モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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八話 師匠

「村長、討伐してきました」

 

 

 ミドリ達を見て見ぬふりをして村長にドスファンゴの毛皮とミドリから受け取ったアオアシラの毛皮を渡す。

 村長はそれを受け取ると

 

 

「今から二人とも忙しくなりそうだから討伐報告、私がティラちゃんにしておくね」

 

 

 と言い、玄関から出ていった。村長ならこの状況をどうにかしてくれるという淡い期待は打ち砕かれた。諦めて現実を受け入れ、ミドリ達を見る。

 スカーレットさんがミドリのこと溺愛しているというのは本当らしい。未だに頬擦りをやめずミドリにべったりたしている。そして呪文のように「ミドリかわいいよミドリ」と繰り返し言っている。ミドリの表情は……すっかり諦めているようだ。

 

 

「アオ……」

 

 

 ミドリが助けを求めるような目でこちらを見てきた。悪いとは思いつつも視線をそらす。

 スカーレットさんとは初対面。その上この状況。話しかけづらい。気まずい時間が流れる……

 十数秒後、ミドリにずっと頬擦りしてたスカーレットさんがようやく「ミドリかわいいよミドリ」以外の言葉を発した。

 

 

「勝手に修行から逃げだして、心配になって見に来てみれば男の子と狩りデートですか……」

 

 

 皮肉めいた台詞。その台詞にミドリの表情が後悔に染まったようなものになる。さらにスカーレットさんは続けて

 

 

「私を捨てて男の子とるなんて酷いです……」

 

「へ?」

 

 

 一瞬、ミドリの表情が気の抜けたものになってから、申し訳なさそうな表情になり

 

 

「師匠、特訓から逃げだしてごめんなさいッ!」

 

 

 そう言い、深く頭を下げた。そのままミドリは続けて言った。

 

 

「助けてくれてありがとうございますッ!」

 

「いいの、いいの。師匠として当然のことです」

 

 

 スカーレットさんは胸を張って言った。しかし誇らしげな顔はすぐにとろけた表情になりミドリの顔をあげさせ、

 

 

「ただ私へのご褒美として、一緒にベットで一夜を過ごしてくれませんか?」

 

 

 あまりに意外な言葉に思考が凍りついた。そもそもスカーレットさん女じゃ……

 ミドリも数秒程かたまった後、ため息をついてから

 

 

「ただ同じベットで眠るだけという意味なら……」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、スカーレットさんの顔が明るくなり、喜色満面としか言えないような表情になった。喜びを噛み締めているのか小さくガッツポーズまでしている。

 

 

「えーと? 君がアオイくん?」

 

「は、はい」

 

 

 スカーレットさんが急にこちらを向いて言った。その顔は真剣そのも……

 

 

「ミドリは私のものです!」

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 時間は既に昼。スカーレットさんに言われて昼ごはんを食べてないことを思い出し、食事所に来た。三人で各々好みの料理を頼む。

 

 

「あ、私がこの村に来た理由を話しますね」

 

 

「は、はい」

 

 

 急に人が変わったような態度に驚く。一瞬誰かわからなくなった。ミドリにとっては日常のことだったのか別に気にもとめてなさそうだ。

 

 

「この辺りでジンオウガと呼ばれるモンスターが出現しました」

 

 

――ジンオウガ?始めて聞く名前のモンスターだ。

 

 

「まだ生態はよく分かっていませんが、雷を纏ったことだけわかっています」

 

「その凄く強そうなモンスターを師匠がやっつけるんですか?」

 

「私には無理です。あくまでこの村に襲ってきた時に村人の方達が逃げる時間を稼げるように、という理由で来たんです」

 

 

 スカーレットさんは言い切った。狩猟は無理だと。なぜ無理だと断言できるのだろうか。それを疑問に思い、聞く。

 

 

「挑んだことがあるんですか?」

 

「ないです。ただ間近で見たことなら」

 

 

――聞けば、嵐の日にガーグァの荷車に揺られていたら急に投げ出されジンオウガの足下を転がり、咄嗟に隠れ、必死に逃げ、また荷車に飛び乗ったというものだった。

 

 

「その時に私は一人じゃ絶対に勝てないなって確信しました」

 

 

 スカーレットさんはあくまでやわらかい笑みで言った。なんとなく台詞に違和感があったような。ミドリはその違和感の正体に気付いたらしく

 

 

「……一人じゃ勝てない?」

 

「周囲を危険にさらしているモンスターです。二人にも狩猟手伝ってもらいますね!」

 

 

 ジンオウガというのは嵐の日に見た稲妻を纏って吠えていた獣のことだろう。それを倒そう、と?

 手に持っていたパンが滑り落ちた。自分でも分かるくらい震えた声で言う

 

 

「修行か何かしてからですよね。何をするんです?」

 

「まだ決まってないです。今の時点での狩りの経験と武器、身体能力を教えて下さい」

 

 

 それを参考にして考えるので。と付け足し、スカーレットさんは質問を始めた。修行をするのは確定事項らしい。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 まさか食事所で夕飯を食べ終えるような時間になるまで質問が続くとは思わなかった。今日、人生の中で間違いなく一番喋った日だった。人に話してみると客観的に狩りを振りかえることが出来てよかったのかもしれない。途中で狩りとは全く関係ない話までさせられたが。

――いや、一見関係のなさそうな話でももしかしたら重要な……

 

 

「アオイくん、物心ついたときからミドリちゃんと一緒なんだ……」

 

 

 ……あっ、はい。スカーレットさんは窓の外見ていいなぁとかつぶやいてる。なんだこの人。でもそのスカーレットさんに鍛えられたミドリの技、結構すごいと思う。モンスターに乗るし、踏んで跳ぶし、訓練所で習ったものとは全く違う、型破りな技術だった。それを教えたスカーレットさんはきっと……

 そのスカーレットさんは「あっ、そうだ」と言い

 

 

「二人にばっかり話をさせてごめんなさい。わたしも話したほうがいいですか?」

 

 

 かなり興味がある。仮にも村人を逃がす間、ジンオウガとやらから守りきれるとこの村に来たハンターの狩り。そこまで考えた時には思わず体を乗り出していた。スカーレットさんは苦笑いをして

 

 

「この前、一人でリオレイアに挑んで半泣きで帰って来た話でも聞きます?」

 

 

 本当に大丈夫なのかなと思う。もしジンオウガが襲ってきたときどうなるのだろうか。不安に思いながら無言で料理を食べた。

 食べ終えた後、自宅に帰る。流石に装備の手入れがしたい。ミドリ達もついてきているようだがとりあえず視界に入れないようにする。家に入ってしばらくたってから

 

 

「アオ、お風呂先にする? 後にする?」

 

 

 お風呂は一つしかないのでミドリと共用している。

 

 

「任せるよー」

 

 

 防具についた返り血を固く絞った布でおとしながら言う。すると

 

 

「私とミドリが一緒に入りますねー」

 

 

 一緒に入るという言葉が聞こえたような。気のせいか。そう思い無心で防具を拭く。返り血が固まりはじめていて中々落ちない。

 

 悪戦苦闘の末、防具の胸パーツがピカピカになったところで

 

 

「アオ……あがったよ……」

 

 

 虚ろな目をしたミドリが感情のこもっていない声で言った。大変だったんだな……

 

 

「大変だったんだな……」

 

 

 心の中で思ったことが口から出ていた。風呂場でミドリに何があったのかを考えないようにして風呂場に向かった。途中でスカーレットさんとすれ違った。こちらに興味がないのか、或いはミドリと一緒に寝ることで頭がいっぱいなのか、一切目は合わなかった。

 

 すぐにでも寝たい。事務的に体を洗いお風呂からあがる。急いで水気を拭き取り、服を着て出るとミドリの部屋から顔を出したスカーレットさんに手招きされた。

 

 

「勝手にいいんですか?」

 

「ミドリちゃん寝ちゃったしいいよ」

 

 

 微妙に罪悪感を感じながら入った。何気に始めて入る気がする。

 中はわりと整理整頓されていた。目につくのは二冊の本が床に落ちているくらいだろうか。スカーレットさんに促され適当に座る。スカーレットさんは寝息をたてるミドリの頭を撫でながら言った。

 

 

「アオイくんはどうしてハンターになったんですか?」

 

 

 そう言えば重要そうなことなのに今日聞かれなかった。今まで聞いてきた人全員に答えたようにいつも通りの調子で言う。

 

 

「村を守れるようになりたかったからです」

 

「小さい頃……それもまだまだ遊びまわりたい年頃でしょ。ミドリと仲良かったんでしょう?」

 

「まぁ結構良かったと思います」

 

「じゃあ何でですか? 離ればなれになるのに?」

 

 

 スカーレットさんは穏やかな口調で言った。それに対し昔を思い出すように

 

 

「一時期の別れを我慢しれば、一生離ればなれにならないで済む。そう思ったんです」

 

「……へぇ」

 

 

 スカーレットさんは目を閉じ息を吐いた。そして目を開き挑発的な笑みを浮かべ、

 

 

「私の特訓にちゃんとついてこれますね?」

 

「はい」

 

 

 ミドリを起こさぬよう声の大きさを絞って返事をした。

 

 

 

 


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