短編置き場   作:オシドリ

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ハイスクールD×Dの世界にプリニ―を突っ込んでみた。


ハイスクールD×D・プリニ―

 

 拝啓、オイラを転生させた神へ

 

 元気ッスか?オイラは元気ッス。

 

 まだ若かったあの時は散々世話になったッス。

 前世で色々やんちゃをした所為ッスか、今では落ち着いているッス。

 

 お蔭で就職も中々良いところに出来たッス。

 

 ん?どんな仕事だってスか?言い忘れたッスね。

 

 オイラは今―――、

 

 魔界で奴隷をやっているッス。

 

 

 魔界、グレモリー邸。

 

『プリニー、お茶を持ってきなさい。いつものを5人分ね』

「わかったッス。直ぐ持って行くッス」

 

 主人からの念話を受け、プリニーは書いていた日記を閉じる。

 

 プリニーは、ペンギンのぬいぐるみのような形をした悪魔だ。くりくり、としたつぶらな瞳に、悪魔の証である背中に小さなコウモリの羽がある。腹には様々な道具を詰めたポーチを持ち、首に赤いマフラーを巻いていた。

 

 プリニーはあてがわれた部屋(普通、プリニーには部屋なんぞ与えられないが、主人の兄であもある魔王様が用意してくれた)から出て、てくてくと歩いて厨房へ向かう。厨房につめていた料理人たちに一言挨拶し、主人に言われた通り、いつもの物を用意する。

 

 まず紅茶だ。これは魔界の一部地域で生産される高級品である。芳醇な香りと深みのある赤い水色が特徴で、一口飲めば強い甘みとコクのある味が広がる。味が濃いが後に残らないため、ストレートでもよし、ミルクを入れてもよしという素晴らしい紅茶だ。

 

 菓子には特製のオレンジタルト。今回のは自信作だ。魔王や上級悪魔たちが利用するホテル・オークラマカイのレシピを(盗み出して)忠実に再現したものだ。甘みと酸味のバランスが素晴らしい。

 

 手際よくワゴンにティーポッドと菓子、5人分の食器類を載せ、プリニーは転移室へ向かう。そして魔法陣の上に立つ。

 プリニーは行き先を[私立駒王学園]に設定し、なけなしの魔力を使って起動させる。

 

 魔法陣から光が溢れ出し、目の前が光で塗りつぶされる。光が収まると、先程とは違う景色となっていた。うん、駒王学園、そのオカルト部の部室だ。転移は成功したようだ。

 

「リアスお嬢様、お茶をお持ちしたっス」プリニーが声をかけるが、返答は無い。

「およ?いないッスね」

 

 プリニーが疑問の声をあげると、別の声が答えた。やや幼さの残る声だった。

 

「リアス先輩ならシャワーを浴びに。姫島先輩はその付添い。木場先輩は出かけている」

 

 声がしたほうに振り向けば、ソファーの上に主人の眷属である搭城小猫がちょこんといた。いつものように眠たそうな表情をしている。

 うむ、ないすろり。

 

 言われてみれば、教室の奥にあるシャワー室から水音が聞こえる。

 シャワーカーテンには主人の影が映し出されていた。

 うむ、ないすばでぃ。

 ぜひ生の肢体を拝みたいが、今は仕事中である。我慢、我慢である。

 

「……いやらしい顔。それと、どこ行くの?」

「あ、オイラとしたことが、ついッス」

 

 身体は正直だった。

 

「プリニー、今日のお菓子は?」

「ちょっと待ってくださいッス」

 

 プリニーは手際良くタルトを切り分け、皿に盛り付ける。アンティークのフォークを添えて、小猫に差し出した。

 

「どうぞッス。トゥデイのお菓子はプリニー特製のオレンジ・タルトッス」

「ん」

 

 小猫はフォークで小さく切取り、ぱくりと一口。

 

「……88点」

「むう、今日こそは90いくかと思ったんスが……」

「もう少し、オレンジの酸味が欲しい。あとお酒の匂いが苦手」

「……それは子ど――」

 

 ぶすり。

 プリニーの額にフォークが突き刺さる。

 

「――痛いッス」

「プリニーが悪い。それと、新しいフォーク」

「へいへいッス」

 

 このやり取りも慣れたもので、予備のフォークを取り出し、小猫に渡す。 

 ちなみにフォークは突き刺さったまま。シュールだ。

 

「部長、つれてきましたよ」

 

 ……チッ、男がきやがった。男の天敵、イケメンで女性にモテる男、木場祐斗だ。マジイケメン死すべし。その後ろにはこれまた別の男がいた。

 知らない顔だった。顔は悪くない。だが男と言う時点でアウト。そもそも、なぜ人間を―――。 

 

「……ん?人間、ではないッスね。知らない悪魔ッス」

 

 微かにだが、悪魔の匂いがする。ただ、男からはそれ以上に強烈なまでの神器が感じられた。はて?どこかでーー。

 

「――で、こちらがプリニー。昔から部長の家に仕える悪魔だよ」

「ペ、ペンギン?」

 

 上からかかった声に、プリニーは俯いていた顔を上げる。すぐさま反論する。

 

「違うッス。プリニーッス。ペンギンじゃないッス」

「す、すまん」

 

 焦った表情で、頭を下げて謝る一誠。

 その行動にプリニーは半眼になり、怪訝な顔を浮かべた。

 兵藤一誠とやらは、どうも悪魔になったばかりなのだろうか?対応からして、プリニーを知らないようだった。

 つまり、新しい下っ端。下僕だ。そうプリニーは判断した。

 

「で、誰なんスか、コイツ。下僕?」尊大な態度でプリニーは訊ねた。

「兵藤一誠くんだよ。詳しくは部長が説明するよ」

 

 それより、頭にフォーク刺さっているよ。ああ、忘れてたッス。

 

 そんなやりとりしていると、カーテンが開けられ、プリニーの現主人、リアス・グレモリーが現れた。濡れた紅髪と上気した肌がひどく艶かしい。

 後ろには、黒髪ポニーテールの姫島朱乃が控えていた。美人だ。この国でいうなら大和撫子というだろう。だがドSだ。いたぶる事に快感を見出す様な変態お姉さまだ。プリニーはマゾッ気は無く、またよく朱乃に苛められるため苦手としていた。

 

「さて、全員揃ったわね?」

 

 リアスはゆっくりと面々を見渡し、「うん」と軽く頷く。

 

「兵藤一誠くん、いやイッセー」

 

 なにィ!ニックネームで呼ぶだと!?そこまで親密なのかッ!親密なのかァ!?

 下僕の癖に生意気なッ!

 

「私たちオカルト部は、貴方を歓迎するわ。――悪魔としてね」

 

 これは、まさか……。

 

 オカルト部、男、増員だと!

 

 プリニーは絶望した。

 

 

「―――お茶が入ったッス」

 

 ブスリ、といった表情でソファーに座るオカルト部の面々+αにカットしたオレンジタルトを配り、紅茶を淹れるプリニー。

 5人分というのは 一誠とやらのためらしい。ついにデレたリアスが「残りの一つはプリニーのよ?」と甘い声で言ってくれるのだと思っていた。だが現実は厳しい。

 内心、一誠がうらやましい……。

 

「あら、この紅茶は……」紅茶の香りを楽しんでいたリアスが声を上げる。

「魔界の北東部、アッサームマーカイで採れる紅茶ッス。今年の新茶ッス。お好みでミルクと砂糖をどうぞッス」

「あ、うまい」一誠が言う。

「当然ッス」ふん、とプリニーはぞんざいに答える。

「で、どうしたんスか?この悪魔」

「あら、プリニー分かるの?」リアスが驚いたように言う。

「オイラはこれでも永く生きているッス。匂いで悪魔か人間か、分かるッス。ただ悪魔にしては匂いも薄いッスし、チグハグすぎるッス。生まれたばっかりッスか?」

「そうね……、イッセー、一から説明するわ」

 

 リアスはカップを置くと、一誠を見据え、語り始めた。

 

 要約すると、一誠は神器を宿しており、それに目をつけた堕天使に騙されて殺されてしまったらしい。  で、たまたま持っていたチラシ(悪魔特製の召喚陣のついたヤツ)で主人を呼び出し、命を助けるために悪魔になった、らしい。

 

 なんというか、運が良かったのだろう。神器を知らない人間が悪魔に助けられたのだから悪運と言うべきか?

 

 リアスは急かし、一誠の神器を顕現させようとしていた。

 

「ドラゴン波!」

 

 一誠が声を張り上げ、開いた両手を上下に合わせて前に突き出す。

 瞬間――、

 

「な、なんじゃこりゃああァァ!?」

 

 光が溢れ出し、一誠の左腕に段々と形を成していく。

 現れたのは、見事な装飾がされた、赤い篭手。

 

 ―――はて、どこかで見たことあるような、無いような……?

 

 プリニーは一誠の篭手にどこか疑問を覚えたが、直ぐに考えるのをやめた。

 正直、男のことなんぞどうでもいい。感じからして神器では一般的な『龍の手』だろう。多分な。

 

「―――それで、我が家の雑用係、プリニーよ」

 

 リアスから紹介される声を聞き、プリニーは背筋を伸ばす。

 

「プリニーッス。よろしくしてやるッス、下っ端」ふんす、と胸を張って言う。

「あっ、ああ……」

「イッセー、気にしないでいいわ。そいつタダの雑用だから」リアスが言う。

「酷いッス!虐待ッス!一日20時間労働で年2回のボーナスはイワシ一匹、有給は10年に一回という条件でもめげず、たった一人(匹?)で全ての雑用をこなすオイラに対してなんて仕打ちを!?」

 

 騒ぐプリニーにリアスは満面の笑みを浮かべて、

 

「―――別に辞めてもいいのよ?替えはいるから」

 

「超ごめんなさいッス。オイラが悪かったッス。クビにしないでくださいッス。マジお願いッス」

 

 速攻でリアスの足元にスライディング土下座をかまし、プリニーは主人(リアス)に許しを請う。

 プリニーにとって、グレモリー家は破格の好待遇なのだ。他の家だと一日23時間、ボーナスも有給もないのだ。

 

「部長、反省しているみたいですし……」一誠が言う。

 

 リアスは部員を見渡す。みな苦笑していた。最後にプリニーの姿を見て、小さくため息をついた。

 

「――分かっているわよ。クビにはしにないわよ」

「ほ、本当ッスか!?」勢いよく顔を上げるプリニー。その顔には喜色が浮かんでいた。

「ええ、本当よ」

「有難うッス!今日はオイラ特製のサラダを作るッス!」

「ええっと。確かオリオ・パインのサラダだったかしら?」

「そうッス」プリニーは言う。

「そう……、楽しみにしているわ」

 

 下がって、とリアスは言い、プリニーは一誠の後ろまで下がった。

 そのやり取りを利いていた一誠は、愕然としていた。

 

(こいつ……、まさか全て狙って――!?)

 

 オリオ・パインのサラダ。

 

 一誠には、プリニーがやったことが全てわかってしまったのだ!

 リアスが言ったサラダに隠された意味。

 

 オリ()パイ(・・)ン=おっぱい

 

 それにこのプリニー、顔を上げる瞬間、一瞬だけリアスのスカートの奥を見ていたのだ!

 

 一誠は少しだけ、顔をプリニーに向ける。

 

(くっくっく……)

 

 プリニーは良い笑顔だった。

 プリニーに一誠に近付き、小声で話しかける。

 

(ククク、今のに気づくとは……。中々に見所のあるむっつりスケベよ……)

(ああ、アンタのような奴が居るとはな……)

 

((グヘェヘェへへ……))

 

(見たところ、貴様はオッパイニストのようだな。ふふふ、まさか、人間界にもオッパイニストがいるとはな……)

(ああ、おっぱいは漢のロマンだ)

 

 迷いの無い一言。この言葉にプリニーは大きく頷く。

 

(素晴らしい。今日は良い日だ)

(ああ、良い日だ……)

 

 デュフフ……。

 エロ顔を浮かべるペンギンと、これまた朝のことを思い出してエロ顔になる一誠。

 

(いやー、最近のリアス様と朱乃は発育が良いし、メイドたちもグッド。白猫はあの初々しい身体がたまらない)

(くっ、な、何てうらやましい……。俺も見たいぞ、メイドさん……)一誠は続けて言う。(だが白猫はまだおっぱいが小さいからなあ……)

(……貴様、チチしか見ていないのか?)

 

 プリニーがドスの利いた声で言う。対する一誠は、だっておっぱいまだ小さいじゃん、と言い切った。

 プリニーは激怒した。 

 

「分かっていない、分かっていないっス、イッセー!」

「貴様、俺が分かっていないというのか!このオッパイニストたるこの俺が!?」

「それが青いと言うのだ、イッセー!」

 

 プリニーは断言する。

 

「いいスか?チチが大きいのは素晴らしい。それは認めよう。だが貴様はチチしか見ていない。大きければいいと言うのか?貴様は、巨乳しか愛でられないのにオッパイニストだと胸を張って言えるのかッ!?」

「なッ……!」

「オッパイニストというのはなあ……。無乳、貧乳、普乳、美乳、巨乳、魔乳……、全てのチチを愛でて、初めて真のオッパイニストになれるのだ!」

 

 ばばーん。

 

「貴様は巨乳にしか目を向けていない……。そんなんでは真のオッパイニストとは呼べん」

「お、俺が、間違っていたのか……」

 

 この言葉にイッセーはただ涙を流す。

 そうだ。全てのおっぱいを愛でてこそオッパイニスト。

  

「イッセー」慈愛の笑みを浮かべたプリニーが言う。

「誰にだって最初は失敗するのだ。私も、この境地へ至るのに様々な困難があった。だがイッセー、貴様は素晴らしい才能がある。ひとつはおっぱいを追求する姿勢と、おっぱいを愛する心だ。きっと真のオッパイニスト、いや、私もまだ辿り着けていない至高のオッパイニストになるかもしれん……」

 

 イッセーは涙を拭い、宣言する。 

 

「俺は、俺は、至高のオッパイニストを目指すッ!」

「そうだッ!その心意気だ!」

「ああッ!プリニー!いや、師匠と呼ばせてくれッ!!」

「いいともッ!イッセー、貴様は今日から弟子だッ!そして、至高のオッパイニストを目指す友が出来た記念として、コレを歌うおうではないかッ!!」

 

 

~おっぱいの歌~ 作詞・作曲・編曲 プリニー

 

『それは神秘のかたまり 漢の希望が詰まっているのさ』

 

『それは二つのふくらみ 漢の夢が詰まっているのさ』

 

『一度触ったらやめられない 一度見たら忘れられない』

 

『それは何か?』

 

『 おっぱい だー!』

 

『スベスベしっとりとして 手に吸い付くおっぱい』

 

『つん、と気高く上を向く 生意気そうなおっぱい』

 

『ブルンブルン、と揺れる むっちり柔らかおっぱい』

 

『どれも大好きだっー!イエーっ!』

 

『おっぱい!おっぱい!おっぱい!』

 

『我等はおっぱいが大好きさ!』

 

『おっぱい!おっぱい!おっぱい!』

 

『無乳、貧乳、普乳、美乳、巨乳、魔乳、イエーッ!』

 

 

「……朱乃」

「はい、お嬢様」

 

 リアスの命を受けた朱乃がスッと一歩前に、そして手を振るう。

 

「げばらぁッ!?」

 

 ドS女王・朱乃による最大出力の雷が落ちた。プリニーだけに。

 

「わ、我が人生、未だ至高の世界を見ず……、無念……っス」

「し、ししょーッ!」

 

 丸焦げになったプリニー。一誠がすぐさま助けようとするが、

 

「イッセー」

 

 ビクッ、と動きを止める。

 リアスの声はとても穏やかで、色気のあるものだった。

 なのに、身体が震える。怖い。

 身体が、動かない。動けない。

 

「それ以上、くだらないことをしていると」

「し、していると?」

 

 脂汗を流しながらも、イッセーは訊ねた。やめろ、聞くな。聞くんじゃない!そう脳内で訴える声があった。

 

 ――もぐわよ?

 

 にっこりと。

 良い笑顔で言うリアスに、思わず股間がひゅんとなった。

 

「返事は?」

「はいッ、わかりました!」

 

 一誠の最敬礼にリアスは満足げだった。

 

「良い返事ね。じゃあ、話を進めるわ」

 

 リアスが語ったことは一誠にとっては衝撃的な、そして夢のような話だった。

 

 ハーレム。

 それは男の浪漫。

 

 人間では難しい。が、悪魔だとこれが出来る(偉くなれば、だが)。

 

 ハーレム、おっぱいハーレム!と騒ぐ一誠。

 ここまで欲望に忠実なのも珍しいわね、とリアスは楽しそうに笑っていた。

 

「じゃあ、仕事の、契約について説明するわね」

 

 ざっくり言えば、悪魔は『願い』を叶える代わりに、人間は『対価』を支払う。

 これを重ねていき、大きな仕事をこなし、魔界の王に認められれば爵位も貰える、というもの。

 

 早速、リアスが試しに仕事を任せようとするが、

 

「リアス様。さすがに初心者、しかも悪魔になりたての人物にいきなり1人で仕事を任せるのは拙いッス」

 

 どうにか復活したプリニーが苦言した。まだ身体からブスブスと煙が立ち上がっているが、動けるようになったようだ。

 

「あら、生き返ったの?死んでていいのに」

「そんなこと言わないで欲しいッス。まあそれは置いといて」

 

 真面目な話ッス、とプリニーは言う。

 

「確認ッスが、イッセーは昨日、悪魔になったんスよね?」

「そうよ?」

「イッセーは堕天使に襲われたッスよね?」

「あ、ああ」

「それがおかしいんッス」プリニーが言う。

「ここいらは魔界でも最高位の悪魔、グレモリー家の領地となっているッス。だから本来は天使や堕天使はおろか、そこいらの悪魔ですら近づかないッスが……」

 

 ハッ、とした表情でリアスたちが気付く。

 そうなのだ。ここはグレモリー家の領地。これは常識的なことで、知らないはずがない。

 

 ここで天使・堕天使が騒げば、再び全面戦争になりかねないのだ。

 可能性としては、ここがグレモリー家の領地だと気付いていない唯の馬鹿とも考えられるが、誰かが何かしようとしているのか、と考えたほうが筋は通る。

 

「なんにせよ、理由は不明ッスが最近は何かと物騒ッス。誰かがついたほうが良いッス」

 

 沈黙。

 リアスは目を閉じて、指で机を叩きながらプリニーに言われたことを熟考する。

 暫くして、リアスは静かに目を開ける。そして言う。

 

「なら、貴方が付きなさい。プリニー」

「オイラッスか?」驚いた声色でプリニーが言う。

「あの、大丈夫なんですか?」

 

 一誠が疑問の声を上げる。

 どうみても強そうには見えない。はっきり言って。DQのスラ○ム程度にしか見えない。

 

「大丈夫よ。プリニーの癖にそれなりに強いし、何かあればそいつを楯にすればいいわ。何かあれば私が直ぐに駆けつけるし」

 

 酷え。そして仕事が増えた。

 

「藪蛇だったス、言わなきゃ良かったス……」

 

 と言うわけで、暫くの間、プリニーは一誠の仕事に付き添うことになった。

 

 

 深夜。

 閑静な道を爆走するママチャリ。

 

「うおおおおおォォッッ!!」

 

 泣きながら漕いでいるのはこのたび新しくリアスの下僕となった一誠。籠にはチラシと共にプリニーが乗っていた。

 

「ういー、頑張るッス」

 

 やる気ない声でプリニーが言うと、一誠は再び「何でだーッ!」と騒ぎながら漕ぐスピードを上げた。

 

「仕方ないッス。魔力が無いのがいけないッス」

「うおおおォォン!そうだよなあァ!魔力が無いからなァ!!」

 

 そう、この一誠。

 悪魔になったというのに、全く魔力が無いのだ。それも魔力消費量最低である転移陣が反応しないほど。

 そのため、悪魔が契約に回るためにママチャリを漕ぐという恐らくは史上初の珍事が起こっていた。

 いと哀れ。プリニーは笑い転がりまわった。

 そしてリアスから減給処分を言い渡された。酷い。

 

「あ、そうそう。言い忘れてたッスが、オイラ達プリニーは衝撃を与えると爆発するッス」

「ニトログリセリンかよッ!?」

「だから衝撃なく、スピーディにチャリ漕ぐッス」

「うおおおおおォォッッ!早く出世して女の子に囲まれたいィィ!!」

 

 そら当分先ッス。

 プリニーの言葉は一誠の絶叫に混じって暗闇に消えていった。

 

 

 携帯悪魔機で調べながらママチャリを漕ぎ続けて暫く。

 ようやく目的の家に辿り着き、初契約をとるとしたのだが……。

 

 依頼主――森沢さんといった――は小猫に来てもらいたかったようだ。

 確かに、貧乳好きで、しかも有名なアニメのキャラに似ている。だから制服を着てもらいたかったのだろう。

 

 一誠が小猫の代わりに制服を着ると言うと、森沢さんが泣きながらキレた。

 そら怒るだろ、とプリニーは思いつつも、落ち着いたところを見計らって一誠に助け船を出した。

 

「駄目ッスよ、イッセー。依頼主を怒らせちゃ契約できないッス」

「嫌だってなあ、どうすれば……」

「仕方ないッスねー。ちょっと待つッス」

 

 ゴソゴソとポーチの中を漁る。

 

 ぱんぱかぱーん。

 

「プリニー特製 [ちょっとHなアルバム ~ 貧乳悪魔っ子編 part1 ~ ] ッスー」

 

 プリニーが巻き舌気味に言ってポーチから取り出したのは、少し分厚いB5サイズの、表紙にはコウモリの羽をデザインしたイラストが描かれていた本だった。

 

「なにこれ?」

「まあ見てみるッス」

 

 半信半疑のまま、森沢さんはページを捲る。一誠も気になるのか、後ろから眺めていた。

 

「「おおおッ!?」」

 

 メイド服や水着姿、中にはかなり際どい服装をした悪魔達のパンチラや胸チラなどの写真をプリニー自らが厳選し、収めた本である。

 

 ちなみに品質の高さから一部の上級悪魔や魔王も買っている。お値段は2万円(円換算)。

 

「オイラ達プリニーは魔界、冥界、天界にいるッス。ガードが固いッスから、集めるのは命がけッス。でも品質は保証するッス。また悪魔は傾向として貧乳が少ないッス。けっこーレア物ッス」

「なにィ!?じゃ、じゃあ悪魔は巨乳が多いのか!?」

「そうっスね。ちなみに堕天使も巨乳の割合が多いッス。天使は美乳ッス」

「これの巨乳編は!?」

「あるッスが、今仕事中ッス。後にするッス」

「……おー」 

 

 無言でアルバムを捲っていた森沢さんが顔を上げる。真顔だった。

 

「……これ、part1ってことは他にもあるの?」

「あるッス」プリニーが言う。

「えーと、「ちょっとエッチなシリーズ」は今のところ天使・堕天使・悪魔ともにpart3まで出てるッス」

 

「全部くれッ!!」

「税込み18万円ッス」

 

 値段を聞いて森沢さんはたじろいだ。流石に一月の手取りの大半を持っていかれるには躊躇した。

 

「まあ、毎月1冊づつ買えば良いッス。それなら負担も少ないッスよ?他のシリーズも買ってくれるなら少しまけるッス」

「買ったッ!」即決で決める。

「毎度ッスー。……って、つーか、これじゃあオイラが契約することになっちまうじゃないスか。イッセー、どうにかするッス」

 

 どのみち、これでは契約は無理だ。だったら、心象良くする為に何かアフターケアでもした方が良い。

 

「あ、アフターケア?」

「そうッス」

「ま、何でもいいッス。なにか共通の話題で討論するなり、エロ属性について話すのもいいッス」

 

 プリニーは言わなかったが、願いを叶える方法はある。

 

 確かに唯の人間、それも一般人には「一生遊べるだけの金持ちになる」や「美女や美少女によるハーレム」という願いは釣り合わない。

 

 これは依頼者から範囲や効果も指定されておらず、漠然としているからだ。

 

 このような場合、悪魔は悪魔の基準で物事を図るため、人間には対価を支払えない無茶苦茶な設定(金持ちなら世界で流通している全ての金が集まる、ハーレムなら世界中の美女や美少女が常に集まってくるなど)を平気で行う。

 

 当然、対価は払えないので金や美少女を見た瞬間、死ぬというような条件付で願いを叶えるのだ。

 

 これは昔からそういう仕組みになっている。かつては人間が死んだとき、悪魔は人間の魂を回収していた。当時、人間の魂というのは、人間で言うところの貨幣のようなものであり、悪魔には貴重な財産だったからだ。一般人の魂は価値は低いが、徳の高い聖職者は大変貴重だった。分かりやすく言うなら、一般人の魂を1円とするなら、聖職者の魂は1万円ぐらいの差はあった。

 そのため、かつては最高の魂である歴代教皇の魂をめぐって天使と悪魔で血みどろの争いがあったのだが……。

 

 ともかく、こうすることで、簡単に効率良く集めること出来る。という訳である。

 

 ただ、現在は純粋な悪魔が減っていき、下僕になった人間が増えた。結果、新しい考え方も入っていったため、仕組みだけ残っているのだ。

 

 さて、ではどうすればいいのか?

 この仕組みには問題点も有る。内容を絞ればいいのだ。

 

 例えば「寿命一年分で出来る願い」を叶えて貰う、宝くじで1万円が当たるといった「少し幸運になる」や「1人の美少女と出会い、顔見知りになる」などといった願いは、比較的小さな対価で叶えられるのだ。

 

(まあ、こんな事を言う気はないッスけどね)

 

 プリニーは最下級ではあるが、悪魔だ。悪魔たるもの、聞かれても無いことを言うことはない。

 

 決して美少女と仲良くなったリア充を増やしたくないと思ったからではない。ないったらない。

 

 リア充死すべし。

 

 結局、プリニーの言葉が契機になったのかわからないが、一誠と森沢さんは朝までドラグソ・ボールを語り合っていた。

 

 一誠は契約は取れなかったが、プリニーの助けと一誠の語り合いによってアンケートではたいへん高評価であったという。

 

  

 後日。

 

 今度は絶対に契約を結ぼうと意気込む一誠とプリニーがやってきたのは、学園からやや離れたマンション。

 呼び鈴を鳴らし、玄関を入っていくのだが……、

 

「いらっしゃいにょ」

 

 野太い声と共に現れたのは筋肉。フリフリのゴスロリ衣装を纏い、ネコミミをつけた筋肉。

 

「オイラちょっと用事を思い出したッス。帰るッス。あとは頑張ってくださいッス」

「まてまてまてッ!逃げる気か!?」

「放せッスー!オイラまだ死にたくないッスー!」

「どうしたんですかにょ?」

 

 何で揉めている分からない漢が小首を傾げながら言う。どうみても世紀末覇者な拳王様にしか見えません。

 

(こ、こうなったらイッセー、一蓮托生ッス。とりあえずどうにか話を進めるッス)

(あ、ああ……)

 

 小声で言い合いながら、二人は深呼吸し、無理やり心を落ち着かせる。

 

「で、わ、我々、悪魔を呼んだ理由とは……?」

 

 一誠が恐る恐る訊ねると、ミルたんは眼光鋭く目を見開き、野太い声で告げた。

 

「ミルたんを魔法少女にして欲しいにょ」

「異世界に行って下さい」

「既に試したにょ」

「試したんかいッ!?」

 

 いや、これ契約無理ッス。

  プリニーは即座に判断した。どう考えても無理。魔王様でも裸足で逃げ出す。

 神様仏様魔王様、誰でもいいから助けて。

 

「悪魔さんッッ!ミルたんにファンタジーな力を下さいにょッッ!!」

 

 音響兵器のような慟哭に、一誠は後ずさりし、プリニーは吹き飛ばされた。

 

「相談に乗るからッ!落ち着いてミルたん!」

 

 一誠の決死の声が聞こえたのか、ミルたんは泣くのをやめ、満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、皆で考えるにょ。取り合えず、一緒にこのアニメを見るにょ」

 

 この日はどうにか平和に、ミルたんと一緒に『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』というアニメを見ることになった。

 意外に面白かった。

 

 

 翌日。

 

 リアスは満面の笑みを浮かべて、上機嫌のまま一誠を褒めちぎっていた。

 朝まで一緒にアニメ見ていただけなのに何で、と思ったが、どうやらミルたん、魔法が使えるようになったらしい。

 

 アンケートには契約成立と、『悪魔さんのお陰です』との最大級の賛辞が書かれていたらしい。

 

 何のことかさっぱり分からなかった。 

 

(おい、魔法を教えたのか。何で早く言わなかったんだよ?)

(違うッスよ、イッセー。オイラは魔法を教えていないッス)

(じゃあ何でミルたんのアンケートに魔法が使えるようになったって書いてあるんだ?)

(帰り際に『大切なのはイメージ、常に魔法を使っている最強の自分を思い浮かべること』って適当にそれっぽく言っただけッス)

 

((…………))

 

(何も言わない方が良いッスね)

(だな)

 

 一誠とプリニーは忘れることにした。

 

 こんな感じで、『正史』とはちょっと違う、イッセー&プリニーの物語が始まる……。

 

 かもしれない。


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