魔法はお前の魂だ(魔法先生ネギま✖天元突破グレンラガン) 作:アニッキーブラッザー
「ちょっ、美空さん!?」
「何々!? あの子委員長に喧嘩売ってるの? 誰か止めないの?」
「コ、コレット・・・・・」
「わ、私に振らないでよ~! ってゆうか美空無謀だよ~。委員長ってアレで強いのに~」
広場がその瞬間ざわめき出した。
美空の言葉に、誰もが耳を疑ってしまった。
「ふう、・・・・・・高音さんと戦うつもりが、まさかこんなことになるとは思ってもいませんでしたね・・・いいでしょう、決闘ですわ!」
だが言われた本人にいたっては冷静だった。
「お嬢様・・・・」
「エミリィ・・・」
「ま、待ちなさい、貴方たち!」
冷たいため息と言葉を吐き捨てて、エミリィは杖を取り出し、美空に向けて構えた。
それは決闘を受諾したという意味である。
さすがにそれは止めなくてはならない。
交流の場で、ましてや真剣な喧嘩など言語道断である。
セラスは、二人の間に入って、場を収めようとした。
「何が気合ですか。貴方のような三流魔法使いには、私が引導を渡して差し上げます! では、いきますわ!」
だがエミリィは聞く耳持たずに杖を振りかぶり、美空に向けて詠唱をする。
しかし・・・
「タロット・キャロッ・・・えっ!?」
呪文を口ずさもうとした瞬間風が走った。
「なっ!?」
「「「「「「!?」」」」」」
そして同時に目の前に居た美空の姿が視界から消えた。
「!?」
「えっ!?」
「お、お嬢様!?」
エミリィは自分の手元の違和感に気がついた。
それは自分の持っていた杖が無くなっているのである。
「渡してくれるのは・・・・・・」
エミリィが杖の消失に気づいた瞬間、自分の真後ろから声がした。
振り返ろうとすると杖の感触が背中に押し当てられている。
「渡してくれるのは、引導だけすか?」
そこにいたのは先ほどまで目の前にいたはずの美空が、ニヤリと笑みを浮かべてエミリィの杖を持ち背後で突きつけていた。
「そ、そんな!?」
「ちょっ、えっ!? ねえ、コレット・・・・何が・・・」
「み、見えなかったよ・・・どうしてあの子が委員長の後ろに・・・」
「み、美空さん・・・」
「・・・・・今のはクイック・ムーブ・・・・この子・・・・」
わずか一瞬の出来事に状況が一変してしまった。
その瞬間を理解できたのは、大勢の人がいる中でもセラスぐらいである。
それほど美空の動きは予想外だったからである。
エヴァの別荘で身に付けた瞬動(クイック・ムーブ)は度肝を抜くには十分だった。
「ば、ばかな!? この私が何も反応できずに杖を奪われ・・・後ろを取られた?」
予想もしていなかった出来事にエミリィは激しく動揺する。
しかし一瞬で着いたかと思えた勝負だったが・・・・
「ほら、返すっすよ」
「えっ?」
美空は突きつけた杖をエミリィに返し、再び距離を取った。
「なっ、どういうつもりですか!?」
美空の行動はプライドの高いエミリィにとっては屈辱でしかなかった。
しかし美空はニヤリと笑って振り返る。
「私があんたの誇りの魔法使いってもんを汚したっつうんなら、こいつはそのお詫びだよ」
「な、なんですって!?」
今のは決定的な瞬間。
一瞬で勝負はついたはずである。
しかしそれを美空はあえて見逃した。それは美空なりのお詫びのつもりだった。
「でも二度目は無いっすよ? 私の魂に誓ってね!」
「なっ、なめているのですか!?」
エミリィは美空が自分を見下していると勘違いしてしまい、怒り心頭だった。
だが美空はそんなエミリィに対して指を指して、宣言する。
「アンタが私に引導を渡してくれるんなら、私が渡すのは10倍返しだ!」
「!?」
「アンタの全力を、真っ向からぶち破ってやるっすよ!」
その言葉にエミリィは直ぐに動いた。
「くっ、いい気になるのは、これまでですわ!!」
自信満々の美空の表情を意地でも変えてやるという思いだった。
「タロット・キャロット・シャルロット・氷結・武装解除(フリーゲランス・エクサルマティオー)!!」
氷の風が美空に襲い掛かる。
しかしそれで美空を捕らえられるはずが無い。
美空はまたもや姿を消した。
「は、速い!?」
「はっはっは、あの雪崩に比べたらまだまだっすよ!!」
広場の中心に居るエミリィを軸に円を描くように駆け巡る美空。
一度駆け出せば触れることすらできぬ速さはエミリィだけでなく他の生徒やセラスの度肝を抜いた。
「やるわ、・・・あの子!」
「スゴイ、・・・速い!?」
その美空のスピードについて行けないと判断したエミリィはじっと身構えて、機をうかがう。
(速い、ですが・・・先ほどのクイック・ムーブさえ気をつければ、どうにかなる。彼女が近づいた瞬間に・・・・)
自分では追いつけなくとも迎え撃つことは出来るとエミリィは判断した。
後は最初の油断で襲われた直線的な瞬動術にさえ気をつければ、対処できると思い、杖をギュッと握り締めてエミリィは美空の接近を待つ。
そして、
「私を誰だと思ってやがるキック!!」
「今です! 氷結・武装解除(フリーゲランス・エクサルマティオー)!!」
美空が接近した瞬間エミリィは指をパチンと鳴らし、美空に氷の風を放つ。
「無詠唱!?」
「油断大敵ですわ!」
「うわっちょ! ありゃりゃ……」
無詠唱を予期していなかった美空は蹴り足に合わせてエミリィの武装解除魔法をぶつけられ、靴を脱がされてしまった。
「あちゃ~、油断した、ここらへんがまだまだっすね~」
エミリィの魔法により裸足となった美空は、一旦距離をとってから、己の未熟に頭を掻きながら苦笑した。
「ふん、余裕のつもりですか?」
攻撃が当たったというのに、美空の表情は緩い。
その態度がエミリィには屈辱だった。
しかし裸足になったぐらい美空にとって何の意味もなさない。
「余裕~? そんな偉くなったつもりはないっすよ~」
なぜなら彼女にはもう一足の靴があるからである。
「これは自分を信じるからこそ分かる、確信っすよ」
「なに!?」
「ふざけていても、やるときゃ真剣に魂賭けてるんすよッ!!」
美空ポケットから一枚の光り輝くカードを取り出す。そしてカードを掲げて告げる。
「そ、それはアーティファクト!?」
「アデアット!!」
カードが形を変えて、代わりに美空の足が光り輝きだした。
その光の中で美空は指を天に向かって指す。
「だらけて腑抜けの魂も、一度火がつきゃ異界の果てでも大炎上! ケンカは常に十倍返しで、ねじ伏せ、蹴破り、突き抜ける!」
美空の口上に、一体何事かという目で生徒たちは唖然として見ていた。
そしてアーティファクトを装着した瞬間、美空はあの言葉を叫ぶ。
「グレン団のかけっこ美空! 私を誰だと思ってやがるッ!!」
その瞬間エミリィの心に敗北の予感が過ぎった。
何故かは分からない。それは第六感のような物だった
しかしその予感を振り払うように、エミリィは杖を構える。
「くっ、装備型の能力? いえ、ですがアレは何かあります! なら、その前に!タロット・キャロット・シャルロット!!」
エミリィは自身の体に魔力を巡らせて、大気中に自身の魔力を込めた冷たい空気を放出する。
「ちょ、委員長本気だよ!?」
「美空さん!? お待ちなさい、エミリィ!!」
「お嬢様!!」
周りの者がエミリィから発する魔力から、強力な力を感じた。
慌てて止めようと一同叫ぶが、エミリィには届かない。
「まったく、仕方ないわね」
セラスもこれはやりすぎだと感じ、二人の間に入ろうとする。
だが・・・
「えっ?」
「行ったらダメ」
服の裾を捕まれた。
振り返ると自分の腰元に、幼い少女が自分の行く手を邪魔していた。
「あなた・・・・」
「邪魔したらダメ。美空は心配要らナイ」
ココネは一切の不安を感じさせない瞳で、セラスの行く手を止めていた。
エミリィが喧嘩に使うにしては強すぎる魔法を放とうとしている中、一番美空を心配しなければならないパートナーが、ざわめく広場の中で一番冷静だった。
いや、むしろパートナーだからこそ、美空を信じられたのだろう。
その純粋な瞳にセラスが見入っている間にエミリィは呪文を放つ。
「氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)!!」
天に浮かぶ大量の氷雨が美空只一人に向けて振り下ろされる。
「勝った!!」
降り注ぐ大量の氷雨は美空の周囲に激しく降りつけられ、逃げるすべなどない。
だがそんな中、アーティファクトを装着した美空は目を見開き、一本の光の道を見つけた。
「いくよ、デイライト!!」
それは、エヴァの課した修行で身に着けた、美空の力。
アメリカンフットボールにおける、ボールを持って走るランニングバック。その中で、ブロックや味方や相手のポジショニングから、走る通路を見出すランナーを、デイライトランナーと呼ぶ。
今の美空には、その走るべき通路が全て見えている。
逃げるでも、防ぐでもない。美空は光速の華麗なステップを切りながら、エミリィに向かって走り出す。
殆どの者がこの状況を理解できなかった。
だが美空は見つけた。
「えっ、・・・そ、そんな!?」
美空は最も安全な道筋、エミリィというゴールへの光のルートが見えていた。
そしてその動きは、辛うじて反応できた先ほどまでのスピードとは違う。
瞬間的な加速の瞬動とも違う。
目にも止まらぬ速さで激しいステップを織り交ぜて氷雨を交わしながら美空は向かってきた。
「魔法の射手(サギタ・マギカ) 火の三矢(セリエス・イグニス)!! 集束(コンウェルゲンティア)!!」
美空は走りながら初級呪文を唱える。
最近、ネタのために早口の練習をしていただけに、一瞬の詠唱だった。
そして美空の呪文により出現した火の玉は、そのまま放たれるでもなく、美空の右足に収束され、美空の足が紅蓮の炎に包まれていく。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
文字通り触れもしないスピードは、降り注ぐ雨すら美空を触れさせなかった。
「そんな、そんな、そんな!?」
そしてエミリィは怯んだ。
「くっ、氷楯(レフレクシオー)!」
一瞬の怯えが判断を遅らせた。
障壁を慌てて作るが、もう遅い。いや、作ったところで壁などグレン団の前には無意味。
美空の足に蓄積された炎の熱さは、まるで今の美空の心の中を表しているようにも見えた。
その熱気の前に、エミリィの冷たい氷の障壁など、軽くぶち破った。
「燃える女の火の車キィィィィィック!!!」
炎と一体となって蹴りだした美空の攻撃の前に、エミリィはなすすべなく蹴り飛ばされてしまった。
蹴り飛ばされる直前にエミリィは美空の燃えるような強い瞳を見た。
その瞳が全てを物語っていた。
たとえ口ではどれほどふざけていても。
美空には美空の本気の想いがあることを、エミリィは知った。
そしてエミリィが蹴り飛ばされた瞬間、広場に生徒たちの驚きと戸惑いが混ざる歓声が沸きあがった。
「い、委員長が負けたーーーッ!?」
「すっごい蹴り! あの子って一体何者!?」
「み、美空さんが・・・・あのエミリィに・・・・」
「すごいです美空さん!」
同じ学園の生徒といえど、この結果に驚いたのは高音も愛衣も同じだった。
「お嬢様! しっかりしてくださいお嬢様!」
ベアトリクスが慌てて倒れているエミリィに駆け寄る。
他にも治癒呪文の使える生徒が数人駆け寄ると、蹴られた腹の部分の衣服が燃えて、エミリィはぐったりと気を失っていた。
いかにエミリィが優秀とはいえ、モロに腹に美空の新技を蹴りこまれたのだ。気を失うのは無理も無いことだった。
しかしそれでも大事には至らなかったのは幸いだった。
そしてこれも魔法使い同士の決闘ゆえのことだからと、良識の範囲内で生徒たちも判断した。
しかしベアトリクスもコレットを始めとする他の生徒たちも気づいていなかった。
深刻なのは、美空に蹴られた箇所の傷ではなく、美空によって粉々にされたエミリィのプライドだと知るのはもう少し後の話だった。
だが今生徒たちは、エミリィを倒した旧世界の代表者へ賞賛の声を送っていた。
誰もがこれほど完璧にエミリィが負けると思っていなかったうえに、美空を甘く見ていただけに、この驚きは尋常ではなかった。
セラスも同じである。
「・・・・あの子・・・一体何者?」
旧世界の魔法使い、しかしその戦いぶりは魔法使いの欠片も感じさせぬ勇猛ぶりだった。
そんなセラスの傍らで、唯一この結果を確信していた少女が呟いた。
「サッキ言ッタ」
「・・・・えっ?」
「美空が誰なのか、・・・・・それは初めて会った時にも言ッタ」
呟くココネの言葉を聞いて、セラスは美空が最初に言ったことと、戦いの最中の名乗りを思い出す。
「たしか・・・新生・・・大グレン団、だったかしら? ・・・聞いたこと無いわね・・・」
それは当然だった。
それなりに有名ならセラスも知っているが、世界が違う。
だからセラスがいくら考えてもグレン団を知っているわけが無い。
しかし今日美空が少し教えてくれた。
そしてココネも、顎に手を置いて考えるセラスに告げる。
「グレン団・・・・ココネと美空にとって、偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)の称号ヨリ大切・・・・」
「・・・・・えっ?」
一切の嘘の無い純粋な瞳から発せられた言葉にセラスも少し戸惑ってしまった。
だが、ココネの気持ちは伝わった。
グレン団について一切知らないが、その誇りを二人がどれほど大切に思っているのかは伝わった。
これが魔法世界でのグレン団最初の喧嘩だった。
それはシモンでもヨーコでもない。
魔法世界、最初の戦いを勝利で飾ったのは美空だった。
その時の彼女の背中のマークは実に堂々としていた。