モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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八十九 褪色

 不安になってたわりに、受付での報告は淡白に進んだ。それどころか「悪食のくせに美食家気取りの貴族からの依頼なんで気にするだけ損です」と言われた。慰められたのか事実なのか……。

 

 

「家に帰る……うーん、何も言わずに行って、リタイアして帰ってきたなんて言ったらなんと言われるやら」

 

 

 からかわれるのか心配されるのか、どれも嫌だなぁ……。

 お酒でも飲んで酔ってから帰る? 自分の酒の許容量も知らずに外で飲むような度胸もない……。

 

 

「アオイ! 久しぶりだな!」

 

「久しぶりって。そんなに空いてないよ、アルフ」

 

 

 様相が普段と違って一瞬誰か髪分からなかった。声と髪と服装でアルフだと分かった。なんていうんだろ、いつもよりキラキラしているというか。

 

 

「クエストの帰りかい?」

 

「そんなとこ。アルフは?」

 

「ちょっと付近を散策してたとこさ。私は今から帰るつもりなんだが……アオイ、良かったらうちにこないかい?」

 

 

 買い物とか冷やかしとかじゃなくて散策……? アルフは気分屋なとこあるから不自然でもないか。

 ……アルフのとこか。三人の様子も気になるし。

 

 

「うん、行くよ!」

 

 

 他意はない、つもりだ。

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

「さぁ、いらっしゃい」

 

 

 室内ではシュヴァとヴァイスともう一人の男の子がチャンバラをしていて、ファルの方は小さい女の子と遊んでいた。思っていた以上に賑やかになっている。

 

 

「ねぇアルフ、子供増えてない?」

 

「まぁ……つい、な」

 

「ついって……ネコじゃないんだから」

 

 

 ハンターは防具や武器の出費がとんでもなくかかるだけで、稼ぎは良いから金銭面は大丈夫かもしれないけれども。

 

 

「これだけいたら流石に大変じゃない?」

 

「ああ。だから大変じゃなくする仕組みをルナに習っている」

 

「何をするのかよく分からないけど説得力を感じる」

 

 

 ルナならどうにかできるんだろう、うん。一人で納得していると袖をちょいちょい、と引かれた。見てみると、いつの間にかこちらにきていたファルが袖を摘んでいる。

 

 

「ファル?」

 

「アオイ、はちみつの飲み物、作るから、飲んでもらっても、いい……?」

 

「いいよ。楽しみにしてる」

 

「うんっ」

 

 

 ファルはトテトテと歩いていった。あれ、ファルって小さい子と遊んであげてなかったっけ。探してみると、その子はヴァイスに任されていた。ヴァイス頑張ってる……でも女の子は不満そう……がんばれ!

 アルフが椅子に座る。アルフの視線に促されるまま座ると、楽しそうに話し始めた。

 

 

「実は私もクレアもあんまり家事をしていないんだ。やろうにもあの三人がどんどん終わらせてしまうんだ」

 

「三人? てことはヴァイスもしてるんだ」

 

「ああ。ファルが従わせてるからな」

 

 

 ヴァイスが苦戦しているのを見かねて、シュヴァがお守りを代わった。ものの数秒で女の子は機嫌を取り戻した。

 

 

「大人しい子に見えるのに。力関係が分かんないよ」

 

「あの三人の中で一番最初の子なんだろう」

 

「聞いたの?」

 

「勘だよ。私を誰だと思っている」

 

「アルブ……アルブ……? アルフはアルフだよ」

 

「おいアオイ、私の名前を忘れてないか?」

 

 

 アルブス・ペーパス……だっけ? あだ名以外を使う機会がなさすぎて自信ない。担任だった教官のファーストネーム並みに難問だと思う。名前を言えなければ絶妙な仕返しを受けてしまう。

 覚悟を決めようとしていると、目の前に飲み物が置かれた。

 

 

「まだ、上手に作れないから直すとこ、教えて……?」

 

「見た感じはちゃんとできてると思う」

 

 

 ハチミツをお湯に溶かすだけだから失敗とかそういうのはないと思うのだけれど……。

 飲んでみると暖かくて甘い、優しい味が口の中に広がって……なんというかとても幸せだ。

 

 

「ハチミツをお湯に溶かしたんだよね?」

 

「……うん」

 

「他に何か入れたわけじゃない?」

 

「うん……」

 

 

 ナイトさんが作るものを同じくらい美味しい。

 

 

「すごく美味しい。なんていうか、すごく良い」

 

「お世辞は、いらない……」

 

「いや、お世辞じゃないよ。自分でちょっと飲んでみなよ」

 

 

 ファルにグラスを渡した。あんまり残ってないけど……。

 ファルは不思議そうにしつつも、両手でそれを受け取り、一口飲む。そうすると、目を丸くして呟いた。

 

 

「……美味しい」

 

「なぁファル、私にもくれないか」

 

 

 ファルが僕の方を向いた。ファルが作ったんだもん。消費者を選ぶ権利は作り手の方にあるよ。みたいな気分で頷くと、ファルは少し自慢げにアルフに手渡した。

 アルフは遠慮気味に最後の一口を飲みほすと、嬉しそうな表情をした。

 

 

「ずいぶんと美味しいな。練習した甲斐があったじゃないか」

 

「アルフ……っ!」

 

 

 お湯にハチミツを溶かすだけの工程……でもここまで味が変わるものなのか。なんか不思議。

 

 

「ありがとうファル、美味しかったよ」

 

「ただのお礼……。でもアオイがつくったの、もっと美味しかったから……まだ足りない」

 

「僕が作ってもここまで美味しくはならないよ。あの時はお腹が空いてたから美味しく感じたんだよ」

 

 

 ファルは首をかしげつつ、グラスを持っていった。

 

 

「そうだ、クレアはいないの?」

 

「今日は狩りに行っているな。といっても採取ツアーだが」

 

「そう」

 

 

 金策しないとだしね。あと食べ物も集めてくるのかもしれない。高価な珍味も、ハンターならわりと簡単に集められるし。

 特産キノコとかホワイトレバーにポポノタン……。お腹空いてきたな。

 窓から空をみると、なかなかいい時間だった。

 

 

「僕、もう帰るよ」

 

「帰るのか? 泊まっていってもいいんだぞ。アオイも、そろそろ私の添い寝が恋しいころだろ」

 

「はいはい。アルフこそ僕が恋しいんじゃないの?」

 

「ファルがいるからそんなことはない。まぁ、アオイがどうしても、というなら背中側を空けてやろう」

 

「間に合ってます。じゃあね」

 

「ああ、またな」

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 家に戻ってきた。ただ玄関の扉を開けにくい。

 中で誰かがめちゃくちゃ歌っている。……この声、ララさんか?

 

 

「ララさんなんで不法侵入してアカペラでハードロック歌ってんだ……」

 

 

 踊ってるのか足音もすごい。そういえば香ばしい香りもする……ような?

 

 

「ララさん! 何してるんですか!」

 

 

 思わず扉を開けて叫んだ。

 

 

「AAA〜♪ 青色か。なんだ、無事だったのか」

 

「いや、それより、というかなんで家の中でこんがり肉焼いてんの?」

 

「腹減ったからよぉ」

 

 

 ララさんはそういってバキバキに割れた腹筋をさする。よくみると全身に古傷が這い回っていた。

 

 

「……あれっ? なんで服着てないの?」

 

「開放感あるだろ」

 

「ひとんちで浸らないでよ」

 

 

 この人、生物学的に女性に分類されるはずなのになんだろう、色気が一つもない。芸術作品にそういうのを感じない的な? 使い込まれた筋肉にはもはや服なぞいらぬみたいな。どっちかというと動物が服着てなくても違和感がないみたいな感じだな。うん。

 

 

「なんか失礼なこと考えてないか?」

 

「全裸でこんがり肉を持ってる人にそんなこと言われたくない」

 

 

 これをポジティブ捉えられる人がいるなら紹介してほしい。

 

 

「青色、ショウグンギザミ行ってきたんだろ? 負けたか?」

 

「……負けた」

 

「ブレスは?」

 

「直撃した」

 

「あははははははっ! そうか、直撃したのか!」

 

 

 ララさんは愉快そうに笑い、こんがり肉にかぶりついた。

 

 

「ブレスに直撃したらなんかあるんですか?」

 

「あー笑った笑った。あぁ、ブレス? 知らぬが仏ってやつよ」

 

「……。そうだ、ララさん、なんでここに?」

 

「メリルを酒に誘いにきたんだよ。今はいないみたいだけどな」

 

 

 ララさんは机に置いてあった紙を指差した。紙にはこう書いてあった。

 

『ちょっと火山に一狩り行ってきます。メリル』

『私は沼地に行くよ。ミドリ』

 

 

「……一人じゃダメなのは僕だけか」

 

「一人じゃダメ? 何言ってんだ、お前はあの二人の足を引っ張ってんじゃねぇのか?」

 

「……」

 

 

 僕は二人の役に立っていたのかな……。ショウグンギザミに悉く攻撃を潰されるし、他のモンスターの時も二人にくらべて圧倒的に与えたダメージが少ないし……。

 それにちょっと攻められただけで被弾した。ここまで僕が生きていたのは、ミドリ達が代わりに攻められていたからだ。

 

 

「……」

 

「……。なんか言い返してみろよ。……あークソ、やりにくい」

 

 

 ララさんは頭をガシガシと掻いて、脱ぎ捨ててあった衣類を着て出て行った。

 

 

 このままじゃあの二人にかける負担が大きい……。いてもいなくても変わらないどころか、いない方がマシの状態はダメだ。

 

 力をつけないと……。

 

 

 


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