魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
結局外はもう暗くなっていた。
明日は一応休日ということで、今日はこれ以上無理しないで休み、明日に具体的なことを話し合おうとコレットと決め、その場は解散となった。
そして医務室の窓から散歩に出たシモンは、魔法世界の夜の下で、自分が持っていたコアドリルを夜空に翳しながら眺める。
「それにしても・・・・なんだろうこのドリル・・・・・・すごく・・・ズッシリする・・・・」
シモンは目を閉じてコアドリルを握り締める。
そして闇夜に静寂だけが漂う中、僅かな光がドリルから発し、シモンを包み込んだ。
「なっ・・・これはなんだ!? 何かが・・・何かが俺に流れ込んでくる・・・・」
―――敵機無量大数!!
(何だ・・・これは・・・)
―――表面装甲剥離!!
流れ込んでくるのは、闇夜でありながら、多くの光の粒と爆発で埋め尽くされる世界。
鳴り響くサイレン。
空間に広がる爆音。
駆け巡る顔の大きな機械兵器。
「人」の叫び。
そして慌てふためく人々の前に、一人の男が現れた。
―――うろたえるな!!
屈強な肉体と、強大な覇気に包まれし豪傑は、威風堂々と現れた。
―――ふん、天の光は全て敵、・・・というわけか・・・
無限に点滅する光を眺めて男は呟いた。
―――総司令、アシュタンガ級が数対接近しています!
―――ワシが出よう! グアームよ、ここの指揮権は少しの間お前に委ねよう。
―――かしこまりました。
すると男の肩の上に載っていた一匹の小動物が飛び降りて言葉を話した。
そして男はその場に背を向け雄叫びを上げる。
―――ラゼンガン、スピンオン!! 銀河に轟く螺旋戦士の力を見せてやろう!!
遥か昔から人類は銀河を舞台に争っていた。
広大な宇宙すら埋め尽くす命と兵力が爆炎の中に消えていく。
その中で雄雄しき螺旋族を束ねた一人の男が動き出そうとする。
しかしその時、戦士たちの意識の中に語りかける声が聞こえた。
―――進化の快楽に身を委ねた愚かなる種よ・・・・・
戦士たちは響いた声に反応して辺りを見渡すが、誰もいない。
―――総司令、この声は・・
―――俺たちにも聞こえるぞ!
しかし確かに自分たちは声を聞いた。
―――ほう、・・・・ようやくお出ましか・・・
シモンも流れ込む映像の中で確かに感じ取った。
―――この宇宙に破滅をもたらす螺旋の民よ、その罪の重さを知るがいい。
この声は、どこかで聞き覚えがあった。
―――ふん、声だけでなく姿も見せたらどうだ?
―――貴様が今回の螺旋族の長か? 幾度も幾度も人は繰り返す・・・・。どれほど時が流れようとも、行き着く進化の果てはいつも同じ・・・・。これで何度目か・・・・。
―――何を言っている? 訳も分からぬ理由でワシらの平穏を脅かした貴様らの言うとおりになると思うか!
謎の言葉と共に、光景が歪みだした。
―――ならば知るがよい・・・・この宇宙の・・・・行く末を・・・・
そして総司令と呼ばれた男は頭を抱えて苦悶の表情を浮かべる。
シモンは、覚えていない。しかしこの男を知っている。
(俺は・・・俺はこの男を知っている・・・・・・たしかに・・・どこかで・・・・。)
そしてこの声の主も知っている。
(この光景は知らない! でも・・・でも・・・俺はこいつを・・・こいつらを知っている!!)
男の苦しみにあえぐ姿と共に、シモンも頭に痛みが走る。だが、意地で襲い掛かる頭痛に逆らい、この先にある真実を見ようとした。
―――人は問う
―――何故戦う。
―――何故殺す。
―――何故滅ぶ。
―――その答えを知らぬまま人は死ぬ。
―――それこそが人の幸せ。
再び聞こえる言葉。無機質で冷たいが、どこかあきらめの感情が含まれている気がする。
(なんだ!? 何を言っているんだ、こいつは!?)
苦しみに喘ぐ男に向かって、闇の人影は小さく呟いていた。
しかし、その時だった。
「タロット・キャロット・シャルロット!!」
「!?」
シモンの意識を呼び戻すように、ある一人の少女の詠唱と魔力により、大気の温度が一気に下がった。
コアドリルから流れる映像から開放されたシモンは、慌てて声のした方向へ視線を向けると、まるで星のように大きな氷の球体が、少女の手のひらの上に蓄積され、少女はそれを一気に下へ振り下ろした。
「氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!」
広場に振り下ろされた巨大な氷の惑星。
「な、何ィ!?」
状況を把握できないが、人一人の力によって放たれた異形の力は、シモンを驚かせるよりも血を沸騰させた。
(す、すごい! ・・・こいつ・・・一体何者だ?)
先ほどの回想が頭の片隅に追いやられ、少女の見せた魔法に覚えていないがどこか懐かしくシモンは感じた。
すると少女はシモンを感心させる巨大な魔法を見せたにもかかわらず、その場で地面を蹴り、舌打ちをした。
「ダメですわ、こんな・・・こんな魔法・・・・彼女には当たらない・・・・」
シモンの存在に気づいていない彼女は、今放った己の魔法を卑下していた。
それは謙遜ではない。
何故なら彼女は初対面のシモンですら分かるほど、悔しさで顔を滲ませているからである。
「威力が上がれば当然詠唱にも時間がかかるうえに、魔力を消費しすぎる・・・・。それにこの程度の速さでは、彼女に何度やられるか・・・・」
少女は唇を噛み、拳を握り締める。
「・・・・勝てない・・・・。これでは勝てません・・・・・」
少女は悔しさのあまり両膝と両手を地面に付き、その瞳に涙が溜まっていた。
シモンは影から少女を眺めていた。
恐らく何かの壁にぶつかり、どん底に陥っているであろう少女。
しかし何も事情も知らない自分にはどうすることも出来ないとシモンは思った。しかしその場を立ち去ろうとは思えなかった。
下を向いて涙を流す少女。
それを見て、こんな時に何か掛ける言葉があったような気がした。
「ぐっ、・・・・・・・春日・・・・・・美空・・・・・」
「ミソラ!?」
「・・・・・・えっ!? だ、誰ですの、そこに居るのは!?」
「あっ・・・・・・」
「・・・・・・・・えっ・・・・」
考え込んでいたシモンだが、少女が呟いた美空の名前に反応してしまった。
当然今のシモンは美空のことを覚えていない。
しかし、不意に体が反応して声をだしてしまった。そして二人の目が合い、シモンの存在に気づかれてしまった。
「・・・・はっ!? ちょっ、少し待ってください!」
この場に居た見知らぬ男に一瞬驚き警戒心を強める少女。
しかし自身の瞳に溢れる涙の存在に気づき、少女は慌てて涙を拭い、一つ咳払いをしてシモンを改めてみる。
「あなた・・・・一体何者ですの? この学園の者ではありませんわね?」
警戒心を出して強い口調で尋ねる少女に、シモンは観念したかのように言葉を返す。
「俺が何者か・・・その答えは・・・俺が一番知りたいよ」
「・・・ふざけているのですか?」
「ふざけていないさ、今の俺は・・・・誰でもない。そう、今の俺はただのシモンだ」
「・・・シモン? そういえば・・・・部屋の外でベアトリクスが何か言っていましたわね。コレットが事故を起こしたとか・・・・」
「ああ、多分俺はそのシモンだ」
「・・・・それで・・・そのシモンさんが私に何の用ですの? ・・・・」
別に用などない。
ここに居たのは只の偶然である。
しかし下を向いていたエミリィに何かを言いたくて、悩んでいたのは事実だった。
「用・・・と言うよりも・・・・そうだ・・・・、何で下なんか向いている、成したいことがあるなら上を向いて立ち上がれ!!」
『上を向け!』その言葉が急に口から吐き出された。
それはごく自然に出た言葉で、シモンはその言葉をずっと言いたかったのだと確信した。
「・・・・・・はああ~~~~~?」
しかし逆にエミリィは、見ず知らずの男に言われたこの一言に肩をプルプルと震わせた。
「何も・・・・何も知らないクセに・・・」
「?」
「お・・・・大きな・・・・」
「・・・・・ん?」
そして少女はすぅっと息を吸い、そのまま大声で怒鳴りつける。
「大きなお世話ですわ!!!!」
少女に鋭く睨まれ、怒鳴りつけられて、今日のシモンの一日は終えた。
そしてシモンの遠慮ない一言に、不意に己の宿敵と重ねてしまった少女の機嫌は悪化し、彼女はそのまま踵を返して早足でその場を後にした。
何を怒らせてしまったのか分からないシモンは、しばらくポツンとその場に残されていた。
人の縁とはどこで繋がっているか分からないものだ。
美空に返り討ちに合い、以来塞ぎこんでは、こうして夜な夜な自分自身を苛めていた少女エミリィは自身の宿敵の兄貴分と出会った。
そしてシモンも、魔法世界という新たなる世界に訪れた今日この日から、コレットやエミリィだけでなく、多くの者と出会い、そして多くの戦いに巻き込まれていく。