魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第111話 俺を信じろって言ってんだよ

この状況を乗り越えられる手段が明確にあるわけでもない。

コレットたちは無茶だと叫ぶが最もな意見だろう。

正直何故恐怖が込み上げないのかが不思議な気分だった。

ひょっとしたら自分は昔からこの様な状況に慣れていたのかもしれない。そしてそんな状況が嫌いではなかったのかもしれない。

なぜなら恐怖の代わりに衝動が込み上げた。

自分よりも数倍大きな敵を前にして、シモンは口元を吊り上げながら立ち向かう。

そして魔獣も巨大な爪を振り上げてくる。

 

「さあいくぜ、デカ鳥! お前の行いは天が許しても、この俺が・・・「「「何やっているんですか(のよ)!?」」」・・・・へっ?」

「早く逃げるんですよ!!」

「立ち向かってどうにかなる相手ではありませんわ!」

 

シモンが立ち向かおうとした瞬間後ろ襟を引っ張られて、シモンは間一髪で魔獣の爪から逃れることが出来た。

 

「な、なにをするんだよ!?」

「それはこちらのセリフですわ! 魔法も使えないのに特攻してどうするのですか!?」

「とにかく無理でも逃げなきゃダメだよ!!」

「早く! またブレスが来ます!!」

 

シモンを抱えて三人は有無を言わさずにその場から飛び出した。

コレットも気合が最初は入っていたものの、森に来る勇気と、竜種と戦うのではまったくの別の話だった。

しかし獲物を見つけた魔獣が逃してくれるほど甘くは無い。直ぐに巨大な翼を使い後を追いかけてくる。

 

「バカ野郎! 逃げるのが無理なら戦って無理を通せ!」

「落ち着いてください! 同じ無理なら逃げることを優先しましょう!」

「何言ってやがる! 逃げてちゃ何にも掴めないんだよッ!!」

「!?」

「ん? このセリフどこかで聞いたような・・・、とにかく! 敵に背を向けるのだけはやめようぜ!!」

 

シモンがベアトリクスたちに抱えられながらも後ろから迫り来る魔獣に立ち向かおうと言い張るが、ベアトリクスとコレットは聞き入れずに箒のスピードを上げながら振り向きざまに呪文を放っていく。

しかしそのどれもが魔獣の障壁の前に消え去っていく。

 

「ダメだよ! 全然効かない!」

「くっ、・・・このままでは・・・・。しかし竜種を相手に我々だけでは・・・・」

 

ベアトリクスが歯軋りする中、ふと視線を横にずらした。するとそこには箒に跨りながらもブツブツと何かを呟いているエミリィがいた。

 

「お嬢様?」

「逃げては・・・・何も掴めない・・・・。背を向けるな? ・・・・・・上を見ろ?」

「?」

「・・・・・・・ぐっ!!」

「お嬢様!?」

「ちょっ、委員長!?」

 

その瞬間エミリィはもの凄い形相でUターンし、魔獣に真っ向から突っ込んでいく。後ろからコレットとベアトリクスが叫ぶがエミリィは構わずに突っ込む。

 

「タロット・キャロット・シャルロット!!」

「ちょっ!?」

「お嬢様! 詠唱の時間が足りません!」

 

魔獣に向かいながら強力な呪文の詠唱をしようとするエミリィだが、強力な呪文には相応の時間がかかる。その時間を与えてくれることなど実戦では難しい。

現に魔獣は鋭い爪でエミリィが詠唱を唱える前に攻撃しようとしている。

 

「させねえ!!」

「えっ!? シ、シモンさん!?」

「ア、 アニキ!?」

 

エミリィが魔獣の爪で切り裂かれるかと思った次の瞬間、シモンの体から螺旋力が無意識に溢れ出し、その力が背中に天に向かって突っ込むブースターが現れた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

ベアトリクスとコレットがその変化に驚き、思わずシモンの体から手を離した瞬間、シモンの背中の仰々しい鉄の翼が火を噴きエミリィの体を掴み、魔獣の爪から逃れて遥か上空に飛び逃れた。

 

「こ、この力は一体!? シモンさん、あなたは一体・・・」

「分からからねえけど、とにかく気合だ!」

「私は真面目に! ・・・っていけません!?」

「まずい!? コレット! ベアトリクス!」

 

遥か上空にシモンに抱えられて逃れたエミリィは、目をパチクりさせてこの状況を知ろうとしたが、最早何が何だか分からなかった。

しかし考えている暇は無い。

真っ直ぐ向かったエミリィを高速で捕まえて上空に逃れたシモンの動きを魔獣は把握できずに、獲物が目の前で消えてしまったような感覚だった。

しかしまだ目の前には獲物が二人居る。

コレットとベアトリクスだ。

魔獣は構わずにそのまま二人に襲い掛かる。

 

「ちょちょ、来たァァーーーーー!?」

「くっ!?」

 

二人もシモンの力に一瞬呆けたものの、慌てて向きを変えて再び逃げ出した。

 

「コレット・・・・ベアトリクス・・・・そんな・・・・」

「直ぐに追いかけるぞ! あのデカ鳥を叩き落すぞ!」

 

シモンは直ぐに二人を救出するために動こうとするが、エミリィは悲しい表情を浮かべて肩がブルブルと震えている。

エミリィは空を飛ぶことが出来るはずだが、シモンが抱えた手を離せばこのまま無抵抗で地面に叩きつけられるのではと思うほど、エミリィの全身から力が抜けていた。

 

「お前何やってるんだよ! お前の仲間が危ねえんだぞ!?」

「そうです・・・・私の所為で・・・・私が・・・・私がこんなバカなことをしたから・・・・・・」

「おい! 泣いてる場合じゃないだろ!」

 

シモンの腕の中で涙を流すエミリィ。しかしその間にも魔獣は徐々にコレットたちとの距離を詰めている。

 

 

「クソ! 抱えて飛ぶのは少し重いけど・・・・・」

 

 

シモンは仕方なくエミリィを抱えたまま魔獣の後を追いかける。

シモンが背中の翼に火を付けて再び飛び出した。エミリィを抱えている分スピードは落ちるが仕方ない。

とにかく原理は分からないが「速く、速く」と心の中で叫びながら必死に空を駆けていく。

だが前を行く魔獣に追いつくには、もう少し時間がかかりそうである。

 

 

「おい、いつまでそうしてるんだ! 「ですがッ!!!」・・・・・?」

 

 

腕の中で泣くエミリィに声を掛けると、エミリィは泣き顔で腫らした顔を勢いよく上げた。

 

 

「ですが、・・・・全ては私のくだらないプライドと意地・・・そして無謀と無力が引き金にあなたたちを・・・・・」

 

「・・・・・・お前・・・・・」

 

「あの日・・・あの子に偉そうに説教をした挙句に破れ・・・・自分がただの大口叩きだと知らされて、・・・とことん自分の無力を実感させられ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「立派な魔法使いへの道など、最初から私ごときでは・・・・私ごときでは進めない道だったのです!!」

 

 

プライドの高い彼女にとって生まれて始めての泣き言かもしれない。

エミリィはそれほど弱々しくシモンの腕の中で、自らを卑下しながら泣いた。

 

 

「・・・バカ・・・・」

 

「あっ・・・・・・・」

 

「バカ野郎・・・・・」

 

 

するとシモンは小さく呟いてエミリィの頭に手を置いた。そして子供をあやす様に軽くポンポンと叩く。エミリィも少しビクッとしたが、シモンのゴツゴツとした手に黙って撫でられ、胸の中に顔を埋めた。

 

 

「・・・私は・・・・何を信じれば・・・・・」

 

 

しかし次の瞬間エミリィの嗚咽が少し落ち着きだしたのを見計らって、シモンはエミリィの整った髪の毛を乱暴にクシャクシャに掻き乱した。

 

 

「な、なななにを!?」

 

「バカなこと言ってるんじゃねえよ! 躓いて転んだくらいで、歩くのを止めてんじゃねえ!」

 

「は、・・・はあ~~?」

 

「・・・・俺は良く知らないけど、お前は負けて少しだけ前へ進めたんじゃないのか?」

 

「えっ?」

 

「お前は負けて知ったことが山ほどあった。それはこれから克服していけばいいじゃないか。まだやり直しが出来るんだろうが! どこの誰かも分からねえ男の胸にいつまでも寄りかかってるんじゃねえ! 進んだ先にあるものを掴みたいからお前は今日ここに来たんじゃないのかよ?」

 

「ち、違います・・・・私は・・・私はただ・・・雪辱を晴らしたく・・・・ただの無謀な修行を・・・・」

 

「だったら晴らせ! 相手にじゃない! お前自身にだ! お前が見損なったお前自身を見返してやれ! お前が無謀だと決め付けたお前自身の常識を見返してやれ!」

 

 

シモンはそう言って魔獣へ向かって指を指す。

 

 

「俺も手伝う! 倒すぞ、あの魔獣を! 仲間を救ってなッ!」

 

 

しかしシモンに頷くことは簡単には出来なかった。

 

 

「ダ、ダメですわ・・・・私の・・・・私程度の魔法では・・・・」

 

 

散々思い知らされたのだ。

自分ではどうにも出来ないことなど自分が一番分かっていた。

しかし、そんな諦観はこの男が許さない。

 

 

「バカ野郎!! 魔法使いがテメエの魔法を信じられなくってどうする! お前の魂と気合をぶつけてやれ!」

 

「た、・・・・魂?」

 

「そうだ。魔法は、お前の魂だ! だから自分を信じろ! お前が信じて進んできたこれまでの全てを信じろ!」

 

 

その時シモンの頭の中で、砕け散ったと思っていた記憶の結晶が蘇った気がした。

 

――いいか、シモン。忘れるな・・・・

 

自分に向かって語りかける男。

 

「いいか、エミリィ!!」

 

その時シモンは始めてエミリィの名前を呼んだ。

名前を呼ばれて少しドキリとするエミリィ。

そしてシモンは自然の流れに従い、記憶の欠片から流れてきた言葉をそのままエミリィに向かって叫ぶ。

 

 

「お前を信じろ!!」

 

―――俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる――――!!

 

「お前が信じる、お前を信じろ!!」

 

 

流れる記憶に従い、何の迷いもなく告げるシモンはエミリィの心の中に突き刺さった。

 

「ふっ・・・・ふふ・・・・」

「エミリィ?」

「ふふ・・・・ふふふ」

 

その時エミリィは笑った。

それはいつものように高飛車で高慢な笑い方ではない。

普通の年相応の少女のような笑顔でシモンを見る。

 

「似ていますね・・・・あなたは・・・・」

「似てる? 誰にだ?」

 

エミリィの脳裏に美空の姿が浮かぶ。

正確にはシモンが似ているのではなく、美空がシモンに似たのだが、知るはずも無いエミリィは思ったままのことを口にする。

 

「私のプライドを粉々に砕いたあの子にです・・・・。無茶苦茶なのに・・・・何故か筋が通っている・・・・」

「・・・・はは、そうなのか?」

「私をどん底に落としたあの子に似ているあなたが、今度は私を下から押し上げてくださるとは・・・・変な話ですわね」

 

少し自嘲気味に呟くと、エミリィはシモンの手から離れ、自らの力で箒に跨り空を飛ぶ。

並んで飛ぶエミリィの表情には、どんどん力強さが漲っていく。

 

「でも、そこから這い上がるのはお前次第だぞ?」

「当然ですわ! ・・・・・・誰に・・・・・誰に向かって言っているのですか!」

 

その言葉は以前のように自惚れから言った言葉ではない。

ハッタリでもない。

自分自身の力を知っても立ち向かおうとする、己を奮い立たせようとする言葉だった。

シモンも頷き、共に全速全快のスピードで魔獣の後を追いかける。

 

「シモンさん! 私が攻撃して魔獣の障壁を上にずらします。貴方はその隙に魔獣の弱点である角を攻撃してください!」

「弱点だと?」

「ええ、魔獣の頭部にある角を刺激すれば魔獣といえども只では済まないはずです。」

「なるほど、連携攻撃ってわけだ」

「ええ、・・・・・危険かもしれませんが・・・・その・・・」

 

するとエミリィは少し顔を赤らめながらシモンに告げる。

 

「て、手伝ってくれるのでしょう? 魔法使いの魔法を生かすも殺すもパートナーの役割なのですよ!」

「パ、パートナ~~?」

「そそ、そうですわ! 何か問題でもあるのですか!?」

「いや・・・・まあ・・・別にいいけど・・・・まあ、どうでもいいからさっさとやるぜ! コレットたちがやられちまうぞ!」

「ええ! では行きますわよ!」

 

二人は互いに笑いあい、短時間で互いの役割を決め頷き合った。

 

「では、あなたが信じるに値する方かも見定めさせてもらいますわ」

「ああ! それじゃあ、いくぜ!」

 

シモンとエミリィはそのまま分散した。

エミリィはそのまま魔獣の上空で詠唱を唱える。そしてシモンはスピードを上げて魔獣を追い越し、コレットとベアトリクスの正面に止まり、魔獣を迎え撃つ。

 


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