短編置き場   作:オシドリ

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三万字ほど。長い。原作知っていないときついかも。
楽しんでいただければ幸いです。


ネタ・ウォーシップガンナー2鋼鉄の咆哮×ループ

 北極海 戦艦大和 戦闘指揮所(CIC)

 

「第二艦橋大破ッ! 炎上しています!」

「主砲、電源に異常! 攻撃できません!」

「艦首左舷が消滅(・・)!。浸水止まりません!」

「ふむ……」

 

 傾斜が始まった艦内の、各部署からの悲鳴と伝令の水兵が駆け回る中。

 艦長の君塚は、すっかり無愛想なまま動かなくなった顔で一瞥する。

 

「駄目だな。総員、退艦せよ」

 

 小さく、告げた。

 

「――総員退去ッ、総員退去ッ! 総員最上甲板だっ! 退艦せよ−−ッ!!」

 

 まあ、今から退艦したところで間に合うかどうかは分からんが、と思いつつ生き残った者全員を外へ叩き出し、懐から取り出した煙草を咥えた。火をつけても何も味を感じないが、吸っている間はなんとなく気分が落ち着く気がするのだ。

 

 日本海軍が生み出した61サンチ三連装砲を搭載した超巨大戦艦【大和】は、満身創痍であった。

 甲板は光子榴弾砲による膨大な熱量に晒されて溶けだしており、上部構造物は軒並み敵のレールガンによる攻撃によって吹き飛ばされ、前衛的なオブジェと成り下がっている。

 

 傾斜は止まらない。通信からひっきりなしに避難を呼びかける声が聞こえる。もう既に動けなくなった大和は敵から怪力光線の連射を受けている。超重力電磁防壁がまだ生きているが、もう限界に近い。あと少しで爆沈するだろう。

 これまでの経験から、揺れる艦の状況が手に取るように分かった。

 だが、君塚はひとつ確信したことがあった。

 

 究極超兵器『フィンブルヴィンテル』。こいつを倒せば、こいつさえ消せばこの繰り返される地獄から解放される、と。

 

「次だ。次こそ。次こそ、これを終わりにしてやる……」

 

 薄暗いCICで、君塚は煙草をくゆらせながらモニターに映るフィンブルヴィンテルを眺めた。

 破滅的な威力をもつ黒い雷球が大和を囲むのが見えた。

 

 轟音。

 

 暗転。

 

 嗚呼、またやり直しだ(・・・・・・・・・)

 

 

 日本帝国海軍中将、君塚章成がそれに気づいたのは、もう随分と昔の話である。

 

 シベリア東部にある小国、ウィルキア王国の国防軍大将兼国防議会議長であるフリードリヒ・ヴァイセンベルガーに内応し、日本でクーデターを起こした。

 そして日本の宰相となり、ヴァイセンベルガーに付き従って世界征服へ加担した。

 

 世界征服。

 彼は世界統一と言っていたが、さして違いはない。

 とにかく、圧倒的な力による支配こそが真の平和と平等をもたらすと考えていたのだ。

 

 君塚は当初、これを一笑した。子供が考えるような馬鹿な夢、荒唐無稽な話だからだ。

 クリミア戦争の際、ロシアの後方かく乱の為に支援を受けて独立できたシベリア東部の小国が、どうやって武力で世界を統一できるのか。

 アメリカやイギリス、ドイツなどの列強はおろか、ロシアにも勝てない弱小国がどうやって戦う?

 

 しかし、ヴァイセンベルガーは傲慢な態度を崩さなかった。

 彼には、圧倒的な力を持つ兵器があった。

 

 超兵器。古代文明の遺産。遥か昔に宇宙の彼方より飛来したそれの一部を模した機関を搭載した兵器は、従来のものと比べ物にならない性能を発揮した。

 

 ――28サンチ三連装砲4基を搭載し、80ktという信じられない速さで動く超高速巡洋戦艦『ヴィルベルヴィント』。

 

 ――戦艦と同等の火力に航空機運用機能、更には大量の攻撃艇を吐き出す超巨大双胴強襲揚陸艦『デュアルクレイター』。

 

 ――速射砲と豊富なミサイル、そして新世代の推進器を持つ双胴式の超巨大爆撃機『アルケオプテリクス』。

 

 

 北極圏の秘密ドッグで建造されたこれらの性能を見せつけられれば、仮想敵であるアメリカを降伏させるどころか、世界征服も可能であろう。

 しかも、これだけではない。既に幾つもの国がヴァイゼンベルガーに賛同し、南米や欧州方面にも多くの超兵器があるという。

 

 だから、誘いに乗った。

 自身の栄達のため。保身のため。秘密を知った者をこの独裁者が見逃すはずがない。

 それに、栄えある日本国の宰相になれる。日本男児最高の栄誉が、目の前にあるのだ。

 これに栄達を求める君塚に抗える筈も無く、ヴァイゼンベルガーが差し出した手を握った。

 

 1939年3月25日 10:00

 

 ウィルキア王国の近衛艦隊と国防軍艦隊で行われた総合大演習当日。

 国防軍大将ヴァイゼンベルガーのクーデターが発生。

 同時に、君塚もクーデターを起こした。そして成功。

 

 ヴァイゼンベルガーはウィルキア帝国の建国と自身の国家元首就任を発表し、世界統一に乗り出した。

 

 権力を握った君塚は言われるがままに各地へ軍を派遣し、すぐに富士の山麓から発掘させ、出てきた宇宙船を解析し始めた。

 この結果、日本の総力を挙げて80サンチ砲を多数搭載した超巨大双胴戦艦『播磨(ハリマ)』や超巨大ドリル戦艦『荒覇吐(アラハバキ)』を、またドイツ系の技術者を使って超巨大戦艦『ヴォルケンクラッツァー』を建造した。

 

 その性能は絶大で、特に『播磨』は完成してすぐに欧州へ派遣すると多大な戦果を挙げた。

 世界統一も順調。残る列強は海軍国家のイギリスや頑迷に抵抗するドイツ共和国、本土決戦を行っているアメリカのみ。

 

 君塚は遠くない未来で、日本は統一された世界の二番手として、日本と言う国の躍進を成し遂げた偉大な指導者として讃えられる。

 

 そう思っていた。その筈だった。

 イギリスへ脱出し、ウィルキア近衛艦隊改めウィルキア解放軍が、異常なまでの強さを発揮するまでは。

 

 アメリカやイギリス、ドイツ共和国などの反ウィルキ帝国を掲げる連合国を組み、頑迷に抵抗していた。数々の超兵器は、世界各国に甚大な被害をもたらした。

 アメリカの太平洋艦隊を壊滅に追い込み、欧州も帝国とそれに与する国家の攻勢によって一時は欧州全土を占領寸前まで行った。が、投入した超兵器の全てがウィルキア解放軍の若き天才、シュルツ少佐の手によって悉く撃破されていくと状況は一変する。

 

 超兵器が無くなれば、後は高い生産力を持つアメリカと世界一の海軍国家であるイギリス、精強な陸軍を持ち、押されながらも国を維持し続けたドイツ共和国は息を吹き返した。

 

 更に少数ながらも超兵器と重要拠点の悉くを撃破し続けたウィルキア解放軍によって、戦線を徐々に押し返されていった。

 

 帝国は度重なる弾圧と無理な総力戦で全てがガタガタになっており、各地で敗退を重ね制海権を奪取されると脱落する国家も増えていく。

 

 君塚も、持てる戦力の全てを解放軍へぶつけた。

 しかし、『播磨』は地中海で、『荒覇吐』は太平洋で爆沈。残る『ヴォルケンクラッツァー』はまだ完成しておらず、本土防衛用に残していた君塚艦隊も降伏するか、水底へ沈んでいった。

 抑える戦力が無くなったことで日本各地で暴動が発生。反乱が起きた。

 

 クーデターから1年。

 最後は誰も居なくなった横須賀鎮守府の司令部で、君塚は呪いの言葉を吐き捨てながら死んだ。

 

 暗転。

 

 

「……夢、だったのか?」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚はほっと溜息をついた。

 縁起が悪い、随分と嫌な夢を見たと思うも、流石にク―デターを前にして緊張しているのだと自分で納得した。そしてそのまま夢と思い込み、先々で妙な近視感を覚えつつも仕事をこなしていき――。

 

 そして横須賀鎮守府の司令部で砲撃を受けて死んだ。

 

 暗転。

 

 

「何なのだ、これは……?」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚は呆然とした。

 流石に今回は夢だとは思えなかった。リアルな戦争の推移、生々しい死の感触、知らない筈なのに見た記憶がある兵器の数々。

 

 つまり、このままだとウィルキア帝国は、日本は負ける。

 

 ならばどうすればいい?

 あれの様にならないよう、立ち回るしかない。

 元々、君塚は馬鹿ではない。でなければ、横須賀鎮守府の司令官にはなれないし、中将という階級まで登り上がることはできなかった。

 

 結果は多少の延命になった。たった一人で世界各地の戦争全てに介入する事も、動かす事も出来ない。

 あの時と同じように追い込まれていき、君塚はウィルキア解放軍と艦隊決戦を行って乗艦と運命を共にした。

 

 暗転。

 

  

「ウィルキア帝国は駄目だな。使えんわ」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚はぼやいた。

 何が世界統一だ。折角の助言をしても結局一年足らずで負けてるじゃないか。これだから陸モノは駄目なんだ。海上戦力の凄さを全く分かっていない。泥船と分かっているなら、最初から味方しなければよかった。

 

 ――そうか、そうだ。今回は最初からウィルキア近衛艦隊、つまり解放軍に協力することにしよう。

 クーデターを中止し、近衛艦隊を受け入れて一緒に戦えばいい。

 

 いや、クーデターを中止と言っても駄目だな。かつての十月事件や五・一五事件の様な暴走もあり得る。

 となれば、今のうちに艦隊へ避難しておこう。

 

 君塚は自身の柔軟な考えを褒め称え、そして救国の提督なんて呼ばれる姿を思い浮かべた。

 クーデターでの悪名より民衆にも受け入れられて、遥かに良いな。

 すぐに明日のクーデターの中止を言い渡し、その足で君塚は旗艦へ避難。困惑する面々に「明日何かが起きるかもしれん」とだけ答え、部屋で眠りに就いた。

 

 その夜。

 君塚は部下に射殺された。

 

 暗転。

 

 

「クソッ! 駄目じゃねーか!!」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚は怒鳴り散らした。

 撃たれたのは覚えている。だが、なぜだ? なぜこちらの動きが分かったのだ?

 

 ――そうか、スパイ。いや、シンパか。アカ共と同じように張り巡らしているのか。

 猜疑心の塊め、そんなところは仕事ができるのか。

 

 あと、あの馬鹿共め、世界統一や真の平等な社会とかいうまやかしに騙されおって。

 奴は超兵器という切り札を大量に持っていても、弱小勢力に一年でひっくり返されて敗北に追い込まれるような指導者だぞ。戦線を広げすぎるわ、戦力を分散させるわ、更には超兵器を一度に叩きつければいいものを一つずつ小出しにして返り討ちに遭って無駄に消耗させる。

 私は天才なのだと言いながら愚策ばかり実行するのだぞ。どう考えても永遠に無理だ。

 

 ――しかし、困った。

 そうなると、どこまでヴァイゼンベルガーの手が回っているか分からない。急に態度を変えれば先と同じように殺されてしまうだろう。

 

 ――つまり、クーデターは起こさなければならない。

 

 君塚は、震える声で呟いた。認めたくなかった。

 

「あれを担ぎながら、超兵器キラー共を倒して世界を統一しろと言うのか……?」

 

 なにその無理ゲー。

 

 翌日。君塚は絶望した表情のままクーデターを起こし、救援を求めるウィルキア王国の近衛艦隊をなりふり構わず攻撃した。

 半数は仕留めたが、対超兵器のフラグシップことシュルツ少佐には逃げられる。

 

 その後もヴァイゼンベルガーに直談判し、君塚自らが艦隊を率いて欧州へ出向き、超兵器を纏めてぶつけたり、艦隊を根こそぎ動員したが全て撃沈。

 

 クーデターから三か月後。

 君塚は地中海で乗艦と一緒に沈んだ。

 

 暗転。

 

 

「なんなんだあの男は……」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚は恐怖した。

 跳ね起きて思い出すのは、ウィルキア解放軍のあの男だ。

 

 【若き天才】、【対超兵器キラー】、【死神】、【不敗の魔術師】、等々。

 

 数々の異名をもつウィルキア王国近衛艦隊所属、ライナルト・シュルツ少佐。

 連合国のラジオでは彼を英雄だと讃えていたが、冗談じゃない。あれは英雄ではなくもっと恐ろしい何かだ。

 

 前回の近衛艦隊への奇襲だってうまくいっていたのだ。突然の出来事に近衛艦隊は混乱し、なすすべもなく戦艦や巡洋艦が撃沈していった。

 だが、たった一隻で君塚艦隊へ立ち向かう重巡洋艦がいた。

 シュルツ少佐が艦長を務める艦だった。

 

 戦艦から駆逐艦まで徹底的に撃ち込んだ。水雷戦隊による酸素魚雷の飽和攻撃だって使った。航空攻撃だってした。

 たった一隻の条約型の重巡洋艦にはオーバーキルも良いところだ。

 

 だが、通じない。通じなかったのだ。

 縦横無人に走り回り、見えない筈の酸素魚雷は迎撃され、対空射撃で航空機は堕とされ、未来でも見えるか、いくら撃ち込んでも至近弾のみで直撃しない。

 逆にこちらの戦艦や巡洋艦に接舷するぐらい近づき、水平射撃と至近距離での雷撃を行って撃沈していく。

 

 なお、その時の日本海軍の被害。

 

 沈没

 戦艦8隻、空母6隻、巡洋艦12隻、ほか多数。

 

 損傷

 いっぱい。

 

 シュルツ少佐の重巡洋艦? いいところ中破じゃね?

 あまりの非現実的な光景に、誰もが呆然とし、攻撃が止んだ隙を見て転舵して去っていく重巡洋艦を見送っても仕方なかった。

 

 どうすればアレに勝てる? 

 どうすればコレが終わる?

 どうすれば――。

 

 その後、君塚は考えるのをやめた。

 

 暗転。

 

 

「いや、なに馬鹿な事をしていたのだ、俺は……」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。 

 

 君塚は自身に呆れた。

 柱の男、カーズ様、とか訳の分からない言葉が頭に浮かぶ。

 何度も死んでいる所為で頭がおかしくなったかもしれない。

 

 とにかく、どうにかしなければコレは終わらないのだ。

 あの死神をどうにかしなければ、いけないのだ!

 

 クソ、やってやる、やってやるさ!

 私だって日本男児だ! 海軍中将だ! 船乗りなんだ!

 己が日本を守らなければ、誰がやる!?

 

「何度でもやってやる、絶対に奴に勝ってやる……!」

 

 君塚は決意を新たにし、挫けそうになる心を奮い立たせた。

 

 

「艦隊全滅!」

「超兵器、撃沈!」

「艦隊全滅!」

「超兵器、撃沈!」

「艦隊全滅!」

「超兵器、撃沈!」

「艦隊全滅!」

「超兵器、撃沈!」

 

「撃沈!」「撃沈!」「撃沈!「撃沈!」「撃沈!」

 

 

「もう疲れたよパトラッシュ……」

 

 目を覚ますと、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚は限界だった。

 もう20年近い悲惨な状況を体験し続けたせいで目は澱み、表情筋はピクリとも動かなくなり、心が摩耗していた。

 

 目を覚ましたベットの上で、茫洋と天井を見つめながら考える。

 パトラッシュは確かフランダースの犬という作品に出てくる本だったか。原作のモデルとなったベルギー北部のフランドル地方では知名度が低く、評価が低いそうだ。日本人観光客からの問い合わせが多いから銅像を建てたそうな。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

「本当に、どうすればいいのだ……」

 

 現実逃避を終えた君塚は思案する。

 

 勿論、考えるのは【死神】シュルツ少佐対策である。

 というか、アレは本当に人間なのか? ウィルキアの秘密研究所から脱走した改造人間とか、人型超兵器とかそういうのじゃないのか?

 

 なんで戦艦部隊と機動部隊と潜水艦と水雷戦隊による立体飽和攻撃を行っても撃沈しないのだ? 

 

 確かに【死神】は戦争初期と後期ではヤバさ加減が違う。

 

 いや、どっちもヤバいのだが、後期になると艦と兵装など全てがグレードアップし、更にエグくなる。

 電磁障壁やら防御重力場と呼ばれるバリアを持つようになり、補助兵装と兵の練度によって成せる技なのか、主砲を数秒に一回という有り得ない速さで斉射しながら異常な命中率を発揮するようになる。

 いつから主砲は馬鹿でかい九二式重機関銃(キツツキ)になったのだ。

 

 更にはミサイルや酸素魚雷を高角砲や機銃で迎撃し、砲弾の雨の中を縫うように右へ左へ動きながら避け、逆に砲弾と魚雷を叩き込んでくるのだ。

 おかしいだろ本当に。反抗的だった味方ですら、アレの変態機動を見てドン引きしていたぐらいだ。

 

 自信はあった。立体飽和攻撃をアメリカの太平洋艦隊にやったらあっさり壊滅でき、信じられずに他のウィルキア解放軍や連合国の大艦隊相手にしてみたら全滅に追い込めた。

 周りからは最強の連合艦隊なんて呼ばれるようになっていた。

 

 なのに、たった一隻だけが倒せない。

 

 超兵器? ああ、奴らは海の藻屑となった。

 『播磨(ハリマ)』や『荒覇吐(アラハバキ)』と『ヴォルケンクラッツァー』の三隻を同時投入しても駄目だったわ。

 

 ……どこが神の如き力を持つ超兵器なんだろう。既存の艦の方が成果が高いのだが。

 君塚は訝しんだ。

 

「いや、待てよ。大破には追い込めたんだよな……」

 

 波状攻撃によって流石に疲れが出てきたのだろう。防御を貫通し、後部艦橋や砲塔に命中させることが出来たのだ。あまりの嬉しくなって拍手喝采をしたのを覚えている。

 

 確か、当てたのは新型だという翅の無い航空機だった。ジェットエンジンとかいうもの積み、遥かに高速で動けるとか言っていた。

 砲術畑出身である君塚には分野違いで、あまり興味のない話だったからそれぐらいしか覚えていないが。

 

「搭載する兵器を変えた結果……?」

 

 そうか、今までは既存の艦でやりくりしていたからか。

 例えば、戦艦は主砲はそのままで機関や設備の換装、また防御重力場などの搭載だけだった。

 

 というのも、この世界の戦艦は少々おかしく、改金剛型は四十隻はあり、他の扶桑型、伊勢型、長門型、改大和型を含めると優に百隻を超える艦が存在している。

 

 これだけいると流石に別の新造艦を造るより、改装した方が早い。

 だって次の作戦までには機関や主砲、装甲、艦橋など全部替えられるし。

 

 余りにも多いので、整理を兼ねて失敗作と言われた十隻近い扶桑型戦艦は全てウィルキア王国へ売却していたぐらいだ。

 巡洋艦以下となればこの数十倍は存在しており、君塚でも大まかな数しか把握していない。

 

 もっとも、これだけの数が居ても【死神】の手に掛かれば一年以内に根こそぎ撃沈させられてしまうのだが。流石に目の前で大和型戦艦12隻がシュルツ少佐と愉快な仲間達の戦果となって沈んでいくのには泣いてしまった。

 

「今回は捨てよう」

 

 そして自分が理解しやすい、砲術関連を重点的に伸ばしていこうと考えた。

 

 その後。

 

「新型砲を開発しました。これは速射砲と言って見かけは単装砲ですが砲塔内部にドラムマガジンと呼ばれる自動給弾装置が設置されておりこれによって毎分30発以上の速射が可能となっていますしかも最大射程は23,000mとなっており――」

「すまない、一旦止めてくれ」

 

 君塚は小さく手を挙げた。

 

「はい、なんでしょうか?」

「申し訳ないが、短く、分かりやすく説明してくれ」

「軽巡洋艦の主砲が射程そのままで機関銃並みの速さで撃ち込めるようになりました」

「採用。直ぐに量産に取り掛かってくれ」

「有難うございます!」

 

 その後、新型砲を載せた艦隊で【死神】相手に戦ってみた。

 

 沈められなかったが、今までよりも当てられるようになった。

 

「確かに、弾幕はパワーだな」

 

 確かな手ごたえを感じ、君塚は笑みを浮かべて乗艦と共に沈んだ。

 

 暗転。

 

 

 ~技術蓄積中~

 

「これは超音速酸素魚雷と言います! これはスーパーキャビテーションという現象を利用したもので――」

「採用、直ぐに量産してくれ」

 

「CIWS、近接防御火器システムと言いまして。レーダーと連動して至近距離のミサイルや航空機を自動で迎撃する――」

「採用、直ぐに量産してくれ」

 

「チャフグレネードです。一時的ですがミサイルの妨害だけでなく、誘導レーザーのロックすら解除します」

「採用、直ぐに量産してくれ」

 

「波動ガンです。超兵器に搭載している波動砲を小型化したもので、威力と射程は落ちましたが、全艦種に搭載可能です」

「採用、直ぐに量産してくれ」

 

「荷電粒子砲です」

「採用、直ぐに量産してくれ」

 

「怪力線照射装置です」

「採用、直ぐに量産してくれ」

 

「妖しい大砲です」

「ただの帆船時代の大砲じゃないか。試験はしてくれ」

 

「火炎放射砲です」

「何に使うのだ? 試験はしてくれ」

 

 

「提督、こちらの攻撃が通用しません!」

「やはり怪しい大砲は駄目だったか」 

 

 暗転。

 

 

 繰り返しの中で技術を試し、伸ばしていく。そして開発者がAGSと呼んでいた砲塔システムで技術が足踏み状態になったところで、次の水雷関連を伸ばしていく。

 途中から兵装の開発を進めていく最中に船体や設備、機関、補助兵装、航空機の開発も進めていくようになった。

 例えば怪力光線、つまりレーザー兵器の出力を上げるには新型機関が必要であり、これを載せられるだけの大型船体と設備が必要だったからだ。

 

 造って、試して、殺して、死んで、これを繰り返していく。

 技術と設計図を覚え、次に持ち込んで発展させ、また次へ持っていく。

 

 何度も何度も何度も繰り返して繰り返していき――。

 

 遂に、完成した。 

 

 

 大西洋 ケルト海 日本海軍 君塚艦隊

 

 地中海から大西洋を北上し、イギリスへ向かう中。

 旗艦の分厚い装甲に守られたCICの中、君塚は提督席に腰掛けながらモニターに映る艦隊を見やった。

 

 青と緑の地に白鳥と大地が描かれた艦旗。

 ウィルキア解放軍、あの【死神】が乗る巡洋艦もいる。

 

 恐らく、これが最後の艦隊決戦になるだろう。

 アメリカやイギリスなどの連合国は帝国の猛攻によって押し込まれ、列強の誇っていた艦隊はもう過去の存在になっていた。

 

 今回が始まった時、君塚は即座に蓄積した技術を各所に渡し、新しい艦へと生まれ変わらせていた。

 

 君塚の指揮下にある艦隊、通称【君塚艦隊】は精強な艦隊である。

 どの艦も核融合炉と超重力電磁防壁を持ち、最新の設備と機能を持つようになった。君塚はこの艦隊を率いて、世界中の海を渡り、戦場を縦横無尽に駆け回っていた。

 

 アメリカの太平洋艦隊を、イギリスやイタリア、ドイツなどの連合国の艦隊を相手にしても殆ど損害無しで壊滅させていった。

 

 当然、連合国は超兵器の存在を疑うだろう。

 そうすれば来るのは【超兵器キラー】のいるウィルキア解放軍だ。

 

 彼らには欧州に投入済みだった超兵器を全てぶつけ、その間に連合国に属する国を占領していった。

 

 結果、超兵器は全て沈んでしまったが、時間は稼げたし、データは取れた。

 今までの周回の記憶と照らし合わせると、完全には設備が整っていない。補給もままならず、損傷から修復を終えていない艦も見える。

 

 勝つ見込みは、ある。

 

「諸君、正念場だ。気を引き締めていこう」

 

 その声を待っていたかのように、CICに詰めていた者達が一斉に敬礼する。

 当初は評判の悪い君塚を胡乱な表情で見ていた彼らも、クーデターを機に変わった君塚を見て態度を変えた。何度も死線を潜り抜けたような歴戦の将の風格と、未来を全て言い当てる知略にすっかり心酔していた。

 今も【軍神】と讃えられながらも驕らず、常に全力で戦おうとしている。

 

 ――【死神】がなにするものぞ、我らには【軍神】がいる。

 君塚艦隊の士気は高く、意気は天を衝く勢いであった。

 

「Z旗を掲げよ」

 

 それが、戦いの合図となった。

 

 

 戦いは熾烈を極めた。

 

 事前に深深度に潜航していた潜水艦が攻撃深度まで浮上し、必殺兵器である潜航新音速酸素魚雷を発射する。命中すれば戦艦でも一撃で沈められる魚雷だ。命中しなくてもただではすまない。

 また同時に、航空攻撃が始まる。空母の新しい槍となるF-15EX「蒼天」やSu-47J「ベルクート」などのジェット航空機からなる攻撃隊で制空権を確保。

 

 この時点で、既にウィルキア解放軍の艦隊は壊滅状態になった。

 だが、この程度では【死神】は沈まない。

 

 故に攻撃を緩めない。

 大艦巨砲主義の極みと言っていい51サンチ砲を搭載した戦艦を中核とした砲戦部隊が咆哮する。また荷電粒子砲を搭載した巡洋艦によるアウトレンジからの砲撃。距離を詰めてくる敵には新型砲と怪力線による弾幕が出迎える。

 

 徹底的に近づけさせない。それが、君塚が出した答えだった。

 

 しかし、流石は【死神】と言うべきか。 

 細かく動き回りながら致命傷を避け、主砲と魚雷でこちらの艦隊を削ろうとしていく。

 敵味方関係なく、砲火と艦が沈んでいく悲鳴を聞きながら、止まらずに艦隊運動で海の上を踊り続けていく。

 

 そして、ようやく終わるその時が来た。

 

「敵旗艦、イタヴァル撃沈!」

「――いま、突撃せよ!」

 

 旗艦が撃沈したことに動揺したのか、【死神】の艦が動きを止める。

 その一瞬を、君塚は見逃さなかった。

 

 即座に攻撃を集中。航空隊が一斉にミサイルを発射し、砲撃は一層激しくなる。激しい水柱と目を焼く光線が【死神】を覆いつくす。

 その隙に、AGSと超音速酸素魚雷を搭載した水雷戦隊が切り込み、至近距離からの逃げ場がのない雷撃を行った。

 

 そして、攻撃を止めて窺ったとき、【死神】の重巡洋艦は満身創痍になっていた。砲塔は吹き飛び、煙突はひしゃげていて炎上し、黒煙を上げている。

 弾薬庫に誘爆したのか、激しい爆発と噴煙を上げ、そのまま横倒しになるようにゆっくりと沈んでいった。

 

 勝った。

 勝ったんだ。

 勝利した、勝利した、勝利したのだ!

 あの死神に、超兵器キラーに勝利したのだ!!

 

「敵艦隊に降伏勧告をせよ」

「ハッ。――提督、敵艦隊が機関停止。降伏を受諾すると回答」

「よろしい。各艦、攻撃を止めよ」

 

 艦内が勝利に沸く中、君塚は周りに気付かれぬよう一人涙した。

 

 

 そして、クーデターから一年後。

 最後の国家が降伏。ウィルキア帝国による世界統一がなった。

 

 ウィルキア帝国 首都 

 

 この日、君塚はヴァイゼンベルガーに呼び出されていた。

 帝国の勝利式典へ出席するためだった。

 

「君塚、素晴らしい手腕だった」

「有難うございます、閣下」

 

 君塚が恭しく頭を下げた。

 彼には珍しく、本当に久々に小さな笑みを浮かべていた。

 

「ほう、君も笑う事が出来たとは。初めて見たぞ」

「ええ、ようやく人心地が付きました故」

 

 よほど面白かったのか、ヴァイゼンベルガーは上機嫌に高く笑い声をあげた。

 

「実はな。君にプレゼントを用意したのだ」

 

 ヴァイゼンベルガーが合図すると同時に、武装した兵が雪崩れ込んできた。

 君塚に銃口が向けられる。

 

「これは……」

「君は私の想像以上によくやってくれた。海軍を纏め、各地へ転戦して邪魔な敵を一掃し、帝国の勝利に貢献してくれた。だが、やり過ぎたのだよ」

「……お役御免、という事ですか」

「その通り。何か言い残すことあるかね?」

「閣下、煙草を吸ってもよろしいか?」

 

 答えを聞かず、君塚は懐から煙草を取り出し、火をつけた。

 ヴァイゼンベルガーは傲慢な笑みのままだ。自分の優位性を全く疑っておらず、事実その通りだった。

 

「もう満足したかね?」

 

 煙草が半分も吸い終わらないのにヴァイセンベルガーが言った。

 君塚は嘲笑を浮かべて吐き捨てた。

 

「閣下、男で早いのは嫌われますよ」

「殺せッ!」

 

 次の瞬間、君塚は全身を撃たれて死んだ。

 

 暗転。

 

 

「あれでは駄目、という事か……」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚は無感動に呟いた。 

 身体中を撃たれた感触と痛みを感じるが、もう痛みには慣れてしまった。艦橋の崩落に巻き込まれたり、艦が沈没して溺れるなどに比べればマシだと思いながら、溜息を零す。

 

 死ぬことにものに慣れてしまったなぁ、と内心ごちた。

 別にあれで解放されるならとわざわざ出席して撃たれたというのに、これでは死に損ではないか。

 まあ、ヴァイゼンベルガーに協力は駄目だと分かった。協力しても用済みになれば暗殺され、この周回も終わらないまま。

 

 となれば、ウィルキア解放軍に参加するしかない、か?

 

「……帝国に内通しているのは確かあ奴らだったな」

 

 何度も周回を繰り返している内に、自身の艦隊で誰が帝国と繋がる内通者なのかは知っている。コイツ等を全員拘束して、艦隊ごと逃げ出せばよい。

 

 君塚はすぐに行動を起こした。内通者を集めて全て捕らえたのち、指揮下の艦隊を動かしてウィルキア王国の近衛艦隊と共に離脱。

 その後、共に各地を転戦しながら戦い続けていく。

 

 もう80年は戦い続けた君塚には、艦隊をどこにどう動かせば効率が良いか分かるようになっていた。また超兵器の弱点も、帝国の重要基地が何処にあるか全て分かる。

 超兵器は【死神】に任せ、自身は地中海を中心に艦隊を率いて暴れまわった。

 

 お陰で【死神】と同じく帝国から賞金がかけられ、【マルタの悪夢】なんて呼ばれるようになっていた。

 口には出さなかったが、アレと一緒にして欲しくないと君塚は思った。

 

 そのまま戦い続け、太平洋に戻り、同期達が操る超兵器を、部下達が乗る艦隊を沈めた。

 心が痛んだ。

 

 それでも、シュヴァンベルグ港に突入したウィルキア解放軍が、ヴァイゼンベルガーの乗る超兵器『リヴァイアサン』を轟沈したと聞き、君塚はこれで全てが終わったのだと思った。

 

 だが――、

 

 再び日本へ戻ってきた君塚は絶望した。

 ヴァイセンベルガーを倒し、連合国の勝利で終わった。

 

 幾多の苦難を乗り越え、戦争に勝ったのだ。

 だが、君塚が離脱した後も日本はウィルキア帝国へ協力していた。連合国から攻撃されるのは当たり前のことだった。

 無理な総力戦で街から人がいなくなり、モノとカネは戦争に使われて無くなり、国家は疲弊しきっていた。超兵器の攻撃で四国は二つの島に分断され、連合国からの激しい攻撃によって街は灰燼に帰し、残ったのは瓦礫と放棄された兵器の山だけだった。

 

 同期を、部下を殺し、日本を見捨てた結果。

 あの、美しい山々は、緑は、活気に溢れた港は、人の営みのあった街は、全て無くなってしまった。

 

 気が付けば、同期と部下たちが眠る墓の前で拳銃を口に咥え、引き金を引いていた。

 

 暗転。

 

 

「勝つだけでは駄目だ。日本を、守らなければならない」

 

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 

 君塚は決意を口にした。 

 日本を守り、自身の望みを叶えるにはどうすればいいか。

 分からない。

 君塚は軍人だ。政治や経済のことなど分野外だ。今までの周回では政治は従う議員と官僚任せで、自身はあくまで海軍の予算を分捕る事しかしていない。

 

「ああ、何度も試せばよいのか」

 

 なぁんだ、簡単なことじゃないか。

 己は何度も周回できる。今までと同じことだ。繰り返せばいい。何度も試してみればいい。

 そうすれば、自ずと最適な道が見えてくる。

 

 君塚は、歪んだ笑みを浮かべて再び行動を開始した。

 

 

 考えて試してみて、使える奴を見つけ出して仕事を振り分け、被害を最小限に抑え込む。

 それを繰り返す。

 

 沿岸部が超兵器の攻撃を受けた。次からは優先的に潰しておこう。

 帝国の艦隊によって甚大な被害を受けた。次からは事前に艦隊を配備しておこう。

 派遣した艦隊を戻す時間が無い。そうだ、ウィルキア解放軍が使っていたドック艦を建造させよう。

 

 選んだ人材に内通者がいた。次からは最初から捕まえておこう。

 途中で過労死をした。次からは適度に休みを入れることにしよう。

 戦争で民間では閉塞感がある? 気晴らしに祭り、あとは軍事技術の一部を民間転用させよう。

 

 日本の、積もりに積もった問題を強引でも解消していき、国が少しでも良くなるように最適化していく。

 

 全ては、未来のために。

 

 

 もう百回は周回を繰り返している。だが、必要なものと最適な行動は覚えることが出来た。

 そしてようやく、最後の敵を見つけ出せた。

 『フィンブルヴィンテル』。後はこいつを倒すだけだ。

 

 

 

「さて、やるとするか……」

 

 百八回目。

 目が覚めると、クーデター当日の朝だった。

 君塚は立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。

 

 1939年3月25日 10:00

 

 ウィルキア王国でクーデターが発生。

 

 同時間、君塚はもう慣れた動きでクーデターを起こし、各所を閉鎖。敵味方問わず邪魔すると分っている者共を捕まえ、治安を維持。

 

 あまりの手際の良さと一夜にして急変した君塚の雰囲気に周りは驚くが、逆らい難い歴戦の将が放つような威圧感と風格から指示された通りに動いた。

 その後、上は大臣から下は平までの官僚や議員、軍人らが一同に集められた。彼らはみな、君塚が周回の中で使えると判断した人物だった。

 

 君塚は彼らを前にして静かに演説を行った。どのような言葉で、どのように演説するのが有効なのか、既に身に染みて覚えている。

 がなり声を上げるわけでもなく、まるで語りかけるような張りのある声だ。議会に響き渡る何度も口にした口説き文句は今回も彼らの矜持を大いに刺激し、そして奮い立たせた。

 議会では君塚の言葉と、出席者たち自身の熱狂で支配されており、顔を真っ赤に高揚させた。

 

「――全ては、未来のために」

 

 君塚の最後の言葉に、誰もが歓声と万雷の拍手で応えた。

 

 政府の掌握が終えた君塚は、その足で御上の下へ向かい、今の情勢にヴァイセンベルガーの事など全ての事情を話した。そのうえで願い出て、国家の全権を掌握することに成功。必要ならば権力でゴリ押しできるようになった。

 

 こうして名実共に独裁者となった君塚は矢継ぎ早に各所へ指示を出した。

 ここからは時間との勝負だ。積み重ねてきた経験を元に国内の生産体制を改善、向上させ、急ピッチで国家総動員体制を整えていく。

 

 クーデターから逃れてきたウィルキア近衛艦隊を拘束(保護)。急ぎで補給を行い、逃げられたという形で脱出させる際には帝国への言い訳を兼ねて基地を幾つか爆破しておく。

 

 嫌味を言ってくるヴァイゼンベルガーをのらりくらりとかわしながら時間を稼ぎ、既存艦を順次ドックに入れて改装を行うと同時に宇宙船の発掘を開始。

 解析して戦力を向上させる。

 機械の様に、何度も口にした言葉で同期達や提督を味方にし、艦隊を纏めさせる。

 覚え込んだ兵器群の設計図を最適な人物と最適な場所へ配って造らせる。

 

 これまでも経過を確認。

 

 権力掌握、ヨシ。 

 艦隊編成、ヨシ。

 生産体制、ヨシ。

 

 国家総動員法、発令。

 戦時体制に突入。これで総力戦が可能。

 

 全ての準備が整った。

 

 1939年4月1日 12:00

 

「我が国は、ウィルキア帝国に対して宣戦布告する」

 

 日本国、ウィルキア帝国に対して宣戦布告。

 帝国には直前までアメリカ侵攻用と説明していた艦隊を北方へ向かわせ、間宮海峡に建築中だった超巨大水上要塞『ヘル・アーチェ』を徹底的に破壊。周辺地域の基地へ砲撃を行い、機雷を撒いて封鎖。

 艦隊はそのまま北海道の守りに就かせ、沿岸部に陸上砲台を含む基地の構築を開始した。

 

 一連の動きにヴァイゼンベルガーは報告を受けて呆然とし、そして嵌められたと分かるや激怒した。

 即座に報復を決定。

 対アメリカ用にと北極圏の秘密基地で建造した艦隊を半分にわけ、また超兵器『アルケオブテリクス』を日本へ派遣した。

 残り半分は超兵器『ヴィルベルヴィント』と『デュアルクレイター』と共に、予定通りにハワイ攻略へ向かった。

 

 例え艦隊が半分になったとはいえ、超兵器がいるのだ。アメリカ太平洋艦隊や日本海軍など軽く捻り潰せる、ヴァイゼンベルガーはそのように考えていた。

 確かにその考えは間違っていない。この状況でどう動いてくるか知っている君塚が、いなければの話だが。

 

 急行してきた『アルケオプテリクス』は一度も攻撃することなく、たった一発の電磁攪乱ミサイルによって制御を失い、墜落した。

 あっさりと堕ちた超兵器にウィルキア帝国艦隊は目の前の光景を信じられず、突撃してくる日本艦隊を前に大いに慌てふためき、混乱が巻き起こっていた。

 

 久々の活躍の場、それも艦隊決戦で大いに士気を高めていた日本艦隊はその練度を遺憾なく発揮し、一隻も撃沈される事なく敵艦隊を撃破。

 まるで日本海海戦のように、日本海軍のパーフェクトゲームで終わったのだった。

 

 ウィルキア帝国の悲劇はこれで終わらなかった。

 日本が使えなくなったため、超兵器『ヴィルベルヴィント』と『デュアルクレイター』と別艦隊は急きょアラスカのアンカレッジを占領。そのままハワイ攻略を開始した。

 

 ハワイ攻略は成功。しかし、アメリカ西海岸沖に突撃した『ヴィルベルヴィント』はアメリカ太平洋艦隊を壊滅させたが機関部を損傷。その後はウィルキア近衛艦隊のシュルツ少佐によって撃沈された。

 

「これはどういう事だ!」

 

 この報告を受けたヴァイゼンベルガーは衝撃を受け、沈んだ超兵器の設計チームを処刑するなど激しく怒り狂った。

 

 本国と北極圏のウィルキア帝国海軍はその損害から動けなくなった。

 そもそも、ウィルキアの海軍はさほど多くはない。歴史的にも地理的要因で対ロシアであり、伝統的に陸軍偏重だ。海軍の整備が始まったのもここ20年間の話で、その整備に協力したのは日本とドイツなのだ。その癖やら使う艦まで全て分かっている。

 

 その数を補うのが超兵器であり、日本の海軍力だった。

 超兵器は帝国が世界統一を進めるために多大な労力をかけて造り上げた兵器だ。それが開戦初期で二つも失われるなど威信を失墜させ、今後の戦略に影響を及ぼすものだった。

 

「君塚め、裏切りおって……」

 

 ヴァイゼンベルガーは悪態をついた。

 君塚によって日本の協力者達は軒並み捕まり、また指導力が想像以上だと知るや、侮れない敵として認識するようになった。

 まさか君塚が100回以上この戦争をやり戻している事など分かるはずもなく、ヴァイセンベルガーはその能力を隠して帝国に近づいたと思い込んでいた。

 

「フン、まあ良い。勝つのは儂だ。精々足掻くがいい」

 

 ヴァイゼンベルガーは日本への攻撃を切り替え、『デュアルクレイター』を北極圏へ戻した。欧州での占領作戦の要となる『デュアルクレイター』を失う訳にはいかなかったからだ。

 

 以後、帝国は北極海航路とシベリア鉄道を使って陸軍を中国及び欧州へ投入。ユーラシア大陸占領に注力していく。

 この動きに連動し、ソ連、南米、中東、アフリカなどでウィルキア帝国に与する国が軍事行動を開始。

 

 これに対抗するべく、イギリスへ渡ったウィルキア王国近衛艦隊改め、ウィルキア解放軍とアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、そして日本など反ウィルキア帝国からなる連合国を結成。

 

 欧州大戦以来となる、世界規模の総力戦が始まった。

 

  

 春に欧州で戦争が勃発して以降、日本は慌ただしく動いていた。

 

 間宮海峡を封鎖したことで帝国海軍による攻撃は減ったが、代わりに大陸から弾道ミサイルや爆撃機などの襲来が日に日に増していた。

 

 とはいえ、この時期はまだ攻撃対象は軍事施設のみで、兵器の性能も高くないから防ぎやすい。

 早期にレーダー網と要撃機、また高角砲やミサイル、対空パルスレーザーなど対空兵装を充実した艦による迎撃態勢が整えたことで、むしろ被害は減りつつある。

 

 そして国内はと言うと、先の海戦の完勝で熱狂していた。同時に、本土攻撃への対応の速さから君塚の評判はうなぎ登りだった。

 民衆から見ればいきなりクーデターを起こして国を牛耳った独裁者であり、知っている者でも野心家で強硬派だった君塚をよく思う人物は皆無だったが、まあ、勝てば官軍という訳だ。

 

 君塚もこの熱狂はいま勝ったばかりだからと分かっているので、熱が冷めないうちに準備を進め、必要な法案を纏めていた。

 その中には君塚が設計した新造艦の建造計画と資源の輸送計画、そして日本軍の欧州派遣が含まれていた。

 

「欧州が危ない。日本が積極的に動く必要がある」 

 

 君塚は、会議で欧州派遣艦隊の必要性を説いた。

 

 現在、日本海軍は各海域に散らばり、通商路の維持を行っている。北方と日本海側、つまり中国大陸の敵航空基地や潜水艦による攻撃も多かったが、今は改装済みの艦船を投入したことで次々に刈り取られており、小康状態になっている。

 

 それも、現在のウィルキア帝国軍がユーラシア大陸とアメリカ大陸占領に掛かりっきりだからだ。

 

 まずアメリカは今、本土決戦の真っ最中だった。

 アメリカ国内で起きたテロと帝国派による反乱、そしてアメリカ大陸は――今までのアメリカの外交の所為なのだが――反米を掲げる国家が殆どだ。メキシコ以南は全て帝国側になり、パナマ運河を封鎖されている。

 隣国のカナダは英国連邦の一員で親米あるが、既にアラスカからやってくる帝国軍と衝突していてそれどころではない。

 また西海岸を守る太平洋艦隊は壊滅しており、大西洋側も南米諸国が送り出した潜水艦による通商破壊と帝国軍の艦隊の襲来で安全ではない。あと半年は碌に動けないだろう。

 

 そしてユーラシア大陸は、地獄の釜を開けた様な惨状だった。

 まず、近隣の中国では軍閥が帝国側についたことで行動が活発化。

 各国の租界へ攻撃を始めた。どの国も援軍を出せる状況になく、今は駐留部隊と急行した日本陸軍が盾になりながら各国の租界から民間人の避難を進めている最中だ。

 

 欧州はもっと悲惨だった。

 ソ連が帝国についたことで欧州各国が赤軍の津波に晒されており、北欧は飲み込まれ、残っているのはドイツ共和国とフランス、イギリス、イタリアのみ。

 陸戦ではドイツ共和国とフランスが奮戦しているものの、中東は占領され、北海の一部に地中海や黒海、紅海の制海権は帝国側に落ちている。

 イタリアは粘っているが、もう既に国土の半分以上を占領されている。イタリアには古代に飛来した宇宙船が眠っている事から帝国の攻撃も激しく、もう長くはもたないだろう。

 イギリスも世界一の海軍力で各国の輸送と通商路の維持を行い、兵を送り込んでいるが、劣勢だ。主な兵の供給元であるインドとの航路が分断され、更にイギリス派と帝国派に別れて内戦が起きたためだった。

 

 これら帝国に占領された地域では略奪と暴行が絶えず、工場や農場で強制労働させられ、自らの手で自国民を殺す大量の兵器を生み出していった。

 

 この状況を打破するために、現在の小康状態と豊富な船舶を使い、連合国への通商路の維持と資源輸送を代替わりしようとしていた。

 フィリピンやマレーシア、インドネシアなどの東南アジアでは帝国派が蜂起し、南洋のオーストラリアも帝国軍の通商破壊で被害は出ているが、低調のままだ。

 

 本来なら日本が攻撃を担当するはずだったからだ。

 そのため未だに連合国の戦力と物資が手つかずで大量に残っており、これを欧州に持っていくだけで一息つけるようになる。

 

 まあ身も蓋も無いが、ウィルキア解放軍の活躍と欧州の踏ん張りで押し返すのは確定している。

 欧州派遣艦隊と通商路の維持を買って出るのは列強の資源を格安で買えて力を蓄えられ、ついでに恩を売れるから、という考えだった。

 

「理屈は分かりますが、ではどうやって運ぶのですか?」

「インド洋から紅海へ突入し、地中海から抜けるしかあるまい」

「宰相、それは……」 

 

 君塚は、敵陣を突破しながら味方へ物資を届けろと言っているのだ。余りにも無茶苦茶過ぎて出席者達がざわめくのも仕方なかった。

 しかし、これが一番早いのだ。

 

 太平洋を横断して持っていこうにも、中継地のハワイとパナマ運河は使えず、アメリカは敵味方が入り乱れてごちゃ混ぜ状態で手出しもできない。

 となれば、オーストラリアから東へ直進し、「吠える40度」や「絶叫する60度」と呼ばれる世界有数の暴風域を航行する必要がある。またアフリカ大陸を回るのも論外。あまりにも危険で、どれも時間が掛かり過ぎるのだ。

 

 対して、欧州派遣艦隊が道中の安定化を図りながら航海を続け、台湾からマレーシアのマラッカ海峡を通り、インド洋ー紅海ースエズ運河を通って地中海へ入るルートならば到着するのは夏ごろ。その頃にはウィルキア解放軍が地中海の制海権を取り戻しに来ている。

 

 また道中で東アジアに展開するイギリスやオランダ、フランスの艦隊の協力が見込め、何より敵基地や帝国艦隊の編成など全て覚えている。また初期に入渠した艦船の近代化改装と訓練が終わっており、この艦隊を投入すれば成功すると実証済みである。

 

「やらなければならんのだ。出来ねば、欧州は帝国に占領されてしまう」

 

 君塚の言葉に対し、反対は無かった。

 

 その後、議会で欧州派遣艦隊の法案が賛成多数で可決。

 同日、日本は欧州へ軍の派遣と物資の支援を表明。

 欧州の存亡の鍵を握る一大作戦が始まった。

 

 派遣艦隊の司令官は君塚の推薦により、天城大佐に決まった。

 かつての周回では、日本海軍の一員としてウィルキア解放軍と戦った人物だ。

 地中海で欧州派遣艦隊の指揮を取ったり、また太平洋で超兵器『荒覇吐(アラハバキ)』の運用を任せられる、何よりあの【死神】を苦しめ、追い詰めた事もあるなど非常に能力も高く、部下からの人望も厚い。

 また軍人として(心情はともかく)上の命令には服従するなど、君塚から見ても使いやすい人物だった。

 

 なので、君塚の中ではこき使う事が確定していた。

 欧州派遣艦隊の艦船は全て最新の兵装と機関に改装済みである。航空機も量産が始まった新鋭機で戦争終結まで十分に活躍してくれる。

 特に機関は核融合炉、補助兵装に電磁障壁と防御重力場――超重力電磁防壁はまだ開発途中だ――の搭載が行われたことで異常なまでの打たれ強さを持つようになった。

 

 また、司令部機能と行く先々で修理や改装に困らぬようドック艦「明石」も追従する事になった。

 これはウィルキア解放軍が持つ超兵器ドック艦「スキズブラズニル」を元にしており、複数の艦を接続し、整備ドック、研究施設、造船設計局、給糧施設、作戦司令部等を要した巨大な移動海上基地となっている。

 周回中に試しに造ってみたところ、現場の将兵から大変評判が良く、艦隊を戻さなくても現地で修理と改修が出来ることから今回も建造したのだ。

 

 これに歓喜したのがイギリスだった。

 現時点でも戦艦や空母が十隻単位この世界では普通のことでボコボコと沈んでいき、超兵器による攻撃で物資不足に悩んでいたからだ。ウィルキア解放軍のシュルツ少佐らが奮戦しているお陰でどうにか持っているが、それもいつまで続くか分からなかったからだ。

 

 欧州派遣艦隊がマレーシアに到着するとその歓待ぶりは凄まじく、必要な物資の融通だけでなく東洋艦隊を同行させて道先案内を買って出るほどだった。

  

 これに対し、帝国も東南アジアやインド洋、紅海で航空隊や少なくない艦隊を送り出して待ち構えたが、君塚の用意した敵の詳細と天城大佐の老練な指揮と尋常ではない攻撃力と防御力の高さを前にして壊滅。

 そして東洋艦隊と合同で犠牲を出しながらも超巨大航空戦艦『ムスペルヘイム』を撃破し、スエズ運河を奪還。

 夏真っ盛りの地中海マルタ島で、欧州派遣艦隊とウィルキア解放軍は再会する事になった。

 

「天城!」

「筑波か、久しいな。まさかここで再会できるとは思わなんだ」

 

 欧州派遣艦隊の司令部兼ドック艦「明石」の上で、筑波と天城は笑みを浮かべて再会を喜んだ。

 

「お久しぶりです、天城大佐」

「シュルツ少佐、貴官とは妙な縁があるようだな」

 

 互いに敬礼。

 

「予定より少々遅れたが、日本から補給を運んできた。これで各国も一息つけるだろう」

「有難うございます」

「……礼なら君塚、いや失礼。宰相に言うべきだろうな」

「君塚……、確か、我々を拘束した方だとお聞きしましたが」

「ああ。だが、あれは帝国を騙すための演技だったらしいがな」

「演技だと?」

「そうだ。宰相は諸君らを拘束する裏で、近衛艦隊に出来る限りの補給や修理を行ったそうだ」

 

 拘束と言いながらも、扱いは良かっただろう、と天城は言った。

 そう言われてみれば、入れられた部屋は海軍士官用の個室であり、食事や乗組員との会話も特に制限されていなかった。

 また艦に戻ってみれば弾薬に燃料は補充されており、損傷した左舷中央部も修理されていたのだ。

 

「しかし、なぜそんな事を?」

「……宰相は元々、ヴァイセンベルガーに繋がっていたそうだ」

 

 天城の言葉に、誰もが驚愕した。

 

「本当ですか、それは」

「ここに来る前に本人から聞いたから、間違いはないな」

「今の日本の状況を考えると、ヴァイセンベルガーについて調べるためにわざと近づいた、という事でしょうか?」

「恐らくはな。他の帝国派だった者はクーデターの際に全て捕らえ、更に超兵器や帝国の侵攻作戦についてもかなり知っていた。私もここへ派遣される際、航路上の敵基地や艦隊について詳細を聞かされたからな」

「しかし、あの男がなぁ……」

 

 筑波は顎髭に手をやりながら唸った。自身の記憶といま聞いた内容の人物が同じだと思えなかったのだ。

 

「まあ、筑波がそう思うのも仕方ない。だが、分かっているのは宰相も日本海軍の軍人だった、という事だろう」

 

 ところでだ、と天城は持っていた包みから酒瓶を取り出した。

 

「筑波、貴様の好きな銘柄の酒がある。時間があれば少し飲もう。少佐もどうかね?」

「ご相伴にお預かりします」

「む、天城よ。つまみはあるか?」

「抜かりはない」

 

 短い休息を挟み、彼らはまた戦いに赴く事になった。

 

 

 ウィルキア帝国は通商破壊と無理な攻勢によって息切れを起こしていた。

 正規艦隊と頼みの超兵器は悉く撃沈されて人的資源が枯渇し、更に占領下の地域でパルチザンやレジスタンスによるゲリラ活動が活発化。

 

 逆に欧州各国は日本が運んできた東アジアからの補給と戦力で一息つけるようになり、また道中の帝国軍を撃破してきたお陰で流れが変わった。

 帝国の支配が揺らいだと見て、列強は動いた。負けがこんで動揺する中国軍閥や中東各国に接近し、分断を図った。特にイギリスは本領発揮というべきか、二枚舌外交努力によって帝国から離脱する国や地域を増やしていき、他の国や軍閥へ攻撃を仕掛けさせるなど混乱を起こしていた。

 流石ブリカス汚い。

 

「敵はもう限界だ、押し返せ!」

 

 資源地さえ戻れば、あとは工業力で勝る列強が有利だ。後背地を気にしなくて良くなった列強は正面に集中。ソ連を押し返し始めた。

 特に今まで防衛を強いられていたドイツ共和国の活躍は凄まじく、その鬱憤を晴らすかのように暴れまわった。その中でも対ソ連戦で集結した各戦線のエース達は、数々の伝説を生み出していく事になる。

 

 海上も超兵器はもうウィルキア解放軍に任せ、敵基地への攻撃と敵艦隊の撃滅に専念。大西洋と地中海の航路が復活したことで、アメリカとの交流も再開できるようになった。

 

 そしてアメリカも、蓄積した戦闘経験と情報を元に新兵器を開発。工場のフル稼働で兵器を吐き出し始めた。

 

「今までの百倍返しで殴り返してやる」

 

 アメリカはやられたら黙っているような国ではない。徹底的に叩き潰すのが彼らの気性だ。

 大地を大量の戦車と自動車で埋め尽くし、月間週刊どころか日刊戦艦と空母で次々と就役する艦船を送り出して帝国軍を徐々に押し潰していった。

 また沈没した『ヴィルベルヴィント』をサルベージして改修を施した『ワールウィンド』が就役するなど、戦力は戦前以上に増強していた。

 

 しかし戦闘で破壊されたガドゥン水門などパナマ運河の復旧が終わらず、また太平洋には未だウィルキア帝国軍の艦隊が多く残っているためハワイ奪還作戦はまだ少し先の話である。

 

 日本でも帝国によるなりふり構わない爆撃も増えて海上輸送路への攻撃も激しくなっているが、被害は想定内に収まっている。

 欧州派遣艦隊の一件で日本海軍は分散して戦力が減ったと思ったのか、帝国派が入手したらしいアメリカ戦艦とソ連の戦艦群からなる帝国艦隊と、超巨大攻撃機『フォーゲル・シュメーラ』、超巨大戦艦『ヴォルケンクラッツァー』が襲来。

 

 『フォーゲル・シュメーラ』は電子攪乱ミサイルで制御を失って速攻で墜落したものの、『ヴォルケンクラッツァー』相手では流石に被害が出た。艦首の波動砲で島を割り、副砲の100サンチ砲で砲台や基地を吹き飛ばすなどの破壊力を見せた。

 だが、それだけだ。

 

「当たらなければどうと言う事はない!」

 

 事前に待機していた華の二水戦が斬りこみ、60kt以上の高速で動き回りながら果敢に攻撃を続けた。波動砲発射時には砲門へ速射砲とAGSによる集中砲火を浴びせて自爆を引き起こし、また側面と後ろに回った艦が超音速酸素魚雷を叩き込むなど徹底して照準を合わせさせなかった。

 最終的に艦橋を破壊されて防御重力場が弱ったところに片舷への集中雷撃を受け、『ヴォルケンクラッツァー』は爆沈する事になった。

 

 帝国艦隊も旧式とはいえアメリカ艦らしいタフネスぶりを見せたが、61サンチ三連装砲を誇る超巨大戦艦『大和』と『武蔵』に叩きのめされ、日本側の勝利で終わっている。

 

 そして、ようやく。

 アメリカ太平洋艦隊及び超兵器『ワールウィンド』、ハワイ奪還。

 同時期、ウィルキア解放軍、太平洋に帰還。

 超兵器との、最後の戦いが近づいていた。

  

 

 横須賀では曇天の空模様が多くなり、冬の寒さが身に染みるようになった頃。

 一人波頭に立つ君塚は、白い息を吐きながら港を眺めていた。

 拡張に拡張を繰り返した湾港は巨大で、遥か先まで岸壁が続いていた。

 岸壁には国籍関係なく連合国の何百隻もの艦船と人が立ち並び、出港する艦を見送る者達、寄港して久々に家族や友人に会う者達で溢れている。湾港クレーンがやまかしく音を立て、乾ドックでは入渠した軍艦を急ピッチで修理を進めていた。

 

「来たか」

 

 複数の足音が聞こえたところで、君塚は振り返った。

 ウィルキア王国の白い軍服に少佐の階級章をつけた若い軍人と彼を補佐し続けた者達だった。

 

「今回は会うのは初めてだったか。君塚章成だ」

「――ハッ! 小官は、ウィルキア解放軍少佐、ライナルト・シュルツであります!」

 

 互いに敬礼。

 

「天城大佐」

「ハッ」

「よく、困難な任務をこなしてくれた。礼を言う」

「小官は、軍人として当たり前の事をしたまでです」

 

 敬礼後、楽にしたまえと君塚は言った。

 

「さて。戻って来たばかりの諸君らにわざわざ来てもらったのには理由がある」

 

 それは彼らにとっても、君塚にとっても重要な話であった。

 

「まず、そうだな。超兵器というのはなんだと思う?」

「……古代に飛来した宇宙船を元にしている、と聞きました」

 

 いきなりの話にやや困惑したようだが、代表してシュルツ少佐が答えた。

 

「ああ、少佐たちはイタリアのを見ていたのだな。あれは、あくまで似ている残骸に過ぎんよ。確かに技術を進展させる存在ではあるがね」

「残骸?」

「そう。超兵器とは、一つの存在から一部を摸倣に過ぎない」

「摸倣、ですか。つまりマスターシップは何処かに存在すると?」

「そうだ、本物は北極にいる」

 

 すると軍服の上に白衣を着た女性が声をあげた。眼鏡をかけており、階級は大尉。

 確か、ウィルキアに出向していたドイツ共和国の技術将校だったと覚えている。

 

「待ってください。確か、かつてドイツとウィルキアの探索チームが北極で何かを見つけたという噂がありましたが、まさか……」

「そうだ。調査隊が見つけたのは超兵器だった。ヴァイゼンベルガー曰く、北極にあった大陸を消し去り、大いなる冬をもたらした存在だと言っていたがね」

 

 息を呑む面々に、君塚はその正体を告げた。

 

「その名もフィンブルヴィンテル。全ての超兵器のマスターシップだ。これを破壊しない限り、この戦争は終わらない」

「フィンブルヴィンテル……」

「だから用意をした。あれを破壊するためだけの艦を、全てを終わらせるために、な」

 

 丁度良いタイミングで、君塚達がいる岸壁へ一隻の艦が接舷した。

 

「諸君らにはこれに乗ってもらいたい」

「これは……」

「我が国で戦艦に代わる新世代艦として生み出されたものだ。試作艦だが、性能は保証する」

 

 それは、フリゲートと呼ばれる艦だった。

 中型巡洋艦並みの船体に大型艦橋、機関に核融合炉。補助兵装に超重力電磁防壁、イージスシステム等を搭載。

 武装は280mmAGSに新型超音速酸素魚雷、12.7サンチ高角砲、多目的ミサイルVSL、35ミリCLWS、チャフグレネード、囮装置。

 全局面に対応できる万能さを持ちながら対36サンチ全体防御を持ち、それでいて80kt以上の爆速で走る、スペック上はもはや超兵器である。

 

 もっとも、高性能だけにコストが馬鹿にならず、また全身弾薬庫と呼ばれるほど大量の火器を搭載していて艦の速力と合わせて非常に扱いが難しく、完璧に使いこなせる人物はいないと思われた。

 

 それも当然だろう。何せ、これは君塚がたった一人の為に設計、建造した艦なのだから。

 

「シュルツ少佐。貴官なら十分使いこなせる筈だ」

 

 前回までのシュルツ少佐の艦は最初期からずっと使ってきた巡洋艦だった。歴戦の艦だが老朽化も目立っていた。だからなのか、フィンブルヴィンテル相手に手こずっていた。ならば、異能生命体である彼を超兵器に乗せれば良いと考えるのは当然の事だった。

 

 当初の予定では、君塚は最強の戦艦である『大和』か『武蔵』に乗せようと考えていた。この戦艦は『播磨』や『荒覇吐』に割り当てられる超兵器建造のリソースを使って建造されたが、流石に戦略兵器である戦艦、それも最新鋭艦に他国人を艦長にする訳にはいかなかった。

 

「しかし、他国の人間が新鋭艦に乗るわけには……」

「構わん。こいつは既に除籍処分にされている。それに、例え戦時下でも鉄くずを友好国に売るのはよくある事だからな」

 

 君塚はふっと小さく笑みをこぼした。

 

「艦長、これは有難く貰うべきでしょう」

 

 快活な笑みを浮かべて言う筑波に対して、シュルツ少佐は渋った表情を浮かべていた。

 

「しかし、筑波教官……」

「艦長、私からもこの話を受けるべきだと思います」

「そうですよ先輩。それだけその究極超兵器が危険だという事なのでしょう」

「少佐。日本はこれでウィルキアに対して要求する事はない。」

 

 シュルツは数瞬したのち、意を決した表情で敬礼した。

 

「……わかりました。使わせていただきます」

「ありがとう、少佐」君塚は答えた。

「さて、乗り換えなどの準備もあるだろうが、今日は休んで、英気を養うといい」

 

 部下達に案内されていく彼らを見送ったのち、君塚は残っていた天城に声をかけた。

 

「天城大佐」

「ハッ。直ぐに部下たちを集めます」 

「……まだ何も言っていないが?」

「先程お話された究極超兵器。その撃破に行くという話では?」

 

 違いましたかな、と天城は小さく笑みを浮かべた。

 

「その通りだ。天城大佐、現時刻を持って欧州派遣艦隊司令官の任を解く。これより、戦艦『武蔵』の艦長となり、究極超兵器撃破の任を命じる」

「ハッ、了解しました!」

 

 互いに敬礼。

 それを見て、君塚はちょっとした稚気が思い浮かんだ。

 

「ああ、天城大佐」

 

 去り際、何気ない表情で君塚は言った。

 

「私も大和に乗って北極に行くからな」

「…………は?」

 

 堅物で有名な天城が見せた顔に、君塚は大笑いすることになった。

 

 

 新鋭艦に乗り換えたシュルツ達は、ウィルキア解放軍のみでの故国解放作戦を開始。帝国艦隊を撃破し、間宮海峡の先にある故国、冬のシュヴァンベルグ港に到着した。

 しかし、その時にヴァイセンベルガーは超兵器『ノーチラス』に乗って脱出。北極へ向かった。

 シュルツ達も追撃し、辿り着いた先には氷河の中に閉じ込めらた巨大な物体があった。今までの超兵器とは全く違う、生物の様に有機的で、世界中どこにも通じることが無い技術で造り出されているようだった。

 

「あれが、フィンブルヴィンテル、なのか……?」

「艦長、敵超巨大潜水艦の上に人影があります!」

「やはり来たか……」

 

 忌々し気な表情を浮かべ、ヴァイセンベルガーは超兵器『ノーチラス』の甲板に立っていた。

 

「ヴァイセンベルガー! その超兵器を起動させたりはしないぞ!」

「フン、どこからそれを知ったのかは知らんが、もう遅いわ!」

 

 手を振り上げ、ヴァイセンベルガーは狂った笑みを浮かべていた。

 

「儂は大義の為に動いている! 全ては、この間違った世界を正し、絶対的な唯一者による統治を実現させるために!」

「究極の力で真の世界統一を成し遂げ、いかなる我欲も闘争も無く、いかなる煩悶も苦痛も存在しない、理想の世界の為に!!」

「さあ、究極超兵器フィンブルヴィンテルよ! 今こそ覚醒し、この世へ咆哮をあげよ!!」

「いかん、超兵器が起動するぞ!?」

 

 『ノーチラス』の超兵器機関からエネルギーが送り込まれた。 

 眠っていたフィンブルヴィンテルの表面に走るスリットから紅い光が走り、身じろぎするように動き出す。纏わりつく氷雪をふるい落とし、ギョロリとした幾つものの目を大きく見開き、ヴァイセンベルガーを見た。

 

「ふ、ふ、ふはは……! さあ、蒙昧な者共よ、この世から消えるが――」

 

 フィンブルヴィンテルから射出された黒い雷球が、狂笑を浮かべるヴァイセンベルガーごと『ノーチラス』を包み込んだ。

 瞬間、離れていた筈のシュルツ達の視界が白く塗りつぶされ、耳を轟音が叩いた。

 

「キャアアッ!?」

「な、なにが起きたんだ……」

 

 視界を取り戻した時、そこには『ノーチラス』の姿は無くなっていた。

 

「まさか、今のは対消滅反応!?」

「きゅ、究極超兵器、前進を始めました!」

「く、急速離脱! 一旦後方のドック艦まで下がるぞ!」

 

 フィンブルヴィンテルは逃げ出す小型艦を追わず、ギョロギョロと目玉を動かし、目につくものを片っ端から消滅させながら前進を始めた。

 

 

 シュルツ達が副官達と共に作戦会議を行う中、通信長のナギが後方から接近する巨大な艦影に気付いた。

 

「本艦の後方から巨大な物体が接近中! これは……、日本海軍の大和と武蔵です!」

 

 君塚の周回の成果であり、日本海軍の切り札として建造した超巨大戦艦『大和』と『武蔵』であった。

 

「艦長、大和と武蔵から入電『コレヨリ貴艦ヲ援護スル』。これって……」

「……君塚宰相には助けられてばっかりだな」

 

 シュルツは軍帽を被りなおし、居住まいを正した。

 

「これより、最後の戦いが始まる! 総員、戦闘配置につけ!」

 

 

 戦艦『大和』 戦闘指揮所

 

 君塚は艦長席に深く腰掛け、モニターを見つめていた。

 

「天城大佐。あの黒い雷球には当たるなよ。消滅させられるぞ」

『ハッ、了解しました』

 

 武蔵の艦長となった天城大佐に伝え、通信を終える。

 CICのモニターには、濃霧の中を北極圏に点在する氷山や小島を消滅させていくフィンブルヴィンテルの姿が映し出されている。

 これに会うののは二度目だが、やはりおぞましい。ギョロギョロと動く紅い目玉。毒々しい紫色をした巨大な双胴の身体。艦というより、一個の生命体のようだ。

 その外観と攻撃の威力を目にした所為か、指揮所に籠る面々も顔を強張らせ、特にまだ若い砲術長は手が震えていた。

 

「砲撃長! 早撃ち男は嫌われるぞ。男ならゆっくりと、狙いを定めて命中させないといかん」

 

 真面目くさった顔で下品な洒落を言う艦長に、指揮所内で忍び笑いが起きた。砲術長も気恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、先程よりリラックスしており、気負った様子もない。うん、悪くない。

 

「究極超兵器、接近中!」

「さて、これが最後の戦いだ」君塚は号令をかけた。

「Z旗を掲げよ! 皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ!」

 

 運命の、最後の戦いが始まった。

 

「主砲、仰角上げ!」

「目標、究極超兵器」

 

 シュルツ少佐の艦が斬りこむ中、大和と武蔵は主砲の61サンチ三連装砲の鎌首をもたげた。

 

「主砲、撃てェ!」

 

 君塚の号令と共に砲術長が発射ボタンを押す。低い警告音が鳴り、それをかき消す轟音と衝撃が巨艦全体を揺るがした。

 

「だんちゃーく、……今!」

 

 遠距離ながら短い時間で弾着し、染料で染められた水柱が究極超兵器を包み込むように高く飛び上がる。遠近近。初弾から夾叉だ。

 

「一番3度下げ、二番1度上げ、三番2度上げ……」

 

 海面に着弾した水柱を見て、砲術長が角度を修正する。再び砲撃が始まった。

 

「全砲撃挟狭!」

「連続射撃始めぇ!」

 

 9門の主砲が咆哮し、自動装填装置によって送り出される超重量の砲弾を次々と吐き出し続ける。

 吸い込まれるように、大量の主砲弾がフィンブルヴィンテルに命中――する寸前で爆発していく。鱗状に白く光る障壁、超重力電磁防壁だ。

 

「超兵器、障壁展開!」

「貫通するまで撃ち続けろォッ!」

 

 轟音が耳を叩きつける中、君塚は首に巻き付けた咽頭マイクに手をやり、怒鳴るように指示を出し続ける。

 

「超射程SSM、発射用意!」

「超射程SSM、発射!」

 

 箱形のミサイル発射機から白い尾を引いてミサイルが発射されていく。ミサイルは舷側に向かっていき、やはり弾かれて小さな爆発を起こした。

 フィンブルヴィンテルが甲高い叫び声を上げる。

 

「超兵器、黒い雷球を発射! 本艦に向かってきます!」

「囮装置、射出! 操舵手、急速前進!」

 

 艦尾から自走型ビーコンを送り出し、巨体を大きく揺らしながら一時100kt近い速度で離脱。

 甲高い音を立て、濃霧に丸い穴を空けて先程まで居た場所に光が走った。レールガンだ。前回はこれでやられたんだ。

 グンと身体を押さえつけられるような感覚から戻ると、モニターにゆっくりと動く黒い雷球が集まり、囮装置に接触、一瞬の光だけ残して消えた。

 

 そして、フィンブルヴィンテルがこちらに注目している中、怪力線を超重力電磁防壁で弾きながら接近したシュルツ少佐の艦が雷撃を叩き込む。

 すれ違い様に放たれた10本の魚雷はフィンブルヴィンテルの障壁に当たり、装甲を砕いた。

 

『■■■■■■■■――!?』

「攻撃、障壁突破を確認!」

「畳みかけろ!」

 

 三隻同時に砲撃が始まる。

 直後に降り注いだ大量の砲弾が、一時的に障壁を無くしたフィンブルヴィンテルの上部装甲を弾き飛ばした。

 

「敵艦橋大破!」

 

 吹き飛んだ艦中央部の艦橋からは赤黒い脳の様なものが露出し、フィンブルヴィンテルは黒い雷光を全身に纏う。そして怒り狂ったように、怪力線やレールガンを乱射し始めた。

 

「敵超兵器、暴走を開始しました!」

「慌てるな、ひたすらアウトレンジから叩け!」

 

 三隻の軍艦が咆哮しながらフィンブルヴィンテルを囲むようにグルグルと踊り続ける。

 フィンブルヴィンテルの眼が怪しげに光る。

 不味い、近づき過ぎた――!

 

「チャフ発射!」君塚は続けていった。

「一番斉射! 急速転舵、離脱しろ!」

 

 銀色の粉が舞う中、砲撃の反動を活かして巨体が悲鳴をあげながらその場でぐるりと回り、急いで離れる。怪力線が降り注ぐ中、後方の海面で爆発が起きた。あれは、光子榴弾砲か!

 

「艦尾損傷!」

 

 直撃しなくてもこれかッ!? くそったれっ!?

 

「応急防御! 急げ!」

 

 怪力線を障壁で弾きながら大きく揺れる中、君塚は席にしがみつきながら怒鳴った。

 

「主砲! 怯むな、砲撃を続けろォ!」

「了ォ解ッ!!」

 

 同航戦に移行。紅い眼に睨み付けられながら、互いに高速で動きながらノーガードで全力で撃ち合う。主砲だけでなく、AGSと速射砲、高角砲にCIWSまでフィンブルヴィンテルへ撃ち込む。

 それを見た武蔵も接近し、反対側で全力射撃を開始。ほぼ水平射撃でフィンブルヴィンテルの眼を狙い撃っていく。

 

「小破!」

 

 まだ行ける! 障壁を突破した怪力線で装甲に穴が空く。砲口を向けていたレールガンを潰した!

 

『■■■■■■――!!』

「中破!」

 

 まだまだッ! 貫通した怪力線で速射砲が融解。主砲の砲弾がフィンブルヴィンテルの眼の一部が引き千切った。

 

『■■■■■■――!!』

「大破ァ!」

「火災発生!」

 

 あと少し! 消化活動を急がせる。

 黒い雷球が来る。

 

「チャフ、囮装置を展開! 急速前進!」

 

 炎上する大和を追撃しようと、フィンブルヴィンテルが身体の向きを変えた。

 

「――今! 少佐、撃ち込めぇ!!」

 

 フィンブルヴィンテルの艦尾から突進してきた巡洋艦が、砲身を焼きつかさんばかりに全力で砲撃を開始する。吸い込まれるように露出した脳へ砲弾が直撃。赤黒い液体をまき散らし、フィンブルヴィンテルが悲鳴を上げた。

 

『■■、■■■■■――!?!?』

「主砲! 斉射! 撃てェ!!」

 

 大和、武蔵が水平射撃が、両舷側を貫いた。

 

 フィンブルヴィンテルの動きが止まった。バチバチと放電しながら全身から小規模な爆発が起き、ゆっくりと後ろへ傾げていく。直後、天高く渦巻くように黒い雷光を走らせ、周りの海を巻き込むように黒いドーム状の光で埋めていく。

 

『あれは……、いけません! 超兵器が自壊を起こしています!』

 

 通信が入ると同時に、三隻とも全力でその場を離れた。

 

「急速転舵! この海域から離脱する!」

「衝撃波、来ますー!!」

「ぬ、ぐぅ……」

 

 眩んだ目を細め、衝撃で転がり落ちた床から立ち上がってモニターへ目を戻すと、いつの間にか霧が晴れていた。

 そこには、何も残ってはいなかった。

 

 呆然としていると、何かが身体から抜けていくような感覚があった。

 ああ、これで周回は無くなったんだ。

 それを実感した君塚は、ごちゃ混ぜになった感情と共にポスンと力が抜けて席に着いた。

 

「終わった、のか? これで……。は、ははは……」

 

 歓声が巻き起こる中、君塚は軍帽を深く被り、涙を流した。

 

 

 ――ヴァイセンベルガーが起こした大戦の終結から半年後。

 世界は復興は少しずつ進んでいた。

 

 君塚は官邸で書類作業に追われていた。

 本来ならさっさと独裁者も軍も辞めて田舎でゆっくりしたいと考えていたのだが、周りは必死に彼を宰相の地位のまま縛り付けた。

 

 傍から見れば、君塚は歴代最高とまで言われる指導者なのだ。日本を守ろうとクーデターを起こし、未来を見通す頭脳と強力な指導力で被害を最小限に抑えたのだ。

 何せ、日本では総力戦体制になったとはいえ、国民の生活は殆ど変わるどころか、むしろ向上していたのだ。

 

 君塚が周回で何回も死にながら覚え込んだ知識と行動は、各所に影響を及ぼしていた。

 この時代はまだまだ根性論や年功序列が絶対的だった時代だ。

 それが君塚によって使えないと判断した者を捕らえ、使える人材をどんどん起用した。結果、汚職は激減し、埋もれてた人材や有能な若手がどんどん活躍するようになった。また省内での風通しが良くなり、君塚が行った効率化と即断即決(彼からすれば何度もやって結果も知っているからだが)に感化されて一人一人が責任持ち、より省内の伝達と仕事がより速くなった。

 

 自分が過労死しないように作り上げた仕事体制は激務の合間でも休憩取るようになって仕事のミスも減り、生産体制の効率化のために大量のマザーマシン、工作機械を生産するようになった。

 元は周回中に輸入が途絶えた工作機械の補填の為に開発し、改良していったものだ。現代でこそ日本はマザーマシンの生産国だが、それは高度経済成長期からで当時はアメリカやドイツから輸入していたのだ。

 民間からすれば格安とはいえ、上から押しつけられた作業機械――それも国産!――(注・当時は船舶品信仰が強く、日本製品は安かろう悪かろうで評判が悪かった)に難色を示したが、使ってみれば丈夫で扱いやすい。壊れても部品を取り換えればすぐに修理できると大評判になった。 

 

 作業も効率化して部品の精度も大幅に上がった。それが兵器や日々の道具に直結して良くなる。日本は軽工業主体から重工業主体へシフトしていき、戦時下だというのに経済活動が活発になった。

 効率化の煽りで作業員があぶれるという事は殆どなく、「戦争は壮大な浪費である」という言葉通りで欧州や中国方面への輸出でどれだけ兵器や道具を造っても足りない状況だったのだ。むしろ人手が足らないからどんどん賃金は上がった。

 中国などから脱出してきた者達も戦時中は基地建設で働き、戦後もインフラ整備などの公共事業が受け皿となって働いている。

 

 ただ、これは何年も続かないだろう。

 一部の者達がそう考えていた矢先に君塚は議会で欧州大戦後の戦後恐慌に備える必要がある――といっても、これは各省庁が出した国土改造計画の受け売りだったが――と発言し、新しい政策を発表。

 流石に経済の伸びは今よりも緩やかになるが段階的なインフラ整備等で今後50年は不況にはならないと好意的に見られ、ますます評判が高まった。

  

 その状況下で、帰ってきた軍人の話や新聞ラジオで連日欧州やアメリカの惨状が知れ渡れば、君塚を続行させる声は強まるのは当然だった。

 

 それを知らない君塚は辞任を強行しようとしたが、必死な形相の大臣や議員達が派閥関係なく手を組んで各所に根回しをする。そして各方面や国民からも続行を願う署名が集まり、なんと御上からも暫く留まるよう言われてしまえば拒否できるはずがなかった。

 

 普段は仲悪い癖に、なんでこんな時だけは一致団結するんだよと君塚はぼやいた。

 仕方なく、本当に仕方なく続行を表明。しかし、首相以外に持っていた大臣職は他の者に渡し、海軍も退役。しかし海軍元帥に昇進となったため、やっぱり暫くは海軍に関わることとなった。

 なお、これで無欲な人と見られ更に評判が上がった。

 

「もう周回の知識なんぞ役に立たないっていうのにな……」

 

 かつては自らが望んでいた地位で、これ以上ない栄達を達成できたと言うのに、君塚は各所から送られてきた書類の山を見て辛気臭い顔で溜息をついた。

 

 君塚が引退できたのは、それから10年後のことだった。

 

 

 世界大戦の勝者はどこか、という問いがある。

 

 ウィルキア帝国とヴァイゼンベルガーが巻き起こした戦争は一年足らずだったが、世界各国は文字通り根こそぎ動員した総力戦で疲弊していた。

 数々の兵器を生み出しては使い、廃棄される。短期間にそれを繰り返し、残ったのは瓦礫と廃棄された兵器だらけになった国家が生まれることになった。

 

 アメリカや欧州各国は甚大な被害を受けた。艦隊が壊滅し、その後は本土決戦まで行っていた。爆撃と弾道ミサイルによる攻撃を受け、国家の再建に大きく疲弊する事となった。

 

 ソ連は敗戦国として終戦を迎えた。戦時中の人的資源の枯渇と無茶な生産体制で国家の維持が出来なくなり、いくつものの国家に分裂。また生き残っていた帝政ロシアの皇族を担ぎ上げたロシア王国が建国。大部分はロシアと合流し、現代にまで続くことになった。

 

 中東は帝国による支配と列強(ほぼイギリスの所為)の外交で各所に軋轢を生み、現代にまで繋がる遺恨と火種を残した。

 

 インドやフィリピン、インドネシアなどの東南アジア、アフリカ諸国などの列強の植民地は戦後も列強が軒並み弱体化した事で独立紛争が激化。列強も損切りとして植民地を切り離し、その後、各国は独立を果たすことになった。しかし、その後も分裂と合流を繰り返し、情勢が落ち着くようになるのは21世紀に入ってからだった。

 

 中国大陸も同様。軍閥によって工場やインフラが根こそぎ破壊され、戦後も各地の争いが激化。うま味が無くなったとして列強は租界から撤収。裏で都合のいい軍閥へ支援を行うようになる。

 これにより各地軍閥が好き勝手に建国を宣言し、現代に至るまで列強の代理戦争の場として内乱が度々おき、その際は新兵器の実験場として使われていく事になった。

 

 ウィルキア王国は最も苦しい状況に追い込まれた。人口も大幅に減少し、国土は疲弊しきっていた。戦勝国から多額の賠償金を課せられ、様々な利権や艦船が割譲されていく。

 しかし、僅かに残った工場と鉱山を元に復興を開始。ようやく訪れた平和を噛みしめながら少しずつ持ち直していく。

 シュルツ少佐の乗艦はウィルキア統合軍の旗艦として長らく現役を務め、その後は記念艦としてシュヴァンベルグ港へ係留される事になった。現代でも数々の超兵器を打ち破った伝説の艦として多くの観光客を集めることになる。

 

 

 そして、日本国。

 最初の問いである世界大戦の勝者は日本と答える者が多い。

 戦時中に軍閥の紛争激化から中国や朝鮮などの大陸利権の多くを失ったが、【大宰相】君塚章成の手によって早期に対策を構築。本土への被害を最小限に抑えた。

 戦後も各国を尻目に経済成長を続け、世界有数の経済大国と軍事大国として躍り出ることになった。

 

 それについては妬みを買う事が多いが、戦時下でも危険な欧州派遣を成功させ、戦後も戦災復興支援を行うなど評判を集めた。特に苦しい時に助けられた欧州各国やウィルキア王国からの友好度は高く、逆にアメリカや東南アジアでは微妙だったが、年月が経つにつれて徐々に改善されていく事になる。

 

 日本は各国と連携しながら超兵器の封印する活動を続け、各地で内紛や紛争がおきた際には大国として介入を求められるなど日本も負担が多いが、比較的平穏なまま現代へ突入する事になる。

 

 フィンブルヴィンテルの撃破に使われた超巨大戦艦『大和』『武蔵』はその時々に地域紛争などの解決にその威容を各地に見せたりもしたが21世紀に入って退役。その後、モスポール処理を受けて生涯を終えた。

 

 君塚もようやく解放された後は横須賀で小さな家を建て、そこで日がな海を眺めながら先に退役していた天城や筑波と共に囲碁や酒を楽しむ日々を過ごすようになった。

 ただ、当時の話を聞きに来る記者や来客に対してはよく「あの様な戦争は二度とやりたくない」「百年以上戦っていた」「私は凡人だが、記憶力が良かったから生き残れた」など口にし、戦争を語る事は少なかったという。

 その最後は近隣の者達に見守れながら「やっとゆっくりできる」と満足げな表情で眠りにつく。

 その後、各国の大使や艦艇を集めた盛大な国葬が執り行われた。

 

 ……ただ、その後に発達したテレビやネットなどで君塚は天城やシュルツ少佐などと一緒に度々登場する事になる。

 テレビドラマや小説に登場するだけでなく、何故かイケメン化したり、女体化して美少女にさせられて18禁ゲームに出たり、軍刀を持ってして超兵器をぶった斬ったりと日本でも有数のフリー素材の一人として大活躍するとは、その時は誰も思わなかった。

 




きっとWSG2やってた人なら、ドリル戦艦を手に入れるために君塚艦隊を周回したと思います。確かそれをネタに書いてたらこうなった。

誤字・脱字、また感想などありましたらお願いします。

↓愚痴みたいな何か。

千葉の停電の影響で仕事にならないので、これ書いていました。
だけど、まだ職場の電力復旧しねぇ……。

長くなり過ぎたし、後半がだれているような気がする。
もっと違う書き方があったかなー、と思います。
うまく書けるように精進していきます。

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