モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十三話 祭りの仕込み

 目を閉じて息を吸う。息を吐いて目を開ける。

 このエリアの全てを把握せんと視線を巡らせ、地面と壁の起伏を頭に叩き込んでいく。

 引き金に指をあて、描く弾道をイメージする。

 

 一発撃つ。その弾が的に迫る。当たる直前に狙いを変えて二発目を放つ。一発目が的に着弾し、跳弾する。その跳弾方向にちょうど二発目があり、二つの弾がぶつかり合う。二つの弾が互いを蹴り合い、速度を増しつつ進行方向を変え、それぞれ、別の的に猛進する――。

 

 

「……一つ外れかぁ」

 

 

 意外と上手くいってるけど、止まっている的相手で、尚且つ緊張感もあんまりない。万が一跳弾がこっちに飛んできたらと思うとぞっとするけど、防具があるから大丈夫なはず。

 マリンさんのようにメイン火力として跳弾は使えないけど、弾数にある程度制約をかければ動けなくなる心配もない。小技くらいには扱えるようになりたい。

 決めてた量を撃ち終わったから的代わりに壁に埋め込んでいたマカライト鉱石を外していく。

 

 片付けを始めてすぐ、ミドリが声をかけてきた。

 

 

「そろそろ終わった?」

 

「うん、終わったよ」

 

「そ。じゃあアオ、がんばろ!」

 

 

 ミドリは大きめのピッケルを渡してきた。

 

 僕達は火山に来ている。採取ツアーを受けてきた。

 二泊三日、思い思いに採集ができる。

 それで、僕達は最初の少しの間特訓をして、それからルナに頼まれたものを集めるというスケジュールを立てた。

 その頼まれたものは――。

 

 

「鉱石を……数千? 覚えてないけど、みんなでたくさん集めないといけないんだよね」

 

「マカライト、ドラグライト、紅蓮石に円盤石……。とにかく何でもかんでも集めてこればいいんだってね」

 

「そんなたくさん鉱石を集めて、ルナちゃんは何をするつもりなんだろうね」

 

「大砲でも作って、村を要塞みたいにするとか」

 

「まさかそんなことあるわけ! あるわけ……?」

 

 

 あり得そうだね、とか言って笑いながら、僕達はピッケルを担ぎ、クーラードリンクを飲み、灼熱の大地に足を踏み入れた。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 火山には大きく分けて三種類のエリアがある。

 真夏日なみの暑さのエリアと肌が焼けるように熱い灼熱のエリアと体の中まで溶かされるような猛熱のエリアだ。

 今いるのは猛熱のとこ。

 

 

「あっつい! 熱い! 熱いよぉ……!」

 

「ここを狩場にするとか頭おかしいんじゃないの!」

 

 

 僕達は汗水たらしながら……訂正、体から汗の蒸気を迸らせながらピッケルを振るっていた。

 カン、カン、カン、カン。

 鉱脈から鉱石の塊が溢れ落ち、それと同時に最後のピッケルが砕けた。ピッケルを使いきるまで掘ると決めていた。今となってはその決意を恨んでいる。

 

 

「終わった、終わった!」

 

「私のも折れたよ!」

 

 

 ピッケルかな、心かな。

 

 

「さっさと帰ろう!」

 

「もうやだこんなところぉー」

 

 

 地面に落ちてる鉱石をかき集め、荷車に乗せる。

 僕は荷車を引き、ミドリは後ろから荷車を押す。

 

 熱さで頭がやられてたのかもしれない。僕達のいる場所は火山で、山頂に行くにつれ熱くなる。

 僕達は山頂付近から、沢山鉱石を積んで、重たくなった荷車を引いて、走って下山している。

 永遠と続く下り坂を、猛スピードで、駆け下りている。荷車は重力に従って加速し続け……。

 

 

 

「アオ、ブレーキが効かないよ……!」

 

「ミドリ、僕もうこれ以上早く走れないよ」

 

 

 ミドリが足でブレーキをかけようとした。靴底を地面に密着させ、摩擦を増やして……。

 

 

「あっつい! 足が、足が!」

 

 

 一瞬減速したが、駄目だった。

 

 

 結局、僕達は馬鹿みたいに走りながら真っ直ぐベースキャンプにたどり着いた。平地はあったが、制動距離としては短すぎ、本当に走りっぱなしだった。

 

 

「アオ、目を瞑ってて」

 

「えっ? なんでさ」

 

 

 ミドリは返答する前に防具を脱ぎだした。あっ、そっかぁ……。

 目を閉じて暗闇の中。音を聞くにミドリは防具を脱ぎ終え、たぶんインナーも脱ぎ、ベースキャンプの海に入った。

 ……ここは海に面している。昔はベースキャンプに船で乗りつけていたらしい。

 僕も海入りたい。体から熱が全然抜けない……。

 一、二分待つと再び水音がした。たぶん海から出てきた音だろう。

 

「体は冷えたけど……。インナーが汗でベタベタ……。着たくない……」

 

「そうかい。じゃあ目開けるね」

 

「着るから、着るから! もう少し待ってて」

 

 

 ミドリが慌てて着替え始めた。濡れてるせいで苦戦しているのか、妙に時間がかかってる。

 

 

「着たよ! いってらっしゃい」

 

 

 その声を聞いた瞬間、目を開け、防具を脱ぎ捨てて海に飛び込んだ。

 体が持ってる熱さが抜けてく……。

 

 

「海、温くない?」

 

「私も思った。全く冷たくないよね」

 

「火山と面してるからかなぁ……」

 

 

 思ったほどの感動もなく海から上がり、鉱石を分別する。急いでかき集めたからなんの価値もない石ころとかが混ざってるしね。

 

 

「アオ、なんでこんなガラクタも拾ってきたの?」

 

 

 ミドリはそう言って丸くてつるりとした石を海に向かって投げ捨てようとする。

 

 

「待ったミドリ、それはお守りだよ!」

 

「お守り?」

 

「うん。スキルを発動させるのに役立つんだよ。ミドリの今持ってる奴は光ってるから……ちょっとだけ期待できるかもね」

 

 

 フラムの役に立つものをあげようと思って、色々調べた上、頑張って採掘したから、お守りの判断が上手になってた。

 ミドリは今はまだ黒く煤けてぼんやりとしか光ってないお守りを見ながら不思議そうにしている。

 

 

「へぇ、こんなガラクタみたいなのがね……。というか、アオ。妙に詳しいけど、どしたの?」

 

「ちょっと調べたからね」

 

「詳しくなるために調べるのは当たり前でしょ。どうして調べたのかを聞いてるの」

 

「んー。それは……」

 

 

 フラムにあげるものを探してる時に頑張って調べたとか、言うの恥ずかしいな。良い言い回しはないものか……。

 

 

「モンスターを少しでも早く、少しでも安全に狩猟するために、スキルについて調べてたらお守りのことを知ったんだ」

 

「言い回しはそれらしいけど……。まぁいっか。今日は休もうか」

 

「そうだね」

 

 

 ミドリが少し大人だったからそれ以上の追求はなかった。

 

 

 二日目は自分達でもびっくりするくらいすぐにに暑さに負けて、尻尾を巻いて逃げ出した。

 

 

 

 

 

  ◯ ◯ ◯

 

 

 

 予定より半日ほど早く帰ってきたせいか、鉱石が目標数に届いていないことをルナに気付かれ、一日休んだ後、別の物を取りに行くように言われた。

 

 そんな風に僕たちはルナにこき使わ……豊作祭にむけての準備を手伝い、あっという間に二週間と少し経った。

 鉱石だけでなく毛皮やキノコ、果てはモンスターの肉まで集めた。

 ルナの依頼はどれも通常のものより割高で、いわゆる美味しいクエストだった。他のところを拠点にしているハンターも噂を聞きつけたのかルルド村に訪れ、依頼を受けたりしていた。

 依頼を目当てにハンターが集まり、そのハンター目当てにいくらかの商人が集まる。その人達が村にお金を落とし、村も潤う。

 豊作祭に向けて集める食べ物は最初は過剰な量に感じたが、今のルルド村を見るとあながち間違いでもなかったのかもしれない。

 村には未だかつてないくらい活気があり、村の誰しもが忙しそうにしていた。

 

 

「アオイ、私と狩りに行きません?」

 

 

 村を見てぼおっとしてたらクレアに話しかけられた。

 

 

「構わないけど、どこに?」

 

 

 

 僕とミドリとメリルとアルフで交代しながら常に村に誰かハンターがいる状態をつくっていた。だが、今となってはこれだけのハンターがいれば村を守るとか考える必要はないように感じる。

 

 

「食材の保存に必要な氷結晶がそろそろ足りなくなるようなので、その採集に。ついでにティラちゃんを無理矢理にでも休ませるためにドスバギィを殺って睡眠袋を採らないといけません」

 

「じゃあ寒い地域に行くんだね」

 

「そうです。では準備を」

 

 

 数日徹夜しても周りの人からは快調にさえ見えるという体力お化けのティラさん。そんな彼女が、ここ最近は目の下にクマがあり、疲れた顔をしている。ルナに休めと言われているのに働き続けているとか。

 マリンさんがティラさんの手伝いを続けてるのもそれが理由なのかな。

 

 僕もちゃんと支えていかないと。

 

 

 


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