魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第117話 男は気合で飛べるんだよ

学園に不法侵入した謎の少女。

 

彼女は最大限に気配を殺しながら校舎内へと進んでいく。その一部始終をシモンに見られているとも知らずに、目的地へと向かっていく。

(やっぱりここの生徒じゃないよな? ・・・もしそうなら、もっと堂々としているはずだ・・・。それにさっき言っていたことも気になるし・・・・)

 

少女は確かに密入国、そして賞金稼ぎに狙われたと独り言をしていた。いくらシモンでもそれがどういう意味なのかは理解できた。

少女の正体は犯罪者。

とてもそうは見えないが、もしそうだとしたらこれは大問題である。

 

(どうする・・・騒ぎを起こして誰かを呼ぶか? いや、・・・でも目的も分からないし・・・・それに・・・本当に犯罪者に見えないし・・・・)

 

答えが分からずにどうすればいいのか悩むシモン。

その間にも少女はどんどんと校舎内を進み、とうとう目的地へと到着した。

 

「へへ、ここで良いんだよな」

 

少女の前にあるのは巨大な図書館の扉である。

学術都市アリアドネーの学園の図書館。それはこの世界の全ての知が保管されている場所と言っても過言ではない。

 

(図書室? 図書室に何のようなんだ?)

 

扉の中にあるのは見渡す限りの本、本、本の山である。

 

「うわ~~、すっげ~な~。でも、こんだけあるんならいいのがありそうだな~。ええ~と、歴史書の棚は・・・・」

 

まだここに来て浅いとはいえ、普段から図書館とは無縁のシモンにはある意味新鮮な光景だった。

その膨大な資料に圧倒されていると、目的の物が見つかったのか、少女は一冊の本を手にとって見た。

 

「おっ、・・・・・・帝都・・・ヘラス地方・・・歴史書・・・これだな!! やっぱこれだけ大きな図書館ならあると思ったぜ!」

 

少女が手にしたのは一冊の歴史書である。

当然シモンにその本の価値がどれほどあるかは分からない。

しかしもし少女がこの本を黙って持っていくようなことがあれば、それがどのような行為になるかは理解できている。

 

(こいつ、盗む気か!?)

 

ギリギリまで様子を見ていたシモンも、これで少女の犯罪を確信した。次の瞬間隠れていたシモンは勢いよく少女の前に現れて叫ぶ。

 

「お前、何をやってやがる! 一体そいつをどうするつもりだ!」

「!?」

 

ビクリと肩を震わせ振り返る少女は、驚きのあまりに本を落としそうになってしまった。

 

「へっ? ・・・うわっ、ヤベ見つかった!?」

「おとなしくしろ! よく分からないけど盗むつもりなら 「悪いね兄ちゃん!」 ・・・なっ!?」

 

シモンが「容赦しない!」といい終わる前に少女は既に行動に移っていた。

少女がマントの中から手づかみで何かを投げつけてきた。

 

「煙幕弾!!」

「てっ、テメエ!?」

「悪いけどコイツが必要でよ~。いつか用が済んだらちゃんと返すぜ! そんじゃなっ!」

「まっ、待て!」

 

少女が投げた煙幕弾が煙を上げて、シモンの視界を封じた。

不意を突かれた攻撃だったため、流石のシモンもどうすることも出来ずに、目を瞑ってしまった。

そして少女はそのまま迷うことなく部屋の窓を開け勢いよく外へ飛び降りる。そして何やらリモコンのようなものを押して叫ぶ。

 

「来い! メカタマ31号!!」

「なっ、何ィ!?」

 

少女が夜空へ向かって叫ぶと、空の向こうから巨大な物体が迫ってきた。煙を手で掻き分けながら窓際へ辿り着いたシモンは驚いた。

 

「デッカイ・・・・カメ?」

 

飛来してきたのは人でも動物でも、飛行船でもない。

鉄の体で覆われたカメ型のメカだった。

 

「じゃあなーーッ! 用が無くなったらちゃんとこいつは返すからさ!」

 

あまりにも理解できない展開に口を開けて驚くシモン。

そして少女はカメの胴体部分から中へと入り、まるで武装のように少女の体をメカで覆った。そして次の瞬間ヒレらしき両腕から火が噴出し、あっという間に空の彼方へと立ち去ってしまった。

 

「まっ、待ちやがれ! 逃がさねえよ!」

 

ハッとしたシモンは、急いで背中に翼をイメージする。そして森で魔獣と戦った時のように空を駆ける鉄の翼を背中に具現化する。

そして夜の闇へと消えようとするカメ型のメカを追いかけて、自身も迷わず空へと駆け出した。

今度の相手は魔法使いでも魔獣でもない。

謎のメカを操る少女だった。

だがシモンは相手が誰だろうと、動き出したら考えずに突っ走る。それが未知なる敵でも同じことだった。

 

「待ちやがれ!」

 

魔法世界の夜空を駆けるカメ型のメカ、メカタマ31号にシモンは生身で同等の速度で飛行していた。

それは少女の常識と非常識の想定を覆した。

 

「なっ、お前空飛べたのか・・・・って何だそれ!? 魔法使いは箒で飛ぶんじゃねえのかよ!?」

「男は気合で飛べるんだよ!」

「あっ? 何言ってんだよ!? つうか追ってくるなよな!」

「だったら本を返しやがれ! 返せねえなら理由を言いやがれ!」

「だあああ~~~、正面から借りられるんならしてるっつうの! でも、色々あって賞金首になっちまったから出来ねんだよ!」

「だったらお前は悪い奴じゃねえか!」

 

少女は構わずメカタマの出力を最大限にして逃げ出した。

 

「逃がすかよ!」

 

シモンもあきらめずに追いかける。

星空の下で繰り広げられる二人だけの追いかけっこ。

気づけば二人はアリアドネーからだいぶ離れ、方角もメチャクチャに飛行していた。

ましてやシモンは明確な地理も知らないというのに、まったく知らない土地の空を飛んでいるのである。

しかし気にせず目先の物だけに集中していた。

そしてとうとう少女も観念した。

それはあきらめたのではない。

逃げることを止めたのだった。

シモンの力に度肝を抜かれたものの少女も引く気はない。そしてシモンも見逃してくれないであろうことを察した。

だからこそ覚悟を決めた。

 

(チッ、あんま戦いたくないんだけど・・・・・)

 

するとメカタマは急に方向転換して、シモンを真正面に見据える。

 

「悪いけどちょっと攻撃するぜ!」

 

少女は右腕を伸ばすと覆われたメカの腕がシモンに向けられる。

その右腕に魔法ではなく、科学的な光が凝縮されて、数多の光が一気に放たれる。

 

「いくぜ、特殊光学系結界兵器メルカパ君!!」

「!?」

 

凝縮されたエネルギーが、細いレーザー砲のようなものになり、束になってシモンに向けて放出される。

だが、

 

「舐めんなよ! そんなもの・・・・、そんなもの効いてたまるかァーーー!!」

 

シモンは気合という名の螺旋力を放出して螺旋フィールドを展開。メカタマの放ったレーザー砲を全て捻じ曲げた。

 

「いいいいッ!? 光学兵器を生身で捻じ曲げたァ!? なな、なんなんだよこいつは!?」

 

メカタマから発せられたレーザー砲がシモンに直撃することなく捻じ曲げられた。

しかも魔法を使ったような雰囲気を感じなかった。本当に雄叫びだけでレーザーを曲げたように見えた。これには開いた口が塞がらない。

 

「さあ、大人しくしてもらうぜ!」

「するわけないだろ!!」

 

少女は臆せず向かってきた。そしてメカの巨大な四肢を動かして、人間さながらの器用な動きを見せる。

 

「上等だ! 」

 

シモンも拳を握り締めて真っ向から迎え撃つ。

 

「へっ、女だからって甘く見るなよな~~ッ!」

 

そしてシモンが渾身の右の拳を放つと、なんとメカタマは器用にもシモンの拳を片手で容易くいなして、余ったほうの腕で腹を殴る。

 

「ぅッ~~~!? ~~~~っくそ!」

 

カウンターでメカタマの重い一撃を叩き込まれて悶絶しそうになるシモン。だが、怯まず、歯を食いしばりながら再びメカタマへ飛ぶ

 

「へっ、図体がデカイからって舐めんなよ! 磨きに磨いたメカ捌きと、パパ直伝の截拳道(ジークンドー)の融合だぜ!」

 

シモンが蹴りを放つが、少女の自信は慢心ではない。シモンの蹴り足の向こう脛を、メカタマの右足で踏みつける。

その瞬間シモンの弁慶の泣き所にこの世のものとは思えぬ地味だが強烈な痛みが走り、次の瞬間には踏みつけた反動を利用したメカの右足のハイキックがシモンの顔面を捉える。

巨体とは思えぬカメ型メカの華麗なる二連撃だ。

 

「うおお、あがああああ!?」

 

予想も出来ない見事なメカタマの動きに翻弄されるシモン。

ダメージが抜けずにみるみる地上へ落下していく。

 

「へへん、止めだ!」

 

そして少女はシモンに止めの追撃を緩めない。

 

「よっし、ええ~~と出力・・・・これぐらいなら死なねえよな・・・」

 

メカタマの口が開き砲台が口から飛び出し、地上に落ちるシモンへ向けられる。そして先ほどのレーザーよりも明らかに強力そうな攻撃がシモンに放たれる。

 

「アバヨ! 加減してやるから勘弁しろよ!」

 

そして少女はメカタマの口から主砲を放ち、一直線にシモンを捉える。

 

「カオラン砲発射!!」

 

先ほどの連射された細いレーザーと違って今度は太い光の柱のようなものが、天より一人の男目掛けて放たれる。

今度は捻じ曲げるには大きすぎる威力だろう。

 

 

「よっしゃー、命中! どんなもんだよ!」

 

 

少女は勝利を確信した声を上げた。

多少手間がかかったものの、これで問題は解決だろう。少なくとも少女はそう思っていた。

しかしそれは単なる早とちりでしかない。

それはこの男が何者かを知らないからそう思ってしまったのだろう。

 

「・・・・・・あれ?」

 

主砲を放った少女は異変に気づいた。

それは主砲の炸裂音がまったく聞こえないことだった。

ハッとなって慌てて下を見ると、なんと放った主砲のエネルギー全てが、上に向かって右腕を突き出す男の手に握られている何かに凝縮され、中和されていく。

 

「は、はあああああ!?」

 

またもや未知なる力を前に少女に動揺が走る。

 

「なな、なんだよソレッ!? ド・・・・ドリルゥ~~~!?」

 

シモンの手に握られているもの、それはドリルだ。少女もそれぐらいは分かる。しかし何故ドリルなのかはまったく分からない。

するとシモンはこちらからも分かるほど口元を吊り上げて笑った。

互いに予想外の連続の攻防戦。

最後に笑ったのは、まったく少女が想定するはずの無いものを出したシモンに軍配が上がった。

 

「やってくれるじゃねえか! テメエのくそったれビームを丸ごと返してやるぜッ!!」

「ちょっ、まっ・・・・・」

「真ん中は外してやるから勘弁しろよ!!」

 

少女に言われたことを、今度はシモンが言い返した。

そしてドリルを回転させて、真っ直ぐメカタマの右腕を狙う。

 

「まっ、まずい・・・・喰らったらヤバイ!?」

 

気づいた時にはもう遅い。回転させたドリルを真っ直ぐ天に向かってシモンが突き出した。

いくらなんでも胴体を狙えば少女の命は無いだろう。だからこそシモンはメカの右腕部分を狙った。流石のシモンもそれぐらいの冷静さは残っていた。

そして飛び込んだシモンは、自然と技の名前を叫んでしまった。

 

「シモンインパクトォォーーーー!!」

 

螺旋力とレーザーのエネルギーを溜め込んだシモンのドリルは、意図も簡単にメカタマの右腕を貫通した。

貫通したシモンの目の前に広がるのは星空のみ。

 

「ラストォーーー!! 大地に埋まれーーーッ!!」

「っつう!?」

 

そして直ぐに下向きに方向転換し、ドリルを突き出し残りのエネルギーを衝撃波のようにメカタマへ向けて放出する。

右腕を欠いたメカタマに防ぐすべなどは無い。

そのまま自分の放ったエネルギーをまとめて返され、メカタマは受身もろくに取らずに大地に落下した。

 

「ぐげえ・・・・いっ・・・つう~~、あいた~~~」

 

落下したメカタマの中から、少女が這い出してきた。多少の打ち身はあるものの、それといった怪我は見当たらない。

しかし這い出した瞬間、残骸となったメカタマを見て動けなくなってしまった。

 

「えっ・・・はっ、はは・・・・・うっ、・・・・うっそだろ・・・・・・・・・・」

 

まるで起こってしまった事態を現実だと認めたくないような引きつった笑みで固まっていた。

するとその背後にドリルを持ったシモンが、勝利に満足したような笑みで少女の後ろに降り立った。

そして現実と夢の狭間で行き来している少女の意識を取り戻す一言を告げる。

 

「ぶっつぶしてやったぜ!! さあ、大人しく盗んだ本を返しやがれ!!」

「!?」

 

その一言に少女の頭の中の何かが切れた。

 

「なっ・・・・・なっ・・・・」

 

そして肩をわなわな震わせながら、次の瞬間立ち上がりシモンに勢いよく詰め寄った。

 

「なんてことするんだよ、このヤローー!? 壊れちまったじゃん! どうすんだよボケナスーー!!」

「ちょっ、何言ってやがる! 先に悪いことをしたのは・・・・」

「うっさい!!」

「ぐほお!?」

 

なんと少女は一体何処から出したのか、土器や埴輪や青銅をシモンに向けて投げつけた。案外これもシモンのドリルと同じ想定外の攻撃だった。

 

「だから後で返すって言ったじゃんかよ! コソ泥なんて真似は嫌だったけど、事情があって正面から行けないから、ああしただけだったんだよーーーッ」

 

ウガアと唸る少女がシモンの胸倉を掴みブンブンと揺らす。

するとその勢いで少女の羽織っていたマントが肌蹴て、少女の顔が露になる。

シモンもキョトンとしてしまう。なぜなら、今になって初めて、戦っていた相手の素顔を見ることになったのだ。

少女はまるで西洋人形のような顔と、ブルーの瞳の金髪の少女。その整っている顔と髪は、戦いのあとゆえに多少煤や埃が被っているが、それでも少女の持つ価値が損なわれるとは思えないほどだった。

 

「あああ~~~、これ修理するのメンドクセーのに・・・・早くパパとハルカに合流したいっつうのに・・・・」

「おっ、・・・・おい・・・」

「うるせえ! 今こっちが考えてるとこに口出しすんなよな!」

「はっ、はああ~~~?」

 

まるでシモンが悪いかのような口ぶりである。

それほどまでに少女は開き直って混乱していた。

 

「ああ~~、それに相当逃げ回ってたから道が分かんなくなっちまったぜ~・・・ここどこだ? おいお前、ここは一体どこら辺なんだよ?」

「えっ・・・ええ~っと・・・・あれ?」

「何ボサッとしてんだよ、早く言えよな!」

 

マシンガンのように放たれる少女の粗野な言葉に呆けながらも、シモンも現在地を確認しようと辺りを見渡した。

見渡す限りの荒野を・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・おいっ?」

 

当然分かるわけがない。

 

「ブータ?」

「・・・ぶい~~~」

 

シモンは肩に乗るブータに尋ねてみる。

するとブータは首を横に振った。

言葉は分からなくとも意思は伝わった。

ブータにも分からない。

つまり・・・・・

 

「どこだろうな・・・・俺にもわかんないや・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいッ!」

 

魔法世界に来て三日目の夜。

シモンとブータはアリアドネーから離れた荒野で迷子になってしまったのだった。

 

 

 


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