モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

77 / 113
七十七話 無双の狩人

 異常な反動に、僕は後方に吹き飛ばされた。

 下り坂のおかげでより遠くに離れられる。空中で氷結弾をジンオウガに向かって撃ちながら更に飛ぶ。

 ジンオウガが追ってきた。一騎打ちに持ち込まれた……いや、各個撃破か。こいつ、さては美味しいものは最後まで取っておくタイプだな。

 

 無様に着地したが、その衝撃で麻痺も解けた。

 状況は最悪。本気状態のジンオウガと……前と比べればマシか? 気を引く必要ないし。せこせこ時間稼ぎをしていればどうにか……。

 

 ジンオウガが溜めの仕草を見せた。突進や飛びかかりを予期し、身構える。

 さぁこればいい。回避してすれ違い様にチクチク攻撃してやる。そんな思いとは裏腹に、ジンオウガは一息で僕の頭上まで跳んだ。

 

 

「なっ――?」

 

 

 横に跳んでその場から離れ、お腹で着地した。元いた場所からはでは雷が落ちたような、そんな音がした。

 立ち上がってジンオウガから距離をとる。止まるのは自殺行為。ずっと動き続けないと。時計回りにジンオウガの周りを走りながら隙を伺おうか。

 あっちはタイマンを望んでいても僕は違うから攻撃も絞って。

 

 ジンオウガが突進をしてくる。肌がピリピリとするのを感じながら、それを避ける。

 攻撃が続くことに備えて、ジンオウガから目は離さず、武器を背中にしまう。

 ジンオウガ、普段より異様にゆっくり振り向くな……。右足が地面に少し埋まっている。ぬかるみに足をとられたのか……?

 そう疑問に思った次の瞬間、泥が散弾のように飛んでくる。回避――しようとしたが、ジンオウガが人間くらいの大きさの電気の球を後ろから重ねてきているのが見え、そっちに集中する。

 幸い、電気の球はそこまで速いものではなく、泥を浴びた後でも十分避けられた。

 

 顔についた泥を拭いつつ、更に警戒する。

 下手に距離を取っていても危ない……。でも近付くのはもっも危険だし……。

 ……弱気になっちゃ駄目だ。失敗を思い浮かべたらその通りになってしまう。

 頬を叩き、切り替える。

 

 

「かかってこいジンオウガ! また逃げ延びてやる!」

 

 

 咆哮で答えられる。今日は必ず殺す、と。碧色の光が蒼色に変わり、向けられる殺意が研ぎ澄まされた。

 

 

 

 空になった薬莢を排出し、ジンオウガが蒼色に光りだしてから三度目のリロードをする。

 息をつく間もないほど、苛烈な攻撃を受け、それなりに時間は経ったはずなのにこっちからの攻撃はろくにできていない。

 掠り傷は増えたが、時間と体力は減る一方。あと、全身がピリピリする。静電気なのか、防具がチクチクする。

 

 ジンオウガが噛みつきかかってきたのを横に移動して躱す。ジンオウガは空を切ったのを認識するや否や、すぐに体を翻して背中を向け、その場でバク転。尻尾を上から叩きつけてきた。

 こっちも横に転がって回避。反撃を考えたが却下、ジンオウガが前足を踏ん張る、攻撃の予備動作が見えたからだ。

 時計回りに一回転と半分回りつつ、飛び上がった。ただ回転するだけでも、爪や尻尾の尾爪、電気が高速で周囲を凪ぐ。

 あらかじめ離れていたから回転攻撃があたることはなく、武器を悠長に構えていた。三連続で攻撃がきたから隙ができると油断していたのだ。

 

 青白く光る雷光虫……超電雷光虫が何十匹と、回転の勢いに耐えられずよって外側に弾き出されたのだ。虫達は異常な加速度に危機を感じたのか、放電をした。

 

 

「ッ〜〜!」

 

 

 体が固まって動かない。熱さ、痛み。全身に走り回る。でもそんなことより。

 ジンオウガが大きく口を開き、こちらに迫ってくる。

 

 

「ーー、ーー!」

 

 

 牙や舌が視界を埋め尽くした瞬間、横から急に蹴倒された。ジンオウガは僕の代わりに大剣を口に納めることとなった。

 

 

「アオイに執着しすぎじゃないかい、犬っころよ」

 

 

 口からボタボタと血を垂らすジンオウガに、アルフは挑発するように言った。更にアルフは大剣を下ろして先端を地面につけ、ニヤリと笑った。

 

 

「アルフが気を引いてるうちに、アオイはこれを食べてください」

 

 

 メリルにススキの茂みまで引きずられ、それから口を開けさせられた。痺れて咀嚼すらできないのを察したのか、青っぽいきのみを握りつぶして無理やり僕の口に詰めこんだ。

 喉に詰まらせないよう注意しながら、慎重に飲み込むと体の痺れが嘘のようにとれた。

 

 

「ウチケシの実です。二つどうぞ」

 

 

 ウチケシの実をポーチに仕舞い、立ち上がる。確か属性やられを治してくれる実……だっけ?

 体に燃え移った炎を消したり、水を含んでぐっしょりと重くなった防具をあっという間に脱水したり。

 

 

「雷光虫が近くを通る度に体に電気が溜まるみたいなので、適宜打ち消してください」

 

 

 メリルは僕の返事を待たずに太刀を抜き、ジンオウガに斬りかかった。

 僕も武器を構え、視野を広くしてジンオウガを狙う。

 ミドリはどこだ? メリルがミドリのことを忘れるとは思えないから……触れてないだけ? 

 

 

「ふんッ!」

 

 

 ジンオウガが飛ばした雷光虫弾をメリルが両断。吹き出た炎は雷光虫を焼き殺した。

 触れた際に太刀が帯びた電気は、地面に刀身を刺すことで逃がしていた。

  

 メリルとジンオウガの接近戦を援護していると、何度か不意打ちを成功させているアルフが言った。

 

 

「雷光虫の退治も意識してくれ。それを意識すれば、ジンオウガはいずれ、雷属性を失う」

 

「分かった」

 

 

 ジンオウガは雷光虫から電気を受け取ってるみたいだからね。供給元を絶ってやろうって話だ。

 飛んでいる雷光虫を撃ち落とすのは効率が悪い。一発につき一匹じゃ時間がかかりすぎる。雷光虫はジンオウガの背中に沢山いるから……。背中にいる虫を効率よく殺す……。

 氷結弾! これだな。寒い地域は虫が少ないって聞くし、きっとこれがいい。これでもダメなら徹甲榴弾で炭にする。

 ……でも背中高いな。上から撃ちでもしないと当らないな。

 上から、か。ミドリみたいにモンスターを踏んで飛びあがればいける? でもミドリはたっぷり練習した結果、あれだけできるんだろうし……。

 

 

「アオイっそっちに行きましたよ!」

 

 

 隙を見せてしまったらしく、ジンオウガが飛びかかってきた。慌てて避け、振り向いて氷結弾を撃つ。

 正面や側面よりかは、背後から撃った方が当てやすいな。

 氷結弾がジンオウガの背中に着弾する度、二、三匹くらい雷光虫が零れ落ちる。

 瞬間的に冷凍して退治できるから、絶命時の放電もないみたいだ。

 

 ジンオウガからの視線を切れないだろうか。僕が攻め立てられている間はたぶんメリルとアルフは上手く攻撃できない。僕がジンオウガの気を引くのが下手なのと、誘導するほど回避に余裕がないし。

 

 ジンオウガがこちらに振り向いた瞬間、懐に潜り込む。周囲を見ると荷車らしき残骸を見つけた。ジンオウガから見て右の方だ。とっさにレベル3通常弾を装填し、その残骸に撃ち込む。レベル3通常弾は跳弾し、ジンオウガの右側面に突き刺さる。

 僕はそれと同時にジンオウガの、左半身から出て、身を伏せる。

 

 ジンオウガは攻撃が当たった方を向いた。だから僕は一旦ジンオウガの意識の外に出られた。ジンオウガが僕を僅かな間、見失ったおかけでメリル達が攻撃する猶予ができ、メリルが早速、ジャンプ斬りでジンオウガの頭に斬りかかった。

 最初の時のようにジンオウガはそれを頭を動かして弾こうとする……が、メリルはそれを受け止め、頭に取り付いた。

 

 

「くぅ……。今です、ミドリ!」

 

 

 ジンオウガが頭を振り、メリルを振り落とそうとするが、メリルは必死にしがみつく。そこに、トップスピードで走りこんできたミドリが跳んだ。

 

 

「ちょっとごめんね!」

 

「いえいえ、ありがとうございます!」

 

 

 ミドリはメリルを踏み台にしてジンオウガの背中に上がった。

 そして、ポーチから無数の玉を取り出し、電気が迸る背中に設置した。

 

 

「設置終わったよ!」

 

 

 ミドリがジンオウガから降りた直後、玉から紫色の煙が発生した。

 

 

「何を置いてきたの?」

 

「毒けむり玉。殺虫するならこれが一番!」

 

 

 吹き出した煙はジンオウガの背中に住んでいた雷光虫や飛んできた雷光虫を悉く殺していく。

 これならジンオウガは電力を溜める効率が落ちる。今の分を使い切らせれば放電することはほとんど無くなるはず。ミドリ達の狙いはこれか?

 

 

「全員、気を引き締めて。ここが正念場です!」

 

 

 メリルが練気を太刀から片手剣に移し、太刀を地面に刺し、迫力たっぷりに言う。

 

 

「勝負はここからです!」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。