モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

95 / 113
九十五話 端緒

 

「……おい、おいッ!」

 

「はっ、え?」

 

 

 ダイチさんがすごい剣幕で睨んできていた。

 

 

「やっと目が覚めたか」

 

「覚めた……? 僕、いつから寝てた?」

 

「ベースキャンプに戻ってくるなりぶっ倒れたな」

 

 

 目のピントが合ってきてようやく、飛行船で飛んでいることに気づいた。

 

 

「なんかすごく頭が痛い……」

 

 

 頭がなんか熱い気もする。手で押さえると熱いし、逆に手の方は冷たい。……風邪でも引いてるのかな。生まれて初めてかもしれない。

 漢方薬でも飲もうかと思って調合手順を思い出していると、ダイチさんがこちらを見ていることに気づいた。

 

 

「どうかしました?」

 

「なんか懐かしくてな」

 

「懐かしい……?」

 

「マリンの時とよく似てたからな」

 

 

 ダイチさんは苦笑いし、顎を掻いた。

 

 

「メリルに強引に頼まれて、マリンを狩りに連れてって……。よく知らんが急に恐ろしく強くなって、雑な礼一つでどっか行きやがったな……」

 

「あはは、マリンさんらしいや。なに、僕もすごく強くなるの?」

 

「それはねぇな。あいつは早咲きで二度咲きの天才だが、お前は大したことなさそうだしな」

 

 

 マリンさんへの言葉の送り用がすごい。というか、薄々気づいてたけど僕、やっぱり大したことないのね……。

 

 

「ダイチさんってなんでそんなに武器を持ってるの?」

 

「考えりゃ分かるだろ」

 

「いや、理由は分かるけど。ほとんどの人は一つの武器でどんな状況にも対応できるようにしようとするから」

 

 

 動きの早いモンスターには軽い武器、硬ければ重い武器、そんな風に状況ごとに有利不利はある。でも何かしらの打開策はあるものだし……。

 

 

「俺にとっての最適はこれだったってだけだ。俺は力も技もないからな。使える手札は多い方が良い」

 

「そうなんだ」

 

 

 本当に力も技もない人が全く違う性質の武器を使いこなせるとは思えない。こんな言い方してるけど、この人だって二つ名で呼ばれるくらいの実力がある……。ん?

 

 

「どうしてその答えに至ったの?」

 

「人には答えたくない質問があるってこと、覚えときな」

 

 

 ダイチさんは鼻で笑った。もっとも、底冷えするような眼光で睨まれたけど。

 好奇心は猫をも殺すというけれど、理由が聞きたい。その理由は人の強さの欠片だと思う。いや……。

 

 

「どうした?」

 

 

 なにかがキッカケとなって、あらゆる状況に対応できる武器を持つ必要が出てきた? そのキッカケというのは、たぶん憧れなんかじゃない。憧れで携えた武器ならあんな表情しない。人には話したくないような事件、そういうこと……。

 今の組み合わせに行き着くためには狂気の沙汰としか言えないようなことをしたはずだ。二種の武器ならまだしも、三種を持って最適と言うからにはそれこそ自暴自棄とすら言えるような無茶をしたはずだ。

 

 

「おい、無視か?」

 

「自暴自棄……?」

 

 

 最悪な目にあって、自暴自棄としか言えない行動をして、強くなるための欠片を見つけた……?

 そういえばマリンさんが言ってたな。二つ名で呼ばれる人は大抵、パーティが自分以外、壊滅するような体験を経験してるって。

 人の死を乗り越えて強くなった……なんて綺麗な話ではない。足掻いて苦しんで、その結果としてたまたま見つけたものが強さ。

 そういう意味じゃ、僕はそういう経験はしていないから……。それは違うな。この経験は、強さの理由にはなっても、強くないことの理由にはならないから。死ぬ気で知恵を絞って体現した技が強さの理由か。

 なら、なぜララさんはあんなに強いんだ……?

 メリルやマリンさんは技を極めているから強い。でもあの人は技もそうかもしれないけど、地の力の桁が違いすぎる。

 

 額に衝撃が加わった。

 

 

「痛っ」

 

「会話のキャッチボールをしろ。お前から話しかけてきたんだろ?」

 

「ごめん。考え込んでて」

 

 

 途中からほとんど声が聞こえてなかった。いや、聞こえてはいた気がするんだけど、環境音みたいな扱いをしてた気がする……。

 そういえば今気づいたけど、ライとトゥルは眠っちゃってる。この人のことをだいぶ暇させたみたいだ。

 

 

「何考えてたんだ?」

 

「いやさ、ララさんってなんであんなに強いんだろうって思ってさ」

 

「あんなの考えるだけ無駄だ。モンスター相手に本当に力で勝とうとして、勝てちまった奴だからな。あいつは人間じゃねぇ」

 

 

 言い草は酷いけど、ダイチさんはどこか楽しそうに見える。

 

 

「でも気になるよ。どう考えたって人の大きさで力で勝つなんてありえないし」

 

「んなもん気合いと根性よ。意志の持ち方次第で、どこまでも強くなれるってことだ」

 

「意志の持ち方次第って……。不可能を可能にって言っても限度があるよ……」

 

 

 心の持ちようで強くなるなんて変な話だ……。でも、実際に覚悟を決めた人は強い。覚悟というよりかは執念かな。執念で身を焦がし、燃え残った人だけが強くなれる……あんまり気持ちのいい話ではないな。

 

 

「今度は何考えてるんだ?」

 

「ん? 帰ってから何食べようかなって」

 

「嫌いな食べ物に挑戦しようとか考えてたのか?」

 

「ごめん、僕は嫌いな食べ物なにもないんだ」

 

 

 ダイチさんは笑いながら、殺意しか感じない視線を向けてきた。

 

 

「無茶な方法で強くなろうとした人達って、強くなれた人はともかく、なれなかった人はどうなったんだろうって」

 

「想像はついてるだろ。ハンターって職から退いたんだよ」

 

「退いたみんなは、いま何してるのかな?」

 

 

 笑えない。怨念だけが残り続けてたりしてね。まぁそんなこと起きるわけない……? いや、起きてた。もう木っ端微塵になったけど。

 破龍剣だったっけ。あの剣は強くなろうとして自暴自棄になった人の手を渡り歩いてきた。たくさんの強くあろうとした過程が、意志が染み込んでいた。振るう機会はなかったけど、もしあれを持ってたなら僕でも飛竜を倒せる。

 ……変な確信だけあるけど、あの剣、切れ味は悪くなくけど、異様に軽かった。だからそんなに威力のある剣って感じはなかった。ただ雰囲気的には龍属性かな。滅龍弾のような不気味さがあるし。

 

 

「滅龍弾って知ってる?」

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

「そうじゃなくて、なんであれだけ特殊な感じなの? 他の属性弾はもっとはっきりとした効果なのに、滅龍弾はなんていうか、曖昧だから」

 

「龍属性自体、よく分かってねぇしな。使えはするが、仕組みはさっぱりだ」

 

 

 龍属性を弱点とするモンスターに撃ち込めばかなりの威力を発揮する。それしか分かってない。研究もされているけど、用途は増えても解明には至ってない……。

 

 

「お前は龍属性は何だと予想する?」

 

「……怨念かな?」

 

 

 破龍剣の強い所はたぶん属性値。それでいて妖刀なんだから、そういうことじゃないのかな。

 

 

「意志の力を信じない奴がお化けを信じんのかよ? 面白いこと言うじゃねぇか」

 

「そういうダイチさんは何だと思うのさ」

 

「さぁな。考えたこともなかった」

 

 

 鼻で笑われた。チェスをふっかけて叩きのめしたい。

 そんなことはいいんだ。よく分からない力ねぇ……。そういったことなんだかんだ結構ある。龍属性のこと、ララさんの腕力、リオレウスが空を飛べる理由。他にもたくさんある。全部同じ原因だったら、一つ解決すれば全部解決できるのに……。

 

 

「……?」

 

「また考え事か? 銅像になりてぇのか?」

 

 

 怨念というのが龍属性の種類の一つに過ぎないとしたら……? 強い怨念が強力なエネルギーになる、つまりそれこそ意志の力じゃないか? いやそれだとリオレウスが飛べる理由にはならない、生物にあるのは生きようとする一種の願いであって、自らの意志じゃない。

 ……まさか?

 

 龍属性が願いから生み出されるものだとしたら? そして、願いの種類で変換されて放出されるということなら?

 

 

「今度は何を聞いてくるんだ?」

 

 

「もう何もないよ。ありがとう、ダイチさん」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。