
「「!?」」
「コレットたちと先ほどから探しているのですけど、部屋にも・・・・校舎の何処を見ても・・・シモンさんが何処にもいないのです!」
エミリィの悲鳴のような声が校長室に響き渡った。
文字の読み書きの勉強の約束を交わしたにもかかわらず、いつまでたっても部屋に来ないシモンが気になってエミリィがシモンの部屋に尋ねにいったが、既にもぬけの殻だった。
その後コレットやベアトリクス、そして他のクラスメートと辺りを探し回ったがシモンは何処にも見当たらなかった。
シモンに何かあったのではないかと、セラスはその後学園中、そして市外にシモンを捜索するように命じたが、まるで最初からシモンという男など存在しなかったかのように痕跡を残さず消えていた。
僅かに変化があったといえば、開きっぱなしになっていた図書室の窓と、市民が偶然見かけた空を移動する二つの光という情報だけだった。