魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第110話 教えてやる! 俺が忘れた俺自身をな!

「はあ、はあ、はあ・・・・・くっ、・・・・こんなところで・・・・・」

 

アリアドネーの市街から離れた魔獣の森には、地元住民でも気安く中に入る愚か者など居ない。

しかし森の奥深くで一頭の巨大な魔獣と向かい合う少女がいた。

破れた服と疲弊した表情、しかし足掻こうとする意思は捨てずに杖を握り締めて立ち向かっていた。

 

「こんなところで終わってなるものですか!!」

 

杖を握り締め、呪文をエミリィは唱える。

 

「グルル・・・」

 

獰猛な魔獣は目の前の獲物を狩るべく、巨大な鉤爪を光らせその嘴を開き、エミリィに襲い掛かる。

エミリィは向かってくる魔獣に真っ向から魔法をぶつける。

 

「氷の精霊(セプテンデキム・スピリトゥス) 17頭(グラキアーレス)!! 集い来りて(コエウンテース) 敵を切り裂け(イニミクム・コンキダント)!! 魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾(セリエス)・氷の17矢(グラキアーリス)!!」

 

魔法の氷の矢がエミリィから放たれ魔獣に襲い掛かる。

しかし魔獣は避けようとせず、真っ直ぐにエミリィに向かってくる。

そして氷の矢が着弾するかと思われたその時、氷の矢は魔獣に触れることなく、魔獣が常に覆っている障壁の前に無となった。

 

「くっ、風障壁!?」

 

攻撃は全てが魔獣の前に無力と化した。

悔しさで歯軋りするエミリィ。しかし何時までもそうしているわけには行かない。

魔獣の鉤爪が自身を切り裂く前に、エミリィは見事な箒捌きでその場から飛びのいた。しかし箒でその場から離脱しても、魔獣は背にある巨大な翼を羽ばたかせエミリィを逃さずに追ってくる。

 

「追ってくる・・・・、やはり私のレベルではこの森は・・・竜種を倒すことは出来ないというのですか?」

 

箒に跨り、後から迫り来る魔獣を見てエミリィは拳を握り締める。

 

「くっ、何がエリートですか・・・何が魔法使いですか・・・・、自らを鍛えるどころか・・・・身を守ることも出来ずに逃げ惑う・・・・なんて無様・・・」

 

自分自身を罵り、エミリィは数日前の出来事を思い浮かべる。

 

「ふっ、プライドを粉々にされ・・・雪辱を晴らすために鍛えようと乗り込んだ森で、何も得られずに、残された命すら失うというのですか?」 

 

目を瞑り、まぶたの裏に映し出されるのは、自分をどん底に叩き落した少女の姿。

 

「負けるものですか!! タロット・キャロット・シャルロット!! 来れ氷精 爆ぜよ風精 氷爆(ニウィス・カースス)!!」

 

浮かぶ美空の姿を振り払おうと、エミリィは飛行しながら振り向き様に呪文を放つが、その全てが魔獣の障壁の前にかき消されていった。

 

「そ、そんな・・・・」

 

何事も無かったように魔獣は口を開ける。そして嘴に収縮したエネルギーを一気に放出する。

 

「カ、カマイタチブレス!? 氷盾(レフレクシオー)!! ぐ・・・・ぐっ・・・・」

 

魔獣から放たれた強力なブレスをエミリィは障壁を張って防ごうとするが、その威力を完全に消し去ることなど不可能だった。

やがて障壁は砕け散り、エミリィは勢いよく森の中を吹き飛ばされ、森の木々と共に激しく舞い、巨大な大木に打ちつけられた。

 

「がっ、がはっ!?」

 

背中を打ち付けられて横たわるエミリィ。体を踏ん張って起こすものの、痛みが全身を駆け巡り思うように動かすことが出来ない。

 

「はあ、はあ、はあ、・・・・・これが立派な魔法使いを目指して進んできた私の道の終端ですか?」

 

前には巨大な翼を羽ばたかせて、もう一度口を開きブレスを放とうとする魔獣。

 

「私は・・・私は・・・・何のために・・・・・・・」

 

その姿にエミリィは握っていた杖を下に落として、動かなくなった。

 

「ぬるま湯の世界に居たのは・・・・落ちこぼれは・・・・・私のほうでした・・・・」

 

不思議と恐怖は無かった。

今のエミリィは自分自身への失望からの涙しかあふれ出なかった。

何も出来ず、何も残せずに終わる短い自分の人生に呆れかえっていた。

 

「これが・・・これが私の限界なのですね」

 

自分のこれまでの人生をその一言にまとめてエミリィは目を瞑った。

何もかもあきらめて、全てを切り裂く魔獣のブレスを待つ。

障壁も何も無い生身の肉体で受ければバラバラにされるだろう。

しかし抵抗はしない。

今のエミリィの魔法でどうにも出来ないことは、身をもって思い知ったからだ。

 

「グワゥゥゥゥ!!!!」

 

雄たけびと共に風が舞い上がる。そして魔獣がブレスを放つ。

しかしその時、エミリィの目の前に一人の男の背中が現れた。

 

「何度も言わせるな! 上を向きやがれ!」

 

ハッとなり前を向くエミリィの前には、シモンがいた。

 

「あ、あなたは!? 何故ここに!?」

 

そして現れたシモンは勇ましく叫び、両手を魔獣が放ったブレスに向けて伸ばした。

 

「あきらめたらそこで終わりだぞ!! 絶望すんのは、俺を見てから決めろ!!」

 

ただ両手を伸ばしてブレスを防ごうとするシモン。だが、それに何の意味も無いことはエミリィには直ぐに分かった。

障壁どころか初級の呪文も放てないシモンなど、次の瞬間バラバラにされて終わりだと分かった。

しかし、突如シモンの体から溢れ出した緑色の光の壁が、魔獣の強力なブレスを防いでしまった。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

「なっ!? なぜあなたが竜種のブレスを防げるほどの・・・。その、その光は!?」

 

シモンは詠唱など唱えていない。只叫んで両手を前に伸ばしただけである。

しかしその結果、魔獣のブレスを正面から防いでいる。

その力と光はエミリィには理解出来ぬものだった。

 

「この力は何かだと? そんなもの俺だって知らな・・・いや、これは・・・・・この胸の高鳴りは・・・そうだ・・・これが・・・・」

 

シモンが無我夢中で放ったのは螺旋フィールドである。

記憶を失っても膨大に増え続けるシモンの螺旋力が無くなることは絶対にない。

頭で覚えていなくても、シモンの胸の中が覚えていた。

 

 

「これこそが気合だ!!!!」

 

 

やがて魔獣のブレスは止み、辺りがシンとなった

そして魔獣は宙から見下ろし、直ぐに襲い掛かることはせず、まるで現れたシモンに警戒しているようだった。

 

「お嬢様!」

「委員長~~~! 良かった! 無事だったんだね!」

 

そしてシモンに続き、箒に跨ったコレットとベアトリクスが駆けつけた。

 

「ベアトリクス!? それにコレットまで・・・・・・何故・・・・ここに?」

「何故ここにじゃないよ! 委員長が森に向かったって聞いて助けに来たんだよ!」

「ええ、ご無事で何よりです。しかし・・・鷹竜(グリフィンドラゴン)とは・・・・」

 

ベアトリクスは目の前で羽ばたく魔獣を額に汗を流しながら見る。それは自分たちの力を遥かに超えた脅威だと知っているからである。

 

「それにしてもアニキ、今のは何なの!? いきなりベアトリクスの箒から飛びおりて、切り刻まれるかと思ったらブレスを防いじゃうんだもん!」

 

一方コレットは、シモンがたった今見せた力が気になり問い詰めようとする。しかしシモンは上手く説明できずに「気合」と一言で済ます。

勿論エミリィもベアトリクスも興味があったが、今は目の前の魔獣が先決だった。

 

「その話は後にしましょう。早くお嬢様を連れて離脱しましょう」

「ベアトリクス・・・しかし・・・この時期の鷹竜から逃れることは・・・・・」

「そそそ、そうだよぉ~~! どうすんの!?」

 

自分の所為で友を巻き込んでしまったことにエミリィが後悔し、顔を落とす。そしてベアトリクスとコレットも何の計画もなしに飛び出してきたこの状況をどうやって乗り越えるかを必死で考えようとする。

しかしシモンは何も考えずに足を前に踏み出した。

 

「やることは・・・・決まってるさ!」

「ちょちょアニキ!?」

「シモンさん!?」

「無茶です! 我々の力では、竜種を倒すことなど・・・・・」

 

無理に決まっていると言おうとしたが、エミリィがその言葉を言う前に、シモンが叫んだ。

 

 

「それがどうしたってんだよッ!!!!」

 

「「「!?」」」

 

 

たとえ周りがなんと言おうと、自分が何者であろうと心は決まっている。

目の前の壁から逃げ出すことが出来ない性質が心に染み付いていた。

シモンは魔獣とエミリィたちに、そして自分自身を奮い立たせるために腹の底から声を出す。

 

 

「無茶を承知で無理をする! 意地と度胸で貫き通すが男意気! 不屈の魂紅蓮と変えて、示して見せるぜ心意気!!」

 

 

指を魔獣に向かって指し何の迷いも無く叫んだ。

 

 

「教えてやる! 俺が忘れた俺自身をなッ!!」

 

 

勿論シモンが何者かなどこの場に居る全ての者が知らない。

それはシモンも知らない。

だが今、シモンが何者なのかを自分自身で証明する。

 

 


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