モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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九十七話 猛撃

 

 

 以前に四人集まって狩りはできないだろう、なんて言っていたのに。

 今はフラムを除く三人が狩りへ向かっている。皮肉な話だ。四人で狩りがしたいって言っていたフラムだけがいない。

 ルーフスも似たことを考えているのか、居心地の悪そうな顔をしている。

 

 

「勢いで来ちゃったけどさ、姉さんになんて言うつもりなの?」

 

「それは後で考えればいい。まずは目の前の依頼に集中すべきだ」

 

 

 アルフはあっけらかんとしている。無責任なだけにも見える。ルーフスはその様子にちょっと眉をひそめた。

 

 

「一つだけ言うなら、この行動は事態を好転させるきっかけになる」

 

「それは直感かい?」

 

「ああ」

 

 

 なんでもなさそうに言うアルフに対し、ルーフスは薄っすらと笑って言う。

 

 

「アルフって嘘をつくとき、いつも右手を左肘にあてているよね」

 

「そういうルーフスは左の口角を上げているな」

 

「……」

 

 

 鎌かけが失敗したようだ。そこで黙ったら図星って認めるようなものだよルーフス……。

 それはそれとして、アルフはどうやら適当な言い訳に自身のカンを使ったわけではなく、本当に直感していたらしい。

 

 

「アルフの直感なら、きっと本当にそうなんだよ」

 

「……全く腑に落ちない」

 

「それは同感かな」

 

 

 ルーフスが拗ねてしまった。さっきまでの居心地の悪さはマシになったけど、これはこれでなんだかやりづらくなってしまった。

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 狩猟目標はリオレウス亜種。危険度は星6、普通なら躊躇するだろうし、受注しない依頼だ。ただし、今回は例外。

 この個体は臆病だという。何度もハンターが狩猟しに行ったようだが、毎回リオレウスは縄張りを捨てて逃げ出してしまうらしい。

 

 

「アオイ義兄さんは手強いと思う? このリオレウス」

 

「なんだかんだ言ったって、絶対強い」

「アオイの言う通りだ……。警戒心が並大抵のものではないらしい」

 

 

 アルフに促されるままに、辺りを探すとかなり遠くから近づく影がいた。ガンナーの視力でかろうじて見える距離から、だ。

 

 

「どんな視力してるんだよ……!」

 

 

 飛行船を直接襲うつもりか? まぁいい、こっちには閃光玉がある。平衡感覚ごと視力を奪って、その間にベースキャンプにたどり着くだけだ。

 

 

「……くそ」

 

 

 弾丸みたいなスピードで、リオレウス亜種が飛んできた。この速度じゃ閃光玉で視力を奪っても慣性で飛行船に突撃されてしまう。

 

 

「これのどこか臆病な個体だよ」

 

「おかげで腕がなるよ」

 

 

 ルーフスがスラッシュアックスを持って地面を蹴り出した。

 

 

「おわっ!」

 

 

 ルーフスの蹴り出した力で飛行船が揺れる。慌ててロープを掴み、落下を防ぐ。アルフも身を低くして揺れに耐えていた。

 

 

「ふんッ!」

 

 

 ルーフスの斬撃がリオレウス亜種の頭を捉える。力強さと堅牢さが音で示された。

 一瞬の拮抗の後、火花を散らしながらリオレウス亜種の軌道が逸れる。リオレウス亜種は斜め後方に飛んで行き、ルーフスは飛行船から飛び出した勢いのまま落ちていった。

 

 

「命綱つけてないのか!」

 

「アオイ、それよりあいつだ!」

 

 

 リオレウス亜種は飛行船の下をくぐって反転し、こちらを向いていた。すかさず閃光玉を投げる。

 リオレウス亜種は閃光玉を見るや否や顔を下げ、一気に急降下した。

 

 

「閃光玉を避けた?」

 

「人に慣れてるらしいな。どうするんだ、アオイ?」

 

 

 リオレウス亜種をどうにかして飛行船から引き離さないといけない。……仕方ない。

 

 飛行船からリオレウス亜種へと飛び降りる。閃光玉は予測できても人が飛び乗ってくることは想定外だったのか、なんとかうまくいった。

 

 首にしがみつき、少しずつ顔の近くに近づく。空中だから下手にバランスを崩すようなことはできないはず。なのに暴れる力がかなり強い。さすがは空の王者と言ったところか。

 リオレウス亜種が疲弊し、動きが鈍った瞬間、一気に顔に接近し、閃光玉を直接叩きつけた。

 

 

「アオイッ!」

 

 

 リオレウス亜種がバランスを崩し、落ちる直前にアルフが手を伸ばした。

 しかし、その手は届かなかった。

 アルフが、飛行船が、どんどん遠くなっていく。

 

 

 このまま落ちていけばリオレウス亜種と同じところに着く。一旦距離を取って体勢を整えたいな……。ルーフスの方に行きたいな。ルーフスと合流して、それからベースキャンプまで行けばアルフとも合流できるだろう。

 体の向きを調整し、リオレウス亜種に銃口を向ける。

 

 

「置き土産だ!」

 

 

 バレットゲイザーを撃ち込み、反動を利用して距離を離した。錐揉み回転しながら落ちていくリオレウス亜種眺めながら、僕も密林の中に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「無茶したな……」

 

 

 頭に乗っている木の葉や枝を払い落としつつ、自分が落ちてきた方を見る。飛行船はもう行ってしまったようだ。

 

 

「アオイ義兄さん……?」

 

「ルーフス! 良かった、あっさり合流できた」

 

「なんでここに?」

 

「落ちてきたんだよ」

 

「それは分かるけれども」

 

 

 ルーフスはどこか、呆れているようだ。もしかして、僕が足を滑らせて落ちてきたとか、勘違いしてるんじゃ?

 

 

「とにかく、ベースキャンプに行こうか、ルーフス」

 

「いや、このままリオレウス亜種を狩りに行った方がいい」

 

「二人じゃ流石に危険だ」

 

「だけどせっかくのダメージを回復させるのはもったいない」

 

 

 ルーフスはそれに、と続ける。

 

 

「アルフとすれ違いになって、そのまま単独でリオレウス亜種に会ったらもっと危ない」

 

「……それもそうか。今回はルーフスに従う。巣に向かおうか」

 

「りょーかい」

 

 

 

 僕たちが落ちた場所は、どうやらマップの外のようだ。マップの外側で力尽きると、アイルー達が助けに来ない。

 野垂れ死にをしたくなければ、さっさと戻らないといけない。

 

 

「ここはエリア9の近くだろうから……こっちか」

 

「アオイ義兄さんは遺跡平原に来たことあったんだ」

 

「まぁね。ルーフスは初めてなのか」

 

「うん。でも巣の位置はすぐに分かったよ。あれだろ?」

 

 

 ルーフスは木の隙間から覗く、山頂を指差した。飛竜の巣の位置は分かりやすくて助かる。飛竜と煙は高いとこが好きってね。

 

 静かな森を歩いているうちにマップ内のエリアに到着し、その後も何事もなく巣の付近まで来た。

 

 

 

「ペイントボールをぶつければ、アルフは匂いを辿って来てくれるね」

 

「それまでは僕とルーフスの二人しかいない」

 

 

 ルーフスは皮肉げに笑った。

 

 

「怖いならアオイ義兄さんはここで待ってていいよ?」

 

「それはいくらなんでもルーフスが心配。行くに決まっている」

 

「お?」

 

 

 ルーフスの表情が固まった。どうやらお互いに、軽口を言えるくらいには、余裕があるようだ。

 

 

「どうせ二人で組むなら、アオイ義兄さんじゃなくてアルフとが良かった」

 

「アルフと比べられたらたまんないよ」

 

 

 アルフがいると、奇襲を受けることがなくなる。というか普通じゃ予知できない死を必ず回避できる。余計な心配をしなくてもいいのは本当に助かるんだよな……。

 

 

「……ルーフス、いくよ」

 

「了解」

 

 

 姿は見えないのに、どこか気圧されるのを感じながら、僕らは巣へと進む。

 岩肌から転がり落ちた石、風が吹き抜ける音、骨が朽ちて崩れる音。神経質になっているのか、些細な音がいやによく聞こえる。

 

 足音を消してさらに歩くと、モンスターが身じろいだ時の音がした。今、側にある岩から身を乗り出せば、確実に姿を見ることができるだろう。

 ルーフスもモンスターの気配に気づいたらしい。スラッシュアックスの柄に手をかけ、言った。

 

 

「じゃあ先に行く」

 

「ルーフス、待って」

 

「……なぜ」

 

「ルーフスが不意打ちをした方が大きいダメージ与えられる」

 

 

 ルーフスが眉をひそめた。

 

 

「アオイ義兄さん、リオレウス亜種を舐めてない?」

 

「大丈夫だから。信じてよ」

 

 

 ルーフスの表情が不信から諦めに変わったのを見て、すぐに飛び出した。ルーフスなら完璧な一撃を決めてくれるだろう。

 

 リオレウス亜種に向かって駆ける。こちらの足音に気付いたようで、敵意を持って睨まれた。

 ポーチから閃光玉を出しながらさらに近づき、リオレウス亜種の頭と地面の隙間をスライディングで抜ける。

 予測通り、リオレウス亜種は閃光玉を見た瞬間、目を閉じた。お陰で眼前を素通りできた。

 

 足元に潜り込みつつ、装填していた全てのレベル3通常弾撃つ。リオレウスからすれば予想外の攻撃のはず。とっさに尻尾で払ってくるのを読み、顔の方へ進む。

 原種とは違う、赤い眼がこちらを覗く。その直後、リオレウス亜種の瞳孔が縮み、背中の筋肉が隆起した。

 即座に弾を込め、リオレウス亜種の頭が来るであろう位置に徹甲榴弾を撃つ。弾丸は側頭部に突き刺さり、即座に炸裂した。

 ここまで完全に読み通り。あとは演じきるだけ。

 

 リオレウス亜種はホバリングしながら、ブレスを撃ちこんできた。右に転がって避け、続けざまに撃ってきた二発目を、すぐに左に折り返して避ける。

 二発目を素早く避けて作った時間で徹甲榴弾を装填。三発目のブレスはバックステップと徹甲榴弾発射時の反動を合わせて躱す。

 徹甲榴弾は額のあたりで爆ぜた。一発目とのリアクションの違いを見るに、あと三、四発で気絶させられるだろう。

 距離を取ろうと一歩下がると岩にぶつかった。見ると、僕が最初に飛び出した場所だった。

 

 

「っ!」

 

 

 視線を戻すと、リオレウス亜種は両翼で空気を蹴り、突っ込んできた。猛毒の脚爪に力が込められているのがはっきりと見えた。

 

 だけどその爪は僕まで届かない。

 

 

「オルァァァッッ!」

 

 

 背後の岩から飛び出したルーフスが、大剣を打ちこんだ。そのまま自身の何倍もある蒼火竜を止め、剣撃でぶっ飛ばした。

 

 

「アオイ義兄さんは無茶するし、人に無茶させるね」

 

 

 大質量を打ち返した反動なのか、体が痺れているルーフスが恨み言を言ってきた。それに対し、僕は地面に叩きつけられ、もがくリオレウス亜種にペイントボールをぶつけつつ言う。

 

 

「でもこういうのが好きなんだろ、ルーフス?」

 

「だけど人の命を賭けてまで、やることではないようだ」

 

 

 ルーフスの雰囲気が変わった。今この瞬間、ルーフスが強くなったのが肌で感じられた。

 

 

「狩猟開始だ」

 


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