魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第109話 俺が行くって言ってんだよ

「ああ~~、それ多分委員長だね」

「委員長?」

「そっ、エミリィっていってね、そんな氷系の強力な魔法を使えるのは委員長だけだよ」

「それにしても最近顔出さないって思ったら、夜な夜な特訓してたなんて、よっぽど悔しかったんだね~」

 

午前中は何の成果も出せないまま、シモンはコレットや、そのクラスメートと共に食堂で食事を取っていた。

休日であるため、ほとんどの生徒たちは外出中のため普段は混雑しているであろう広々とした食堂も人がいない。

まだシモンの存在がそれほど学園に広まっていなかったが、学園に居る生徒たちは少数のため、何故女子校に男がいるのかなどで騒ぎが起きることはなかった。

そのためシモンたちは堂々と食事を取っていた。

そしてその時、シモンは昨晩出会ったエミリィのことについてコレットたちに尋ねた。

 

「でも、あのプライド高いエミリィにゼロのお兄さんが口出ししたら、そりゃあ怒るって」

「ゼ、ゼロ? そのあだ名はもう確定なのか?」

「まあいいじゃん、ひょっとしたら実は失われた伝説の古代魔法が使える~、なんて展開かもよ?」

 

ケラケラと笑う少女たちに反論できず、シモンは何も言い返さずにため息だけを吐いた。

 

「魔法か~、全然ピンと来ないんだけどな~」

「そりゃあお兄さんは才能なかったっポイしね~」

「うっ、・・・・はっきり言うんだな~。でも、それじゃあエミリィって子は? いや、それ以前に俺はお兄さんじゃなくてアニキだ!」

「うん、私やアニキと違って委員長はこの学園でもトップクラスの実力を持っているエリートコースまっしぐらの魔法使いだよ♪」

「そうそう、・・・でも・・・この間の出来事がきっかけで、最近変わっちゃったみたいだけどね・・・・・。それとアニキってヤダ。お兄さんはアニキって呼ぶには頼りなさそうだし」

「うん、コレットは仲良くなったよね~。たしか名前は・・・・」

 

ごく最近に起こった衝撃的な少女の存在。

風のように速く、竜巻のように荒々しく、紅蓮の炎の魂を持った少女。

その名前を口にしようとした時、この食卓に第三者が現れた。

 

「ここ、いいですか?」

「あっ、ベアトリクスじゃん。エミリィ一緒じゃないの?」

「ええ、お昼を取らずにどこかへ出かけられたようで・・・・」

「ふ~ん。委員長のダメージは未だ回復せずか~」

 

食事を載せたトレイを持ち、ベアトリクスは空席の多い食堂の中で、コレットたちのいるテーブルに近づき腰を下ろした。

それは単に一人で食べるのが嫌だったからではない。どうしてもベアトリクスはコレットと一緒に居るシモンに聞かなければならないことがあったのである。

 

「あの・・・シモンさん・・・・」

「えっ? えっと・・・・」

「あっ、この子はベアトリクスっていって、私達のクラスメートで、アニキが事故に合った時、一緒に学園まで運んでくれた子なんだよ」

「そうなのか? そっか、それはありがとな」

「いえ、お気になさらずに」

 

そう言ってベアトリクスは一度間を置いた。

そして一度小さく息を吐き、昨晩の出来事を尋ねた。

 

「あの・・・昨晩お嬢様と何があったのですか?」

「・・・・・・えっ? ・・・・・お嬢様?」

「お嬢様ってのは今話していた委員長のことだよ」

「そうなのか? でも・・・・何かあったかって・・・・少し話しただけで、その子は怒って帰っちゃったから・・・・」

 

ただ「上を向け!」と一言言っただけである。しかしたったそれだけでもプライドの高いエミリィには失言だったのかもしれない。

シモンはもう一度昨晩の自分の発言を思い返してみる。

 

 

「う~ん・・・不思議だな、・・・・・・そもそも何で俺はあんなこと言ったんだろう・・・・」

 

 

見ず知らずの少女に向けて言う言葉ではなかったのはたしかだ。

しかしシモンは下を向くエミリィに、何故か自然に言葉を発してしまった。

「上を向け!」その言葉に何か自分を見つけるヒントのようなものが隠されているのかもしれないと、シモンが頭の中で想像していく。

しかしその時、人の少ない食堂の扉が勢いよく開かれた。

乱暴に開けられた扉の音が食堂に響き、コレットたちが一斉に扉へ視線を向けると、学園の生徒の一人が激しく息を切らせながら立っていた。

そして少女は切羽詰ったような顔を見せて、大声で叫んだ。

 

「たた、大変だよ~~~! エミリィが・・・・エミリィが魔獣の森に一人で!!!」

 

悲鳴にも聞こえるような少女の叫びに、コレットたちは一瞬反応できなかったが、すぐに理解し顔色を変えた。

 

 

「えっ・・・・・」

 

「なっ・・・・・・」

 

「なんだっ・・・て・・・」

 

「「「「何イイ!!??」」」」

 

 

生徒たちが少ないにも関わらず、その叫びは学園に響き渡るほどの大きさだった。

 

「どど、どういうことです!? なぜお嬢様が!?」

「それが外でブラブラしてたら、委員長が箒に乗ってすごいスピードで魔獣の森に向かって一直線に飛んでいるのを見て!」

「な、なんで止めないのよ!?」

「止めようとしたよ! でもエミリィのスピードに追いつけなくて・・・・だから助けを呼ぼうと・・・。でも休日だから先生も外出してて・・・・私・・・・・どうすれば・・・・」

 

ベアトリクスたちに肩をつかまれる少女。しかし彼女は髪の毛がボサボサで、激しく息を切らしている。恐らく誰か助けを求めようと必死でここまで来たのだろう。

どうすればいいのかと慌てる少女たち。そこにシモンが話の内容がよく分からずに尋ねる。

 

「その・・・・魔獣の森って?」

「えっと・・・・街の外にある広大な森で・・・・。その森には強力な魔獣がウヨウヨいて、・・・・」

「はい・・・私たちも生徒だけでは絶対に近づかないようにしている森です・・・・」

 

『魔獣』その単語に聞き覚えはない。しかし魔法を扱える少女たちですらこれほど慌てているのである。その危険性、そしてエミリィの安否がシモンにも一瞬で理解できた。

 

「な、・・・なんでそんなところに・・・・」

「おそらく・・・修行のつもりでしょう・・・・。しかしこれは無謀です! 一刻も早く助けに行かねば!」

「そういえばエミリィ・・・・すごく怖い顔してたような・・・・。でも、どうしよう!? もし、エミリィに何かあったら・・・・」

「とにかく急いで先生を探しましょう! このままではお嬢様が・・・・」

「それじゃあ、間に合わないよ!?」

 

どうすればいいのかと右往左往する少女たちは誰一人として正常に考えることが出来ないほど慌てていた。

どうすればいいのか。

悩んでいる暇もない。

しかし頼りになる大人もここにはいない。

ただジリジリと時間だけが過ぎようとしたその時だった。

 

 

「・・・・・俺が・・・・俺が行く! 」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

その言葉に少女たちは時が止まったのかと思えるほど固まってしまった。

 

「ちょっ、アニキってば何言ってんの!?」

「そうだよ! 行くっつったってゼロのお兄さんがどうにか出来るレベルじゃないって!?」

 

当たり前の事だった。

自分たちですら足を踏み入れない領域に、魔法を一切使えないシモンがどうして行くのかと誰もが思ったことだった。

 

 

「それでもだッ! 俺が行くって言ってんだよ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

 

しかし、シモンの目に一切の揺らぎはない。

只の強がりやハッタリで言っていることではない。それほどの意思を少女たちもこの男から感じ取った。

 

「アニキ・・・・なんで?」

「そ、そうだよ・・・昨日知り合っただけのお兄さんが何で・・・」

 

するとシモンはフッと小さく笑って立ち上がり、扉から出て行こうとする。

 

「なんでだろうな・・・・少し怖いかもしれないけど、ここで行かないと俺は・・・俺は裏切ってしまうような気がしてな・・・・」

 

少女たちとすれ違いざまにシモンは呟く。

その言葉に反応してコレットがシモンへ聞き返した。

 

 

「・・・・裏切るって・・・・何を?」

 

 

するとシモンはニヤリと笑って少女たちに告げる。

 

 

「・・・・何かに! そして誰かにだよ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

「俺にも分からない・・・けど、そいつだけは裏切っちゃいけない・・・・そう俺の心が叫んでいるんだよ・・・・」

 

 

シモンは自分自身でも理由はよく分かっていなかった。しかしここで引き下がってしまえば自分は確実に何かを裏切ってしまう。そのことだけは、記憶を失っても自分の心が叫んでいた。

 

「・・・・しかし・・・・足手まといです」

「えっ?」

「ちょっ、ベアトリクス!?」

 

するとベアトリクスは箒と杖を手に持ち、ローブを羽織って扉の前に立ってシモンの行く手を遮った。

 

「・・・私が行きます。・・・あなたはここに残って先生たちを探してこのことを伝えてください」

「ベアトリクス・・・・」

 

冷静な口調でシモンを戦力外と告げるベアトリクス。

その判断は間違っていない。

だが、一度決めたらこの男は曲げることはない。

 

 

「お前の足を引っ張るのなら、置いていけ! だけど俺は自らの足で辿り着いてやる!」

 

 

引くこともない。

 

「アニキ・・・・・・」

「お兄さん・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

無謀に決まっている。

 

無茶に決まっている。

 

無理に決まっている。

 

しかし・・・・

 

 

(な・・・なんで? 魔法も使えないのに・・・・・危険なのに・・・・。このお兄さんが・・・)

 

(地味で、パッとしない・・・・落ちこぼれのこの人が・・・・)

 

 

少女たちは改めてシモンを見定める。

 

 

(自分が誰かも知らない・・・・・頼りにならなそうなアニキが・・・)

 

 

コレットも自分の目でもう一度シモンを見る。

 

 

(今日初めて知ったこの方が・・・・)

 

ベアトリクス、そしてコレットや他の生徒たちは心の中で同じことを思った。

 

 

((((この人が今、・・・とても頼もしく感じる!! 何とかしてくれる気がする!))))

 

 

そしてベアトリクスは遮った手を下ろしてシモンの隣に並ぶ。

 

 

「覚悟は・・・いいのですか?」

 

 

聞くまでもない問いかけだが、シモンは当たり前の答えを当たり前に答える。

 

 

「当たり前だ! 俺の覚悟は記憶を失う前から出来ているはずだ!」

 

 

その答えを聞いて、ベアトリクスが微かに笑ったような気がした。しかし次の瞬間にいつもの表情に戻った。

 

「では行きましょう! 私の後ろに乗ってください! 飛ばしますから落ちないでくださいね」

「ああ! それに仮に落ちても、大地を這いつくばってでも辿り着くさ!」

 

二人は頷きあい扉の外へ駆け出した。

その二人の後姿をコレットたちは呆然と見ていたのだが、コレットはこの時、数日前の出来事を思い出した。

あの時友達になった美空との約束を思い返す。

「本気になる」それが自分の誓った言葉だった。

その言葉に嘘は無い。

美空の姿に自分も憧れたのは事実だった。

そして本気になったのなら今の自分には何が出来るのか?

それは急いで大人を探して森へ救助に向かってもらうことか?

ここでエミリィの無事を祈っていることか?

駆け出した二人の背中を黙って見送ることか?

 

(私は・・・魔法が使える・・・・)

 

シモンは魔法が使えないのに飛び出した。

自分は魔法使いだから魔法を使える。そして魔法使いのすべきことは何か?

 

(でも私は落ちこぼれだし・・・才能だって委員長より数段劣ってるし・・・・)

 

足がガクガク震えてきた。

やるべきことは分かっているはずだが、言い訳だけが浮かんで一歩を踏み出せない。

しかしもう一度コレットは美空を思い出す。

 

「魔法使いとしての資質が劣っても、胸に秘めた気合と魂、そして背負った誇りのデカさじゃ負けねえっすよ!!]

 

その言葉を思い出し、コレットは頭を振り恐怖を紛らわし、一歩前へ足を出し、そのまま前を走る二人の後を追った。

 

「待って! 私も、私も行くよーーーーーーーー!!」

「ちょっ、コレット!?」

「みんなは先生を探して報告しておいて!!」

 

ようやく彼女にも火がついた。

美空が火をつけ、シモンが油を注いだ。

燻った心が炎上し、コレットは前へ前へと進んだ。

 


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