魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン)   作:アニッキーブラッザー

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第105話 開幕突破

機内へのゲートも閉まり四人を乗せた艦は、首都メガロメセンブリアを目指して、魔法世界の空へと飛び立った。

もう絶対に見えないはずだが、空を飛ぶ艦に向けてコレットは手を振り続ける。

そして飛び立った艦を眺めながら、振り続けた手を降ろして、今度は自分の両頬を二・三度叩いた。

 

「よっし、私もがんばろ!!」

 

コレットも高音同様にやる気が漲ってきた。

何処まで続くか分からないが、自分も本気になろうと、美空の戦う姿を見せられて火がついたのだった。

 

「じゃあベアトリクス、私先に帰ってるから!!」

「ちょっ、コレッ・・・」

「おっ先~~ッ!」

 

火がついたらジッとはしていられない。

コレットは箒に跨りすぐにその場から飛び出した。

別に何か急ぎの用があるわけではない。

何かやることがあるわけでもない。

しかし大人しくすることが出来ない今の彼女は、とにかくその場から猛スピードで飛び出したのだった。

 

 

そしてその同時刻、空間に切れ目が走った。

 

そして緑色の光が、その隙間から溢れ出し、どんどん大きくなる。

 

 

原因は?

 

 

そんなものは決まっている。

 

 

シモンしかいない。

シモンのワープは螺旋力を使い、思い描いた物や場所へ空間を切り裂いて一気に飛ぶことが出来る。

ようするに気合で思った場所に向かうことが出来る。

銀河の果てまで一気に飛ぶことが出来たシモンだ。次元を超えた異世界に跳ぶことも可能である。

そこに、シモンが思い描いたものが存在するならば・・・・

そして空間を切り裂いた見えた場所・・・それは麻帆良学園の教会・・・ではなかった。

 

「あれ?」

 

そもそも地上ですらなかった。

 

「えっ?えっ?えっ? な、何ィ!?」

 

見渡す限りの建物。その建造物は今まで見たこともない様式である。

いや、そんなことはどうでもいい。

美空たちを思い描いた自分が何故見知らぬ場所にいるのか・・・それもどうでもいい。

問題は・・・

 

「なんで空に!?」

 

見渡す限りの建物、それは地上からの見た光景ではない。空から見た光景である。

そう、ワープした先の場所は、空の上だった。

なぜこうなったのかは分らない。しかしこのままでは落下する。

この高さから落ちれば間違いなく死ぬだろう。

だがシモンには考える時間も与えられない。

地上に落下する前に、目の前に脅威が迫っていた。

 

「ひ、飛行船が目の前に!?」

 

事態を把握する間も与えられずに上空を飛ぶ巨大な飛行船が目の前まで接近している。

事態がまったく飲み込めずに、かっこつけてヴィラルたちと別れた次の瞬間にシモンの頭は混乱状態になった。

 

(何で空にワープ!? 美空たちは!? いや、それより飛行船が目の前に!? どうする!?)

 

だが、混乱した頭でも、このままではまずいと判断することは出来た。

目の前まで迫った飛行船に対して、シモンが瞬時に思いついた手段は一つ。

 

「くっ、間に合え! シモンインパクト! とにかくメカならこれで制御してやる!!」

 

シモンがこの世界に現れて数秒の間の出来事である。

シモンは咄嗟に手からドリルを出して、飛行船にぶつけて、攻撃ではなく制御して危機を乗り越えようとした。

だが不運はさらに積み重なった。

何事も貫き通してきたドリルがぶつかる直前に、見えない壁に弾かれてしまった。

 

「なっ!? シ、シールドが!?」

 

大して螺旋力を込める事も出来ずに放ったドリルは、多少の輝きを発したものの、飛行船のシールドに遮られてしまい、シモンはその衝撃に弾き飛ばされてしまった。

しかし幸いなことにそのお陰で、飛行船との直撃は免れた。

だが、安心している暇はない。

 

「ぐっ、まっ、まずい・・・このままじゃ落下しちまう!!」

 

ここは遥か上空である。

このままでは地面に叩きつけられてしまう。そうなれば、そこから先の展開など目に見えている。

 

(どうする、このままじゃ・・・・俺は空を飛べないし・・・)

 

シモンは空を飛ぶことが出来ない。

このままでは・・・・いや・・・待て・・・。

頭の中で却下したはずの意見が直ぐに復活した。

 

(俺が空を飛べないだと? そんなこと誰が決めた!)

 

どんな無理をも可能にしてきた自分が、美空やネギたちが出来たことが出来ないはずはない。

 

(銀河の果てまで跳んだ俺が、空ぐらい飛べなくてどうするんだ!)

 

シモンは右腕に自分が出したドリルを、そして左腕にヴィラルから受け取ったコアドリルを握り締める。

 

「飛んでやる! こんな訳も分からない死に方したんじゃ、兄貴たちにあの世から蹴り返されちまう!」

 

地上に叩きつけられるまで時間がない。

その時間のない中でシモンはありったけの気合を振り絞る。

 

「地下から這い出たこの俺が、大地の壁に負けてたまるかよ! 俺のドリルで天を創るなら、その天空をも自由に駆けてやる!!」

 

シモンの体が緑色の光に包まれて、シモンは自分の背中にイメージを浮かべる。

刹那のように自由に空を駆ける翼、いや・・・天に向かって突っ込むグレンラガンのブースター。

 

 

「俺を誰だと思っている!!」

 

 

無我夢中でシモンは螺旋力を放出し、背中にグレンラガンのブースターを思い描く。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

その背中を確認している暇はない。

しかし地面がどれほど近づこうとも、シモンは最後の最後まで自分は飛べると、己を信じ続ける。

そして気づいたときには、高速で落下していたはずの自分がゆっくりと降りていることに気づいた。

 

「はあ、はあ、はあ、・・・成功・・・したのか?」

 

背中がどうなっているかは分らない。

しかしシモンは今、落下しているのではなく、自分の意思で宙から降りている感覚だった。

 

「よく分らないけど・・・助かったんだな・・・」

 

それが分った瞬間シモンは安堵のため息をついて、そっと地面に降り立った。

僅か一分足らずに二度も危機に直面するなどとは予想もしていなかった。

とにかく今は助かったことに安心し、ゆっくりと地面に腰を下ろそうとした瞬間だった。

危機が去り完全に気が抜け、螺旋力の放出も止めたシモンは完全に油断していた。

 

 

「ちょっ、どいてどいてーーーーーーーーー!?」

 

「・・・・・・・・・・・・えっ?」

 

 

後ろから女の慌てた声が聞こえた。

何事かと振り返るとそこには箒に跨った少女が、地響きを鳴らしながらものすごいスピードで真っ直ぐこちらに向かってきていた。

 

「ぶぶ・・・・ぶつかるーーーーーッ!?」

 

箒に乗った少女が懸命に叫ぶが、方向転換出来そうにない。

そして完全に気を抜いていたシモンは反応できない。

だからこそ・・・

 

「キャーーーー!?」

「ぐあああああッ!?」

 

二人が激突することは避けられなかった。

見知らぬ土地で、油断した瞬間に襲い掛かった三度目の脅威がシモンを襲ったのだった。

少女とシモンがぶつかった瞬間に声を出し、そしてぶつかった衝撃でシモンの顔面を直撃した少女の箒が光だし、小さな光と煙を発したのだった。

光と煙に包まれ、頭部を強打したシモンはそのままふっとばされて、地面に倒れてしまった。

 

「いててて・・・・ゴ、ゴメンナサイ!! 私・・・スピード出すことに夢中で、・・・その、大丈夫ですか!?」

 

激しくぶつかったものの少女に怪我は無さそうである。

箒から落ちて尻もちをついた場所を擦りながら、自身の過失に気づき、慌てて倒れたシモンに駆け寄った。

 

「あの、お兄さん、しっかりしてください!」

 

倒れているシモンの両肩を揺らしながら少女は涙目になりながら必死に叫ぶ。

だが、頭部をモロに強打したシモンの意識は中々戻らない。

 

「ちょっ、大丈夫ですかッ!?」

 

少女が叫ぶがシモンは反応できない。どうやら最初の一撃で既に気を失っているようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・うそ・・・・・・・・・どうしよ・・・・・・・」

 

シモンと少女、どちらの責任かは分らないが、ぶつかってしまった少女は顔面を蒼白させながらシモンを擦る。

すると頭を強打した衝撃でシモンの頭からみるみる血が流れ出した。

 

「ちょっ、しっかりして下さい! 目を開けてください!」

 

シモンの血が少女の手や衣服を汚していくが、少女は気にせずに何度もシモンを擦る。

だがシモンは一向に目を覚まさない。

しかし徐々に意識の海から起きようとしていた。

だが・・・・・・・・・

 

(俺・・・・どうしたんだろう・・・)

 

投げ出された意識の海の中で、シモンは自身の異変に気づいていた。

それは、激しい頭の痛みと同時に来るもう一つの痛みである。

 

(あれ? なんだろう・・・これ? ・・・)

 

意識があるようで起き上がれない。目を開けることも手を伸ばすことも出来ない。

そんな中でシモンの頭の中に一つの言葉が過ぎった。

 

 

―――いいか、シモン。忘れるな、お前を信じろ・・・

 

 

それは自分にとって大切な言葉。

その言葉の重みが、あの男の存在が、どれだけ今でも自分の中に大切な想いとして残っているのか分らない。

あの男が最後にくれた大切な言葉だった。しかし・・・・

 

 

―――俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる――――!!

 

 

そこで言葉が途切れた。

途切れたという表現より、そこから先が急に消えてしまったような感覚。

いや、それどころかその前の言葉も途切れ、どんな言葉が頭を過ぎったのか忘れてしまった。

 

(あれっ? なんだ、・・・・・・・これ?)

 

なんとも言えない気持ちの悪い感覚に襲われるシモン。しかし休むまもなく色々な言葉が頭を過ぎる。

 

 

―――シモン! シモンを信じる心がシモンの力になるのなら、私は――――!

 

 

それは最愛の女が言ってくれた言葉だった。

何もなくなった自分に力を与えてくれた言葉・・・・・だったはずだが、その言葉も途中で途切れ、思い出せなくなった。

 

 

(なんだ!? 一体・・・・何が起こっているんだ!?)

 

 

頭の中にある大切な結晶の一つ一つが壊れていく。

 

 

―――超絶合体グレンラガン!! 俺を、俺たちを、―――――!!

 

 

なぜそうなったのかは分らない。そもそも何が壊れているのかも分らない。

しかし頭の痛みと同時に襲う喪失感という痛みに耐え切れず、シモンは意識の中で壊れていく結晶に必死で手を伸ばそうとする。

 

 

―――今度こそ、ほんとにアバヨだ。いけよ―――!

 

 

だが、間に合わない。必死に手を伸ばすが結晶が崩れていく。

 

 

(何でだ・・・、何でサヨナラなんだ!?)

 

 

シモンが手を伸ばしきる前に、全てが壊れていく。

 

 

――――ならば・・・、この宇宙、必ず――――

 

 

それは約束だった。

最後の敵が自分たちに告げた言葉。その言葉に自分は頷いたはずだった。

 

 

―――当然だ。人間は――――

 

 

しかしその誓いの結晶も崩れていく。

自分が言った言葉すら思い出せない。

そして・・・

 

 

―――愛してるわ―――

 

 

可憐で美しい女の姿が映し出された結晶。

その姿に心の中でシモンは切なさで歯を食いしばる。

そして全てが崩れ去る前に、残った結晶を必死で掴む。

 

 

―――シモンさんッ!!!!

 

 

その名を叫ぶ少年と少女たち。その欠片を必死で掴み取り、次の瞬間シモンは目を覚ました。

 

「・・・・・はあ、はあ、はあ、・・・・・・・・あれ、ここは?」

 

まだズキリと痛む頭を抑えながら目の前を見る。すると・・・

 

「よかっ、ぐすっ・・・よかっ、た~~~、ひっく、死んじゃったかと」

 

涙と鼻水で顔を腫らした少女が安堵の声を漏らしていた。

 

「えっと・・・・君は?」

 

意識がはっきりとせず、シモンは取り合えず目の前の少女に尋ねる。

浅黒い肌の眼鏡をかけた少女。そして何故か動物のようにフサフサとした耳の形をしている。

すると少女はシモンに尋ねられて、涙と鼻水をゴシゴシと拭きだした。

どうやらシモンを殺してしまったのではないかと心の底から心配していたようである。

 

 

「あっ、えっと、その、私の名前はコレット・ファランドールです。アリアドネー魔法騎士団候補生の生徒です」

 

「マホウキシダン?」

 

 

少女の口から出たまったく知らない単語が少し気になった。

だが今はそれよりもこの状況を把握するほうが大事だろう。

 

「えっと・・・その・・・コレット? 一体何があったんだ? どうして俺は・・・」

 

次の瞬間コレットの顔がサーっと青ざめて、勢いよく土下座しだした。

 

 

「すいません! 私飛ぶのに夢中で! その、左右の確認はしていたんですけど・・・急にあなたが真上から道に現れて・・・そしてぶつかって・・・。本当にゴメンナサイ!」

 

「あっ、大丈夫だから、顔上げていいよ」

 

「でも~~!」

 

 

必死に土下座するコレットに苦笑しながらシモンは何となくだが、今の状況を把握できた。

 

(そうか・・・でも、頭が少し痛いけど、問題は無さそうだな・・・)

 

そしてシモンがゆっくりと立ち上がろうとする。しかしそれを慌ててコレットが止める。

 

「あの、まだ無理して動かない方が!? 血が出てます!」

「えっ? ・・・・う~ん、大丈夫だ! 少し痛いけど、そんな大げさなものじゃない」

「でも私の責任ですし! あの、せめて学院で治療を!」

 

事故の責任を感じてか、コレットは必死にシモンの腕にしがみ付く。

そんなコレットを安心させようと、シモンはいつもの言葉を言おうとする。

 

「大丈夫だ」

「・・・・えっ?」

 

コレットの頭に優しく手を置くシモン。そしてコレットに「心配するな!」という笑みを送る。

 

「あの・・・本当に大丈夫なんですか?」

 

オズオズと尋ねるコレットにシモンはニッと笑った。

 

 

「当然だ! 俺を誰と・・・・・・・・・・・・・・・・あれっ?」

 

「・・・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・えっ? ・・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 

いつものように言うはずだった。

しかし途中で言葉が途切れてしまった。

シモンはいつものように、あの言葉を言うはずだった。

しかし出来なかった。

なぜならこの時シモンは、いつもの言葉が何だったのかを思い出せなかったからである。

 

「あの~~?」

 

コレットが不思議に思い、シモンの顔を覗き込むが、シモンは顎に手を置いて何かを考えているようだった。

しかししばらく考えてもシモンはハッキリとしない表情である。

コレットもワケが分らず頭に「?」を頭に浮かべながら首を傾げていると、次の瞬間、シモンの口からとんでもない一言が出た。

 

 

「・・・・・・あのさ・・・・ちょっといいか?」

 

「・・・・・はい?」

 

「俺は・・・・・・・・・・・・・・俺は一体誰なんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」

 

 

冗談抜きの真面目な顔だった。

 

「いや・・・えっと・・・俺はシモン・・・だけど・・・あれ? それで・・・何なんだ?」

「えっ? へっ? はっ?」

「俺はシモンで・・・・何のシモンだっけ? あれ・・・・それで・・・・」

「ちょっ、お兄さん!?」

 

次の瞬間シモンの体がフラフラと揺れ始めた。目の焦点も定まっていない。

 

「俺はシモンで・・・それ・・・・で・・・」

「お兄さん! しっかり! お兄さん!」

 

そしてシモンは力ない人形のように再び倒れた。

意識を失ったシモンに再びコレットが声を掛けるが、反応は返ってこない。

拭ったはずの涙が再びコレットの瞳から溢れ出す。

すると、

 

「ブウウウウ!!」

「えっ? 何?」

 

衝撃に吹っ飛ばされたブータが勢いよく走って来た。

泣きじゃくるコレットを無視して、ブータは必死にシモンの体によじ登り鳴く。

 

「ブミュウウウ!! ブミュウ!!」

「何? 君はこのお兄さんの知り合いなの? えっと・・・でもどうしよう・・・私のせいで・・・どうしよう!」

 

必死に鳴くブータ、混乱して泣くコレット。だがシモンは起きなかった。

 

その数分後にコレットの後ろから飛んできたベアトリクスが、泣きじゃくるコレットから状況を聞き、シモンを介抱し、とりあえず二人でシモンを抱えて学園へと運ぶことになった。

 

その移動の際にも、ブータはシモンの傍でずっと懸命に叫んでいた。

 

 

 

 

現実世界に対となって存在する魔法世界という存在。その世界の大きさは果てしなく広大である。

その広大な世界の大空に、一隻の巨大飛行船が飛んでいる。その用途は現実世界と大して変わらない。

 

長距離を多くの人を乗せて移動することである。

だがその船に、異常事態が起こっていた。

コクピットに鳴り響くサイレンが、事態を物語っていた。

 

「シールドは無傷、しかし何らかの物体が衝突した形跡があり!」

「艦長! レーダーの反応がありません! しかしこれは一体・・・・」

 

この飛行船のクルーたちが物々しく騒いでいた。

それはいつも通りの任務中に起こった出来事だった。

 

「一体何があったのだ、説明しろ」

 

戦士ではないものの、威厳と貫禄を身に纏ったこの艦の最高責任者が早足でブリッジに現れた。

艦長の質問に対してオペレーターは、申し訳なさそうにつぶやく。

 

「分りません・・・」

「分らないだと!?」

「はい、・・・突如前方に現れたと思われる物体が、衝突の際に強力なエネルギーを放出し、光がやんだ瞬間に反応が消えました・・・・・・」

「バカな、なぜレーダーに反応しなかった! 前方に現れたのなら視認できなかったのか?」

「直前までレーダーに反応はありませんでした・・・、しかもエネルギーの解析は間に合いませんでしたが、接触したのは竜や飛行船などの類ではありません・・・・」

「魔法使いでは?」

「ありえません! 仮に魔法使いなら魔力がレーダーに反応します!」

 

突如起こった謎の物体との接触事故。

そして謎のエネルギー反応。

幸い飛行船は無傷なため、怪我人も出さず、事故にはつながらなかった。

だが、クルーたちの疑問は解消されなかった。

なぜなら接触事故など普通はありえないからである。

生物だろうと他の飛行船と空ですれ違うことがあったとしても、接近すれば間違いなくレーダーに反応する。それを優秀なクルーたちが見逃すはずがない。

しかし現に謎の物体と激しい接触事故が起こった。それがクルーたちの不安となった。

 

 

「直前まで反応もしない、竜でも・・・飛行船でも・・・魔法でもないだと? ステルス機能・・・隠蔽魔法・・・分らん、過激団体の新兵器か? しかしここはアリアドネー・・・中立国家の国境近辺だ・・・。そこで攻撃行為など・・・」

 

「分りません、しかし現在は接触した物体の反応はありません。周囲360度警戒態勢を行っていますが、今のところ変わったところはありません・・・」

 

 

オペレーターの女性の説明を聞いて艦長の男は少しだけ気が楽になったのか、小さくため息をついた。しかしそのすぐ後に目の色を変えてクルーたちの指示を出す。

 

 

「現在この船には一般客が多数乗っている。警戒態勢のまま、すぐに首都に向かえ! 事故の解析はその後だ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

艦長の指示に従いクルーたちが即座に行動を起こした。幸い艦に損害が無いため、飛行船は針路をそのままにして、目的地へと向かわせる。

すると外の部屋から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

そしてその声の主は勢いよくブリッジの扉を開けて乗り込んできた。

 

「一体なに事なんですの!? 先ほどの衝撃はなんだったのです!?」

「お、お姉さま、ここに入ったらまずい気が・・・」

「何を言っているのです! 我々は観光客ではありません! 麻帆良を代表する魔法使いとして招かれているのですよ? 黙っていることなど出来ませんわ!」

 

堂々とした声で現れたのは高音。そして彼女の態度に少し後ろから遠慮気味に止めようとする愛衣。

 

「ミス高音、ミス愛衣、大丈夫だ。先ほどの衝撃の正体は分らないが、今急いで首都に向かっているところだ」

 

捲くし立てるように入ってきた高音に艦長はあくまで冷静に心配要らないと断言する。

その強い瞳に、強気だった高音も押し黙ってしまい、これ以上言うことはなかった。

しかし・・・

 

 

「攻撃されて逃げるんすか?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「あ、あなたは!?」

 

 

高音の後ろからシスター服を着て、その背中に燃える髑髏のマークを背負った少女二人が艦長室に入ってきた。

 

「中立国家の学術都市の付近でテロするお馬鹿さんには、お仕置き無しなんすか~?」

「逃げるノハ・・・ヨクナイ」

 

自信にあふれた二人の少女の言葉がクルーたちの心に突き刺さる。だが、艦長は首を横に振る。

 

「ダメだ、そもそも攻撃かどうかも分らないうえに、乗客をこのまま乗せたまま調査するわけにいかない。幸い先ほどの衝撃以外何もない。今は首都に戻ることが先決だ」

 

あくまで安全性を重視する艦長。その判断は間違っていない。だが、少女はつまらなそうにため息をついた。

 

「あ~あ、新技の成果を見せて、どこかのお馬鹿さんに教えてあげようと思ったんすけどね~」

「・・・教える? ・・・何をだね?」

 

自信にあふれていた少女の不満の言葉に気になった艦長は尋ねる。

するとシスター服の少女が振り返りながら告げる。

 

「決まってるじゃないっすか! ここに、誰がいるかをっすよ!!」

 

艦内で告げる美空の姿に船員たちは一瞬見惚れながらも、船は真っ直ぐ首都メガロメセンブリアに向かっていく。

 

 

何故こうなってしまったのだろうか。

 

 

それはシモンがワープの時に美空とココネを思い描いたのが原因である。

美空とココネは現在魔法世界にいる。そのためシモンは麻帆良学園ではなく、魔法世界に跳んでしまった。

そしてシモンがワープする瞬間、飛行船に乗り、美空とココネは空を移動していた。

そのため正確な座標へワープすることが出来ず、空の上にワープしてしまい、その瞬間丁度飛行船と激突するという事故が起きてしまった。

この時美空の意見を取り入れ、艦長が事故の原因を調べていれば、美空とシモンは早くに再会できただろう。

もしくは、コレットが美空のシスター服の背中のマークのことをよく覚えていれば、早くに問題が解決したかもしれない。

しかし不運の巡り会わせにより、穴掘りシモンは自分の名前以外の記憶を忘れ、新たな世界に放り込まれることになってしまった。

 

 

今ここに、一人の男が見知らぬ世界で、忘れた自分を探し続ける物語が始まる。

 

 


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