魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

112 / 233
第112話 突き進んで何が悪い

 

「アニキ!」

「シモンさん!」

 

急に前に現れたシモンを思わず追い越してしまう二人。しかしシモンは追い抜いていった二人に振り返ったりせず、直進してくる魔獣を真正面から身構える。

そして同時に空から氷の雨が降り注がれる。エミリィの魔法だ。

 

「氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)!!」

 

氷の弾丸が雨となって降り注ぎ、魔獣は思わず直進を止めて真上に障壁を集中させてエミリイへと視線をかえる。

その隙をシモンは待っていた。

多少の被弾を覚悟でシモンは魔獣へ向けて飛び掛かる。翼のスピードを加速させ、魔獣の角を目掛けてとび蹴りを放つ。

 

「よくも俺の妹分たちをキーック!!」

「だ、誰が妹ですかァ!?」

 

スピードに乗ったシモンの蹴りが角を目掛けて一直線に入る。

技名は考え物だが、意外と強烈に音を響かせるシモンの蹴りに、コレットもベアトリクスも振り返りながら口を開けて驚く。エミリィも小さく拳を握り締めてガッツポーズをする。

だが、

 

「クアウウウーーーーッ!?」

「なっ!?」

「危ない!?」

「アニキィーーーー!?」

 

シモンの蹴りは間違いなく強烈だった。

魔獣の角をへし折るとまでは行かなかったが亀裂が入っている。

しかし、そのことに驚いたのか、魔獣は身を捩じらせて暴れ、その拍子にその鋭い爪でシモンをなぎ払い、シモンは木々をなぎ倒しながら激しく飛ばされた。

 

 

「ぐわああああああああ!!」

 

 

激痛のあまりに絶叫するシモン。

シモンは腹から肩に掛けて魔獣の爪で斜めに表皮を切り裂かれ、シモンの悲鳴と夥しく血が吹き飛んだ。

 

「シ、・・・・シモンさ!?・・・・・」

 

「・・・・・・・そんな・・・・・・」

 

「アニキ・・・・・・・・・・」

 

 

森の奥深くへとなぎ払われたシモン。

 

 

「アニキ! アニキィーーーーッ!?」

 

 

あれほど激しく森中に響いていた音が、コレットの叫びを除いて一瞬で静寂へと変わった。

なぎ払われたシモンを見て、エミリィもベアトリクスも呆然としてしまっている。

その衝撃は昨日今日シモンと知り合った彼女たちにも衝撃だった。

だがしかし、

 

「ちっ・・・ごふッ・・・・・・・気合が・・・まだ・・・・・足りねえか・・・・・」

「アニキ!?」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

吹き飛ばされた場所で、木々の山の中から体を起こすシモン。

無事だったことに安堵したコレットたちだが、シモンの足元に流れる夥しい血と、体に残った激しく抉り取られた魔獣の爪あとがコレットたちの顔を蒼白させた。

しかし魔獣は生きていたシモンを見て、再び羽を広げてシモンに向かっていく。

 

「くっ、タロット・キャロット・シャルロット!!」

「アニキ!?」

「まずいです!?」

 

一瞬の動揺に反応が遅れた。

このままではシモンが殺されてしまう。

しかしこの時、立ち上がったシモンに異変が起こった。

 

 

――どうした。お前の――もタネ切れか?

 

(・・・・・・ これは・・・・・・・)

 

 

時々ある。

 

自分の頭の中に映像が流れてくることが。

 

しかし今回はいつもと違う。

 

いつも映像は首から指輪と共にぶら下げているコアドリルから流れてきていたが、今回は違う。

 

そして今まで見覚えの無かった映像ばかり見せられていたが、今回見る光景は見覚えがあった。人物だけでなく、その時の場面がシモンには見覚えがあった。

螺旋の炎を燃やした男が圧倒的な力を見せ付ける光景。

 

 

(ああ・・・・・これは・・・・たしか・・・・)

 

 

そしてまた場面は変わる。

 

 

――お前にそいつは似合ってるぜ。――はお前の魂だよ

 

 

青い髪、と背中に刻んだ炎のような刺青で心を熱く燃やす男が自分に向かって言っている。

 

 

(ああ、・・・・分かる・・・これは・・・・これこそ・・・・)

 

 

シモンには一瞬で理解できた。

 

(俺の・・・・過去か・・・)

 

今まで見せられていた訳の分からぬ光景と違って、これこそが間違いなく忘れた自分自身の記憶だということを。

そして・・・・・

 

 

[シモンが何とかしてくれます]

 

「!?」

 

 

可愛らしい微笑を見せる少女。

その笑顔は真っ暗な闇の中ですら、彼女の周りだけが輝いて光が差してしまうのではと思えるほどの輝かしい笑顔。

 

 

――ならシモンの――は・・・・

 

 

シモンを信じ、只信じ、誰より信じている瞳で彼女は指を天に向かって突く。

 

 

――お前の――は・・・・

 

 

男も天に向かって叫ぶ。

そして・・・・

 

 

――俺の――は・・・・

 

 

ボロボロになってもなお立ち上がろうとするその姿。間違いない。それは自分自身だ。

何度も何度も躓いては立ち上がり、何度だってあきらめずに叫んだ。

 

 

「俺の・・・・、俺の・・・・・・・・」

 

 

流れる血と痛みを気にせずにシモンはブツブツとつぶやく。その間にも止めを刺すために魔獣が向かってくる。

 

「させませんわ! 氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!」

 

氷の雨に続き、氷の星が今度は空から降ってきた。

エミリィの仕業だ。

魔獣の視線がシモンに逸れた瞬間、逸早く冷静さを取り戻し、強力な呪文を詠唱して真上から突き落とす。

この攻撃は流石に予想外で、魔獣の障壁を突き破り直にダメージが入った。

激しくのた打ち回り鳴き出す魔獣。

 

「委員長、スゴ!!」

「私たちも援護しますよ!!」

 

コレットとベアトリクスが今のうちにと無詠唱で休みなく攻撃を放つ。

 

 

「いつだって・・・・風穴開けて突き進む・・・・それが俺の・・・ドリ・・・だ・・・・。俺の・・・・俺のッ!!」

 

 

激しく魔法が飛び交う中でシモンは未だにブツブツと言っている。

 

そしてやがて顔を上げて一切の迷いの無い目で手をかざし、その手に緑色に輝く光が集い、シモンの魂が具現化される。

 

 

「えっ!?」

 

「それは!?」

 

「アニキ!?」

 

 

突如光を発してシモンの手に出現した物体。シモンはそれを魔獣に向けて叫んだ。

 

 

 

「俺のドリルは、天を突くドリルだァーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

体と心と魂は覚えている。その力は何のためにあったのかを。

 

シモンは出現した自分の代名詞とも呼べるドリルを、今ある目の前の壁に向ける。

 

激しく回転してシモンと共に突き進むドリル。

 

シモンは魔獣の角を目掛けて突っ込んだ。

 

その姿にエミリィたちが何を思ったのかは分からない。

 

そんな魔法も能力も力も見たことも聞いたことも無い。

 

ただ、一つだけ分かったことがある。それは三人とも同じだった。

 

自分の胸がかつて無いほど熱くなっていることだ。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

雄叫びを上げながら障壁にヒビを入れていくシモン。その口元に笑みが浮かんでいる。

 

 

「悪いな、デカ鳥! テメエが俺の壁となって立ちはだかるなら、何度だって風穴開けて突き破らせてもらうぜ!!  それが、・・・それが!」

 

 

しかしその時胸元のコアドリルが再び光った。

 

嫌な予感が不意に過ぎった。

 

再び自分の頭の中に何かが流れ込んでくのが分かる。

 

自分の記憶ではない記憶。

 

コアドリルが見せる遥か昔の記憶。その記憶には良い予感がしなかった。

 

 

 

―――愚かだな・・・・その力が破滅への道だと気づかぬとは・・・・・

(ぐっ・・・・何だよ!? 人がせっかく作業中だってのに・・・・)

 

 

突如流れる光景にシモンは顔を歪める。

 

 

――その行いが人類を・・・宇宙を破滅へと導くことも気づかぬとは・・・・

 

(くそ、・・・・・何だってんだよ!!)

 

――突き進むことを美と想い、己の本能すら制御できない愚かなる種、それがお前たちだ。私は何度も見てきた。進んだ先に待っていた絶対的絶望に飲み込まれた螺旋族の歴史を全て・・・・「うるせんだよっ! 人の頭の中でゴチャゴチャ喚きやがって!!」

 

 

ドリルを回転させながら、シモンは頭の中に流れる言葉を自分の叫びで追い払った。

 

 

「突き進んで何が悪い! テメエを偽らずにいて何が悪い! お前が何を言いたいのかまだ思い出せないけど・・・・こいつが掘るのは破滅への道じゃない! こいつが掘るのは・・・・こいつが掘るのは・・・」

 

 

そして障壁を破り、魔獣の角に目掛けて飛び込んでいく。だが言葉を叫ぼうとしたシモンの頭の中に、また言葉が流れ込んだ。

 

 

――それこそが破滅への道。螺旋族の罪・・・・これが真実だ・・・

 

「っ! ・・・・ったく、頭に響く・・・・・ネチネチめげない奴らだ。だけど今は・・・・・掘り抜けさせて貰うぜ!!」

 

 

黒く闇の言葉をなぎ払い、シモンは掘り抜ける。

次に見た光景は角を折られて横たわる魔獣の上で、ドリルを天に翳すシモン。

エミリイたちにはその時のシモンは、まるで太陽の光を一身にスポットライトのように浴びているように思えた。

 

「ほ・・・・・本当にやってしまいましたわね・・・・・・・」

「・・・はい。・・・あんな力・・・私も見たことがありません。本当に・・・・・彼は・・・・彼は何者でしょうか?」

 

ドリルを片手に立つシモンの姿はこれまで見てきたどの魔法使いとも戦士とも違う。一瞬だが、光を浴びるボロボロの男に彼女たちは見惚れてしまった。

しかし当の本人は少し浮かない表情だった。

 

「なんだろうな・・・、せっかくピンと来たのに・・・・・スッキリしない。頭の中に響くあの声が・・・・進む俺の後ろ髪を引いた・・・・」

 

再び手にした自分の魂であるドリルに触れてみる。その重さと感触は、まるで自分の一部のように感じた。

だが、この魂を認めないものたちの声が、先ほどからずっと流れてきた。

 

「なあ、・・・・お前は・・・どんな壁にぶつかったんだ? 俺は・・・ドリルは・・・・そこまで罪深いのか?」

 

壁を突き破ったのにスッキリしない、そんな心の中の戸惑いが今のシモンにあった。

コレットたちの興奮も少しずつ収まり、先ほどとは打って変わって静かになったシモンに首を傾げている。コレットたちはシモンから少し声の掛けにくい雰囲気を感じ取ったが、シモンは取り合えず螺旋力で作り出したドリルを消し、全身の力を抜く。

 

(記憶に出てきたアイツら・・・・アイツらは何をドリルに見たんだろう・・・・・。そして・・・・以前の俺はどんな答えを出したんだろう・・・・)

 

問題文すら理解できない問題の答え。そんなものを今のシモンが導き出させるはずが無い。しかしその内記憶を取り戻せると聞いても、ジッとしていることがどうしても出来ない。

 

(破滅への道・・・・この世界がそうだって言うのか? ドリルの力がこの世界を破滅に導く? そんなこと・・・・そんなこと信じられないや・・・)

 

細かいことを気にしない、それがこの男だ。しかし強制的に見せられた記憶の欠片と絶望への示唆がシモンの頭の片隅から離れなかった。

 

ドリルとは何だ?

 

破滅とは何だ?

 

自分は何者だ?

 

まるで今まで住んでいた場所から放り出された子供のように、いくつもいくつも疑問が沸き起こる。

 

(この世界は・・・・破滅の道に続いているのか?)

 

シモンは拳を握り締め天を見る。しかしそこにあるのは、まったく見覚えの無い空しかない。記憶を失っているとはいえ、そんなことがありえるのか不思議だった。

 

だからこそ思う。

 

この世界をもっと知りたいと・・・・・・

 

 

「あの・・・・・その・・・・・アニキ?」

 

「・・・・・・えっ、ああ、コレット。ゴメンよ、少し考え事」

 

「いや・・・・それはいいんだけど・・・・その・・・・」

 

「?」

 

「・・・・・それ・・・大丈夫なの?」

 

 

そう言って恐る恐るコレットが指を指した先には、魔獣の爪により深く抉られたシモンの痛々しい腹と、激しく流れる血だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

シモンも今気づいた。

 

その瞬間汗が全身から一気に吹き出た。

「だ、・・・・・大丈夫なのですの?」

 

引きつりながら尋ねるエミリィ。しかし答えなど決まっている。

大丈夫なわけが無い。

 

 

「・・・・い・・・・・痛すぎる・・・・・・ガクッ・・・・・・・」

 

「ア、アニキィーーーー!?」

 

「いいい、急いで治癒魔法を!? い、いえ、急いで学園に!?」

 

 

痛みに気づいたシモンは、認識した瞬間出血多量でそのまま倒れた。

 

 

 

 

 

魔獣に襲われた時並に動揺し、右往左往する少女たちだが、一刻も早く学園に帰るべきだと三人の中では唯一冷静さを保っていたベアトリクスの言葉に従い、急いでシモンを学園まで移送した。

 

学園に帰還すると、エミリィの救出に向かおうとする教師陣と鉢合わせになり、即座に行われたプロによる治療活動によりシモンも一命を取り留めた。

 

その際エミリィやコレットたちは、今朝シモンと出会ったクラスメートたちと共に、シモンの無事に涙を流しながら抱き合い、安堵した。

 

色々とあったが今回の一軒でシモンは生徒たちにとって、とても心の近い間柄になったのかもしれない。シモンの無事に安堵する彼女たちの様子は、決して昨日今日初めて会っただけとは思えぬほどに教師たちは感じていた。

 

そのことが更に深まった事件がその直ぐ後にあった。

 

それはエミリィに対する処分である。

 

禁則事項を破っただけでなく、一般人でもあるシモンやクラスメートを危険に晒したのである。相応の処分、退学の可能性も大きくあった。エミリィ自身も潔く処分を受け入れる覚悟だった。それが自分のケジメだと思っていた。

 

しかし巻き込まれたシモン本人と、コレット、ベアトリクスによる処分に対する断固反対があった。巻き込まれた本人たちの反対、そして森の竜種を倒すという功績、そして一番被害を被ったシモンの一言が教師たちの決断を揺るがせた。

 

 

「エミリィの魔法が、俺たちを救ってくれたんだよ」

 

 

そう言われてしまえば、どうすることも出来なかった。

そのため結局エミリィの処分は停学三日という比較的軽く収まったのだった。

その時、赤くなった顔を逸らしながらも素直に小さく「ありがとう」と呟くエミリィの姿はコレットたちの心に残ったのだった。

こうして学園に緊張を走らせた事件は、大々的な問題にはならずに極めて小さな問題として片付けられたのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。