楽しんで頂ければ幸いです。
迫りくる剛腕をバックステップで回避。
ガラ空きになった胴体に左手で持った剣を叩き込む。浅いか。伝わる硬い感触に舌打ちし、そのまま後ろへと走り抜ける。
牛頭の巨人が怒りの咆哮をあげて振り向くと同時に、ドヴァーキンはシャウトを使用した。
「
牛頭の巨人は雷鳴の様な大音響に耳を塞ぎ、そして『死の標的』による
その隙を逃さず、ドヴァーキンは続けてシャウトを発動させた。
「
『激しき力』により両手に持つ剣とダガーが風に包まれるの確認し、一気に詰め寄る。
勢いを右足で踏ん張って殺し、剣で斬りつける。今度は手応えあり。『死の標的』の効果――相手の防御力が下がっているのを見て右足を軸に回転するように左右の斬撃を放つ。ギリギリまで筋肉を引き絞って放たれた斬撃は牛頭の巨人の両腕を半ばまで斬り落とし、そしてその勢いを殺さずその場で独楽の様に回りながら高速で連撃を放っていく。
暴風のような連撃に巨人は切り刻まれていき、遂に足の筋を斬られて瀕死となった巨人は頭を垂れ、その牛頭の首を斬り落された。
血をまき散らして倒れ伏した牛頭の巨人を見やり、そして左右を見まわして敵がいないことを確認してからドヴァーキンは息を吐き出した。
全く、一体、何が起きているのか。剣に付いた血を払いながら考える。
ドヴァーキンが意識を取り戻したとき、知らない場所に立っていた。
さっきまで自宅に居たというのに、いま居るのは妙に明るく、綺麗に壁が削れた洞窟。壁をまじまじと見てみるとどうにもスカイリムとは質が違う。ただの岩、では無いようだ。天井で光るものも、また見たことが無い。
はて、ここはどこだろうか? スカイリム中のあらゆる場所は探索しつくしたと自負しているが、こんな場所は知らない。
さて何があったか、とドヴァーキンは思い返す。
確か、そう。レイクビュー邸で地下に居た。武具の手入れをし、ついでにと貯まりに貯まったモノの整理しようとしたのだ。
鍛冶の訓練にと大量に造ったままほったからしにしていた鉄のダガーや皮の兜は大袋に突っ込み、保管箱に乱雑に突っ込んでいた鉱石やらインゴットの山は棚に積んでいった。
そうだ。箱の底から手に入れてから使わず仕舞い込んでいたデイドラの秘宝があったから、取り合えず別の場所に移そうとしたのだ。まず危険物――どれもヤバいのだが――から片付けようと『ワバジャック』を手に取ったらいきなり震えて出し、目の前で光が炸裂したような……。
――つまり全て
思わず顔を覆う。
『ワバジャック』は狂気を司るデイドラの王子の秘宝。その杖を使えば、何が起きるか誰にも分からないという代物だ。
恐らくは、それで何処かに転移したのだろう。
となれば、ここは何処か?
ふむ、面倒なことになった。
よっこいせ、と地べたに座り、壁に寄り掛かる。気分転換にと腰のポーチからハチミツ酒を取り出して呷る。うん、やはりホニングブリュ―のものが美味い。まあ依頼の結果、ブラックブライアに乗っ取られて無くなってしまったが。
さて、とドヴァーキンは他に何を入れていたかポーチの中身を漁った。自宅で寛いでいた所為もあって手持ちは最低限のモノのみ。それとハチミツ酒と幾らかの
装備は超錬金と符呪で限界まで強化した鋲付きの鎧、他は鉄装備で固めている。あとは愛用のスカイフォージの鋼鉄の剣とダガー。シャウトも使用可能。
なんだ、ヘルゲンの処刑台に送られた頃より遥かに恵まれているじゃないか。ドヴァーキンは思わず笑った。
あの時だって断頭台で首を落とされる寸前でドラゴンに襲撃され、命からがら助かったのだ。他にも行く先々で巻き込まれ、異世界に行っても無事に生還している。
今回もどうにかなるさ。駄目だったら死ぬだけだ。名誉ある戦いに敗れて、あの英雄たちが居るソブンガルデに行くことになる。
物思いに耽っていると、ドタドタと奥から足音が響いた。
ドヴァ―キンは残ったハチミツ酒を飲み干し、立ち上がって剣に手をかけた。
「あー! もうやられてるー!?」
なんだ、レッドガードか? やって来たのは片手で両手剣を担いだ少女だ。黒髪で見たことが無い布地の少ない服装をしている。
「ねぇねぇ、このミノタウロスを倒したのはあなた!?」
「ん、ああ。倒した。いきなりやってきて襲ってきたからな」
グイッと眼前に迫ってきた少女にドヴァーキンは面食らいながら答えると、少女は「あちゃー、遅かったかー」と笑う。
「オジさん、ごめんねー。ミノタウロスったら私達を見たらいきなり全部逃げ出してさー」
「いや、問題無い」
「で、さ。オジさん、何処のファミリアの冒険者? 見たことが無いし、もしかして最近都市の外から来た冒険者かな?」
オジさん、と呼ばれた事にドヴァーキンは少しショックを受けつつも、少女に此処はどこなのか尋ねようとしたが。
「あ、ごめんね! 次の奴を探さないといけないから!」
聞く前に少女はバイバーイ、と笑顔で手を振り、凄まじい勢いで走り去っていった。
「……何だったんだ、一体」
まるで嵐の様に過ぎ去っていた少女に、ドヴァーキンは思わず呆けてしまった。
あの後、暫く洞窟内をうろついていたドヴァーキンは他の武装した集団に遭遇。先ほどの少女が言っていた「
スカイリムでは滅多に見られない善人だ。旅をすれば出会うのは山賊や吸血鬼やら狂信者ばかりで、問答無用で襲ってくるような連中だった。ドヴァーキンは思わず感激して頭を下げると、彼らはこのぐらいいいってよと照れ臭そうに笑っていた。やはり良い人だ。
道すがら、彼らは色々なことを喋ってくれた。
今日の魔石とドロップアイテムの数は少なかった、帰ったら主神に言って【ステイタス】を更新してもらおう、今度は10階層まで行ってみよう、「豊穣の女主人」という酒場の飯が美味い、等々。
何も知らないドヴァーキンには貴重な情報ばかりだった。
纏めるに、いま居る場所は「ダンジョン」と呼ばれる地下迷宮で、ここに潜るのが「冒険者」。「冒険者」は神が作った「ファミリア」に所属しており、「ダンジョン」で「モンスター」と戦い、魔石とドロップアイテムを手に入れて「ギルド」で売って生計を立てている、という事か。
色々と突っ込みたいところがあったが、これ以上聞いて不信に思われたくない。
今のドヴァーキンは彼らの言う「冒険者」では無く、また「ファミリア」にも所属していない。「ギルド」が「ファミリア」を統括する存在だとすれば、無許可で「ダンジョン」に入ったと分った瞬間、何処からか衛兵が飛んできて罰金か牢獄に入れられるかもしれない。それだけは避けたかった。
そして地上へと繋がる階段を登り、彼らと別れることになった。
ドヴァーキンはここまでのお礼にと回復のポーションを人数分渡した。彼らは最初断っていたが、最終的には受け取ってくれた。自作だが、
一人になったドヴァーキンはおのぼりさんの様に辺りを歩いては驚き、久々に心が沸き立った。
どこか分からぬ世界、様々な声が入り交じりる喧騒。ごった返す見たことが無い人種、目が覚めるほどあまりにも美しい人々、天にまで届くほど巨大な塔、色彩豊かで清潔感溢れる建造物、市場に溢れる知らないモノの山。
どれもスカイリムでは見たことも聞いたことも無く、恐らくはオブリビオンにも無いものだ。そう思うと気分が高揚した。
折角だ。また一人で、見知らぬこの地を回るのも悪くない。少しばかり見て回っても良いだろう。あの何もできない浮浪者だった頃とは違い、ドヴァーキンになってからは様々な肩書も増えた。堅苦しい事を忘れて、昔のように気ままに冒険したいという思う気持ちが膨れ上がっていた。
差し当たってはあの「ダンジョン」だ。まずはあれを踏破しよう。
案内してくれた冒険者曰く、ダンジョンは何日もかかるほど深くまで続いており、途中には宝石のなる樹やあらゆる怪我や疲れを癒すというマーメイドの生き血、そして先のミノタウロスとは比べ物にならないほど強いモンスターがわんさか居るという。
いったいどのようなものなのか、どのような強敵がいるのだろうかと思いを馳せていると、周りへの注意が緩んでいたのだろう。腹のあたりにドンと衝撃があった。誰かとぶつかったようだ。
「あ、ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「いや、こちらこそすまない。怪我はないか?」
浮かれ過ぎたか、とドヴァーキンは通りの端へと歩きながら心を引き締めた。
ぶつかった相手は白い髪に紅い瞳の少年だった。申し訳なさそうに頭を下げる少年はまだ髭も生えておらず、身体つきも屈強とは程遠い。しかし防具を着ており、腰にはナイフを差している。
ふむ。
「少年は、冒険者か?」
「えと、はい、そうですが……」
「となれば、ファミリアに所属しているか?」
「はい、ヘスティア・ファミリアというところですが……」
ドヴァーキンの問いに対して、少年はよく分からない、という表情を浮かべていた。
「今日、私はこの街に来たばかりでな。丁度ファミリアを探していたのだ。出来れば入りたいのだが……」
「本当ですかッ!」
「お、おう……」
がばり、と目を輝かせて近づいてくる少年を思わず押しやる。若干引いてしまった。
「実は僕のいるファミリアは僕一人だけなんですが……。でも、神様も良い人ですし、きっと気に入ってくれると思うんです! それに――」
一生懸命に自分のファミリアを伝えようとする少年に、ドヴァーキンは笑みを零した。
そしてこの世界の人間は善人ばかりなのだなと思った。真面目に現状を伝えて、それでも良さを伝えようとする姿にドヴァーキンは好感が持てた。
少なくとも、いきなり話しかけてきてスリの仕事をさせた盗賊ギルドや、寝ている所をいきなり浚って、目の前の人間を殺せば仲間にしてやると言ってきた
「ああ、やっぱり、零細ファミリアになんて興味無いですよね……」
ドヴァーキンを見て、少年は落ち込んでいた。どうやら笑われたと思ったらしい。
「ああ、いやそう言う訳ではないんだ」ドヴァーキンは言った。
「少年の想いはよく伝わるし、神を大事に思っているのもよく分かった」
それに、零細ならばしがらみも少なく、何より今まで見たく何かに巻き込まれる事は無さそうだ。
決定だな。ドヴァーキンは口を開いた。
「良ければ、私をファミリアへ参加させてくれないか?」
「本当ですかッ!!」
「ああ、本当だとも」
「――やっったぁぁァァッ!! 神様、やりましたよぉ!!」
人目も憚らず歓喜の声を上げて飛び跳ねる少年に、そこまで喜ぶものなのかとドヴァーキンは苦笑した。
「ああ、そうだ。名前を教えてくれないか?」
少年は満面の笑みで答えた。
「はい、僕はベル・クラネルと言います!」
「ドヴァーキンだ、よろしく頼む」
続かない。
・追記
本当はTS転生が流行りの様なので「MODマシマシのスカイリムにTS転生した巨大武器をぶん回すロリ吸血鬼系ドヴァーキン」にしようと思いましたが、属性が多すぎて書ききれないのでステレオタイプに。
楽しんでいただければ幸いです。