モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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九十三話 弱肉強食

 集会所が一瞬で静まり返った。

 ララさんはそんなことを意にも介さず、獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「残念だったな、ギルドマスター?」

 

「なんてことをするんだララッ!」

 

 

 掴みかからんばかりの勢いでギルドマスターがララさんに詰め寄る。ララさんは涼しい顔で、名前で呼ぶなと言う。

 

 

「なぜこんなことをした」

 

「テオ・テスカトルからの防衛戦を見てなかったのか? あんな剣、もう必要ねェんだよ」

 

「なぜそう言い切れる。万が一ということもあるだろう」

 

「万が一のために一人死なせるのか? どう思うよ青髪タキシード」

 

「……僕がその役をやる」

 

「話になんねぇな……。おい!」

 

 

 集会所に向かってララさんが叫んだ。

 

 

「お前だダイチ、こいつにこの剣なんか必要ないことを教えてやれ!」

 

 

 ダイチ……? 聞いたことのある名前だ。辺りを見渡してみると、周りの人とは明らかに違う態度の人がいた。スキンヘッドの大男……思い出した、キャラバンの護衛で一緒になった人だ。

 

 

「なんでそんなめんどくせぇことを俺に頼むんだ」

 

「知らねえよ、メリルに聞け! 殴られたいのか⁉︎」

 

「はっ! 片腕の分際で笑わせてくれる」

 

 

 二人の額に青筋が走る。一触即発の雰囲気に、集会所が盛り上がった。こんな早朝からなんでみんな血気盛んなんだろう。

 ダイチさんがララさんに歩み寄っていく。そして一歩踏み込めば拳か届く距離に達すると睨み合った。

 

 緊張が走る。ヤジを飛ばしていた人が二人の雰囲気の異質さに気づいた。これは果たして人同士の喧嘩なのか、もはや大戦ではないか、そんな気さえしてきた。

 ハルマゲドン一歩手前の二人の間に女性が一人、割り込んだ。

 

 

「これから一生、集会所でお酒を飲めなくてもいいというならこのまま続けてください」

 

「……そこの青いの、本来の得物を持ってこい。鍛えてやるよ」

 

 

 受付嬢は強かった。

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 武器を持ってくるなり、飛行船に乗せられた。その飛行船には防具を来たアイルーがなぜか二匹いた。

 

 

「なんでアイルーが」

 

「雇ったからだ」

 

「そっちを聞いたわけじゃないし……。なんでアイルーを雇ったのさ」

 

「お前に必要だからだ。あとこれ」

 

 

 ダイチさんはライトボウガンを渡してきた。これって……一番簡単に作れる、駆け出し向けの奴じゃないか?

 

 

「お前はこれを使い、そこのアイルーと協力してイャンクックを狩ってもらう」

 

「……えっ?」

 

「このことは後で説明する……。で、剣のことか」

 

 

 ダイチさんはあくびをし、話し始めた。

 

 

「あの剣を使ったハンターは例外なく死んでいる。だからララは剣を破壊したんだ」

 

「それだけ?」

 

「あァ。あいつはハンターが死ぬことを嫌うからな」

 

「だからって壊すことないじゃん……。あの剣があれば」

 

「あんな執念まみれの剣の何がいいんだ? 強くはなるかもしれねェが、人としては終わるぞ」

 

 

 ダイチさんは皮肉げにそう言った。確かに言われてみれば人間性が死にそうな剣ではあったけど……。ん?

 

 

「なんで執念まみれって分かるの?」

 

「使ってるのを見たことがあるからだ。」

 

「……それってもしかしてライトって人?」

 

「そうだが。剣のこと知らないくせになんでその名を……んん?」

 

 

 ダイチさんが目を見開いて僕の顔を見た。

 

 

「お前、まさかライトさんの息子か」

 

「うん」

 

 

 たぶん。

 

 

「なら話が早い。ライトさんはあの剣を使ったから死んだんだ」

 

「別にそれくらいのリスク……」

 

「お前、残される人の気持ちを知らねェのか? 家族、恋人、友人。親しい人が死ぬのは気持ちのいいもんじゃねェ」

 

「そんなのいつかは乗り越えて、忘れられる」

 

「他の奴が死んでもそう言えんのか? 例えば、お前の仲間が死んでも同じことが言えんのか?」

 

「……それは」

 

「他人の死を直視できないくせに、自分が死んだあとは知らないって? とんだ自己中だな」

 

 

 ダイチさんは呆れてため息を吐き、二の句を継いだ。

 

 

「あの剣を使うことで強くなることは問題があるが……強くなること自体に問題はない。……いや違うな。強くなる必要もあまりない」

 

「強くなる必要がない……?」

 

「仲間に指示を出せばいいんだよ。強い力を持つやつが最善の行動をし続ける、それだけで狩りはうまく行く」

 

 

 さも当然のことを言うようにダイチさんは言った。本当に当然のことなんだけどね。

 

 

「そんなこと習ったし……。ガンナーは全体を見れるから指示も出すようにって。でも実際には」

 

「指示を出す頃には行動が終わっている。って? 先読みすればいいだけだ」

 

 

 先読み……。でも読み違えるとかえって危険に晒すことになる。

 

 

「対象はゲネル・セルタスちゃんと指示すればそこのアイルーだけでも十分に狩れる相手だ」

 

「……アイルーが?」

 

 

 ニャンターと呼ばれる、ハンターのアイルーはいるらしい。人と比べても小さな生き物が人の何倍も大きいモンスターと本当に戦えるのか……?

 

 

「もしかして、オレたちのことバカにしてないかニャ?」

 

 

 ずっとだんまりだったアイルーが、喧嘩腰で詰め寄ってきた。それをたしなめるようにもう一匹のアイルーも来た。

 

 

「ケンカはダメですニャ、ライちゃん」

 

「うるさいニャ、トゥル!」

 

「か弱く見られるのは、いつものぉ、ことですニャー」

 

 

 気性の荒いアイルーがライ、落ち着いたアイルーがトゥルのようだ。

 

 

「意志さえ強ければ体の大きさなんて関係ないのニャ! それをこいつにも分からせてやるのニャ!」

 

「そうですニャー、百聞は一見にしかず。見てもらうのがぁ、一番なのですニャ。アオイさん、今日はよろしくお願いしますニャー」

 

 

 ライの方は自信があり、それを認めさせるための言動。トゥルの方も自信があり、それゆえの余裕を感じさせる振る舞いをしている。

 武具を見る限りも実際に強いのだろう。でもそれをいまいち信じられない自分もいる。

 

 

「今日はよろしくね、ライ、トゥル」

 

 

 信じられないのではなく信じたくないの間違いか。自信まんまんに自分たちが強いと思える二匹に、僕はただ嫉妬している。

 

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 

 

 着いた場所は遺跡平原。人工物らしき形の、赤い岩がところどころにあるのが目につく。

 

 

「ゲネル・セルタスってどんな感じなんですか?」

 

「でかい虫だ。アルセルタスっていう同種の雄もおそらくいるだろう」

 

「でかい虫を二匹……?」

 

「雄は人より一回りでかいくらいだ。まぁ見りゃ分かるだろ」

 

 

 虫系のモンスターか……。子供の頃はキツかったけど調合ですり潰したり、出来たものを飲まされてるうちにどうでもよくなっていったっけ……。

 

 

「さっさと行くニャ、青旦那」

 

「急いては事を仕損じますからぁ、ライちゃんのことは気にせずぅ、自分のペースで良いですニャ、アオイさん」

 

 

 なんか天使と悪魔みたいだ。……いや、この例えだと僕にとって都合の良い言葉をかけてくれるトゥルが悪魔になるね。

 

 

「……ダイチさんはこないんですか?」

 

「やることは伝えただろ? 俺は適当に時間潰してるから気にすんな」

 

 

 来てくれないらしい。

 

 

「行こう」

 

 

 ライは毒づきながら、トゥルはゆるりと返事をして、着いて来た。

 オトモアイルーがいるってこんな感じなのかな。今回はオトモじゃないけど。

 

 緩めの傾斜を駆け下りる。小麦畑みたいな色の草原が眩しい。

 

 

「アオイさーん、この地図ですとぉ、エリア四のあたりに気配を感じますニャ」

 

「なんで分かるの?」

 

「勘ですニャ」

 

 

 アルフかな?

 

 

「ちなみにオレは捕獲可能かどうかが判断できる」

 

「それに関しては僕もなんとなく分かるかな」

 

 

 ライが舌打ちをし、一旦静かになった。

 会話もなく走り続け、トゥル曰く、ゲネル・セルタスいるというエリアについた。

 起伏の激しいエリアのようだ。丘になっているから反対側が見えない。あと、真ん中の方がなくなっているけど赤い岩の橋みたいなものもみえる。

 警戒していると、空から降りてくるものがいた。

 

 

「緑色の虫……?」

 

 

 蜂っぽい姿で緑色。あと槍のような形の大きな角がある。

 

 

「あらら? あの子はアルセルタスですニャ」

 

「じゃあゲネル・セルタスは?」

 

 

 ゲネル・セルタスの場所が分からず、身を隠す。

 その時だった。死角になっているところから伸びてきた鋏がアルセルタスを捉える。

 鋏はアルセルタスを持ち上げ、地面に激しく叩きつけ出した。何度も何度も、アルセルタスがひしゃげて絶命するまで。

 

 そして、遺骸は死角に引き込まれ、捕食者の咀嚼音に変わった。


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