モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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九十話 火の山

 火山の採取ツアーに来た。前回傷つけてしまったヴァルキリーファイアの補修に思わぬ出費をしたから稼ぎに来た。

 

 

「防具の修理もしないといけないし、弾も道具もかぁ」

 

 

 なんならピッケルの元も取らないといけない。あとクーラードリンク。お金を稼ぐためにお金がたくさん飛んでゆく……。

 ピッケルを背負い、荷車を引き、火の山へ歩みを進める。

 景色に赤の比率が増えたころには、炙られるような熱さを感じていた。

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 

 

「鉄鉱石、マカライト鉱石、大地の結晶にドラグライト鉱石……」

 

 

 ちょっと取りすぎたかな。いや、こんなものか。お守りっぽいものとかでっかいガラクタとかもあるから多く見えるのかな。

 フラムの誕生日に渡すための、お守り探した時以来の採掘だった。ミドリと来た時は暑さですぐにダウンしたけど、今はそれなりに慣れた。

 護石、ミドリにもプレゼントしたいな。メリルにも、他にもいろんな人に。モンスターの素材を使った贈り物もいいけど、血生臭いものよりも護石の方が良さそう。

 でも突然渡すのもなんかな。フラムの時みたいに誕生日っていう口実があればいいんだけど、僕もミドリも誕生日を知らないからなぁ……。三六五分の一に賭ける? 答えが分からないのに賭けるも何もないな。

 

 

「なに考えてんだろ。そんな場合じゃないのに……」

 

 

 ピッケルも使い切ったし、クーラードリンクの効果もそろそろ切れそうだからもう帰ろうかな。

 

 

「……なにか聞こえた」

 

 

 耳を澄ませると悲鳴が聞こえた気がする。その声はこちらに近づいてきていて……。

 

 

「ニャ〜! 悪かったのニャ、許してニャー!」

 

 

 アイルーがこちらに向かって走ってくる。

 

 

「どうかしたの?」

 

「ハンターの旦那、助けてくれニャ!」

 

「別にいいけど、何から――」

 

 

 曲がり角からリオレウスが飛び出してきた。危険度星五つ。リオレイアの一つ上。僕が勝てる相手ではない。それでも。

 

 

「……早く逃げてくれ」

 

「お願いしますニャ!」

 

 

 アイルーが後ろへ走り抜けていったのを確認して、ボウガンを構える。リオレウスは口から炎を漏らしながらホバリングしている。

 怒り心頭だね……アイルーは卵でも壊したのな。

 

 

「やあああぁぁぁッ!」

 

 

 大声をあげながら、リオレウスの真下に向かって走りこむ。急に接近してくるものがいれば注意は向くはず。

 背中の方で爆発が起こる。注意は引けたらしい、たぶんこちらにブレスを撃ってきた。

 尻尾の方まで抜けてから立ち止まり、一発だけ弾を撃ち込む。

 

 

「えーっと……時計回り!」

 

 

 リオレウスの振り向きに合わせて、背中を取り続けるようにして走る。高く飛ばれたらすぐに発見されるだろうけど、これで視界から出られた。

 装填する弾はレベル3通常弾。跳弾を使って混乱させて、時間稼ぎをしてから逃げる。

 

 

 視野を広くして、弾丸が跳ねる軌道をイメージする。岩肌の起伏、天井の凹凸、床の切れ込みヒビ割れによる反射角度の変化を頭に叩き込んでいく。

 ……マリンさんは撃つべきルートが光って見えるらしい。僕が全力で走って答えを探すのに対し、彼女は答えすでに知っている。そんな当然のように在る才能の差は埋められない。

 だがそのくらいなら、頑張れば追いつける。マラソン選手が相手でも、ペース配分を無視すれば一時的に並べるように。

 

 音爆弾をリオレウスの側で破裂させてから、最速で全弾を放つ。放射状に広がった弾丸は一度反射し収束、リオレウスに四方八方から襲いかかる。

 リオレウスに着弾するのと同時、第二波を装填、射撃する。攻撃方向をバラけさせることで位置の特定を妨げているけど、場所を変えなければ射撃音でバレてしまう。音爆弾で聴覚にダメージを与えてはいるけど、早々に戻るだろうし。

 弾丸の群集がリオレウスの全身をくまなく削る。三十秒程の間に再装填を四回ほど繰り返し、ようやくリオレウスを空中で怯ませた。

 

 

「はぁ、はぁ……。まだ落ちないのか」

 

 

 墜落させればだいぶ逃げやすいが……。大きく息を吸って酸素を取り込み、弾を装填する。

 弱点の頭部を狙って弾丸を跳弾させる。空の王者が相手でも弱点を集中攻撃されれば確実に落とせる。

 

 弾丸が当たる直前、リオレウスがブレスを吐こうとしているのが目に入った。炎は口元で膨れ上がり火球となる。そしてその火球をリオレウスは噛み砕いた。

 爆炎が弾丸を吹き飛ばす。爆発特有の衝撃波や閃光はなく、ただ熱が膨れ上がった。

 灼けるように暑いのに悪寒がした。

 

 リオレウスは大きな翼で空気を押しのけ飛び上がった。風圧が転がっていたカラの実を吹き飛ばす。

 

 

「……っ」

 

 

 空の王者は下界を一瞥した。

 蒼色の瞳と視線がかち合う。肌が粟立つのを感じた。

 本能が今すぐ逃げろと慟哭するのを無理やり吞み下す。走って逃げるんじゃ絶対に追いつかれる。

 近くにあるのは荷車くらい……。

 

 

「……やるしかないか」

 

 

 咆哮するリオレウスに煙玉を投げつける。リオレウスは口から爆炎を吐き、それを燃やした。

 一瞬にして煙が広がり、リオレウスを覆った。本来の白煙ではなく、黒煙だが。それを確認してすぐに荷車を引いて下り坂へ向かう。

 

 重力に引っ張られ、猛然と加速する荷車に飛び乗る。

 リオレウスもこちらに気付き、追いかけてきた。

 

 

 下り坂を荷車に乗って駆け下る中、何発もの火球が飛来してきた。その度にクレーターが壁や地面に作られる。

 

 

「堕ちろっ!」

 

 

 こちらも負けじと射撃して応戦する。だが互いに、それも不規則に揺れなが高速移動しているせいであまり手応えがない。

 

 そんな中、火球が一発、こちらに迫る。

 弾丸をぶつけても飲み込まれて焼失、止めることはできない。

 

 

「ああもう、くそっ」

 

 

 今日掘った鉱石が入った箱を放り捨て、火球にぶつけた。

 火球の直撃は避けられたが爆発に煽られ、空中に放り出される。火傷しそうなくらいに熱い地面を弾み、隣のエリアまで飛ばされた。

 顔を上げて来た道を見た。幸運にも、吹き飛ばされて通ってきた横道は狭く、リオレウスが通れる幅ではなかった。

 

 

「助かった……?」

 

 

 そう思ったのも束の間、ブレスがすぐ脇を通り過ぎていった。

 僕は追い立てられるようにしてその場から逃げ出し、ベースキャンプまで走った。

 

 

 

 

 

 

 大きなため息が出た。体力的には大丈夫なのだが、精神的に疲れた。

 

 

「閃光玉を持ってきてれば済む話だったのに……バカだなぁ……」

 

 

 実力もないくせに考えも足りないんじゃ本当に論外。死ねばいいのに。いや、願わなくてもこのままじゃ近いうちに死ぬね。本当にどうにかしないと……。

 一人ならけむり玉だけでも大丈夫だけど、これからは念のため閃光玉も持ってこないとだね。

 

 

「閃光玉高いけど背に腹は変えられないし……あっ」

 

 

 お金ないじゃん。換金するための鉱石もさっき吹っ飛んだじゃん。

 

 

「クーラードリンクをこれ以上飲むのもなぁ……薬草とキノコでも採ってようかな……」

 

 

 どちらにせよちょっと休むか。でもベットは揺れるからあんまり寝心地良くないし……。

 

 

「ニャー、旦那ー!」

 

「アイルー?」

 

「さっきは本当に助かったのニャ、ありがとうニャ!」

 

「いいよ、当然のことをしたまでだよ」

 

「僕らも当然のこととして、お礼をしたいのニャ」

 

 

 アイルーはそう言うとポーチから赤色の果物を取り出した。見覚えがあるな……たしか龍殺しの実だ。

 

 

「これ、とっても美味しいのニャ」

 

「龍殺しの実って不味いとか苦いって聞くんだけど?」

 

 

 辛い、苦い、渋い。味にはばらつきがあるらしいけど、とりあえず不味いことで有名だ。

 

 

「いいから、食べてほしいのニャ」

 

 

 アイルーは目を輝かせながら渡してきた。差し出されたものを恐る恐る齧ってみる。

 果肉が緻密に詰まっていて、優しい甘さがある。瑞々しさとかは感じないけど、冷やしてないのになかなか美味しい。

 

 

「美味しい。こんなに甘いなんて知らなかったよ!」

 

「まぁ果実によって個体差あるけどニャ。集落跡や街中にたまーに美味しいのが生えているのニャ」

 

「へぇ……。龍殺しの実っていえば火山に自生していることが多いらしいけど、そっちはどれも美味しくないの?」

 

「ボクは今のところ聞いたことないニャ」

 

 

 どういうことなんだろ。龍が関係しているのか? でも古龍が火山に特別多いってわけじゃないし……。

 

 

「龍殺しの実、ありがとうね。あと面白い話も聞かせてくれて」

 

「お礼に礼をしてどうするのニャ。あと、ちょっと待つニャ」

 

 

 アイルーはもう一つ荷物を取り出した。その中にはさびた塊や鉱石が入っていた。

 

 

「これ拾ったからあげるニャ。もしかして旦那が落としたものだったかニャ?」

 

 

 このガラクタみたいなやつには見覚えがある。鉱石も数は減ってるけどちゃんとある。……うん、煤がついているからきっとあの時の物だ。

 

 

「アイルーさん、本当にありがとう……!」

 

「だからお礼に礼はいらないニャ。ボクがいなければそもそもこんなことにはなってなかったのニャ」

 

 

 正座をして三つ指ついて礼をすると、アイルーは参ったのニャ、と言いつつ頭を掻いて照れた。

 

 

「そろそろ帰らないと心配されるから、もう行くニャ」

 

「うん、気をつけてね」

 

 

 

 

 アイルーが去ってから、僕はクエストを終了し、帰路に着いた。

 余裕はあまりないけれど、鉱石を売れば道具と武器だけはしっかり揃えられそうだったからだ。

 

 

「当然って言えば当然だけどリオレウスに全く歯が立たなかったなぁ……」

 

 

 武器的には狩れないことはないはずなのにね……。力不足なんだよな……。でも近接武器なら筋トレとかあるけど、ボウガンをこれ以上強くなんてできない……。一体どうすれば……。

 

 

 雲のように広がる火山灰をぼおっとながめながら、僕はため息を吐いた。

 

 


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