モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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九十六話 平静

「いい加減、防具を新調しないとだなぁ……」

 

 

 朝起きて、開口一番がそれだった。装備した回数はともかく、一年くらい使ってる。新しくした方が良さそうだ。

 ちょくちょく修繕はしてもらっているけど、そろそろ隠しきれてないくらいにはボロボロになってきた。

 

 

「二人を誘って、狩りに行こうかな」

 

 

 試したいことは色々あるしね。今日は二人ともいるし、朝ごはん食べるときに誘うか。

 

 

 

 

 

「すみません、先約がいます。また今度誘ってください」

 

「私もごめん、今日はフラムちゃんと先に約束してて……」

 

「そっか……」

 

 

 最近予定が合わないな……半分は自業自得な気もするけど。集会所で人を集めてもいいけど、あの一件以来、ちょっと気まずいしなぁ。

 マリンさんだと一人で全部終わらせてしまうし……アルフ達はたぶん忙しいしな……。

 二人の用事が終わるまで待つのもありだけど、感覚を忘れないうちに早く狩りには行きたい……。

 

 

「何を狩りに行くつもりだったの?」

 

「特にまだ決めてないけど、防具を新調したくてさ」

 

「確かにそろそろ替え時って感じだったもんね」

 

 

 思えば、本当に長い時間、この防具を使ってきた。最初に狩ったのはフルフルだったっけ。あれ以来ずっと同じ防具を使い込んでる……。

 

 

「ミドリの防具はまだ変えないの?」

 

 

 僕よりも後に作った防具だけど、半年ほど余分に使ってるから劣化もしてるのでは。

 

 

 

「言ってなかったっけ、私の防具、これ二号だよ。厳密には三つ目か。ギギネブラも試したけど、フルフルが一番だなぁ……って」

 

 

 あんな気味の悪いモンスターの防具を三着も作ってたのか……。メリルはそれに付き合ったんだろうな……。ご愁傷様。

 

 

「フルフルの皮はひんやりしてて気持ちいいし、着心地も抜群なんだよ」

 

「保水性に富んでいて、着る化粧水ともいわれてますね。ところで、アオイ。防具ならジンオウガの素材から作ってはどうでしょう?」

 

「僕の取り分だけじゃ作れないかな……」

 

 

 個体数が少ないモンスターだから、調査のために素材はあまりもらえなかった。その代わりにお金はたくさん受け取れたけどね。

 

 

「私の分を使ってください。私はリオレウスの防具がありますし、次に作る防具はもう決めてますから」

 

「ありがとうメリル、でもいいの?」

 

「素材は使ってあげてこそです。代わりにこんどお喋りをしましょう?」

 

「そんなことでいいなら、いつでも」

 

 

 ミドリの小さい頃の話をすればいいんだね。なんだかんだで、ミドリとは長い期間を過ごしてきたから、話のタネはまだ尽きてない。

 

 

「足りなかったら私の分も使ってよ。私はこの系統の防具しか着るつもりないし」

 

「ありがとう、ミドリ。この埋め合わせはいつか……」

 

「わたし的にはナイトさんのところでたくさん奢ってくれるのが、一番嬉しいかな?」

 

 

 ミドリはニコニコ笑顔でそういう。ナイトさんのところで奢りとか、財布の中身を全部を要求しているのと大差ない。

 

 

「考えておくよ。二人とも、ありがとう」

 

 

 これで、ジンオウガの素材を使って、防具を作ることができそうだ。ただお金……足りないかもなぁ……。

 

 

「ジンオウガの防具を作るなら結構お金かかるんじゃない?」

 

「うん。だからなんとかして用意しないとね……」

 

「アルフを誘ったら? アルフも近いうちに工面しないといけないって言ってたし」

 

「そうなんだ。よく知ってるね」

 

「最近会ったからね」

 

 

 ミドリは少し困ったようにそう言った。アルフに何かあったのかね。スられたとか? アルフに限ってそれはないか。

 

 

「アルフのとこ行ってみるよ。もしダメでも、そのまま狩りに行ってくる」

 

「怪我しちゃだめだよ、いってらっしゃーい」

 

「いってらっしゃい、アオイ」

 

 

 

 

 

 家を出て、ふと思う。アルフは金銭面の方は大丈夫、と言ってたはず。なにか急な出費でもあったということか。……考えてもしょうがないか、聞けば答えてくれるだろう。

 それはそれとして、狩るなら何がいいかな。あの感じじゃ危険度の高いものはもちろん、時間がかかりすぎるのも良くないかな。

 

 

「どうしたもんか……」

 

 

 

 そうやって考え事をしているうちにアルフの家に到着した。正確にはクレアの家か? まぁいい。

 ノックして声をかけてみる。

 

 

「アルフ、いるー?」

 

 

 数秒後、家の中からバタバタと足音が聞こえた。すぐに扉は開く。

 

 

「ファル?」

 

「早くなかに、きて!」

 

 

 ファルに急かされるまま、家の中に入る。何かあったのか……?

 あらゆる状況を視野に入れて、冷静でいられるように努め、現場に着く。

 

 

「……やぁ、アオイ」

 

「アルフ……やっちゃったね」

 

 

 部屋はすこし焦げ臭く、なかなかに生臭い、異様な臭いが漂っていた。アルフの手元には墨のようにも紙くずにも見えるゴミが転がっている。

 

 

「消散剤の調合を失敗したんだね……」

 

「あぁ。恥ずかしながらな」

 

 

 消散剤は、体についた泥や氷を落とすためのもので、泥まみれになりながら隠密し、闘っているアルフにとっては必須の品だ。はじけイワシを使って作る道具なのだが、失敗すると魚の破片が周囲に飛び散ることになる。

 

 

「消散剤は買った方が安いんじゃない?」

 

「作った方が効果が高いんだ。市販のものは必要最低限の効果しかない」

 

「そうなんだ……」

 

 

 隣で怯えた様子だったファルは、僕たちの様子を見て落ち着いたのか、去っていった。僕たち的には珍しくはあるけどある程度は慣れてる光景だからね。

 

 

「そうだアオイ、何か用があったんじゃないのか?」

 

「ん? ああ、そうだったね。久々にこの惨状を見たから忘れてたよ」

 

「一言余計だな」

 

「アルフ、一狩り行かない?」

 

「それは良いが、一つ条件がある」

 

 

 アルフは髪についていた鱗を取り除きつつ、言う。

 

 

「部屋を掃除してくれないか。私は一度、風呂に入りたい」

 

 

 酷い条件だったが、アルフの状態を見るに、首を縦に振らざるを得なかった。

 

 

 

 

 様子を見にきたヴァイスとシュヴァに手伝ってもらいながら、部屋を掃除した。なかなかに面倒な作業だったが、二人が話した最近のドタバタっぷりが面白かったからちょっと良い気分だ。

 掃除が終わる頃、アルフが戻ってきた。

 

 

「……ちょっと臭いが残ってるが、汚れはほとんど取れているな」

 

「臭いの方は後で落陽草にでも吸わせておいて」

 

 

 お風呂上がりのアルフは顔はもちろん、全体的に肌が全体的に赤みを帯びている。最初見たときは、お風呂でド派手に転んだのかと思ったっけなぁ……。

 

 

「迷惑かけてすまないな。あとで必ず礼はする」

 

「気にしないでよ。僕も楽しめたからさ」

 

「そうか。じゃあ狩りに……と、どうしたファル?」

 

 

 ファルがアルフの服の裾を引っ張っていた。

 

 

「いつ、帰ってくる……?」

 

「遅くとも明後日くらいか。アオイの分も頼めるか? お金はいつものところにあるからな」

 

「分かった……いって、らっしゃい」

 

 

 ファルはそういうと、キッチンのある方へと戻っていった。僕とアルフもそれに合わせて家を出て集会所に向かう。

 

 

「帰る日に合わせて料理を作っておいてくれるんだ。嬉しいことにな」

 

「そうなんだ」

 

「ファルのやつ、最近腕を上げてきててな。日に日に美味しくなっているんだ」

 

「将来が楽しみだね」

 

 

 ファルは料理上手だったか。一杯のハチミツが彼女の人生を変えた……なんてね。

 アルフ視点での近況報告を聞き、ヴァイスとシュヴァとの同じ出来事の捉え方の違いを楽しんでいるうちに集会所についた。ここはいつも通りの活気だ。

 

 

「あ、ルーフスだ」

 

「……本当だ。よく見つけたな」

 

「伊達にガンナーやってないよ」

 

 

 まぁ、ルーフスを誘う気にはならない。あちらも同じ気分だろう。ぶつかると分かっているのに、わざわざそこに飛び込むようなことは……。

 

 

「ルーフス、こっちだ」

 

 

 カクテルパーティー効果とか言うんだっけ。アルフの声は集会所の喧騒の中にも関わらず、ルーフスの耳に届いたらしい。

 ルーフスがこちらに気づき歩いてきた。

 

 

「どうしたの? デート中みたいだけど」

 

「フーちゃんとやらも呼んでダブルデートと洒落こむか?」

 

「その話はやめろ」

 

 

 フーちゃん……? もしかして前にフラムが言ってた、姉同伴でルーフスが告白した相手かな。

 

 

「一狩り行くぞ、ルーフス」

 

 

 アルフはルーフスの手を取り、強引に進んだ。

 地雷原だと分かっている場所に、なんの、躊躇もなく。


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