魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第108話 ゼロ

どんな世界も日が一度沈めばまた登る。それは異世界でも変わらない。そして今日は昇った朝日と共に一人の男の気合が沸きあがっていた。

今日は休日のために本来なら生徒たちは寝ているか、外に遊びにいくかのどちらかである。休みの日にも訓練や勉強をするものはごく僅かである。しかし今、一人の生徒の部屋の中で男の雄叫びのような詠唱が、寮内に響き渡っていた。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「アニキ、掛け声は必要ないってば!」

 

「いくぜ! 飛行(ウォラーティオー)! 浮遊(レウォターティオー)! 箒よ飛べ(スコパエウォレント)! うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

奇妙な光景だった。

既に二十を超えている男が箒に跨って呪文を唱えながら唸っている。

しかし男の気合とは裏腹に、箒は微動だにしなかった。

 

「これはどうだ! プラクテ ビギ・ナル “火よ灯れ(アールデスカット)! ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」

 

そして今度は小さなかわいらしい子供用の杖を握り締めながら血管が破裂しそうになるぐらい力を入れるが、微塵も変化はなかった。

 

「はあ、はあ、はあ・・・・ダメだ・・・・」

「うう~~ん、簡単な魔法の使い方まで忘れているなんて・・・・・これも事故の影響なのかな・・・・」

「ぶ・・・・・ぶう~~~」

 

コレットに借りた杖と箒で初心者の初級呪文を唱えてみたが、シモンは何一つ扱うことが出来なかった。

といってもそれは至極当然の話で、シモンは元々魔法など使えないのだが、自分に責任を感じてコレットは顔が暗くなる。

シモンはシモンでいまいちピンと来ないものの、コレットの提案に従い何かを思い出すかもしれないということで、朝早くからコレットの部屋で魔法の練習を行うが結果は燦々たる物でどうしたものかと考えていた。

 

ブータだけが、全てを知っているものの、何も言うことができずにシモンの無駄な行為にため息をついていた。

 

「ははは、全然ダメじゃ~ん。そんな簡単な魔法も使えないの~?」

「も~、朝から五月蝿いって~。それにしても・・・ふ~ん、その人がコレットが怪我させた人? 顔は~・・・・普通だね」

 

コレットとシモンが悩んでいると、コレットの部屋の扉をノック無しで同じ学園の少女たちが集まってきた。

どうやら皆、事故の噂を聞きつけ集まってきたようである。女子校ではあるが皆男であるシモンに大した警戒心は見せず、魔法を使えないシモンを笑いながら近づいてきた。

 

 

「もうみんな~、笑い事じゃないよ~。シモ・・・じゃなくてアニキは魔法が一つも使えなくなっちゃったんだよ? これじゃあこれからどうすればいいか・・・・・」

 

 

注・元々シモンは使えない。ブータがそんな顔をしてコレットを見ている。

 

すると生徒の一人が本を取り出してシモンに差し出す。何やら字もとても大きく、表紙の絵も子供っぽい。どう考えても子供向けの本だ。

 

 

「ほら、これ貸してあげるからもう一度魔法の勉強してみたら? お兄さんはあまり優秀じゃなかったみたいだけど、これぐらいのレベルなら大丈夫だよね♪」

 

 

その言葉に嫌味は込められていない。恐らく記憶を無くし、魔法が一つも使えずに悩むシモンのために、あえて簡単な魔法書を渡してくれたのである。

だが、それはシモンを更に貶めることとなった。

 

 

「えっ・・・と・・・・う~~ん・・・・・」

 

 

本を受け取りパラパラと捲りながら、シモンは困った顔で再び唸り始めた。

 

「アニキ、どうしたの?」

「・・・・・・・・う~~ん・・・・・・・文字が・・・・・・」

「文字?」

 

これも当然のことだった。

 

 

「字が・・・・分からない・・・・」

 

「「「・・・・へっ?」」」

 

 

そもそもこの世界の住人でないシモンにこの世界の文字が読めるはずがなかった。

 

 

「「「ええええええ~~~~!?」」」

 

 

しかし字まで読めないとは思わず、少女たちは仰天した。

 

「字、・・・字まで読めないの?」

「ちょっ、コレット、・・・・あんたの忘却魔法ってそんなに威力があったの?」

「ダメダメじゃん! 魔法も使えない、字も読めない・・・・出来ることがゼロ! お兄さんは『ゼロのシモン』だね♪」

「えっ・・・ゼロのシモン?」

「それじゃあコレットはゼロの妹?」

「も~~う、本当に笑い事じゃないでしょ!?」

 

あまりにも酷すぎる異名にコレットは反論しようとするが、現時点で反論することは出来ず、シモンの表情は暗くなる。

 

「はあ、俺ってそんなに才能ないんだ・・・・」

「ああ~もう、そんなの分からないって、ほら練習練習!!」

 

年下の少女たちに笑われて落ち込むシモンを励まそうとコレットは奮闘するが、それはかえってシモンの首を絞める行為にしかならなかった。

他の初級中の初級の呪文もその後何度も唱えてみるが、シモンの持つ杖からは欠片の変化も見られずに時間だけが過ぎていった。

そんなシモンの様子を開けっ放しの部屋の扉の外から除き見ている少女が居た。

 

「・・・・ふん、・・・・昨日ずいぶんと分かったような事を言っていましたが、ただの口だけですわね・・・・」

 

物陰からシモンを見つめていたのはエミリィだった。

彼女は心底がっかりしたような表情で、今のシモンを眺めていた。

 

「お嬢様、お部屋からお出になられたのですね」

「・・・・ベアトリクス・・・・」

 

ため息をはくエミリィの背後にベアトリクスが近づいてきた。

 

「心配しました。もう大丈夫なのですか?」

「・・・・ふっ・・・・大丈夫に・・・・見えますか?」

「あっ、・・・・・その・・・・・

「・・・・いえ、今のは意地悪でしたわね。心配掛けてしまいましたね」

 

美空との戦い以来、ショックで部屋に篭っていたエミリィが姿を表したことにベアトリクスは安堵するものの、エミリィが以前のように自信に満ち溢れた表情でないことに気づき、直ぐに顔を暗くした。

そんなベアトリクスの心情に気づいたエミリィは一言謝罪を入れて、直ぐに視線をシモンに戻した。

エミリィの視線の先に気づいたベアトリクスは、その様子に首を傾げながら尋ねる。

 

「あの方は、コレットが轢いてしまった・・・・・、彼がどうかしたのですか?」

「・・・・・別に何でもありませんわ・・・・ちょっと昨晩話を・・・・。今はただ・・・・がっかりしただけですわ・・・・」

「昨晩? あっ、お嬢様!?」

 

一言吐き捨てて、エミリィはまるで興味を失ったかのような目で、その場に背を向けた。

 

(私が下を向いている? 何も・・・・何も知らないくせに! 落ちこぼれなどに言われる筋合いはありませんわ!)

 

そしてエミリィは悔しさで歯を強くかみ締めながらその場を後にする。

そんなエミリィを幼い時からの付き合いでありながらベアトリクスは一度も見たことがなく、とても声を掛けることも、後に続いていくことも出来ず、寂しそうな瞳でエミリィの後姿を見つめていた。

 


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