モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十六話 狩られる前に狩れ!

 よく晴れた昼下がり。

 ルルド村に竜車が着くなり、僕はルナの元に獣のように走った。

 

 

「アオイ? どうしたの?」

 

「ジンオウガが、渓流に!」

 

「……ッ。予想より早い……どうして?」

 

 

 ルナは苦虫を噛み潰したような顔をしてから、すぐに素面になった。

 

 

「アオイ達で狩れる?」

 

「……きっと大丈夫。僕達はこの日のために装備を揃えたから」

 

「絶対に無事で帰ってきてね。あと、前みたいに待たされるのはやだよ」

 

 

 リオレイアの時は報告が遅れたせいで心配させたっけ。ルナは少し冗談めかしていたけど、目は本気だ。

 

 

「分かった。四人で行ってくるよ」

 

「村にいるハンターに呼び掛けておくから、ちょっとでも無理そうならすぐに村に戻ってきて。四人を越えた数での狩りのジンクスなんか忘れていいよ」

 

 

 僕はそれに頷き、ミドリ達の元に急いだ。

 

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 飛行船を全速力で飛ばしてもらい、渓流に行く。本来なら竜車で行く距離だけど、一秒でも早く渓流に行かないといけない。

 

 

「りんごちゃん、ジンオウガまで後どれくらいか分かる」

 

「残念だけど正確な位置は渓流にいるやつらに聞いてみないことには分からないニャ」

 

「そう。ありがとね」

 

 

 ミドリとりんごの会話が終わると竜車は静かになった。メリルはなんとなく殺気立ってるし、ミドリもピリピリしてるし。アルフも目を瞑って集中してるし……ん?

 

 

「アルフ?」

 

「……。どうした?」

 

 

 アルフもしかして今寝てなかったか?

 

 

「体調悪い?」

 

「いや、眠いけど冴えてる」

 

「それ矛盾してると思うんだけど」

 

「いや、冴えてる。私の直感通りならジンオウガはもう遠くない。あと、メリルの見立てはあってるのか? 危険度五クラスなのかい?」

 

「はい。危険度六、七クラスならあの時の私たちは生きてませんし、ルルド村も在ったのか怪しいところですから」

 

「でも今まで狩りをしたどれよりも強い……そんな気がするのだが……」

 

 

 アルフは一定のリズムで体を揺らし、中空に焦点を合わせてそう言った。

 アルフの直感は無視できないくらい、いや信じられるくらいの精度がある。自分で言い出した時に限れば外したことはなかったはず。

 でもジンオウガが危険と言っても前の時とは訳が違う。リオレイアをやっとの思いで討伐した後のわけでもなければ、メリルも勘を取り戻してるし、ミドリも強くなっている。それにアルフもいる。

 

 

「気を緩めずに安心してください。私がいますから、大丈夫です」

 

「ああ。そうだな。メリルはとっても強いからな」

 

 

 アルフはにっこり笑った。……だけど。

 

 

「……ん? どうしたアオイ、ジンオウガが怖いのかい?」

 

「うん。それなりに」

 

 

 体じゅうが砕けるようで、ボールみたいに蹴り飛ばされた一振り。ジンオウガは一撃一撃が致命的に強い格闘を繰り出してくる。……たった一発で逃げるって選択肢を奪われたんだよな。

 怖い。知ってるモンスターでいちばん怖い。

 だけど、少しだけ震える手でアルフの手を強く握った。それに、アルフは微かに驚いて、空いてる手でハンドサインをした。

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

「着陸した後はすぐにアイルーさんの集落に向かいます。もし、その間にジンオウガを発見した場合は即座にそっちを狩りに行きましょう」

 

 

 首肯でそれに答え、僕達は各々の武具と道具を持って渓流にに降りた。

 

 

 

 

 夕焼けで空気までもが染められていようだった。普段は幻想的に感じる色も今は不気味に思う。

 

 モンスターが通れないくらいに狭い道を進み、アイルーの集落に出た。

 今までも何回かここに来たけど、こんなに騒がしかったっけ。

 

 

「ジンオウガがどこにいるか知ってるかニャ⁉」

 

 

 りんごが大声で呼び掛けると何匹かのアイルーが近づいてきた。

 

 

「りんご? ジンオウガの場所なんか聞いてどうするのニャ?」

 

「ハンターさんが狩ってくれるらしいニャ」

 

「本当かニャ⁉ 喜んでお教えするニャ。ジンオウガは地図でいうエリア6……来た道を少し戻って、下り坂を降りていった先にいるのニャ」

 

「ありがとうございます、アイルーさん。さぁ全員心の準備は整いましたか?」

 

「狩られる前に狩ろうか」

 

「介錯するの!」

 

 

 アルフは少し考えてから言い、ミドリは即座にその意図を汲んで言葉を繋ぐ。僕も意図は分かったけど……。

 

 

「の、の……?」

 

 

 の、で始まる威勢の良い単語なんてあるのか?

 

 

「狼煙をあげておいてください、アイルーさん。では、行きましょうか」

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 下り坂を駆け降り、ジンオウガがいるエリア六に出た。

 荒々しく流れ落ちる滝を背に、僕達は無双の狩人と向き合った。

 ジンオウガも僕たちに気付き、振り向いた。

 体じゅうに傷があるが、甲殻や鱗は前より頑丈に見えるし、白い体毛も重厚な色に変化している。

 何よりも眼が違う。僕と目があった瞬間それがはっきりと分かった。

 ジンオウガはきっと負けはおろか、引き分けすらありえなかった。だけど僕はほとんど運でステイルメイトに持ち込んだ。それが誇りを傷つけたのかは知らないが――。

 

 今回は必ず殺す、そういう視線だった。

 

 

「私が一番槍をもらいます、アオイは援護を二人は側面から!」

 

 

 メリルが太刀を抜き、駆け出した。それと同時にアルフとミドリが剣の柄に手を当てて走り出す。

 ジンオウガが咆哮し、前足をメリルに振り下ろした。

 メリルは急に速度を落としてそれを自分の目の前に落とさせ、空振りした前足を踏みつけて飛んだ。ジンオウガの頭を一閃しようと太刀を構えた。

 ジンオウガはそれを頭突きで一蹴、ダメージは少なくとも、吹き飛ばされたメリルがミドリに受け止められる。

 二人の隙をジンオウガは見逃さない。僕が撃った氷結弾をものともせず、左足をジンオウガに振り下ろす――。

 

 

「私を見失うには早すぎるぞ」

 

 

 左足に体重を集中させたのをアルフは見逃さない。大剣を全身を使って振り回し、ジンオウガの右足を刈った。

 完璧なタイミング、ジンオウガはミドリとメリルに攻撃を当てられず、その上横転した。

 足にダメージを与えての転倒ではなかったからか、ジンオウガはすぐに起き上がる。だが、ミドリとメリルが体勢を建て直し、ジンオウガを囲む。

 

 

「任せてと言っておきながら早速助けてもらいましたね、すみません」

 

 

 アルフは声は出さず、親指を立ててそれに答え、ジンオウガの視線から外れにいった。

 

 

「気をつけてねメリル。再開するよ」

 

 

 ミドリが二つの剣を抜き、片方をジンオウガに向けた。ジンオウガの視線がミドリに移ったのを見て、僕は引き金を引く。

 

 誰かがジンオウガの気を引き、残りの三人が……訂正、メリルとミドリがジンオウガの気を引き続け、アルフがそれをサポート、僕はダメージを蓄積させていく。

 

 

「ッ、下がって!」

 

 

 ジンオウガが不審な動きをした。急に大きく下がり、吠え始めたのだ。

 ジンオウガの声が渓流に響く。

 

 

「……光の玉?」

 

 

 ミドリの視線の先には淡く光る緑光の……。

 

 

「雷光虫! これを集めてジンオウガは雷属性を纏うんだよ!」

 

「そうだった! 色が違うから気付かなかったよ」

 

「今がチャンス。溜まりきる前に畳み掛ける!」

 

 

 貫通弾を装填。各々が最大限の瞬間火力を用意し、ジンオウガを取り囲む。

 ミドリが舞う。蒼と翠の宝剣が煌めき、鬼気を発し、鎧のような鱗を削りとっていく。

 メリルは描く。焔と技を流麗に、切れ味鋭く、ジンオウガに刻み込んでいく。

 最後にアルフが轟かせた。人類の為せる至高の一撃。器が砕ける限界まで貯めたエネルギーを爆発させ、大剣を叩きつけた。

 

 苛烈な攻撃にジンオウガが怯んだ。その足元に走り込み、ポーチから出したシビレ罠を設置。

 

 シビレ罠の中にいる雷光虫をゆっくりと圧死させることで取り出せる、強力な電流がジンオウガに流れ込んだ。

 

 

「かかった! さらに畳み掛けて!」

 

 

 電気で硬直した体に、貫通弾は通りにくい。氷結弾に切り替え、攻撃を始める。

 シビレ罠にかかりながらも、ジンオウガはこちらを睨みつけてくる。傷が残ってる……そうかい。

 ……睨みつける? シビレ罠にかかってるのにそんな自然な動きができるものか?

 そういえば放射状に延びるシビレ罠の電気がやけにジンオウガに吸い込まれているような……。

 

 

「ジンオウガから離れろッ!」

 

 

 アルフが叫ぶ。その声が二人に届いた……直後、時間が凍りついた。

 色の無い世界で僕が見たのは背中に迸る電気がシビレ罠にかかる前より膨大なものになっていること。

 メリルとミドリがジンオウガから離れようと重心を移動させていること。そして、ジンオウガが放電していることだった。

 

 膨大な電流が膨れ上がった。地面を這った電気が僕の足を麻痺させる。

 ジンオウガはゆっくりと僕に近づいてきた。なんとか動く手でジンオウガに弾を撃ち続ける。 

 

 ちんけな弾なんて効かないとばかりにジンオウガは悠然とこちらに近づき、顔を近づけてきた。

 

 

「顔の傷まだ残ってるんだね。僕も太ももにまだ残ってるんだ。あと、あの時と違って準備があるんだ」

 

 

 ジンオウガの体に残る無数の傷。ジンオウガがうんと遠くまでここから去ったこと。なんとなく推測するに、こいつはずっと鍛練していたのかもしれない。

 

 ジンオウガが開けた大顎に銃口を向け、グリップを捻り、バレットゲイザーを撃ちこんだ。

 

 

 

 

 


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