モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十八話 月下雷鳴

 メリルはジンオウガと社交ダンスでもするみたいにステップで避け、タップでフェイント、ターンをして即座に反撃している。

 ミドリはメリルが隙を晒した瞬間それを取り返すように、三次元的に動いて乱舞。

 アルフはミドリがフォローできなかった部分や不意打ちを大剣で強引に解消。

 

 ほとんど隙のない連携をとっているのに今は劣勢に思える。ジンオウガが恐ろしく強いのだ。攻撃を繰り返す度にジンオウガが強くなっていく気さえする。

 こちらは疲れるのにジンオウガに全く疲れが見えないのが辛い。

 

 電力を、使い切らせさえすれば逆転できる。それを信じて、引き金を引く。

 

 

 ジンオウガが飛びかかってきたのをメリルは紙一重で避けた。ジンオウガは勢い余って廃家に突っ込む。大きめの破片が飛び散り、メリルの頭にそれが直撃した。

 それを隙とみたのかジンオウガは廃家を破壊しながら無理やりメリルに攻撃をねじ込む。

 太い前足だけでなく、木材の破片も襲いかかってきたからか、メリルがつまづき、体勢が崩れた。

 

 

「せぁッ」

 

 

 だが、そのタイミングでアルフが大剣をジンオウガの尻尾に振り下ろした。

 切断には至らなくとも、かなり深くまで刃が入り、ジンオウガが悲鳴を上げる。

 そこにミドリが畳み掛けた。斬撃をしながらジンオウガの背中を駆け上がり、廃家の屋根の上に立つ。

 そこから跳び、二本の剣を落下の勢いも加えてジンオウガに振り下ろす――が、それはバックステップをされて空振りに終わる。

 

 ミドリやメリルの攻撃は捌かれるが僕とアルフの攻撃はあまり警戒されてない。アルフのは警戒できないから仕方ないが僕のは全く意に介されてない。……傷もつけてるし、流血したりもしてるから効いてるはずだけど。

 

 ジンオウガの注意を引いているメリルとミドリに、なんとなく疲れが見えるようになってきた。一旦逃げて休むか? いや、毒けむり玉の効果が切れたらまた雷光虫を呼ばれて電力を補給されるし……。

 僕が短い間でもジンオウガの注意を引ければ……。いっそ乗ってみるか? ミドリがさっき使った、あの屋根を伝えば僕でも乗れるし。ダウンを取らなくてもその間に三人が息を整えられる。

 

 武器を背負って足を踏み出し、廃家に近づいて跳ぶ。ミドリ程じゃないけど、僕だってルルド村で育ったんだ。足には自信がある。

 屋根に腕を乗せ、反動をつけて一気に登る。

 

 乗るのが目的だったんだけど結果的には上をとれたな。ジンオウガが近づいてくるまで氷結弾を背中に撃ってようかな。あと、警戒は忘れずにね。

 

 ジンオウガの背中はたぶん攻撃が一番よく通る場所……つまり弱点だ。他の部位に比べて外敵に攻撃されにくいし、背中に雷光虫、ひいては電力集めるのだから甲殻よりかは体毛の割合が高いはず。

 その証拠にジンオウガの背中を撃っていると今着ている防具のスキル、弱点特攻のおかげで直感的に脆弱部が分かる。

 

 二回リロードを終え、次を構えたところで、ようやくジンオウガがこちらを向き、すぐさま跳んだ。

 助走もせずに僕のいる高さまで飛びかかってきた。それを屋根から落ちないように移動し、避ける。

 ジンオウガは屋根に着地したが、廃家がその衝撃耐えられず、半分ほど崩れた。それと一緒にジンオウガも落下する……今だ。

 屋根から飛んでジンオウガの背中に、腹ばいに着地する。片手で体毛を掴み、もう片方の手でナイフを抜く。

 逆手に握ったナイフを甲殻に突き立てる。

 

 例によって暴れ出すだろうから、まずは振り落とされないようにして、それからナイフで連続攻撃を……。

 

 

「アオイッ今すぐ降りるんだ!」

 

「え?」

 

 

 声が聞こえた直後、視界が僅かに下がった。声に従い降りようとしたが、体に粘着質の糸が絡みついて降りられない……さっきの毒けむり玉のやつか。

 下の方で衝撃を感じた――瞬間、前から後ろへ重力を感じた。景色が移動し始めたのを見て、ようやくジンオウガが走り出したことを悟った。

 

 

「アオーーッ!」

 

 

 声と一緒に、ミドリが僕の上に乗った。

 

 

「ミドリ⁉︎」

 

「三度目もアオを盗られるわけにはいかないから」

 

 

 心臓がいつもの倍、鳴ってるのを感じる。

 

 

「ミドリ。約束通り、先に死なないでね?」

 

「アオこそ、約束、破っちゃダメだよ?」

 

 

 絡みつく糸を切りながら、僕らはジンオウガの行き先であろう、決戦の場所に向かった。

 

 

  〇 〇 〇

 

 

 しがみつくことに精一杯で、ジンオウガを攻撃して歩みを止めさせることはできなかった。ジンオウガは平地を走るだけじゃなく、崖を駆け登ったり、木を蹴散らしたりする。乗り心地は最悪。

 

 今日、最初にジンオウガと遭遇した場所まで戻ってきた、かと思えばまた方向転換、滝を突き抜け洞窟を駆け、ものの数秒でまた地上へと坂道を進む。

 穴から出た瞬間、ジンオウガが跳躍しつつ、体を捻った。やばい、背中から着地するつもりか?

 ミドリと一緒に背中から跳ね退いても、ジンオウガは構わず、背中から落ちる。勢いのまま地面を削るが、すぐに起き上がった。

 ジンオウガはまた飛び、背中から着地、何度も、何度もそれを繰り返す。

 威力の高い攻撃だが、単調だし、十分避けられる。

やがで、ジンオウガの背中にあった無数の突起はズタズタになり、血がボタボタと零れ落ちるようになった。

 

 

「なんのために……?」

 

 

 武器を構えてるが、その不気味さになんとなく攻撃ができない。ミドリも同様のようだ。

 攻めるに攻められない僕らを一瞥し、ジンオウガは声を渓流じゅうに轟かせた。

 

 

「ッ……!」

 

 

 森が一気に騒めき、次の瞬間、大量の雷光虫がジンオウガの周囲に集まった。

 

 

「殺虫効果はまだ続いて……まさか」

 

 

 まさか。背中にあった毒けむり玉を振るい落とす為だけにあんなことを……?

 ジンオウガが失っていた電力を瞬く間に補充していく。100%……それ以上じゃないか?

 雷光虫は元の色から変化、蒼色を通り越して金碧色に輝く。それと共に、ジンオウガの体表も呼応して色を変え、戦意を喪失しそうなくらいのプレッシャーを発してくる。

 

 満月を背中に、雷狼竜は咆哮した。

 

 

 

「アオ」

 

「……行くよ」

 

 

 氷結弾を込め、すぐに引き金を引く。速射が働いて三発、ジンオウガは前腕でそれを全て受け止めた。

 その間にミドリは一気に肉薄、双剣を振り下ろす。

 

 

「硬い……っ」

 

 

 ジンオウガは弾丸に続き、ミドリの剣も捌く。前腕が硬質化しているらしい。さっきより攻撃が通ってない気がする、

 奇襲まじりの攻撃をジンオウガが受けきられた。すぐにジンオウガが攻撃を繰り出す。

 前腕の叩きつけ。最初から何度も繰り返している攻撃だが、スピードが段違いだ。その上、腕が地面に叩きつけられるたび、雷が周囲に迸る。……だいぶピンチだ。

 こういう時どうすれば……例えばメリルなら……。

 駄目だ、メリルなら切り抜けられるかもしれないけど、経験と実力のあるメリルだから可能なことだし……。マリンさんの真似をするにもまず、環境も整っていないし……。

 ジンオウガの攻撃を丁寧に回避しながら、チクチクと攻撃を加える。メリル達がここに到着するまで時間を稼げば……

 

 

「アオ、手持ちで一番強い弾を込めて」

 

「分かったけど、何をするつもり?」

 

「んーとね」

 

 

 ミドリがジンオウガの攻撃を躱している隙に拡散弾を弾倉に詰める。そうすると、ミドリがこちらに向かって走りこんできた。

 

 

「借りるね!」

 

 

 ミドリは僕の肩を踏み台にしながらライトボウガンを手に取り、後方宙返りをした。そのまま空中で体を捻ってジンオウガの方を向いた。

 ミドリは右手を伸ばし、ジンオウガの角を掴んで取り付く。

 ジンオウガが振り払おうとするが、ミドリは足をジンオウガの顎に引っ掛けて体を固定し、耐えた。

 それを見るや否や、ジンオウガは噛みつこうとするがそれより一瞬早く、ミドリが銃口を突きつけた。

 ノータイムで引き金が引かれ、拡散弾がジンオウガの口元で爆ぜ狂った。

 畳み掛けよう。

 足元に刺さったミドリの剣を一本抜き、ジンオウガに向かって駆ける。

 片手剣の特訓なんて全然していないけれども。

 拡散弾の合計四つの爆発に乗じて接近し、両腕と全体重と加速を乗せて、突き刺す。

 

 ジンオウガの瞳が動き、こちらを凝視してきた。目が合ったのを感じた――直後、間にビンが投げ込まれた。

 

 

「目を守って、アオ!」

 

 

 言われた通り目を瞑って腕で顔を覆ってから、何が投げ込まれたかを悟った。

 光の爆発。白い閃光が腕ごしでも眩しい。

 

 

「アオ、一旦、武器を返すね」

 

「分かった」

 

 

 

 そうやって僕たちはジンオウガの予想外を突き続けることに努め、手を変え品を変え、主導権を握り続けた。

 ミドリと目を交わすたびに作戦を作り上げ、ミドリは最適な行動をし、僕はその埃を払い、磨き上げる。

 一挙手一投足ごとに集中力が際限なく高まっていく。時間さえ、止める、と――。

 

 

 

 

 

 でも、それは最後までは続かない。狩場を全力疾走で一周してきたような、苦しさを感じた。体や頭が限界を迎えていることが痛みによって知らされる。

 息が、だいぶ上がってきた。空気が、足りない。

 

 でもそのかいあって、ジンオウガのことを消耗させられた。爪を砕き、体毛を削ぎ、甲殻を穿ち、たっぷりと血を流させた。互いの残り体力は僅か、根比べになりそうだ。

 

 ミドリと目を合わせても作戦が浮かばない。なんとなくの攻撃では維持した主導権を奪われる。道具も使えそうなものも使えなそうなものも大体使った。

 これ以上、どうしようか……。ミドリと再び目を合わせると、途端、思考の速度が落ちていく。

 

 

「ッ!」

 

 

 突如、ジンオウガの尻尾切り離され、宙を舞った。血が弧を描き、切断面をこちらに向けて無造作に落ちた。

 

 

「ミドリ、アオイ、ご苦労様です」

 

 

 尻尾を落とされ、体勢を崩したジンオウガにメリルは剣を向けて言った。

 

 

「ジンオウガもお疲れ様です。二人の成長に一役買ったくれたようですね」

 

 

 ジンオウガがメリルへと突進をした。だがメリルはそれを避けようともしない。

 

 メリルが轢かれる直前、影から飛び出したアルフがフルスイングした大剣をジンオウガにめり込ませた。

 無理やり突進の舵を切られ、メリルの横合いをすり抜け――そのまま落とし穴に落ちた。

 ……ッ!

 かすかに震える手で、捕獲用麻酔玉を掴み、ジンオウガに投げつける。

 効果が大きくなるわけじゃないと分かっていてもポーチにある分ありったけを投げ込んだ。

 

 とても長い一秒が経ってからジンオウガの体から力が抜け、ゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 


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