魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「それで・・・そのシモンという方は何者なの?」
「それはまだ・・・・。しかし生徒たちとは普通に溶け込んでいます」
校長室の机に座りながら報告を聞くセラス。内容は数日前に生徒と事故を起こし記憶を失ったシモンについての報告だった。
記憶喪失という事態だが、検査の結果では深刻な事態ではないという結果のためにしばらく様子見という決断だったが、昨日の事件の報告を聞く限り簡単に判断を下せぬ相手だということを知った。
「そう。・・・しかし記憶喪失・・・魔法は使えない・・・・。それでどうやって森の竜種を倒したの?」
よほどの強者でも竜種を倒すのは容易ではないだろう。しかしそれを生徒たちと協力し合ったとはいえ、魔法を使わずに倒したのである。
しかしコレットのクラスの担任の女性は少し言いづらそうにその答えを言う。
「それが・・・・・・気合・・・だそうです・・・・」
「・・・・・・・・・・・・昔もいたわね。気合で何でも片付ける野蛮なバグキャラみたいな男が・・・・」
セラスは眉間を抑え、ため息をつきながら昔の仲間を思い出す。かつて仲間だった鋼の筋肉に覆われた最強の戦士。あのサウザンドマスターのライバルだったとも言われる伝説の英雄。そんな人物を知っているからこそ、気合という言葉を聞いて頭から否定することはなかった。
「ですが今のところは・・・・危険な人物ではないかと・・・・演技が出来るほど腹黒い方にも見えませんし・・・・」
「そう・・・、たしかに命の危機に晒されても生徒を助けてくれたのだからそうなのでしょう。まあ、・・・もう少しだけ様子見ね・・・」
とりあえず現状維持という形でシモンの件の報告は終わりにした。
「となると・・・今はこっちの方が問題かしら」
するとセラスは次に一枚の紙を机の上に置いた。
「これは・・・・賞金首の手配書・・・ですか?」
担任の女性が確認するとセラスは頷いた。
「ええ、ずいぶん前に現実世界から首都のゲートへ密入国した者よ。今、首都が懸命に捜索しているみたいだけど、騎士団も名のある賞金稼ぎも皆返り討ちにあっているわ・・・・」
「この人物がですか!? 見かけは・・・普通に見えますけど・・・・」
手配書に写っているのは一人の男だった。見かけは何処にでもいそうな三十代ぐらいの男だ。一見何か問題があるようには見えない。それが賞金首となればなおさらだった。
「ええ。そしてその男は一人で行動しているのではなく二人の女性と行動していたそうよ。つまり三人組ね」
「・・・・しかし・・・それを何故校長が気にするのです? 首都の騎士団にまかせておけば・・・・」
いかに賞金首とはいえ、首都に密入国した程度のものである。
ましてやアリアドネーはメガロメセンブリアとはかなりの距離が離れている場所である。それほど気にする問題ではないと思っていたが、セラスは首を横に振った。
「その三人組内の一人の女性をアリアドネーの国境付近で見かけたという情報が入ったわ、今外の見回りを少し増やしているところよ」
「ここにですか!? 一体何が目的で・・・」
「目的不明。しかし名のある実力者たちをことごとく殺すことなく返り討ちにしているらしいから、相当の実力者よ。首都もプライドを賭けて躍起になっているみたいだから我々も警戒はしておこうと思って・・・。何も無ければいいのだけど・・・・」
セラス小さくため息をつきながら机の上に置いた手配書に写る三人の顔を見下ろす。
とにかく杞憂で終わればそれで良いと思っている。
しかし何事も起こらないわけが無い。
ここにはシモンが居るのである。
そしてこの事がきっかけになり、シモンの運命は大きく左右される事になるのである。
しかしそうとはまったく予期していないシモンは今・・・・・
「えっ? ・・・・なんだって?」
「で、ですから・・・・その・・・・・・う~~~」
アリアドネーの学園の寮内。
今日は授業があり、生徒たちもここにはいない・・・はずだったが、一人の生徒が顔を赤くしながらシモンにある提案をしていた。
「わ、私はその・・・・命を救われただけでなく退学を免れました・・・・そ、それはあなたやコレットたちのおかげですわ」
「別に気にしなくてもいいけど?」
「そうは行きません! そしてむしろ今回のことを機に、本来ならより一層私は修行をしなければならないのですが、・・・しかし・・・・停学中は謹慎状態なので外で訓練するわけにも行きません・・・つまり・・・・・暇なのです・・・ですから・・・・」
「・・・・・うん・・・」
顔を真っ赤にして照れながらモジモジするのは、人生初停学中の元エリートのエミリィだった。彼女は割り当てられた部屋で体を休めているシモンに突然訪問し、あることを提案する。
「ですから、私と文字の勉強をしましょう!!」
「ええ~~~?」
今寮内に誰もいないことを知っていて、エミリィは大声でシモンに提案する。
「その・・・あなたは魔法どころか、字の読み書きまで忘れてしまったのでしょう? でで、ですからお礼を兼ね、いい機会ですので・・・・私が教えて差し上げますわ!!」
あまりにも意外な申し出に少しポカンと口を開けてしまうシモン。
たしかに文字の読み書きが出来ないのは大きなハンデだが、まさかエミリィの方から提案されるとは思わなかった。
一方提案したエミリィは今言った自分の言葉が恥ずかしかったのか頭から湯気を出しながら唸っていた。
するとそんな普段見れないエミリィの姿にガマンできずに爆笑した少女たちによって部屋の扉が勢いよく開けられた。
「だははははっ!! 委員長可愛い~~~♪」
「エミリィったら頭から湯気出しちゃってるよ~~~~」
ハッとなって振り返るエミリィ。するとそこにはコレットやベアトリクスを含め、クラスメートたちが扉から入ってきた。
「なっ、なななななな!?」
指を指しながらプルプルと震えるエミリィ。
「な、何故ここに!? み、みなさん授業は!?」
「もう終わったよ~。委員長がアニキの部屋の前で入ろうか入らないか迷ってた時から見てたよ~」
「なァーーーーーッ!?」
「お嬢様・・・・ナギ様命だったのでは・・・・」
「べ、ベアトリクスーーーーー!!!!」
一部始終を見られて聞き耳を立てられていたことに憤慨するエミリィだが、真っ赤になったその表情に何の怖さも感じない。明らかに立場的にコレットたちのほうが優位だった。
少女たちはいつも威張っているエミリィの女の子らしい一面に大満足のようでニヤニヤ笑っていた。
「ははは、それでシモンさん、怪我は~~~?」
「うん、もう随分良くなったよ。この傷は完全には消えないみたいだけどね・・・・・」
「う、うわあ・・・・・」
「う~、痛そ~~」
そう言ってシモンは服をはだけさせ、斜めに切り裂かれた魔獣の爪あとを見せる。その大きく残った傷跡を見て少女たちは息を呑んだ。特に責任を感じてるエミリィは気を落としている。
そして更に追い討ちを掛ける一言を。
「記憶が消えたり、傷が残ったり・・・なんか最近呪われてるのかな?」
冗談交じりの一言だが、コレットは「うッ!」と肩をビクつかせて申し訳なさそうな笑みで頬を掻いている。
よくよく考えればアリアドネーに来てたった数日でシモンはまったく良い事無しだった。その関係者としてエミリィとコレットが気まずくしているが、シモンは直ぐに小さく息を吐いて笑顔を見せる。
「まあ、・・・記憶も取り戻せるもので、受けた傷も痛みが無くなるならそれでいいけどな」
「う~・・・アニキ~~~・・・」
感涙の涙を流すコレット。エミリィも少しグッと来たようである。
するとその光景を見ていた少女たちは指をパチンと鳴らす。
「ひゅ~う、かっこいいね~、ア~ニキ♪」
「へっ?」
それは昨日までシモンのことを「お兄さん」と呼んでいた子だった。
「いや~、コレットたちの話を聞いてるとさ~、なんかアニキって呼び方も合ってるような気がしてね~~」
「あっ、じゃあ私もシモンさんのことは今度からアニキにする~!」
「おっ、いいね~~、それじゃあベアトリクスも~~ハイッ!」
「えっ・・・あっ・・・その・・・では・・・・・アニキ・・・さん?」
「なっ、ベアトリクス!? あなたまで!?」
意外とノリの良いベアトリクスの発言に驚くしかないエミリィ。
シモンもシモンで「アニキ」その呼び方はまるで自分が人から認められたかのように思えて、うれしそうに頷いた。
そしてシモンはエミリィに視線を変える。この場でシモンをアニキと呼んでいないのはエミリィだけである。
「それじゃあエミリィも俺のことをアニキって呼ぶか?」
「えっ・・・・その・・・・」
ついでにという感じでシモンがエミリィに聞くと、エミリィは口をパクパクさせながらうろたえた。
そしてコレットたちも便乗してエミリィを諭そうとする。
しかし・・・
「そうそう、委員長も言っちゃえ!」
「ほ~ら、一・二・三、ハイ!!」
「ア・・・アニ・・・・アニ・・・・」
「ほら頑張って!」
「ア・・・アニ・・・・・ア・・・・うううう~~~~、言えませんわ!!」
「へっ?」
さんざん手こずった挙句、エミリィは呼ぶのを止めて拒否した。
「そ、そんな風に呼べませんわ! し、失礼します!」
「あっ、ちょ・・・委員長ーー!?」
そしてエミリィは立ち上がり、勢いよく扉の外へと逃げ出した。
「あちゃ~~」
「からかい過ぎましたね・・・・」
シモンの部屋から勢いよく飛び出して一目散に自分の部屋へ逃げ込み、激しく自室の壁に両手を突くエミリィは、呼吸を整えながら小さく呟いた。
「はあ、・・・・・バカ・・・ううううう、・・・兄などと・・・呼べるわけ・・・・ないではないですか・・・」
その呟きは誰にも聞こえなかった。
っとまあ、のんびり女の子に囲まれてほのぼのとシモンは過ごしていたのだった。