モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十五話 邂逅

 

 

 ルナの指導の元、村の色々なところで隠し事が行われている。そのことを追求してはいけないという暗黙の了解が僕達、ハンターの間で成立した。理由はすなわち、知らない方が面白そうだから。

 村人も具体的な内容は知らないみたいだが、大まかなことは理解しているように見えた。

 ハンターとしてできるのは素材を集めること、あと重い荷物の運搬。そして……

 

 

「付近でアオアシラを見かけたって話が出たの。この場所まで竜車を迎えに行って」

 

「分かったよ」

 

 

 モンスターの脅威から人を守ること。でも脅威と言ってもここ最近は大したモンスターは見ない。いや、それどころかモンスター自体の数が減ってきた気がする。

 素材集めのために狩りすぎたのか……?

 豊作祭はいよいよ明後日に迫っている。ナイトさんは店を閉めて仕込みを始めたらしいし、ティラさんはルナが『お祭りを一人の女の子として楽しんでもらうため』に寝かされている。今はその代わりをルナがしている。

 

 

「竜車にも小型モンスターを追い払えるくらいの護衛はいるみたい。あと、失礼のないようにね」

 

「了解」

 

 

 距離的には……うん、余裕を持って準備してから出ても間に合いそうだ。

 

 

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 

 村の飛行船の殆どをハンターが使っているから、最近、ルルド村に来る人の殆どは竜車を使っている。

 飛行船と違って地面の上を走っている分安心感があるし、安全な道も開拓されてるし、ハンターの護衛も空よりちゃんと役に立つから陸路もいいと思うんだ。

 飛行船のメリットは早さだけだし。

 

 

「この辺りでアオアシラが出たんだっけ」

 

 

 少々開けた場所が竜車と合流する地点だった。

 飛竜と交戦するには狭いが、アオアシラくらいなら、ちょうどいい広さだと思う。

 付近を散策すると、アオアシラがいたらしい痕跡もあった。でも蜂蜜が見当たらないし、もうどこかに行ってるんじゃないかな。

 

 ……どこかに向かっていった先がまさか竜車の来る方向だったりしないよね?

 

 不安に思いつつ道を覗くと、無事に竜車が来ていた。

 

 

「ルルド村から迎えにきたアオイです……ってあれ」

 

「アオイさん! こんにちは。お気遣いありがとうございます」

 

 

 竜車に乗っていたのは猫嬢さんだった。ベルナ村にミドリと寄ったときに会った竜人族の女の子。本名はカティ。ルナくらいの背丈で金髪。

 あとオトモアイルーの仲介役をしていて、今日も竜車に何匹かアイルーが乗っている。

 

 並んでルルド村に向かいながら話す。

 

 

「猫嬢さんも豊作祭に?」

 

「ルナさんに呼ばれたんです。招待されたからには、あの人相手でも無下にはできませんから……どうかしました?」

 

「良くできた子だなって」

 

「子供扱いしないでくださいっ」

 

 

 カチューシャの猫耳を揺らし、ぷりぷりと猫嬢さんは怒った。こんな見た目でも竜人族だから、たぶん僕よりずっと年上なんだろうな。……年上相手に失礼だったか?

 

 

「アオイさんはオトモアイルーを雇ったりしないのですか?」

 

「そういえば考えたこともなかった」

 

「この子とかどうです? アオイさんと相性が良いと思うのです」

 

 

 猫嬢さんが呼んだのは、赤くて艶のある毛並みのアイルーだった。赤色が不思議と馴染んでいて綺麗。目は紅玉のように輝いている。

 

 

「それはないニャ。僕とは合わないニャ」

 

 

 猫嬢さんに紹介されたアイルーに真っ直ぐ目を見てド直球に否定されたんですけど。相性……?

 

 

「次からは僕の実力にあったハンターを紹介して欲しいニャ」

 

 

 初対面でここまでコケにされるとは思わなかった。まぁでも、アイルーはとっても小さいのに、それでも大きなモンスターに挑むわけだし。これくらい気が強くないとオトモアイルーとしてはやっていけないのかもね。

 

 

「僕からも遠慮しておくよ。この子に相応しい旦那さんは他にいるよ」

 

「そうですか? 私は後はアオイさん次第だと思うんですけど――」

 

 

 どうかな? って猫嬢さんは首を傾げる。

 どうしたものか……と、雇うほど困ってるわけでもなければ育てるほど余裕があるわけでもない。断りかたを考えて、猫嬢さんから視線を外した先に青色の体毛が木々の隙間から一瞬見えた。

 

 

「アオイさん……?」

 

「アオアシラがいる。気付かれてないから、さっさと行ってしまおう」

 

「アオアシラなんぞになぜビビってるニャ?」

 

「……いいから。戦わなくて済むならそれにこしたことはないし」

 

「つまらないニャ」

 

 

 猫嬢さんらを誘導しながら、アオアシラに警戒する。竜車は走ると音がでかいし、確かアオアシラよりも遅かったはずだ。

 アオアシラが気になる。気づいてないはずなんだけど、心なしか気が立っているような……?

 

 

「討伐してくる。猫嬢さん達は周りに気をつけて隠れてて」

 

 

 ちょっと嫌な予感がする。村まではまだ離れているとはいえ、万が一もあるし。

 

 

「青いのが出るまでもないニャ。僕が行くニャ」

 

「待った、赤猫さんには猫嬢さんを側で守るって役割があるよ。これは小回りの利く君じゃないと完璧にはこなせない仕事。だからお願い」

 

「そうかニャ。じゃあ僕はここで見守らせてもらうニャ」

 

 

 ちょっと生意気なアイルーは竜車に腕を組んで座った。上手くあしらえたみたいだ。

 これが正解だったのか、猫嬢さんもウインクを返してきたし。

 

 回り込みつつ、アオアシラに近付く。

 火炎弾をこめてすぐに照準を向けて言う。

 

 

「アオアシラ!」

 

 

 叫んで呼んだ。人の言葉は通じないけど、急に声をあげられれば振り向いてくれる。こちらに振り向いたところを火炎弾で撃ち抜く。

 

 速射機構で素早く三度放たれた火炎弾はアオアシラを焼き、こちらに敵意を向けさせるのに十分なダメージを与えた。アオアシラは雄叫びを上げ、こちらに向かってきた。

 狩猟開始――。

 

 

 

 

 火炎弾という名前だけど爆炎が着弾地点を焦土化、炭化するような弾だから燃え移る心配はしなくてもよかった。周囲に木が沢山生えているから全速力で走らないアオアシラの突進は避けやすいし、木の陰を縫えば距離もとりやすかった。

 

 結論から言えばアオアシラは油断せず、冷静でいることに努めるとあっさりと討伐できた。

 

 

「見かけによらずムゴイ狩り方をするニャ」

 

「命の奪い方に綺麗も汚いもないよ」

 

 

 それらしいことをとりあえず言っておく。このアイルーの言うことを認めるのが嫌なだけで、僕も正直、生きたままじっくり焼いて殺すのは中々惨いと思う。

 

 

「アオイさんに怪我がないみたいで良かったです。あとアオアシラさんも弔ってあげましょう」

 

 

 猫嬢さんは竜車から降りると、アオアシラに近づき、玉を一つ放った。その玉はモクモクと煙を吹き、アオアシラを覆った。

 

 

「これは?」

 

「俗に言う消臭玉です。これで汚れや血を綺麗に落として、御霊を気持ちよく送ってあげるんです」

 

「そうなんだ」

 

 

 そう言い伝えられてるだけで、実際は死臭を消して、新しいモンスターが寄ってくるのを防ぐためなんだと思う。不衛生ってのもあるか。

 

 

「それじゃあ猫嬢さん、早く行こう」

 

「はい。あんまり時間をかけると心配をかけちゃうかもしれないですしね」 

 

 

 僕は手招きされ、そのまま竜車の後ろに座った。そうすると隣にさっきの生意気なアイルーが座ってきた。

 

 

「そういえば君の名前は?」

 

「……忘れたのニャ? りんごニャ」

 

「りんご? りんご……」

 

 

 りんご……。あぁ思い出した。話し相手になってくれたアイルーだ。ジンオウガに怪我させられて、渓流でしばらく安静にしていたときの。

 

 

「あのとき聞いた話は今思い出しても気持ちが弾むのニャ。最高にクレイジーなのニャ」

 

 

 りんごって名前のわりに中々イカれてる。フラム、ルーフスと気が合いそうだなこの子。

 

 

「必死の状況から助けたかいがあったニャ」

 

「青いの、いつジンオウガにリベンジをするのニャ?」

 

「リベンジ?」

 

 

 

 

「人間にはまだ伝わってないのニャ? 最近、ジンオウガがここの麓、渓流に戻ってきたのニャ」

 

 

 

 

 


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