モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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九十四話 戦略

「やっぱり、自然の摂理はぁ、残酷ですニャ」

 

「生存戦略なんだから当然ニャ」

 

 

 そう言うわりに、トゥルは涼しい顔をしていて、ライは少し引いている。

 

 

「どういうこと?」

 

「雌が雄を喰っただけニャ。青いの、片方しかいない内に早く指示を出すニャ」

 

 

 二匹で奇襲しても一撃一撃が軽そうだしな……。でもゲネル・セルタスと戦ったことがあるみたいだし……うん。

 

 

「ライとトゥルは左右に分かれて。誘い出したところを挟み撃ちにする。行くよ!」

 

 

 ライとトゥルが走り出した。それに合わせて僕も前に進む。

 坂をのぼると、すぐ下に緑の板のようなものがあった。そこから盾のような脚が四本、爪のようなものが二本生えている。あと尻尾があり、先端に三日月みたいな鋏がついている。

 こいつがゲネルセルタスだろう。質感が虫の甲殻そのもの。ただかなり頑丈そうだ。

 

 上から散弾を撃つ。だが渡されたボウガンの威力はあまりにも低く、悉く弾かれてしまう。

 

 ゲネルセルタスがこちらに気付き、高台まで登ってきた。それに合わせて僕は下がる。

 改めて見ると重厚だ。虫のはずだけど、硬さや重さは飛竜にも劣らなさそう。だからこそ、そこに取り入る隙があるはず。

 

 

「攻撃開始だ!」

 

 

 ライとトゥルはゲネルセルタスの側面から一気に肉薄、ブーメランとピックの二刀流で一気に攻め立てる。

 

 ゲネル・セルタスが体を低く構え、踏ん張り、ライの方にタックルした。

 

 

「ライ⁉︎」

 

「危ないじゃニャいか、青いの! ちゃんと指示するニャ!」

 

「今のにも指示を求めるなんて手厳しいのですニャ、ライちゃん」

 

 

 ゲネルセルタスの脚の隙間に潜り込んで回避していた。小柄だから攻撃の回避もしやすいみたいだ。

 とは言え、出来るだけ事前に教えてあげられるようにしないと。

 ゲネルセルタスは尻尾を振り上げた。この後の動きは十中八九……。

 

「尻尾で薙ぎ払ってくる、避けて!」

 

 

 次の瞬間、埃でも払うように、体を一回転させながら地面を尻尾で薙いだ。

 トゥルはその場で垂直に飛び、ライは脚に掴まり、ゲネルセルタスと一緒に回った。

 

 

「指示は良いのですがぁ、言うならもっと早くないと意味がないですニャー」

 

「俺より辛辣だニャ」

 

 

 指示を早く……。ライもトゥルもゲネルセルタスの攻撃を見て、的確に回避している。指示なんていらないようにすら見える。

 モンスターの行動を先読みしてあらかじめ伝えないと効果はない。

 

 

「うーん……」

 

 

 あらかじめ行動を知っているのなら、行うのは回避ではなく移動。回避と違って、移動は攻撃しながらでも行える。攻撃時間をさらに伸ばすことができる……。

 じゃあどうやって先読みをする……?

 

 ゲネルセルタスはトゥルに向かって突進した。トゥルはそれを難なく避け、ブーメランを構えた。だがその直後、ゲネルセルタスが方向転換したのを見てブーメランをしまい、回り込むように走って突進を再び回避した。

 ゲネルセルタスが壁に突っ込み、止まったタイミングでライがピックを手に走り込んだ。

 ライによる背後からの攻撃、ゲネルセルタスもそれを予測しているのか、尻尾を唸らせている。

 

 

「ライ、尻尾!」

 

「知ってんニャ!」

 

 

 ゲネルセルタスは再び、背後から側面にかけてを尻尾で薙ごうとした。ライはその尻尾にピックをひっかけ、サイドスローのように飛ばされた。

 飛ばされたライはゲネルセルタス正面の壁に着地、ブーメランとピックの二刀を振りかぶり、ゲネルセルタスの頭部に叩きつけた。

 

 一手二手三手くらい誰でも自分で読む、そんなの当たり前だ。もっと先を、先を……じゃない。

 本当に読めばいい。先読みなんかじゃない、一つ一つの行動は全て必然的なものだから。背後に敵がいれば攻撃し、攻撃されれば対応し……。

 攻めて、避けて、攻めて、避けて。

 

 

「回る、払う、吐く、走るッ――!」

 

 

 ゲネルセルタスが張り付く二匹を追い出すように回った。

 ライは壁を駆け上ってそれをかわし、トゥルは間合いを開けたまま、ブーメランを連投していく。

 ライの着地した地点はゲネルセルタスの尻尾の間合いの中、尻尾で追撃された。ライは大きく距離を離し、退避。

 そこに畳み掛けるようにゲネルセルタスはブレスを撃ち込んだ。ライはそれをギリギリで回避するが、体勢を大きく崩した。

 そのライにゲネルセルタスは突進した。

 

 

「ナイス指示ですニャ、アオイさん!」

 

 

 トゥルがライを担ぎ、攻撃範囲からギリギリで脱出した。

 

 

「……今のは悪くなかったニャ」

 

「お礼くらい素直にいいましょー、ライちゃーん!」

 

 

 トゥルはライの手を掴み、ハンマー投げのようにぐるぐる回り、ゲネルセルタスに向かって投げ飛ばした。

 

 

「ニャアアア⁉︎」

 

 

 ライは取り乱しつつも空中でピックを構え、ゲネルセルタスの尻尾に振り抜いた。勢いと体重を乗せた一撃が、尻尾の甲殻の一枚に放射状のヒビを入れる。

 

 ゲネルセルタスはよろめき、たじろいだ。隙を見逃さず、二匹は距離を詰め、攻撃を加える。

 次の行動は……。

 

 

「ガス攻撃!」

 

 

 ゲネルセルタスから黄土色の煙が漏れているのが見えた。二匹はすぐさま距離を離し、ブーメラン主体での攻撃に切り替えた。

 

 ゲネルセルタスの周囲を噴き出したガスが包んだ。臭いは一帯へと広がる……。

 食欲が失せるような臭いには変わりないけど、普通の臭さとは違う気がする。虫だからこういう臭いなのかな……?

 

 臭いを我慢して酸素を吸い込んでもう一度考える。今はファルの方がダメージをより与えているように見える。ならファルを狙う……その次、さらに次。尻尾での攻撃は頻度を抑えるんじゃないか。だとすると……。

 

 

「タックル、その場回転、突進!」

 

 

 トゥルはタックル後に回転することを見越して、大きく距離と取り、タックルを回避した。そして続いてブーメランで攻撃する。

 ゲネルセルタスはその場で踏ん張り、トゥルに向かって走りだした。

 トゥルは少し戸惑いつつ、間一髪で避けた。

 

 

「指示出すなら間違えるニャ!」

 

「ミスはぁ、誰にでもあることですニャー」

 

 

 ……あぁ、そうか。僕の指示でトゥルの行動が変わったから、ゲネルセルタスの対応が変化した。だから……ライとトゥルの行動の変化も読まないといけないということか。

 トゥルの判断力がなければ本当に危なかった。

 

 

「アオイさん、アルセルタスがもうそろそろこのエリアに来ますー」

 

「アルセルタス?」

 

 

 辺りを見渡すと、本当にアルセルタスがこちらに飛んできていた。そして、ゲネルセルタスの頭上にゆっくりと降りてくる。

 ゲネルセルタスはアルセルタスを尻尾で乱暴に捕らえ、血液が漏れるくらいに挟み、叩きつけるように背中に乗せた。

 どういう意味が……?

 

 ゲネルセルタスが近くにいたライを狙ってタックルをした。ライはそれを避け、その隙に乗じてトゥルが攻めこむ。

 だが上に乗ったアルセルタスが牽制するように尻尾から腐食液を撒き、近づかせない。

 攻めと防衛が一体となり、たとえ攻撃が通ってもそこは堅牢な甲殻。その姿はまるで要塞。これじゃ狩りというより城攻めだ。

 

 

「青いの、一旦逃げるかニャ?」

 

 

 挑発めいた声で、ライは尋ねてきた。

 

 

「私は、どちらでも構いませんニャー」

 

 

 トゥルも穏やかにそう言った。

 

 二匹だけなら間違いなく狩ることができるのだろう。僕の指示を聞くように言われていて、かつその指示が未熟だから危機に陥る。

 二匹のためにも、ミスは許されない。

 

 

「……このまま続ける。ゲネルセルタスにかなりのダメージは蓄積しているはず。押し切る」

 

「ゴリ押しニャ? 分かりやすくて良いニャ!」

 

「しばらくは二匹でお願い、行動が読めたら指示する」

 

「あら? 急がないと殺っちゃいますよー」

 

 

 ライとトゥルが目の色を変えて、一気に距離を詰めた。

 ライは敵を嘲るように、トゥルは基本に忠実な動きで攻め立てる。

 ゲネルセルタスは些細なダメージを無視して攻撃をねじ込み、その上のアルセルタスは隙を潰すように攻撃を重ねる。

 攻防が起きるたびに、行動の性格が読めるようになってきた。次の手、その次の手、行動に対応した動きが、一つ一つ。

 

 

「ライ、右に一歩。トゥルは懐に入って」

 

 

 僕が出すのは指示だ。読んだ行動を伝えるのではなく、動いてもらうような指示。こちらの方が都合が良い。

 ライが一歩動いだけでアルセルタスの攻撃は外れ、トゥルが懐に入ったことによりゲネルセルタスの攻撃が不発に終わる。

 相手の攻撃をいかに躱し、外させ、こちらの攻撃をいかに有効打にするか。

 

 

 こういうのは得意だ。

 

 

 僕の思い通りに事が進むように指示をまぜ、事を進める。ゲネルセルタスの甲殻を削っていくうちに、怯む頻度が増えてきた。

 アイルーの攻撃は軽いが、体が小さく、動きが早いことがここまで大きく働くとは思わなかった。指示が出しやすい。

 

 動きを読み切り、二匹に……いや、二人に最善の動きを指示をしているうちに、ゲネルセルタスがだいぶ弱ってきた。

 

 

「瀕死ニャ!」

 

「知ってるっ!」

 

 

 その場で落とし穴を仕掛け、二人の行動でゲネルセルタスを誘導、そのまま突き落とす。そして、アルセルタスが妨害してくるのを避けつつ、捕獲用麻酔玉でゲネルセルタスを眠らせた。最後はあっさりとしていた。

 

 メインターゲットの捕獲は完了したが、アルセルタスはまだ残っている。トゥルは微笑みながらこちらを見て、ライは何か言いたげな顔でこちらを見ている。

 思い返せば口を動かしていただけで、僕は何もしてなかったな。

 

 

「ん?」

 

 

 アルセルタスが眠っているゲネルセルタスを、健気にも持ち上げようとし始めた。そいつのこと生かしても君は食べられちゃうんですよ……。

 バレットゲイザーを装填し、アルセルタスに向かってジャンプしながら後方に発射。

 高速で移動してアルセルタスにドロップキックをお見舞いする。

 アルセルタスの頭にクリーンヒット、そのまま潰し、ゲネルセルタスを運ぼうとすることを阻止できた。

 ゲネルセルタスに酷使されたからか、ライやトゥルに攻撃されていたか、あるいはその両方だったのかこちらも瀕死だったらしい。あっけなくアルセルタスを討伐した。

 

 

「モンスターを蹴り殺すところなんて初めて見たニャ」

 

「この様子じゃ反省会は脚を洗ってからですニャー」

 

「あはは……。二人とも、今日はありがとうね」

 

 

 可能性を感じられた、一日だった。これなら、あの二人と並べるのかな……?


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