モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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七十二話 才能

 

「どうですか、考えました?」

 

「せめて明日にしてくれないかな」

 

 

 ベリオロス討伐後に交わした言葉。メリルは答えを言ってほしいと迫ってくる。なんで僕以上に僕が出す答えに興味があるんだろ。

 

 

「どうですか、考えま――」

 

「そうだ、メリル! ベリオロスと戦ってるときにどうして片手剣に持ち替えたの?」

 

「太刀よりも小回りがきくので、インファイトを挑みやすいからです。どうですか、考――」

 

「ヴァルキリーファイア、作ってくれてありがとう!」

 

「いえいえ。アオイはミドリを引っ張り出してくれたじゃないですか。まだ完全に快復したとは言えませんけど。どうで――」

 

「チェスをしよう。僕が勝ったらしばらく静かにしててほしいな」

 

「……むぅ。じゃあ私が勝ったらミドリの小さい頃につて聞かせてもらいますね!」

 

 

 

 

 風の唸る音やプロペラの回る音。バーナーが吹く火の音に、チェスの駒の音が混ざり始める。

 僕は何をしたいんだろう。何のためにハンターになったんだろ。

 人に死んでほしくないのであれば、みんなを説き伏せてドンドルマにでも移住してしまえばいいこと。あそこならどの村よりも、どの町よりも、どの国よりも安全だ。

 何も考えずに打った手がメリルの仕掛けた罠にかかる。ビショップが容赦なく狩られた。

 

 ……何もしたくなかった? いや、何の邪魔もなく、平和なまま、ルルド村での日々がずっと続いていけばいいと思った。

 合ってるけど違う。続いてほしいのは確かだけど、これが理由でなったわけじゃない。

 思考はまとまりつつあるが、盤面は混沌としてきた。無視してルークを敵陣にねじ込み、考えに耽る。

 

 ……そうだ、直感したんだ。

 この日常は、このままじゃ時間の問題だって。気休めの平和なんだって。嵐が何もかも吹き飛ばしてしまうって。

 

 

 

「アオイ? アオイの番ですよー!」

 

「ん? あぁごめん、メリル」

 

 

 何となくまとまった。僕はやっぱり誰かを……誰も彼もを守るためにハンターになったんだ。

 大きな力に、何も奪われないようにするために。

 今はいずれくるその時に備えて力をつけないといけない。

 とにかく、今やれることを一つ一つしていこう。

 

 

「メリル、チェックメイト」

 

「……へ?」

 

 

 メリルは盤面を穴が空くほど見つめてから、悔しそうにうずくまった。

 肩を震わせて、ちょっと泣いてる。ベリオロスに立ちはだかった格好いいメリルは何処へ。

 

 

「あとちょっとでしたぁ!」

 

「ごちそうさま」

 

 

 微かに危なかった。後五分くらいぼおっとしてたら負けてたかも。

 

 

「ミドリのエピソードがぁ!」

 

「ミドリは教えてくれなかったの?」

 

「それが全く……。いえ、もっと昔は聞いたら教えてくれたんですけど、私がミドリを愛するようになってからというもの、殆ど教えてくれなく……」

 

 

 それだよ。原因、間違いなくそれだよ。

 

 

「……ルナとかティラさんとかナイトさんには聞いたの?」

 

「ルナさんは『最高に可愛かったよ♪』って満面の笑顔で言うだけでエピソードは勿体ぶって教えてくれませんし、ティラさんはいつも忙しそうだから聞くのが申し訳なくて。ナイトさんの所にはマリンがいつもいるから聞きづらくて……」

 

「マリンがいるとなんで駄目なの?」

 

「マリンは私に憧れてハンターになったみたいなので。私のはしたない姿を見せて失望させたくないのです」

 

 

 もう手遅れだよ、とかいっちゃ駄目なのかな。マリンもきっと勘づいてると思うんだけど。

 

 

「そうなんだ。……勝負受けといてなんだけど、ミドリの小さい頃って言われてもこれといったエピソードがないんだよね」

 

「じゃあ私から質問してもいいですか?」

 

「良いよ」

 

 

 メリルは勝負に負けたじゃんという言葉を飲み下し、メリルの好奇心に答えた。

 

 

「ミドリってどうしてあんなに可愛いのでしょう?」

 

「遺伝とかじゃない?」

 

 

 肌の色はルルド村特有のものだと思う。ルルド村に住む人はみんな肌が若く白っぽい。

 

 

「ミドリはどうしてハンターになったのでしょう?」

 

「それも教えて貰ってないんだ」

 

「はい。ミドリがまだ素直だった頃は『ひ・み・つ』といっててとても可愛いかったのですが、今は『教えなーい』とあしらってきてすごく可愛いのです」

 

「可愛いしか情報が入ってこないんだけど」

 

「……教えてくれなかったんです。ミドリはどうしてハンターになったのでしょう?」

 

「僕一人じゃ頼りないからって言ってたよ」

 

「……ふーん」

 

 

 メリルは僕のことを一瞥して、ふむ、と頷いた。いや、納得されても困るんだけど。これでも最近頑張ってる……足りないのか?

 

 

「そろそろルルド村が見えてきたね」

 

「ええ」

 

「着陸するところにミドリとアルフが……新しい防具を着ているね」

 

「本当ですか⁉ よく見えましたね。ミドリ~! アルフ~!」

 

 

 ガンナーは最低限目が良くないと勤まらないしね。メリルが腕を振った瞬間ミドリの表情に変化があったことは黙っておこうかな。

 

 

「二人とも防具が完成したんですかね」

 

「そうみたいだね」

 

「フルフル装備のミドリ……はぁ、尊い……」

 

 

 うっとりとしながらメリルは脱力して横たわった。蕩けきった表情で、涎を垂らすのも時間の問題とばかりに口を緩ませて。

 

 

「……駄メリル」

 

「なっ……⁉」

 

 

 

 

 

 

 メリルが絶句し、そのまま動かなくなった。ただそれも束の間、飛行船が着陸するなり、メリルは飛び出そうとした。が、一歩踏み出したところで僕に振り返り、思い止まった。

 

 

「アオイ、メリル、お疲れ様ー」

 

「どうだったんだい? 怪我していないのならいいのだが」

 

「僕のミスがあっただけで、無事だよ」

 

「帰ってきたから言いますけど、初見の人は皆、そうなるものです」

 

 

 メリルは澄まし顔でそう言った。そういうものかね。

 

 

「アルフもミドリもああいった奇襲に驚いてましたし」

 

「私はなんとかガードできた」

 

「ふつうに避けられたよ」

 

 

 メリルに助けてもらったのは僕だけらしい。ちょっと哀しい。メリルが初めて奇襲されたときはどんなだったんだろ。

 同じ疑問に至ったらしいミドリが代わりに聞いてくれた。

 

 

「メリルはどうだったの?」

 

「わ、私ですか? ちょっとよく覚えていないですね……。そういえば二人とも、防具はいかがですか?」

 

「私はとっても気に入ってるよ!」

 

 

 ミドリはフルフルが好きみたいだしね。僕にはちょっと分からない。

 フルフルの防具は元のモンスターのグロテスクな見た目とは対照的で可愛らしいデザインだ。リボンがあしらわれていたり、犬っぽい耳があしらわれていたり。

 アルフの防具は頑丈そうだ。……茶色を基調としているくらいしか感想がないな。強いていうならアルフは頭防具を外していて、フードつきのコートを羽織っていることくらいか。

 

 

「これだけ硬ければ信頼できる。動きも阻害されないし、音も抑えてもらえたから不満はない」

 

 

 満足そうだ。なんというか、僕とハンターになってからの期間は変わらないはずなのに玄人みたいな喋りだ。

 

 

「メリルは……そのままで大丈夫だとして、アオは?」

 

「防具のことかな」

 

「うん。今回は武器を作りにいってたんでしょ?」

 

「そうそう。防具、かぁ」

 

 

 ……僕はここを出てから武器を作ることを知らされたというのに、なぜミドリはそのことを知っているのでしょう。まぁいいや。

 

 

「アオイは雷耐性に関しては気にしないで大丈夫では?」

 

「言われてみれば遠距離攻撃は避けやすいし、近づかれたら耐性の話じゃなくなるからね……。ひとまず、これで全員の武具の更新が終わったのかな」

 

「はい。後は怪我に注意しながらゆるりと依頼を……ではなく」

 

 

 メリルは咳払いを一つ、マリンに話を聞きに行かないといけないことを僕に告げた。

 ……忘れてたよ。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 

 マリンさんはティラさんの仕事をまだ手伝い続けていた。

 数字を紙に書き込みながらだけど、僕が動けなくなったことを話したら答えてくれた。

 

 

「私に医学は分からないけど、アオイが動けなくなったのは頭がオーバーヒートしちゃったんじゃない? 頭が熱くなる感覚はなかった?」

 

「あったよ。ホットドリンクを飲んだのを後悔するくらいにね」

 

「たぶんね、私とアオイだと効率が違うの。私は最短距離を歩くけどアオイは近道せずに走ってような感じ? 良い例えが思い浮かばないね……」

 

「効率の悪さ……才能……」

 

「今ので理解できたの? それなら私は仕事に戻るから」

 

「仕事手伝おうか? というか何してるの?」

 

 

 覗きこもうとするとマリンさんは紙を素早く裏返した。

 

 

「とんでもなくプライベートなことがかかれてるから駄目。……あー、ミドリちゃんのなら見てもいいんじゃないかな?」

 

 

 そう言ってマリンは紙の束をペラペラとめくり探し始めた。

 

 

「……何が書いてあるの?」

 

「身長とか体重とか……おっぱいの大きさとかね」

 

「ミドリのこそ見ちゃ駄目じゃないか……」

 

「発情しちゃうから?」

 

「いたたまれなくなるから」

 

「あー……。うん、そうだね。今日はもうお帰り?」

 

 

 

 扉を閉めながら、思う。手くあしらわれたのかなって。

 マリンさんの仕事内容は教えてもらえなかったし、都合の良いことは何も言われなかった。

 

 だけど不思議とすっきりとした気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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