モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十四話 青と蒼の挽歌

 凍土。ベリオロスを狩った地域。

 でも今日は洞窟には入らず、地図の中心に書かれているエリアに来た。

 起伏のない雪原。狩りでは純粋な地から比べになる地形。

 まずドスバギィの討伐。それから氷結晶を集める。

 

 

「狭いエリアの方が戦いやすいと思うんだけど。回り込まれないし」

 

「私のことなら大丈夫です。なんなら、私が全部引き受けるので、アオイは後ろからペチペチ撃ってるだけでも構わないですよ」

 

「それは……」

 

 

 反論しようとしたところで、視界にドスバギィが入った。真っ直ぐこちらに向かって走ってきている。

 ドスバギィはドスジャギィみたいな体つきで体表は青っぽい。後、頭のトカサがお洒落というか、スカした髪型みたいな形をしている。

 

 まだ警戒しているだけで、戦闘には入らない。縄張りから追い出そうとする程度の動き。

 

 僕はブリザードダビュラを構え、先制攻撃をした。

 ブリザードダビュラはベリオロスの素材から作ったライトボウガンだ。レベル2通常弾や氷結弾を速射できる。本当なら火炎弾を使えるヴァルキリーファイアの方が良いが、試し撃ちも兼ねてこっちを持ってきた。

 

 単発の威力が最も高い、レベル2通常弾。速射機能で放たれる四発がドスバギィに迫る。

 ドスバギィはそれをサイドステップで躱し、強く吠え、臨戦体制に移った。

 多数のバギィがドスバギィの背後から続々と現れる。

 その群れのなかにクレアは突撃した。

 

 ハンマーを抜刀し、横に一振り。

 一抱えほどもある鉄塊が、クレアを軸にして大きく回り、間合いに入ったバギィを捉える。

 ハンマーの重量とクレアの腕力が生む強烈な運動エネルギーは、バギィ一体を打った程度では衰えず、追加で二匹吹き飛ばした。

 振り抜いたハンマーの速度を生かし、踊るように軌道を変え、クレアは背中から半月を描いて前に振り下ろす。

 直撃したバギィが竜車に引かれたのりこねバッタみたいに薄く潰れた。

 たった数秒で行われた仲間のスプラッタ映像に、後続のバギィが怯んだ。しかし、それも束の間、ドスバギィの咆哮がなり、バギィが特攻してくる。

 

 

 乱戦が始まった。

 ドスバギィの咆哮が響く度、前方だけじゃなく、背後や横からもやってくるようになった。

 僕は片っ端からバギィの足を撃ち抜いて動けなくし、それに対応した。跳弾の特訓をしたからか、人の腕くらいの大きさのバギィの足はとても大きい的に感じる。

 

 クレアは近付くバギィを鎧袖一触、全て吹き飛ばしながら、ドスバギィに積極的に攻撃を仕掛けている。

 だが、ドスバギィはそれを回避し、戦闘に消極的だ。

 釣ってるのか……? そういえば全く攻めようとしないバギィがいるような……。

 

 ドスバギィがクレアから大きく距離を離した。クレアは走ってそれを詰める。

 ドスバギィは迎え撃つように、今日始めて攻勢に移った。全身を使ったタックル。

 クレアはそれをハンマーを振り抜き、打ち返した。

 

 生々しい、肉の潰れる音がした。だが、ドスバギィは倒れず、クレアが反動でよろけた。

 ――そういうことか!

 クレアの隙に、様子を伺っていたバギィが一斉に飛びかかる。

 腕に、足に、バギィが噛みついていく。間に合え……!

 

 

「……ッ!」

 

 

 クレアが顔を上げると、そこには頬を膨らませたドスバギィがいた。

 ドスバギィは睡眠毒を吐き、獲物を眠らせて、それから殺すのだ。

 

 その毒液がクレアに向かって吐き出される――

 

 

「ふんっ!」

 

 

 僕はその間に入り、毒液を一身に受けた。

 

 

「アオイ! なにやってんの!」

 

 

 ……意外と痛く、ちょっと足がふらつく。

 バギィが一匹、こちらに襲いかかってきた。よろけているから好機とみたのかな。

 

 

「大丈夫、ホロロホルルの防具は」

 

 

 安易に突っ込んできたバギィの喉を剥ぎ取りナイフで掻き切る。

 

 

「睡眠毒を無効化する。寝ようと思わなければ眠ることはないよ」

 

「それなら良かった」

 

 

 クレアは詰まっていた息を吐きながら、噛みついてきていたバギィを振り払った。血は出てないみたいだけど、痛くないのかな……。

 

 心配はあとで。今は目の前のドスバギィに集中しないと――。

 

 

 

 

   ○ ○ ○

 

 

「あー、これから氷結晶も集めないといけないのか……」

 

 

 あれ以降、特に危険らしい危険はなかった。危険度三程度ならもうそこまで苦戦することはないかも。

 準備をすればソロでも問題なく狩れると思う。

 

 

「アオイが見つけてくれれば採掘は一瞬です」

 

 

 クレアはハンマーの柄に手を当てながらいった。

 バギィに噛まれたところをさっき見せてもらったのだが、傷らしい傷はなかった。

 本人曰く、防具の硬さと体の丈夫のおかげだという。

 ハイメタシリーズ。始めて見た防具だから分からなかった。でも見た目は特徴的だ。

 全身を鉄の鎧で覆っている防具。レアメタルをふんだんに使用していて、見た目ほどの重さはない。

 

 

「採掘は一瞬……? あ、氷結晶の塊見つけたよ」

 

 

 他の鉱石とは違って氷結晶は結構大きい塊で存在している。これを砕いて採掘するわけだ。

 

 

「あれですね? あーら、よっと!」

 

 

 クレアは大きくハンマーをぶん回し、鉱脈に叩きつけた。体の底に響くような音がなり、蜘蛛の巣状のヒビが広がった。

 クレアがハンマーを戻すと、拳くらいの大きさの氷結晶がゴロゴロ崩れてきた。

 

 

「それってあんまり良くないんじゃ?」

 

「力加減しだいですよ」

 

 

 ハンマーで鉱脈を叩くと鉱石が使い物にならなくなったり、ハンマーが使い物にならなくなるから、推奨されていない。今回はうまくいったけど。

 

 

「さっさと氷結晶を集めて帰りましょう」

 

「そうだね」

 

 

 あんまり遅れると、皆んなが必死こいて集めた素材が腐ってダメになってるかもしれない。……大丈夫か。ルナに限ってそれはないか。

 

 

「こういう寒い所はは危険なモンスターが出ることがあるからさっさと帰りましょう」

 

「ベリオロスとか?」

 

「ティガレックスにイビルジョー、クシャルダオラ」

 

 

 クレアはにへら、と笑いながら物騒な名前をつらつらと挙げていく。この人、こんな顔するんだな……。僕の年齢から逆算すればなんとなく何歳かは分かるけどおおよそその歳には見えない表情だ。

 

 

「何でそんなににやけているの?」

 

「……こほん。飛行船に戻ってから話します」

 

 

 

 

「えーと、えーとね! ……はい、貴方のお父さんについて話しましょう」

 

「お父さん?」

 

「天動説を常識としている人に初めて地動説を聞かせたみたいな表情しないでください」

 

「だって今まで存在を意識したことなんて殆ど無かったから……」

 

「酷いこと言いますね……」

 

「だって」

 

 

 ミドリもいないし、ナイトさんとティラさんもいないみたいだし、ルナにもいない。周囲の人が大体両親がいないっぽい。ルルド村……。

 

 

「……まぁ仕方ない部分もあるんですかね? 貴方のお父さんはですね、とっても強い人だったんですよっ!」

 

「クレア?」

 

「……はい。すー、はー……。でね、でね! 力を競えば覇竜を退かせ、速さは迅竜ですら追いつけない。どんな達人よりも技に優れ……」

 

「それ、本当に人間……?」

 

「半分くらい。結構やめてました」

 

「……そんな人、どうして死んだの?」

 

「古龍二匹を相手取って刺し違えました。ナナ・テスカトリを討伐し、それでも襲ってくるテオ・テスカトリの片角を粉々に砕いて撃退して……限界を越えて動いてたみたいでそのまま……」

 

「最期までとんでもない人だったんだね」

 

 

 ナナ・テスカトリ、テオ・テスカトリはつがいの古龍。リオレウスとリオレイアみたいな感じらしい。

 

 国一つに匹敵する敵を二体、それも同時に相手どるなんて……。

 

 

「古龍の被害を未然に防ぐ役割で、あんまり有名じゃないのが残念ですが」

 

「有名じゃない……そうだ、名前は?」

 

「リク、です。そろそろ暗くなってきたので私は寝ますね」

 

「そう」

 

 

 お父さんめちゃめちゃ強かったんだ……。本当に僕はその人の子供なのか……?

 努力で強くなったのかな。それとも才能? あるいはその両方かな。

 

 

「そうそう、リクはね、古龍殺しって呼ばれていたの。でも、彼は私と知り合ったばかりの頃は平々凡々のハンターだったんだけど……」

 

 

 

 クレアは目を閉じて意識を夢に溶かしながら呟いた。

 

 

 

「ある日を境に悪魔的に強くなったんだよね」

 

 

 

 


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