モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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八十四話 狂い咲く

 ぶつかり合った瞬間、衝撃波が起きた。火花を散らしながら大剣の先はゆっくりと拳にめり込んでゆく。そして剣撃エネルギーを爆発させた。

 拳の中は粘菌を貯めるための空洞だったのか、穴が空き、大量の血液と粘菌があふれだした。かなりのダメージだ。

 

 捕獲する……? いや、これが討伐するべきところか。

 僕たちがそう目配せしていると、音が聞こえた。心臓が脈打つ音が。

 

 

 

 ブラキディオスはおもむろに自分の手の穴に舌を突っ込んだ。

 

 

「フラム! ルーフスを守って!」

 

「アオイ、こっちに来るんだ!」

 

 

 ブラキディオスの拳の中の粘菌を、舌の成分が全て活性化させた。今まで爆発させていた量の比にならない、膨大な量の粘菌が赤く染まり……。

 次の瞬間、無数の黒曜石の破片が音速で周囲一帯に突き刺さった。

 

 

「こいつッ……!」

 

 

 僕達も、フラムたちもなんとか無事だった。それに対し、ブラキディオスは片腕を完全に失っていた。

 それなのにブラキディオスはより一層闘争心を迸らせ、こちらを睨みつけた。

 

 

 僕達が武器を構えるとブラキディオスは一呼吸置いてから咆哮した。ブラキディオスが奮い立つと身体を覆っていた粘菌が緑から一気に赤色に変わった。

 

 

 爆発の華が狂い咲く。アルフが大剣で斬ると、斬った場所が爆裂、大剣ごと弾き飛ばされてしまう。赤い粘液が垂れているところに衝撃を与えると隙を晒すことになる……。でも爆発したところは一時的に粘液が無くなり、爆発しなくなるようだ。

 ブラキディオスの行動はかなりゆっくりになった。だが一撃一撃の爆発量は圧倒的に増えている。

 

 

「アオイ、こいつから垂れる赤い粘液、片っ端から撃ち抜いてくれ!」

 

「分かった!」

 

 

 フラムとルーフスが少し退がり、爆発の範囲から出た。アルフもこう言ったからには離れているのだろう。

 レベル3通常弾を装填、狙い撃つ。

 開けた場所だから本来なら跳弾させる場所はない。だが、今は抉れたり、瓦礫がゴロゴロと転がっている。地面を使える。

 

 

「この程度――」

 

 

 撃つ度に弾丸が暴れまわり、ブラキディオスの全身を爆発させてまわる。赤い粘菌を一通り剥がし終えると三人が一斉に斬りかかる。フラムが度重なる攻撃でボロボロになった甲殻を貫いて砲撃し、ルーフスは忍耐の丸薬を飲んで腕からの爆発を無理やり耐えながら片腕になったブラキディオスと打ち合う。

 アルフは粉塵を使ってパーティの傷を癒しながら、僕達のミスを悉く帳消しにしていく。

 

 三色混ざって淀んだ濁ったのなら、白色で塗りつぶしてやり直せばいい。主張し、発色し、彩なし、淀み、塗りつぶす。

 色の三原色なら全ての色を表現できるが故にきっと、何者にもなれる。

 

 

「はあああああッ」

 

 

 基礎であり、始まりであり、もう一つの原色と言える白色。彼女の一撃がブラキディオスの命を刈り獲った。

 

 

 

 自分たちの身に起きた明らかな一体感。際限なく高められた集中力。僕らはただその余韻で際限なく高揚している。一言も発することなく。

 

 僕たちは剥ぎ取りを済ませ、二時間ほどかけてベースキャンプに戻った。

 何だかんだ所々に負っていた傷の手当てをし、飛行船に乗り込んだところで、久しぶりに言葉が発された。

 

 

「私たち四人での狩り、これで最後にしちゃうのもったいないなー」

 

 

 フラムはずいぶん傾いた太陽を見ながら続ける。

 

 

「私たちは分かり合えない? 何かあってもアルフがどうにかしてくれるよ。これで最後なんて口約束、ふいにしちゃえ」

 

 

 ハンターとして答えるならこのままフラム達とパーティを組むべきだ。気心しれていて、連携が完璧、互いの力を引き出せる。武器バランスは少し悪いけどそんなの誤差にもならない。

 それでも……。なんて言おうか……。

 

 

「アオイを困らせないでやってくれ。こいつはもう既に絶対に反故にできない約束をしているのだから」

 

 

 僕の思うことを代弁したのはアルフだった。

 

 

「こいつはミドリと一生を添い遂げるって約束してるんだ」

 

「え、姉さんとの婚約を破棄してすぐに別の女の子捕まえたの? なかなか薄情だねアオイ……」

 

「言い方! そもそもミドリとそんな婚約みたいなことしてないし、フラムとも何もしてないっ!」

 

「私とは毎晩寝てるけどな」

 

「話拗らせないでっ!?」

 

「あははっ私には石言葉が『初恋』のお守りくれたねっ」

 

「初めて知ったよその黄色の結晶そんな意味あったこと」

 

「アオイ、どんな言葉でその子をモノにしたの? アオイのことだからどうせ回りくどい言い方したんでしょ?」

 

「モノにしてない! というか「どうせ」って何さどうせって」

 

「良く言えば中性的、悪く言えば草食顔のアオイだもん。女々しい言い方するに決まってる」

 

「私女の子だけど思いを伝えるならまっすぐ言うなー」

 

「フラムらしいな。私なら……何て言うんだろうな。ルーフスはどうだ?」

 

「僕? 好きだ、付き合ってくれみたいな感じだよ」

 

「ルーフスが六歳の時に十二歳くらいの女の子にそれ言ってたね!」

 

「ね、姉さん!」

 

「懐かしいね。お姉ちゃん着いてきてって言われて行ってみればそれだもん」

 

「やめろおおおっ!」

 

 

 

 

 

 

 僕とルーフスが二人のおもちゃにされ続けているうちに、僕たちはドンドルマに着いた。

 

 

「じゃあアオイ、アルフ、またね」

 

「またね」

 

「またな」

 

 

 またね、か。フラムとルーフスはホクホク顔で去っていった。僕とアルフは報酬金を、二人は沢山の素材を貰っていった。僕も全く素材を貰ってないわけではないんだけど……。

 

 

「これ、役に立つのかな」

 

「粘菌か。このサイズの爆発物なら色々使えると思う……にしてもな」

 

 

 アルフがやれやれ顔で言った。

 

 

「前の玉といい粘菌といい、お前は緑が好きなんだな」

 

「変な言い方しないでよ」

 

「まぁいいさ。そうだ、私とこのままもう一狩り行かないか?」

 

「フラムじゃないんだから……。今日は休もうよ」

 

「大丈夫だ。運が悪くなければうんと休める、護衛依頼だ」

 

 

 

 

 護衛依頼かー。ガタゴトと揺られながら、キャラバンの一角で寝転ぶ。隣ではアルフがキャラバンの子供の相手をしている。

 

 

「はははははっフルハウスだぞ参ったと言えっ!」

 

「お姉さん、ふぁいぶかーどだよ」

 

 

 キャラバンの子がなかなか強く、わりと遊ばれていた。たぶんこの子達は色んな人とトランプしてその間に大人の汚い手を覚えていったんだろうな。めっちゃイカサマしてる。

 

 

「さぁ今度はどうだ、スリーカードだ。少し劣るが、なかなか強い二人だぞ」

 

「ろいやるすとれーとふらっしゅ! 私のかちー!」

 

「君たちは本当に強いな……」

 

 

 アルフは負けがこんで冷静さを失っているのかな。ロイヤルストレートフラッシュなんてイカサマしてますって宣言してるようなものなのに。

 可哀想だから僕も参加しよ。

 

 

「僕も混ぜてほしいな」

 

「いいよっ。でも人数が多いから、ババ抜きにしよ……お兄さんだよね?」

 

 

 ……。

 

 

 

 

 すごく強かった。子供たちは結託してこちらを潰しにかかってきていて、僕たちが必要としている札が回らないようにしていた。

 その結果、僕とアルフが毎回最後まで残り……。

 

 

「ババは……こっちだな」

 

 

 アルフの勘の良さが光り、僕がどんじりになったり、普通に僕がアルフに勝ち、アルフがどんじりになったり。なんにせよ、子供達は異様に強く、負かすことはできなかった。

 

 

 

 トランプにも飽き、二人で交互に適当なハンターらしい話をしていると、急に立ち上がる。

 

 

「アオイ、ちょっと索敵してくれ」

 

「了解」

 

 

 便利な感だなって思いながら、あたりを見渡す。……空になんか飛んでるな。あれは……。

 

 

「イャンクックを見つけた。こっちに向かってきている気がする」

 

「イャンクックか……」

 

 

 曰く『先生』。強力な飛竜と動作が似ているから予習になるらしい。先生というよりかは教材じゃないかな。

 近くにあった角笛を携え、子供達を避難させる。

 

 

「僕は上に登って迎撃する。アルフも援護お願い」

 

「分かった」

 

 

 イャンクックが来たことは子供達が伝えてくれる。僕とアルフは最悪キャラバンから降りてでもイャンクックを止めなきゃいけない。

 屋根に上がり、再び確認すると更に接近しているみたいだった。様子を伺いながらだからゆっくりだけどさっきより近い。

 

 

「この距離で撃ち落とすのは……無理だね。ダメージにならないし」

 

「だがどう見ても私たちを狙ってるな」

 

「諦めてほしいねぇ」

 

「諦めるといいな」

 

 

 長丁場になりそうだな、と思った頃にキャラバンの進行速度が少し上がった。振り切れるものなの?

 

 

「イャンクックも早くなったな」

 

「やっぱり撃ち落とさないといけない……?」

 

 

 届きはすると思うけど、絶対にダメージにならない……。

 悩んでいると、後ろから声をかけられた。

 

 

「なんだ、空になんかいんのかァ?」

 

「イャンクックがここ狙っているんです、ダイチさん」

 

 

 ダイチさんは同じキャラバンに乗っているハンターだ。ヘビィボウガンと弓、片手剣を持ってきている重装備の人だ。

 

 

「あれか。見ておけ青カイワレ」

 

「あ、青カイワレ?」

 

 

 ヘビィボウガンを腰だめに構えまず一発、すぐさまリロードし二発目を撃った。

 かなり上めに撃った一発目は山なりの軌道を描いて飛翔、二発目はまっすぐイャンクックに向かって飛んでいった。……そう、届きはするんだ。でも堅い甲殻で……。

 山なりに飛んでいた一発目に二発目が追いつき、そのまま貫いた。その瞬間爆発が起こった。

 顔の前での爆音に驚き、イャンクックがきりもみ回転しながら落下していった。

 

 

「こんなもんよ。次はお前が済ませてくれ。俺は寝る」

 

 

 一発目に撃ったのは徹甲榴弾か。重いから山なりに飛ぶ。二発目は貫通弾かな。弾速が早いし、直進力もあるから遠距離狙撃に使える。

 

 

「待ってください」

 

「なんだ?」

 

 

 自然と声が出ていた。この人はこの状況の対応の仕方を知っていた。以前に経験したことがあったのだろう。そこそこのレアケースを数度目、ダイチさんはベテランのハンターだ。

 

 

「良かったら、僕にボウガンのこと教えてくれませんか?」

 

「嫌だ。お前みたいに薄っぺらなやつに教えることはねェ」

 

 

 


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