モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十九話 白髪の少女

 ジンオウガを捕獲し、飛行船に乗って村に帰ってきた。

 飛行船で何を話したのかはよく覚えていない。何度か話しかけられた気はするのだけれど、大した返事はできなかった気がする。村の地面に降り、ようやく……なんというか、目が覚めた。

 

 

「おかえりー。ジンオウガ狩りに行ってたんだってね」

 

「えぇ、そうです。マリン、こんな夜遅くまでどうしたんですか?」

 

「狩りが終わった後だっていうのに誰も迎えがいないと寂しいでしよょ?」

 

 

 マリンさんがあざとくメリルを見つめる。

 

 

「はいはい。それで、どうしたんですかマリン」

 

「ちょっとね……。ミドリちゃん、ちょーっとお姉さんとあっちで良いことしようかー!」

 

 

 マリンさんはそう言って今にも眠りそう……というか殆ど熟睡してるミドリの武器やポーチを外し、飛行船に置いた。そして流れるように手を回し、俵を担ぐように持ち上げた。

 

「ミドリちゃん借りてくねー」

 

 

 ……どこで何されるんだろ。大丈夫だよな? メリルの知り合いだから少しだけ疑ってる節がある。

 

 

「アオイにも手伝って欲しいから付いてきて」

 

 

 マリンさんはそう言いながら僕に近づき、片手でボウガンのベルトを外し、弾薬ポーチも含めてスルスルと脱着される。

 一気に身軽になった。

 

 

「妙に慣れてますね」

 

「そりゃね。脱ぐのも脱がせるのも経験が違う」

 

「脱がせる経験なんてなにしたんですか……」

 

「さぁねぇ〜」

 

 

 マリンさんに手を取られ、連行されてく。

 

 

「武器は私が家まで持っていってやろうか?」

 

「大丈夫。あとで僕が両方持っていくからー」

 

「そうか。では先に帰っているぞ」

 

 

 アルフは大剣を担いでいるし、メリルは武器を二つ持ってるから、これ以上持たせるのは悪いかな。

 二人と挨拶を交わし終わるとまたマリンさんに手を引かれる。

 

 

「そういえばルナは?」

 

「眠らせた」

 

「睡眠薬でも盛ったの?」

 

「それも試したけど、飲み物に一切手をつけなかったね」

 

「じゃあどうやって」

 

「背中をさすりながら子守唄歌ったら寝た」

 

 

 ……そういえば、僕たちが小さい頃、ルナは自分で子守唄を歌って、僕たちより早く眠ってたな。無味無臭のネムリ草に気付くのに、子守唄で眠らされるバランス感覚が分からない。

 

 

「なんで寝かせたの?」

 

「明日の豊作祭に備えてもらうため。司会者が寝不足じゃつまんないでしょ?」

 

「こういう状況なんだし、延期すれば良かったのに」

 

「ティリィもそれをルナちゃんに行ったんだけど、延期するくらいなら中止にするって一点張りでね」

 

「ティリィ?」

 

「ティラのことね。理由聞いても教えてくれなかったし」

 

 

 ティラ・スターリィを縮めてティリィね。成る程。

 開催を明日に拘る理由って何があるんだろ……。次会ったら聞いてみるか……。

 

 

「ちなみにティリィも眠らせた。でもナイトは起きてる」

 

「ティラさんは睡眠薬気付かなさそう」

 

 

 気付く余裕無さそう。でもナイトさんは何故? あの人は睡眠薬盛られる前に勝手に寝てそうだけど……。

 

 

「明日の為の仕込みをしてるよ。たぶんあの人は今日明日、眠らない気だよ」

 

「そうなんだ」

 

 

 食事処の方を見ると、僅かに温かい明かりが漏れていた。明日、作ってもらった物、たくさん食べないとね。

 

 

 途中で手を離してもらい、マリンさんに着いて行くと、ティラさんの家に着いた。

 

 

「ミドリの衣装、採寸は終わったの」

 

「衣装? 明日着るもの?」

 

「うん。で、どういうのが良いか絞りきれなくて、二着作ったの。それぞれミドリに着せるからアオイが決めてよ」

 

 

そう言って取り出したのは、みかん色のドレスと淡い紫色のドレス。明るい印象のものと、落ち着いた印象のもの……。

 どっちの方が似合うかな。

 

 

 

 

 ドレスの試着が終わり、マリンさんの物と思われるパジャマを着たミドリが連れてこられた。すやすやと眠ってる。

 どちらのドレスも似合っていたけど、わりと即決だった。ミドリも気に入ってくれるといいのだけれど。

 マリンさんはミドリを椅子に座らせてから、僕が選ばなかった方のドレスを持つ。

 

 

「もう片方のドレスはアオイにも似合いそうだね」

 

「それはないかな」

 

「大丈夫、デザイン的に胸がない人向けのものだから。断ったら、あなたが寝ているうちにもっと可愛いデザインのを着せるから」

 

「……。好きにしてください」

 

 

 寝ているうちに着せられるってことは下手をすれば色んな人に見られるってことだし……。でも着たくないな……。もういいや、立ったまま、目を開けたまま、意識をなくそう。

 どうでもいいことを考えていればそのうち終わるだろ。

 

 

 

 ……この人、なんでいちいち脱がせるのが上手いんだろ。防具脱がせるのに一分かかってないんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。我ながら、良い出来だ」

 

「そうですか」

 

 

 姿見があったが見て見ぬ振りをする。あんまり見てないからよく分からないけど一つ言えることは、よく似合ってる。……どうして。

 

 

「アオイくん、私と同じくらいの体格だから、服選ぶ時、付き合ってよ」

 

「……売り物の女性服着せるつもりなら遠慮しときますね」

 

 

 売り物じゃなければいいってわけじゃないけど、試着するのは買う人に悪い……。

 

 

「大丈夫だよ。下手をすれば女の人より似合ってるし。ボーイッシュなものとかなら、大体全部似合うんじゃな」

 

「……んにゃ。アオ……?」

 

 

 心臓が跳ねた。ミドリが声を発した。

 起きてしまったのか? 

 見られるのは嫌だぞ。三日は笑い転げられる。たぶん。

 

 

「ん……」

 

 

 ミドリは一度目を開けたが、すぐに瞑り、寝返りを打って眠った。

 今になって心臓がうるさいくらいに鳴る。……今日は心臓に負担をかけ過ぎてる。そのうち過負荷で壊れちゃうんじゃないかな。前にも同じようなこと考えた気がする。もしかして小心者にハンターは向いてない……?

 

 

「悪ふざけに付き合わせてごめんね」

 

「別に大丈夫です」

 

 

 ティラさんもたまにこんな感じの日あった気がする。深夜テンションというか、人って疲れるとおかしくなるよね。

 ドレスを脱いで、マリンさんにそれを返す。防具を着なおそうとしていると、マリンさんが服をくれた。そろそろ捨てようと思っているものだから返さなくていいとのこと。

 誰でも着られそうな、シンプルなデザインの服を着て、ミドリをおぶる。

 

 

「防具は置いてっていいよ。あと、明日の朝、もう一度ここに来るようにミドリに行ってね」

 

「分かった。じゃあお休み」

 

「お休み」

 

 

 

 

 

 

 

 家は真っ暗だった。当然か。二人とも、もう寝ているんだろうな。

 勝手にミドリの部屋に入るのは躊躇われたが、まぁ仕方ないか。

 下着とか脱ぎ散らかすような人じゃないから見て困るものなんて落ちてないだろうしね。

 

 ミドリをベッドに寝かせてそっと布団をかけ、僕は部屋を出た。気持ちよさそうに眠っててなによりです。

 

 

「ふわぁ……」

 

 

 いよいよ僕も眠くなってきた。瞼が重くなってきた。

 

 部屋に入り、ベッドにダイブしようとしたが、アルフがすでに潜り込んでいたから止めた。

 普段はアルフが後から潜り込んでくる形だから僕はそれを無視して同じベッドで寝る。だけど後から僕の方から入るのは、例え自分の寝床でもちょっとなぁ……。

 いや、でも眠いわ。今日くらいは固い床じゃなくてこっちで寝よう。

 いつもなら僕は壁際で寝るけど今回は違う。

 寝返り次第で下に落ちそうで怖い。

 でも横たわって目を瞑ると、意識は少しずつ……。

 

 

「……?」

 

 

 眠りに落ちる前に疑問が湧いた。

 

 

「震えてる……?」

 

 

 アルフが少しだけ、でも間違いなく震えてる。

 

 

「アオイ。これはあんまり気にしないでくれ」

 

「そう言われると気になる……。でも話したくないことなら話さなくても大丈夫だよ」

 

「別に問題ない。ちょっと恥ずかしいだけだ。……ふむ」

 

 

 横たわっていたアルフが仰向けになる。僕もそれに合わせて仰向けになった。

 アルフが大目に息を吸った。

 

 

「私は臆病なんだ」

 

「……えっ?」

 

「とても臆病だから、嫌な予感がすると、私は震えるんだよ。モンスターが強ければ強いほどな。相対してしまえば収まるが……。でも危険を感じるとまた震えがくる」

 

「それが勘の良さの秘密……?」

 

「あぁ。この危険予知の才能。狩人にとってこれ以上ない、最高のギフトだ」

 

 

 ハンターとしての才能はモンスターを的確に殺せること、ではない。重要なのは生きて帰ること。

 例え勝てなくても、生きて帰れば情報を、自分より強いものに渡すことができる。

 

 

「だが、私は臆病だ。震えるのは危険を察知したからだが、それ以上に怖い。怖くて怖くてたまらない」

 

「アルフ?」

 

「体の震えはジンオウガによるものだと思っていた。だが、脅威は消し去ったのに、震えが止まらないんだ」

 

 

 ジンオウガ以外の危険が、近くに……?

 

 

「ここに……ルルド村に危機が迫ってるってこと?」

 

「それは違う気がする。いつもとは勝手が違う……。例えそれだったとしても、アオイが側にいてくれれば安心できるし、震えは収まるはずなんだ」

 

「つまり、どういうこと?」

 

「うまく説明できないな……。とりあえず、アオイ気をつけてくれよ?」

 

「僕のことは大丈夫。約束を破るつもりはないからね」

 

「そうか。……アオイと話したおかげで落ち着いてきたよ。もう、大丈夫だ」

 

「そう」

 

「つまらない話をしてしまったな。お休み」

 

「気にしないでよ。友達でしょ? お休み」

 

 

 アルフの言葉の意味を探ろうとしたが、目を瞑った途端、意識の糸は切れてしまった。


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