モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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八十三話 砕竜

 地帯火山。久しぶりに来たな。だいたい二、三ヶ月前以来だね。

 ベースキャンプから飛び降りると体感温度が一気に上がった。前にことに訪れた時の涼しさは片鱗すら残ってない。

 

 

「赤いね!」

 

「そうだね、前に来た時は全体的に冷たい色だったし」

 

 

 五メートルくらいの崖から飛び降りつつ、あたりを見る。地形には見覚えがあるけど、洞窟の奥から漏れる、マグマの光で色が変わり、かなり印象が違う。

 

 

「今日はルーフスカラーだ」

 

「この前はアオイカラーだ」

 

「あおいからだ……?」

 

 

 ブラキディオスはどこにいるんだろ。正面にある洞窟の入り口はいかにも熱そうだ。他のところから探した方が良いかな……。

 

 

 

「フラム、良いことを教えてやろう」

 

「なになにー?」

 

 

 アルフは付近にいたズワロポスを指差して言った。

 

 

「ズワロポスの垂皮油は薬用として有名だが……実は美肌成分もあるんだ」

 

「そうなんだ」

 

「……思ってたより食いつきが悪いな?」

 

「姉さん前から化粧品とか、そういうのに疎いの知ってるでしょ? 残念ながらそこは変わってないよ」

 

 

 この油持ち帰ろうかな。メリルとかティラさんは喜びそうだ。ミドリは……フラムと似たような感じだろうな。

 

 アルフはそろりそろりとズワロポスに近づき、大剣でぶった切った。ぶよぶよとした厚い皮ごと肉を切り裂き、一撃で屠った。

 

 アルフはズワロポスの皮を重点的に剥ぎ始めた。僕もそこに近づきそれを手伝う。

 

 

「ありがとうな、アオイ」

 

「気にしないでよ。僕は垂皮油が欲しいし」

 

「そうか、アオイも肌に気を使うのか。そうだよな」

 

 

 アルフがいやにニコニコしてる。文脈が『そうだよな、女の子だもんな』って繋がりたそうにしてる……。

 

 

「何、アルフは垂皮油を使うの?」

 

「私は皮が目当てさ。そろそろこのローブも古くなってきたからな。そろそろ新しいのを作ってもらおうと思ってな」

 

 

 そういうアルフのローブはまだ新しく見えた。ほつれみたいなのもないし、破けてるわけでもないけど……。

 

 

「水がずいぶん染み込むようになってきてね。張り付いて動きにくくなることがあるんだ」

 

「なるほど」

 

 

 手際よく解体し、皮と油は近くを通りかかったアイルーに預けておく。大型モンスターの討伐はアイルーにとってもメリットのあることだから、快く引き受けてくれた。

 

 

「そろそろブラキディオス探しに行くよー?」

 

「すまないな、時間を取らせてしまって」

 

「いいからいいから。さ、アルフ。ブラキディオスはどこ?」

 

 

 アルフは口元に手を当て少し顔を傾けた。そして、呟いた。

 

 

「この地図でいう……エリア8の方角だな」

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 地帯火山エリア8。地図に書かれる限りでは最も広く、高低差の多いエリアだ。クーラードリンクを飲み、熱さに耐えられる状態にしてから一気に駆け下りてきた。

 最後の崖に伏せてあたりを見渡す。

 

 

「いたいた、あいつだよ、ブラキディオス」

 

 

 エリアの中央のあたりにブラキディオスがいる。体表は青っぽくて硬そうな質感。リーゼントみたいな角、丸太みたいな腕。そして、角と腕の末端には粘菌が朧に光っている。

 闘うことに特化したような見た目だな。

 

 

「あおいからだ……。蛍光色の緑……。ん?」

 

 

 アルフがこっちを見てきた。破顔しつつ、すぐにブラキディオスの方を見る。なんだったんだ……。

 

 

「じゃあ行くよっ」

 

 

 フラムはガンランスを真後ろに構え、高台からジャンプした。空中で砲撃、猛加速して砲弾のようにブラキディオスに突撃していった。それと同時、ルーフスも飛び降り、全速力で突き進む。

 さらに、アルフが立ち上がり叫ぶ。

 

 

「いくぞ青髪緑眼のブラキディオスもどき!」

 

「ひどいっ!」

 

 

 僕もアルフと共に5、6メートルの高さの崖を飛び降り、走る。

 

 フラムがガンランスをまだこちらに気づいていないブラキディオスの頭に叩きつける。ブラキディオスは空からの急襲に不意を突かれ、怯んだ。フラムはそこにガンランスの装填弾全てをぶっ放して追撃した。

 ブラキディオスは砲撃を受けつつも、すぐに反撃をする。

 片脚を軸に全体重を乗せた豪腕をフラムの盾に叩きつける。

 

 

「重いねぇ」

 

 

 フラムはそれを両足踏ん張って止めた。そのタイミングでルーフスも戦闘に参加、フラムの肩を踏み台に、ブラキディオスの上をとる。

 

 

「割れろォッ!」

 

 

 頭部にスラッシュアックスを振り下ろす。ブラキディオスはそれを角で受け止め、逆に弾き返した。

 僕とアルフが到着したタイミングでブラキディオスは後ろに一気に下がり、自分の腕を舐め、咆哮した。

 

 舐められた腕の粘菌が活性化、くっきりと光りだす。その拳を正面に立つフラムに叩きつけた。フラムはその場から退いて回避する。

 

 

 フラムとルーフスが交互に攻撃し、気を引き続ける。ブラキディオスが二人に集中したタイミングでアルフが奇襲をかけ、確実に有効打を与えていく。僕も攻撃を重ねているのだが……甲殻が硬く、ダメージを与えている感じがしない。でも、積み重ねが大事だ。甲殻を削り、ヒビを入れ、少しずつ確実に肉を削ってやる。

 

 地面に落ちている粘菌が厄介だ。時間経過で爆発するから近づかなければ良いのだが、ブラキディオスの攻撃を避けながらとなると、少し厳しい。

 

 

「せああッ」

 

 

 ルーフスに気を取られているブラキディオスに、段差から飛んだフラムがガンランスを叩きつけにかかる。だからそれを恐ろしい程の反応速度で反転、ブラキディオスは空中で無防備になっているフラムにアッパーカットを振る。

 段差を砕きながら迫る拳をフラムはギリギリ盾で受け止めるが、そこは踏ん張れない空中。高く吹き飛ばされた。

 

 

「アオイッ段差の破片を撃てッ!」

 

 

 アルフが叫ぶ。見るとフラムと一緒に舞いあげられた礫には粘菌がこびりついていて、緑から黄色へと色を変えていた。あの色が赤色になると爆発してしまう。

 

 銃口を上に向けた瞬間、視界から色彩が消えた。音が単一になった。温度感覚も焦げ臭さも失せた。

 フラムの近くにある塊を空中で一つ一つ吹き飛ばしていく。完全には無理でも、フラムに入るダメージを減らさないと。

 空高くで爆発をくらい、その上あの高さから落ちたら……。

 守ってみせろ。てめぇが持っているのは手の届かないところにある厄災を討つための武器だろう?

 

 

「ッ!」

 

 

 撃ち落とせる分は全て落とした。それでも破片はフラムの周りで爆発した。息を吐いた瞬間、横合いから蹴り飛ばされた。

 その直後、僕のいた場所を豪腕がえぐった。

 

 

「自分の身も大切にしてくれッ」

 

 

 返す刀で振られた拳にルーフスは斧刃を叩きつける。

 

 

「肝に銘じておくよ」

 

 

 鍔迫り合いをするブラキディオスの顔に弾丸を撃ち込もうとしたその時。上から声がした。

 

 

「ひゃっはあああアアアッ!」

 

 

 下向きに構えたガンランスから青い炎を迸らせながら、フラムが降ってきた。

 その刃はブラキディオスの背中に突き刺さり、そして、お返しとばかりの竜撃砲を放った。

 

 

「ありがとね!」

 

 

 フラムがにししと笑う。それに対し、ブラキディオスは息を荒げ、地面を踏みしめて叫ぶ。それに感化され、全身の緑色の粘菌が黄色く活性化した。

 

 怒り状態になると、攻撃のたびに爆発が起こるのだと言う。ブラキディオスが拳を振り上げ――

 

 

「出鼻は挫かせてもらうよ」

 

 

 攻撃に移る際の致命的な隙に、アルフが大剣で割りこんだ。踏み込んだ脚を鎌のように払う刃で刈る。たった一撃でブラキディオスは転倒する……が、フラムに振り抜く予定だった拳で地面を打ち、爆発を起こした。その反動でブラキディオスは無理やり起き上がった。

 

 

「なんだこいつ、マナー違反だろう」

 

「アルフも大概だよね……」

 

 

 フラムが前にでた。ブラキディオスの拳を盾で受け止める度に爆発が起こる。今は笑っているが確実に負荷の量はだいぶ増えてる。フラムの疲れが本格化する前に手は打てないか……。

 

 アルフが奇襲をかける。だがさっきの攻撃から時間が経ったいなかったせいで十分に警戒されていたらしく、すぐさま角が振り下ろされた。

 アルフはその角を難なく避けた。抜けなくなったのか、角が地面に刺さったまま。こちら側の攻撃のチャンスかと思いきやアルフは一気に距離を取る。

 次の瞬間、ブラキディオスの周囲の地面が爆発した。近づいていたらアウトだった。……分からなかった僕は近接武器向いてないっぽい。

 

 

 攻撃の度に爆発が発生するため、相手の一度の攻撃に対してこちらの回避行動はどうしても大きくなる。ジリ貧だぞ……、なんかないのか……?

 

 ルーフスに避けられて壁を殴った拳が爆発しなかった。ブラキディオスがその拳を舐めると再び爆発するようになる。唾液に粘菌を活性化させる成分でも含まれているのか。いっそ舌を引っこ抜いてやれば……。……粘菌? 菌?

 

 

 ポーチを探ると消臭玉があった。……やってみるか。

 

 

「こっち向け、このハンバーグ頭!」

 

 

 挑発してみる。言葉は通じないけどね。

 そのはずなのにブラキディオスは怒髪天を衝くような雰囲気を漂わせてこちらを向いた。……そんな琴線に触れる言葉だったの?

 

 ブラキディオスはまるで四足歩行で走るように、拳を地面に叩きつけながらこちらに走りこんできた。

 爆発に巻き込まれないように大きく横に走ってこれを避け、すぐさま反転、消臭玉を構える。

 そして、振り返ったブラキディオスの両拳に消臭玉を投げてぶつけた。

 ブラキディオスは今度は十メートルくらいの距離を一息で跳躍してきた。それを股下を潜り抜けてかろうじて躱す。そして……。

 

 

「爆発しない! やっぱり消臭玉で殺菌できる」

 

 

 ブラキディオスがしきりに腕を舐めるが粘菌はもう活性化しない。活きる以前に死んでるからね。

 同じようにして角にも消臭玉をぶつけると、爆発攻撃が使われなくなった。ただ、菌は染み出してくるらしく、一定間隔で消臭玉をぶつけ直さないといけないみたいだ。

 

 それでも狩りはぐっと楽になった。

 

 僕は爆発の次は殴打という手段を殺すためにひたすら腕を撃ち続けた。ルーフスもしきりに攻撃してくれたため、ヒビが入り出し、弾丸もそれなりに突き刺さっている。そして、フラムの砲撃、アルフの奇襲が順調に体力を削っていく。

 

 

 

 そこかれたっぷり二時間くらい経ち

 

 

「……! ブラキディオスが足を引きずっているぞ!」

 

 

 アルフのその声に捕獲のことがよぎる。だが油断してはいけない。ある意味勝負はここからだから。ホロロホルルに痛い目にあわされたことがあるし、テオ・テスカトルも最後の最後に大爆発したからね。

 

 ブラキディオスが足を引きずりながら逃げ出した。

 

 

「逃すかあああッ」

 

 

 ルーフスがスラッシュアックスを斧から大剣に変え、突っ込んだ。

 

 

「待って、ルーフス!」

 

 

 ブラキディオスが突然振り返り、ルーフスに拳を振り抜いた。ルーフスはそれを属性解放突きで迎え撃った――

 

 

 


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