魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
第106話 今の俺はただのシモンだ
―――人は問う
―――己とは何か。
―――命とは何か。
―――宇宙とは何か。
―――その答えを知らぬまま人は死ぬ。
―――それこそが、人の宿命。
起き上がれぬ意識の海の中で、不意に言葉が頭を過ぎった。
魔法世界の北の大陸にあるアリアドネーという国は、世界最大の独立学術都市国家と呼ばれ、どの権力にも屈しない中立国家として名を馳せていた。
だがそんな情報など、この男には何の意味もなさない。
アリアドネーどころか、この魔法世界、それどころか自身のことすら思い出せない男なのである。
ましてやこの男はこの世界の人間でも、旧世界の人間でもないのである。そんな情報を聞かされてもピンと来るはずがない。
だが一つ言えることがある。
それは、たとえアリアドネーがどの権力に屈さなくても、関係ないということである。
なぜならこの男は最初から誰だろうと、何事だろうと決して屈することは無いからである。
この男は次元を超えた世界に広がる銀河の中でも極めて珍しい男である。
たとえ記憶を失っても人間の本質が変わることはない。
多くの戦いと悲しみと困難を打ち破って来た不撓不屈の気合だけは失ったりはしない。
これはそんな男が新たに旅立つ物語である。
「う、・・・・・うう・・・・」
意識を戻そうと唸るシモン。
しかし頭の中に響く声がそれをさせなかった。
意味は分からない。
しかし何か大切なことを言われている気がしたが、自分は答えが分からない。
今の自分は何も思い出せない。
しかし男は分かる。
これは自分の記憶ではない。
しかし、何故か頭の中にその言葉が流れ込んでくる。
だが声の主には覚えがある。
漆黒の人影。
二つの目の光以外表情も何も分からぬ黒き闇の人の姿。
そんな彼の半ばあきらめたかのような問いかけが、シモンの頭に流れ込んでいた。
だが、あまりいい気分はしない。
答えの分からぬ問いかけから逃れようと、シモンは意識の海から無理やり体を起こす。
そして、
「・・・・ここは?」
僅かに痛む頭の痛みを手で抑えながら、シモンの意識はゆっくりと覚醒した。
その瞬間、自分の握り締めた左手の痛みに気づいた。何事かと思い視線を向けると、握った拳の中から光が漏れ出している。
「こ・・・・これは・・・・」
慌てて手を開けると、中には小さなドリルがあった。そしてその瞬間、小さなドリルから溢れ出した光は消えた。
「どう・・・なっているんだ?」
頭は痛むが意識はハッキリしている。どうやら相当長い時間寝ていたようである。
「俺は一体・・・・・・」
見知らぬ部屋のベッドで体を起こしたシモンは現状を把握しようと辺りをキョロキョロ見渡すが、この部屋に心当たりは無い。しかし真っ白い部屋と独特な薬品の匂いから医務室のような部屋だと予想できた。
「なんで俺ここにいるんだっけ・・・・・・いや、それに・・・」
辺りを見渡したシモンは突如真下に視線が止まる。
寝ていたシモンの上で丸くなって寝息を立てている小動物が気になった。
「え・・・え~~っと・・・・」
目の前の小動物の扱いに困ってしまったシモン。すると小動物は起きたシモンの気配に反応して、ゴシゴシと眠そうに見える目を擦りながらゆっくりと目を覚ました。
「ぶう・・・・・ぶっ!?」
妙な鳴き方をしながらゆっくりと起き上がる小動物。すると上を見上げた小動物は驚きの声を出した。
その反応にどう対応していいか分からないシモン。だがとりあえず、適当に手を上げて挨拶をした。
「えっと・・・・・・・おはよう・・・・」
「ブミュウゥゥ!!」
「う、うわああ!?」
シモンが挨拶をした瞬間、小動物はシモンの顔に飛び掛り、何度も何度もその顔を舐めまわした。
「ブミュウ、ブミュウ!」
「ちょっ、お、落ち着けって!?」
シモンが飛びついてきた小動物を引き離そうとするが、決して離れようとせず、シモンの体にまとわりついた。
この小動物にとってシモンはそれほどの存在なのである
故郷の村から共に飛び出した。
シモンの魂の兄弟よりも、最愛の女よりも最も長い時間共に過ごしてきた相棒、それがブータ。この小動物の名前である。
(あれ・・・・こいつ・・・・え・・・・えっと・・・あれ?)
当然シモンには見覚えがあった。
名前も寸前まで出掛かっている。
しかしどうしても名前が喉を通って口から出すことが出来なかった。
しばらく唸っても、どうしても出てこない。
だからとても強い絆で結ばれたはずの相棒に、シモンは残酷な現実を突きつけることになった。
「えっと・・・・その・・・お前・・・・誰・・・だっけ?」
「ブッ!?」
記憶を無くしたシモンはそれ以外の掛ける言葉など思い付かなかったのである。
だが、この残酷な現実にどんどん目が潤んできたブータは耐え切れずに、鳴いたカラスが今度は盛大に泣き出した。
「ぶ、ぶふううううううううううう!」
「なっ、おいおいおいおい、なんで泣いているんだよ? ほら、泣くなよ~」
「ぶうう、ぶむううううううう」
突如その小さな瞳からは考えられないほどの涙を溢れ出すブータに、シモンは驚きながらも、ブータを胸に抱き寄せて頭を撫でる。
しかしブータは必死にシモンにしがみ付きながら、この現実に悲しみを止めることは出来ずに泣き叫んだ。
そんな姿に心を痛めながらも、シモンはもう一度ブータを見る。
(なんだろ・・・・この一緒に居ると安心する感覚・・・・こいつの温かさ・・・・)
抱きしめて伝わるブータの柔らかな感触と温もり、そして安心感。
(やっぱり・・・・俺はこいつを知っている・・・・)
シモンはそれだけは分かった。
この目の前の小動物は、只の動物ではない。
自分にとってかけがえの無い絆で結ばれていたのではないかと感じ取った。
「なあ、・・・・お前・・・」
口を開こうとした瞬間、それを遮るように部屋の扉が勢いよく開いた。
「よかった、意識を取り戻したんですね!!」
「鳴き声が聞こえたと思ったら、・・・・ふふ、良かったわねコレット」
開いた扉に驚いて視線を向けると二人の女性がそこにいた。
シモンが目をパチクリさせていると、シモンの居るベッドへと駆け寄ってきた。
少女の顔には見覚えがある。
確か自分が意識を失う前に会った少女である。
「えっとたしか・・・・・・コレット、・・・だったよな?」
ブータの名前を覚えていないのに、コレットの名前だけは覚えていた。
名前を呼ばれ、シモンの無事を確認したコレットは、深い安堵の息を吐き出した。
「はいそうです。よかった~、私、あなたを本当に死なせてしまったんじゃないかと・・・」
安心したのか、腰が抜けてヘナヘナとその場に座り込むコレット。そんな彼女の頭を優しく撫でながら一人の女性が近づき、そして深々と頭を下げた。
「ごめんなさいね。昼間コレットがあなたにしてしまったことは全部聞いたわ。私の生徒が、本当にご迷惑を・・・・」
「あっ、いや・・・俺は別に気にしては・・・・」
コレットと同じように褐色肌で眼鏡を掛けた獣の耳の形をした女。しかし年はコレットよりずっと年上だろう。
「シモンさん・・・・」
「・・・えっ?」
不意に名前を呼ばれてドキリとした。
「コレットからあなたの名前を聞きました・・・そして・・・あなたが名前以外を思い出せないということを・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そしてシモンは黙った。
『シモン』それが自分の名前だということは認識していた。
それは今でもハッキリしている。だが、・・・
「そうだ・・・・俺はシモン・・・・そして・・・・・それで・・・・ッつ!?」
「お兄さん!?」
その瞬間軽い頭痛がシモンを襲った。
グルグルと頭の中が回るような感覚。それはコレットと会った時と同じ感覚だった。
名前は覚えている。
しかしそれ以上をどうしても言うことができなかった。
「ちょっと失礼」
「・・・・・はあ、はあ、はあ・・・・」
「力を抜いて、少し刺激があるわよ」
「・・・えっ?・・・・っつう!?」
頭を抑えるシモンを見て、コレットの担任は小さな六芒星を手のひらに浮かべてシモンに向ける。
すると羽を生やした小さな精霊が召喚され、シモンの頭の周りを回り始めた。
『検査中(エクサミナームス)♪ 検査中(エクサミナームス)♪』
精霊から発する光がシモンを包み込み、シモンの体中に静電気のような軽い刺激が駆け巡ってきた。
「あの・・・これは?」
「心配しないで。少し検査しているだけだから」
そして精霊は一頻りシモンの体を調べ終わると、小さな紙を女に差し渡し、一言添えた。
『異常なしデッス』
「そう、大丈夫なようね。体も頭の中身も問題ないわ」
『お大事二~』
そう最後に言い残して精霊は煙に包まれて消えた。
「やはり頭部を強打したことによる一時的な健忘と未熟な忘却呪文が原因ね。でも、しばらくすれば失われた記憶も戻ってくるはずよ」
「えっ? あ・・・・そうですか・・・・(なんだろう・・・今の力・・・)」
「ただ、あなたは身分を証明するようなものを何も持っていなかったので素性は分からなかったわ」
「何も持っていない?」
「ええ。持っていたといえば、あなたが着ていたコート。でもあれはあなたの血が付いていたので、人に渡して今洗わせている最中よ。明日渡せると思うけど・・・・」
自分は何も持っていない。
そう言われてシモンは少しズボンのポケットや服を調べるが、あったのは首から下げている美しい緑色に輝く指輪と、左手に力強く握り締めている小さなドリルだけだった。
シモンが指輪とコアドリルの二つを見て、何か懐かしいような感覚に包まれていると、女性は更に近づきシモンの両肩に手を置いて、優しく語りかける。
「不安でしょう。自身が何者かを思い出せないことは。でも安心して、ここはどんな権力にも屈しない世界最大の独立国家よ。記憶が戻るまで安心してここに居ていいわ」
「そうか、ありがとう。俺もどうしたらいいか分からないし、少しお世話になるよ。記憶は直ぐに戻るのか?」
「うう~ん、確かに検査の結果、脳にも体にも異常は見当たらないわ・・・」
診察結果を知ったコレットとブータが身を乗り出して喜びの声を上げる。
「それじゃあ先生、シモンさんの記憶はいずれ戻ってくるんですね?」
「ブミュウウ!」
「ええ、もっとも・・・・・・あなたの未熟な忘却呪文がどう作用しているか・・・解除も出来ないし・・・・・・」
「うっ!!??」
シモンに異常が無いことに安堵したコレットだが、女性の言葉で直ぐに固まってしまった。
「えっ? どうゆうことだ? そういえば、頭部の強打以外に忘却呪文って・・・・・」
その意味が分からずシモンとブータが首を傾げていると女性が固まっているコレッとの代わりに説明する。
「実は・・・コレットがあなたに衝突した際に、課題の初級忘却呪文が充填されていた杖が暴発してしまったの・・・・」
「えっ!? それじゃあ、俺が名前以外思い出せないのは(でも、呪文って何のことだろう)・・・・・」
「そう、・・・・頭部打撲、及びコレットの未熟な忘却呪文・・・・これが原因よ」
「うええええええん、ゴメンナサイ~~~~~!!」
笑ったり、固まったり、泣きじゃくったり、誤ったりと、実に忙しい少女だった。
事故の実行犯ゆえに、頭部打撃以外の原因がバレるのは早かった。コレットも大変反省していたために、隠すつもりは無かったが、知られたときはひどく怒られたようだ。
そして生徒の失態を教師の女性も、心から深く頭を下げてシモンに謝罪する。
だが、シモンはコレットを責めることなどせず、頭に優しく手を置いた。
「分かったからもう泣くなよ。別に気にするなって言ったろ? いつか思い出せるならそれでいいよ」
「うえ? でも・・・・お兄さん・・・・」
「細かいことを気にするな。記憶が無くても、俺は俺だ!」
ちっとも細かいことで済まされないことすら、場合によっては小さな問題でしかない。
「大体何を忘れたのかも覚えていないんだし、怒るに怒れないよ。それに時間がたてば戻るんだろ?」
「・・・ええ、でも・・・あなたはそれでいいの?」
「ああ。それでいいんじゃないか?」
だがシモンの言葉がコレットの心を救ってくれた。
シモンがニッと笑ってコレットに掛けた言葉はコレットを罪悪感から救ってくれた。
シモンの言葉にコレットは小さく頷いて、年相応の笑顔を見せてくれた。
「はい、・・・ありがとう・・・お兄さん・・・」
涙を拭きながら笑顔を見せるコレット。
その様子を温かい眼差しで見つめながら、担任の女性は感心したようにシモンへ視線を向ける。
するとシモンは顎に手を置き何かを考えているようだった。
「あのさ・・・・コレット・・・・」
「はい?」
「その・・・・・・お兄さんって・・・やめてくれないかな。なんか・・・・ピンと来ないんだよ・・・」
「えっ? え~~~?」
妙な引っかかりだった。だが、その妙な引っ掛かりがシモンは気になり、コレットに告げる。
「えっと・・・それじゃあシモンさん?」
「あっ、名前で呼べってことじゃなくて・・・・なんだろう・・・お兄さんって呼ばれ方が気になって・・・・」
「?」
シモンも自分で何を言っているのか分からなかった。その様子を見て女性が何かを思いついた。
「ひょっとしたら・・・・あなた弟、もしくは妹がいたんじゃない?」
「えっ? ・・・・俺に?」
「ええ、それでいつもとは違う呼ばれ方に反応したんじゃない?」
「ブフウウ!!」
「あら、この子もそうだって言っているみたいよ?」
ブータの反応と女性の今の言葉を聞いてシモンはもう一度考える。
弟、妹、兄弟、家族、たしかに自分に居てもおかしくはないだろう。ならばそれは自分が記憶を思い出す鍵になるかもしれないと思い、コレットを見る。
「兄弟か・・・・よしコレット、名前とお兄さん以外で俺を呼んでみてくれないか?」
「は、はい。それじゃあ・・・・・・・・お兄ちゃん?」
「・・・・・うう~~ん、違うな・・・・・」
「えっと・・・・・お兄様?」
「・・・・ピンと来ないや・・・」
「ええ~、それじゃあ・・・・お兄ちゃま、あにぃ、おにいたま、兄上様、にいさま、兄くん、兄君さま、兄チャマ、兄や・・・とか・・・」
「・・・・・・・それ・・・・・・同じ意味なのか?」
「私もはじめて知ったわ・・・・・」
意味不明な呼び方だけが並び、シモンは一向に納得せず、予想が外れたのではと少し残念な表情を浮かべる。
「う~ん、兄弟の線は微妙になってきましたね~、・・・他に呼び方があるとすれば・・・にーにーとか・・・・アニキ・・・とか・・・・」
「!?」
諦めかけたその時シモンの肩が大きく揺れた。それはブータも同じだった。
適当に言ったコレットの『アニキ』という単語に二人は大いに反応した。
「それだ!!」
「ブゥヒイイイイイ!!!!」
「ひっ!?」
「アニキ・・・・しっくり来る・・・・アニキ・・・そうか・・・・アニキだよ!!」
「あの~~~・・・・」
急に大きな反応を見せて声を張り上げるシモンに、二人がビクッとするが、シモンは一人納得のいったような表情でウンウン頷いている。
「ちょっ、シモンさん?」
「よしっ、決めたぞ。コレット、俺を今日からシモンじゃなくてアニキって呼べ!!」
「えっ、ええええーーーーー!?」
ぱちんと指を鳴らして少し興奮気味のシモン。コレットもアニキという言葉に抵抗を感じるが、シモン本人に言われてしまえば断ることも出来ず、頷くしかなかった。
そしてシモンはそのまま視線を真下に向けて、ブータを見る。
「よ~し、それでさっきから俺に懐いているお前・・・・」
「ぶい?」
「お前は・・・・俺の仲間か?」
「ブヒィ!!」
シモンの問いかけに「当たり前だ!」と言わんばかりの勢いで返事をするブータ。そんなブータを見て、シモンは顎に手を当てて考える。
「それじゃあ・・・お前は・・・・ブタ?」
「ブブウ(違う)!?」
「違うのか? それじゃあ・・・・ブータロウ?」
「ブ、ブブ(違う、でもある意味惜しい)!?」
「これも嫌か・・・・それじゃあ・・・・」
「どうでもいいけど何で会話が成立してるの?」
「・・・・・・・・さあ?」
「それじゃあ・・・・・ブー・・・・・タ?」
「!?」
「ブータ?・・・・」
「ブミュウゥゥゥゥゥ!!」
「正解か! よしっ、お前はブータだ!」
ようやく正解の名前を呼ばれてブータは歓喜のあまりにシモンに飛びついた。
「よしよし、直ぐに思い出してやるから安心しろ!」
「ブミュ!!」
そんなブータを優しく撫でるシモン。二人のほほえましい光景にコレットたちは笑みを浮かべて眺めていた。
お久しぶりです。部屋を片付けて出てきた大昔のフラッシュメモリーからサルベージしたものを再び世に解き放ってみました。
当時の私はまだ大学生。気づけば私はサラリーマンやりながらプロのライトノベル作家になったりしてました。
文章の書き方も知らなかった時代ゆえに、読み返すとあまりにも恥ずかしくなったり、3点リーダーやら改行の多さに「ひどい( ;∀;)」となって、修正するのもメンドクサイし、恥ずかしいのでこのまま封印しようと思いましたが……ゴールデンウィーク長いし……うん、1日二話ずつぐらい解禁していこうと思います。
つーわけで、細かいこと気にせずよろしく!