魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第115話 ポンコツ剣士・続

―――ピクッ!?

 

 

しかしその事は虫の知らせとして現実世界の女たちに届いた。

 

「せっちゃん・・・・」

「・・・・・はい・・・・・エヴァンジェリンさんはどうですか?」

「うむ、何か今・・・・ムカつくことがあった気がするな・・・・」

 

何故分かるのだ? そう尋ねれば彼女たちはきっとこう答えるだろう。それは「愛」の力だと。

 

「・・・・シモンさん関連でしょうか・・・・」

「分からん・・・・しかしどうも胸騒ぎがするな・・・・

「うう~~~、シモンさん~・・・・・・・」

 

この世界の何処にもいない惚れた男を想い、ため息を漏らす少女たち。特に刹那は朝が朝だっただけに、その表情はいつも以上に曇っている。

するとそんな気落ちする彼女たちを見て、第三者のため息が聞こえてきた。

 

「ちっ、・・・・どいつもこいつも・・・・」

「千雨さん?」

「もう直ぐヤベエとこ行くっつうのに、どうしてお前らシリアスが長続きしねんだ? アンタらも・・・・あいつらも・・・」

 

もう少し緊張感が漂って良いはずの別荘内の今の空気を見て、千雨はあきれている様子である。それは刹那たちだけに対して言った言葉ではない。

ため息をつきながら視線を別のグループへ向ける千雨の目には、本当にこれから命懸けの世界に飛び込む前の者達の姿には見えなかった。

そこには・・・・

 

「ネギ~~~~、あのロケットおっぱいの女はど~こ~だ~?」

「ア、アーニャ落ち着いて!」

 

幼馴染に締め上げられて顔を青くしているネギが居た。

 

「だァくァルァーーーー、送ってきた写真に写ってた、あの胸がデカくて品の無い格好の女はどこだって聞いてんのよーーーー!!」

「だだ、だからヨーコさんはシモンさんと一緒に故郷に・・・・アーニャ・・・く、苦し・・・」

「ふ~ん、んで? アンタがその人のこと好きって噂を聞いたんだけど~~?」

「・・・・・・・・うっ・・・」

 

無言でアーニャの問いに真っ赤になって顔を逸らすネギ。その瞬間に、アーニャの炎のナックルがネギを彼方まで吹き飛ばした。

「やっぱ乳ね! 乳に誑かされたのね、このバカァーーー!!」

「ち、ちがッ!?」

 

 

殴り飛ばされるネギに慌てて駆け寄るのどかや夕映。アーニャにネギがヨーコに好意を持っているという情報を渡したのは二人からだった。その話を聞いたアーニャは激しくネギに問い詰めては殴る蹴るなどをしていた。

 

この少女が日本でネギたちと合流してから、毎回この様な光景が続いていた。

 

夏休みに入っても一向に帰ってこないネギが気になって、ネギの故郷の幼馴染の少女が日本に来日し、以来ネギたちと共に過ごし、共に魔法世界行きの意思を固めていた。

 

アーニャが来日したのは大体美空とココネがイギリスに向かった頃のため、二人と入れ違いになってここにやって来た。

 

以来アスナと共にネギに対する強力なツッコミ役として、別荘内の賑やかさは絶えることは無かった。

 

 

「ほ~んとにアンタは! チビでボケで田舎モンのネギのくせに、キレイな女の人と仮契約しまくったあげく、デカ乳女に鼻の下伸ばしてヘラヘラして、闇の悪女の弟子にまでなってるなんて最低! 女たらしの、スケコマシーーーーー!!」

 

「だ、だからそれには色々と事情が・・・・ぶほっ!?」

 

「う~ん・・・意外とあの子の言っていることも否定できないかも・・・・」

 

「そんな~、止めないとネギ先生が~~」

 

 

仮契約やエヴァンジェリンの弟子、そしてヨーコのことでアーニャの嫉妬の攻撃はネギと再会してから止まることが無かった。

 

「やれやれ、あっちのグループも同様に未だ混戦模様のようだな」

「ええ、のどかさん、夕映さん、アーニャさん、アスナさん。そして・・・・ヨーコさん」

「誰が抜きん出るかは、まだ分からんな~~~」

 

のんきな事態に現実主義者の千雨だけため息をついていた。

 

「ダメだ・・・・こいつら・・・・」

 

実際にネギたちの旅立ちは寸前まで近づいていた。

美空やココネより遅れたが、彼らももう直ぐにイギリスへ旅立ち、そこから魔法世界へと続く道を行くことになっている。

修行前からそのことを何度も脅された。

覚悟、危険、命懸け。

しかしその全てを全員が受け止め、自らを鍛え上げたこの数週間の日々は間違いなく本物だった。

たしかに千雨の言うとおり、たまにだがこのような話題で盛り上がったりなど、不謹慎に思えるような雰囲気が漂ったりもしていたが、これはこれで彼ららしく、これも息抜きだと思えばしっかりとしていた。

もうじき息をつく暇もないほどの世界と事件に巻き込まれるのだ。今はこの日常を謳歌するべきなのである。

 

「それにしても結局奴は帰ってこなかったな・・・・・・」

「そうですね・・・、一緒に来てくだされば心強かったのですけど・・・・」

「せやな~」

 

エヴァの呟きに頷く刹那と木乃香。

仕方なさと寂しさの入り混じったため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、何の本を買うんですか? 参考書か何かですか?」

「ちゃうよ~、料理の本や」

 

 

出発前の準備として、刹那と木乃香は共に買い物に出かけていた。

そしてその帰り際に荷物を抱えながら、木乃香がぶらっと本屋に立ち寄った。

 

「料理ですか? しかしお嬢様の料理の腕はもう十分のはずでは?」

 

木乃香の料理の腕前は周知の事実である。しかし木乃香は首を横に振る。

 

「それがなあ、美空ちゃんの話によると、シモンさんは一風変わった料理が好きなそうなんや」

「えっ、そうだったのですか?」

 

一つ訂正だが、シモンが好きなのは一風変わった料理ではなく、一風変わった味だった・・・

 

「もしシモンさんがウチらが居らんときに帰ってきてもうたら、エヴァンジェリンさんに抜け駆けされるからな~。今のうちにちょっとだけでもレパートリーも増やそう思てな。魔法も恋愛もがんばるゆうたしな~~」

 

そう言って木乃香は料理本のコーナーへと向かった。足取りも軽く、鼻歌交じりで本と睨めっこしている。

もうすぐ魔法世界だというのに、恋愛に対する努力も怠ったりはしていなかった。好きな人に手料理を食べてもらいたいという純粋な想いが、刹那も見ていて微笑ましく思えた。

 

 

(ふふ、本当に素敵な笑顔だ。シモンさんのことを本当に好きなんだな・・・)

 

別荘で好意度ランキングを見たときは正直自分も木乃香もショックが大きかったが、今ではそれが新たなる起爆剤となったのかもしれない。

好きな人を今よりもっと好きになる事。それが今の木乃香だった。

 

(今はまだでも、きっとお嬢様ならシモンさんの心の壁も突破できるはずだ・・・そうだ・・・それがもっともあるべき姿だ・・・妻妾同衾などする必要は無い、お二人が幸せになるのなら、私は本望だ・・・)

 

大切な二人が幸せになる。それは自分にとっても幸せではないか。そう、刹那は思い込もうとする。

それが自分にとっても幸せに感じるのなら、何も自分は間違っていない。そう思い込んで、一瞬チクッとした胸の痛みと寂しさを紛らわそうとする。

そして刹那は本選びに集中している木乃香に声を掛けるのを遠慮して、木乃香をその場において自分もぶらっと本屋の中を見て回った。

特に買いたい本があるわけではないが、他にやることも無かったため、ただ漠然と本を見て回った。

 

(最近本も読んでいないな・・・)

 

だが、その何となくが失敗だった。

棚に並べられている本の背表紙だけズラッと眺めていると、刹那はある一冊の本が気になり、手にとった。

 

(・・・ん? ・・・この本は・・・)

 

その本は特に有名なわけでも、お勧めの作品として紹介されているわけでもない。

しかし刹那はその本の著者の名前が気になった。

 

(著者・・・青山・・・素子? 青山素子!? あの人は小説なんて出しているのか・・・)

 

刹那はその人物を知っていた。

刹那と同じ神鳴流の使い手でありながら、大学にも進学した文武両道の剣士として有名だった。しかしまさか小説まで出しているというのは知らず、本を見た瞬間驚いてしまった。

 

 

(一体どんな内容なんだ? 何々・・・・ってイキナリ結婚式か!?)

 

 

中身が気になり、刹那が冒頭の部分を読んでみると、捲った瞬間結婚式の場面が描かれていた。恐らくこの小説のジャンルは恋愛小説なのだろう。

そして刹那はパラパラとページを捲り、読んでいく。

その内容は、幼い時に同じ大学に行って幸せになろうと約束をしていた二人が大人になって再会し、約束を果たすために共に受験勉強をし、途中で何度も躓いたり邪魔が入ったり失敗を繰り返しながらも、その約束を最後まで忘れずにいて結ばれた運命の二人の結婚式の日、それが始まりだった。

(いきなりクライマックスではないか? その途中の躓いたりの場面を何故書いていないんだ? ・・・しかし・・・ふふ、運命の二人の結婚式・・・お嬢様もいつかシモンさんの運命の人になるのでしょうか・・・)

 

 

刹那は不意に小説の中の運命の二人をシモンと木乃香に置き換えてうれしそうに微笑んでいた。

しかし次のページを捲ると、そこには衝撃的な展開が描かれていた。

 

「ん? えっ? するとその時・・・結婚式場に女剣士が乱入した? へっ?」

 

いきなり状況が一変してしまった。刹那が慌てて本の続きを読んでみると・・・

 

「そして女剣士は・・・・・・新郎を奪い去ったァ!? りゃ、りゃ、略奪愛ィ!?」

 

刹那は本を開いたまま、その衝撃の展開に固まってしまった。

 

「・・・な・・・な・・・・なんだこれはーーーー!? 衝撃的な展開過ぎるぞ!? あのお方はなんていう小説を書いているのだーーー!?」

 

運命の二人を頭の中で木乃香とシモンに置き換えた瞬間、女剣士というピンポイントな役が登場したことに刹那は衝撃を覚えた。

そう、この小説は約束の二人が主人公ではなく、その片方の男を好きになってしまった女剣士があきらめずに男を攫い、駆け落ちするという衝撃の内容だったのだ。

何故このような訳の分からない設定なのかは分からないが、少なくとも刹那にダメージは大きかった。

 

 

「ここ、こんなモラルを逸脱したような小説を、一体誰が買うというんだ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし買った。

 

 

 

 

 

 

そして木乃香には内緒でコッソリ買った本を、刹那は寮の自室で読み続けた。そして数時間後、読み終わった刹那はため息をつきながらパタンと本を閉じた。

 

 

「・・・・結局全部読んでしまった・・・・」

 

 

あくまで声は冷静に。

 

 

「意外とおもしろかったな・・・モルモル王国で追っ手と戦う女剣士は熱かった・・・・・しかし・・・・・」

 

 

しかしその顔からは徐々に蒸気が溢れて真っ赤になっていく。

そしてプルプルと震えながら本を机の上におき、バタンと上から叩いた。

 

「ななな、なぜこれは年齢制限を設けていないのだ!? こんな・・・こんな淫らな本を・・・何故普通に売っているのだーーー!?」

 

駆け落ちしたり、熱く戦ったり、冒険したりと恋愛以外も取り入れた作品に刹那も集中して読んでしまったが、途中に出てくるラブシーンなど非常に濃厚すぎて、中学生でそういった経験が皆無の生真面目な刹那には刺激が強すぎた。

刹那は真っ赤になりながらうずくまり、机の上に置かれている本を眺める。

 

 

「はあ、・・・でも・・・私がこの女剣士だったら・・・・」

 


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