ㅤ視・無し
ㅤ雷牙達は無限の森へ行く為、無限樹と呼ばれる樹へと辿り着く。無限樹というのは、無限の森へ行く為のゲートがある樹である。
「これが無限樹ですか?」
ㅤクロウは無限樹の幹に触れながら疑問そうに呟く。クロウが疑問に思うのも当たり前だ。無限樹は、砂漠にぽつんと生えている以外、何の変哲もない大きな樹にしか見えない。
「ああそうだ。確か、無限の森の案内人とやらが迎えに来るそうだ」
雷牙とクロウは、ザルバが説明した“案内人”を待つ。だが辺りを見渡しても殺風景な砂漠が広がっているだけで、誰かが来る様子は全く無い。
「ねえザルバ。本当に案内人は来るの?全く来る様子が無いんだけど……」
「ああ。迎えに来るって聞いているぞ」
「あのさ」
ㅤザルバが雷牙に返答をした直後、無限樹から声がした。雷牙とクロウは声がした無限樹の上の方を見上げる。
「もう来てるんですけど?」
ㅤそこには黒髪の青年が樹に座り、その金色の瞳でこちらを退屈そうに眺めていた。その素振りから見ると、この青年が案内人なのだろうか。
「……君は?」
「俺は無限の森の案内人。……ナナシとでも呼んで」
ㅤ優しげに青年に問う雷牙に対し、ナナシは無表情で淡々と自己紹介をする。自分の事を“ナナシ”と言ったナナシの表情は、無表情ながらも少し哀しげにも見えた。
「ジィル様から話は聞いている。お前らが無限の森の調査に来た黄金騎士と幻影騎士でしょ?」
ㅤナナシはそう言うと樹から飛び降り、雷牙の目の前に立つと雷牙を見つめた。その瞳は、雷牙を警戒しているかのような視線をしている。
「そうだよ。俺は冴島雷牙。よろしくね、ナナシ」
「僕はクロウ。……よろしくお願いします」
ㅤ雷牙とクロウは自分の名を言った。ナナシは興味無いとても言うように雷牙とクロウから目を離し、無限樹の幹に手を当てる。すると無限樹は幹の中心から大きく裂け、人一人入れる程の裂け目となった。
「早く調査終わらせて帰って。ほら行くよ」
ㅤナナシはそう言うとその裂け目に入ってしまった。雷牙とクロウの二人は困惑しながらもナナシの後を追い、裂け目に入った。
____
視・クロウ
ㅤ僕等はナナシさんの後を追って裂け目に入った。その無限樹を振り返って見てみると、裂け目は綺麗に塞がれていた。
「塞がれてる……?」
「なんだって!?」
ㅤ驚いた様子で雷牙さんの言葉に反応するナナシさん。ナナシさんは急いで裂け目が塞がれた無限樹に触れ、乱暴に叩く。
「嘘だろ……?今までこんな事無かったのに……」
ㅤ“今までこんな事無かったのに”
ㅤナナシさんの言葉が脳裏に響く。無限の森の案内人であるナナシさんでさえ、経験したことが無いということは、僕等は__
「閉じ込められたということですか……!?」
「その可能性が高い……。無限樹の裂け目は自然に塞ぐことは絶対にないからな。誰かが意図的に塞いだとしか考えられない……」
ㅤ「くそっ」と悔しそうに拳を無限樹に打ち付けるナナシさん。出られないのならどうすれば良いのだろう……。
ㅤ僕がそんな事を考えていた時、微かに少女の笑い声が聞こえた。上を向くと、不思議なお面を被った14歳ほどの少女が無限樹に座っている。
「無限樹の上を見つめてどうしたの?クロウ」
「あ、オルヴァ。あの少女は一体誰だろう」
ㅤ僕はあの少女を指差しながらオルヴァに説明をする。するとその声に気がついたのか、雷牙さんは僕が指差した少女を不思議そうに見ていた。
「何言ってるのクロウ。彼処には誰も居ないわよ」
「お嬢ちゃんの言う通りだ。彼処には誰も居ないぞ?」
「そうだよクロウ。誰も居ないよ?」
ㅤ口々に「彼処には誰も居ない」というオルヴァ達。何故だ?彼処にはちゃんとお面を被った少女が居るというのに__
「どうかしたか」
ㅤその声に気が付いたのか、ナナシさんが僕等へ近付いてきた。
「あ、ナナシさん。彼処にお面を被った少女が座っているんですけど、僕以外の人には見えていなくて……」
「“さん”を付けなくて良い。あと敬語も使うな。……お前、彼奴が見えているのか?」
ㅤ“彼奴が見えているのか”というナナシの言葉の裏をかいてみると、“特定の人にしか見えない”ということだ。つまり、あの少女は僕とナナシにしか見えてないということ。特定の人にしか見えないあの少女は何者なのだろう。
「彼奴は何らかの理由で、無限樹に縛られているんだ。ざっくり言うと、地縛霊みたいなもんだよ。詳しいことは俺も知らなくてな。……なんせ彼奴は何も喋らないし」
「地縛霊……か」
ㅤ何も喋らないし、お面を被っている、それに特定の人にしか見えない……。まるでそこに存在しているのかが分からなくなってくる。
「まぁ彼奴の事は気にするな。行くぞ」
ㅤ僕等は無限樹から離れ、ナナシの後を付いて行った。