モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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 いつもより少し長いです


七話 予兆

 

 嵐がきてから数日間。

 宴会を楽しみ、たっぷりと休養をとり、採取ツアーで素材を採り、平和な日々をおくれた。

 しかし嵐の日、空を泳ぐ龍を発見した。今になってから考え直せばそれは間違いなく古龍の類。天災にも匹敵する数日前に何処かへ飛び去っていった龍。

 

 

「そんなことより……」

 

 

 その龍を発見する直前、稲妻を纏った獣が吠えていたこと。その獣は間違いなく強い。相当な実力をもったハンターが挑んだとしても勝敗は五分五分といったところだろう。

 調べてみるとその獣は今まで一切の目撃例がないモンスターだった。つまり、本来別の場所に生息していたモンスターということ。

 急に別の場所から強いモンスターが来れば当然縄張りを追い出されるモンスターが出てくる。それが今の状況である。

 

 

「単独で大型モンスター……か」

 

 

 ルルド村周辺に二体の大型モンスターがあらわれた。アオアシラとドスファンゴ。片方を二人で倒しにいけばもう片方が村を襲う可能性があるという、危険な状態。だから、ミドリと別々に狩りに行く必要があった。他の村や町に救援を求めたが、救援には時間がかかるだろう。

 ドスファンゴを一人で狩猟。訓練所でブルファンゴを狩ったことはあった。ドスファンゴの動きはブルファンゴと大して変わらないと訓練所では習った。剣士と違ってガンナーはきちんと突進を避ければ何の問題もないらしい。

 最短ルートを通るため崖を慎重に降り、ドスファンゴが目撃された周辺につく。茸が食い漁られた後に足跡。間違いなくこの辺りにいるようだ。

 

 

「基本をおさえればいいだけ……」

 

 

 自分にそう言い聞かせ、歩く。開けた場所は殆どない深い森。足跡を辿って僅か数分。

 

 

「……いた」

 

 

 ドスファンゴを見つけた。おそらく食事中。即座にハンターライフルをとりだし、通常弾を装填する。そして脚に狙いを定め、撃つ。弾丸は脚を捉えたはずだか、毛のせいか返り血はみられない。そして、

 

 

「フゴォッ!」

 

 

 ドスファンゴがこちらを向き、鼻をならしながら脚で地面を掻いた。突進の前動作。そう直感し、回避の準備をする。

 その瞬間、ドスファンゴが地面を蹴った。ブルファンゴとは比べ物にならないほどの瞬発力。体を横に投げ出すようにして回避。直前まで立っていたところをドスファンゴが猛スピードで駆け抜ける。そしてドスファンゴは後ろにあった木に激突する。

 

 

「え……?」

 

 

 大木が倒れた。轟音を撒き散らしながら。流石にドスファンゴは止まったが、ただの突進で木が倒れた。その事実に思わず逃げ出したくなるがなんとかこらえる。

 ドスファンゴはゆっくりと振り向き、こちらに向かって走ってくる。

 轢かれたらただではすまない。ドスファンゴが疲弊するまで攻撃は出来ない。そう考えドスファンゴの突進を避け、ハンターライフルを背負う。

 ひたすら避ける。避ける度にドスファンゴは何かしらにぶつかり止まる。しかし、ドスファンゴが何かにぶつかる度にドスファンゴの足どりはおぼつかなくなっている。

 ハンマーなどの鈍器で頭を殴られ続けると脳が揺さぶられしばらく動けなくなる。眩暈状態。訓練所で習ったこと。ハンターなら知ってて当然の知識。

 多分今ドスファンゴには同じようなことがおこりかけている。

 ドスファンゴの突進を避けながら崖に誘導する。木じゃなくて岩ならもっと確実に眩暈を誘発させられる。

 

 

「フンゴォォッ!」

 

 

 避けられ続けていることに怒りを覚えたのだろうか。ドスファンゴの突進は更にスピードを増す。だが、慣れてきたためスピードを増した突進だが難なく避ける。ドスファンゴは勢い余って崖に突っ込む。崖にぶつかった瞬間、轟音が響き、粉塵が舞う。

 粉塵が晴れると横倒れになりもがいているドスファンゴがいた。避けてから撃つことが出来ない以上、今が数少ない隙。背中を狙い、撃つ。

 弾倉が空になるまで撃ち、貫通弾を装填。装填し終わった所でドスファンゴが起き上がろうとしていることに気付く。ハンターライフルを背負いなおし、剥ぎ取りナイフをとりだし走る。そしてドスファンゴが起き上がった瞬間、跳ぶ。

 あの時のミドリのようにドスファンゴの背中に乗り、ナイフを刺して体を固定する。毛はとても固く、獣の臭いがする。臭い。ドスファンゴが牙を振り回し振り落とそうとしてくるが脚とナイフを使って耐える。

 余りに暴力的で無茶な動き。しかしすぐにドスファンゴは疲弊したのか動かなくなる。ナイフで背中を滅多刺しにする。返り血で視界が真っ赤に染まる。

 

 

「うわっ」

 

 

 ドスファンゴが急に動き出した。慌てて背中にナイフを突き立て耐える。ドスファンゴはひたすら走る。滅茶苦茶な軌道で。崖に、木に、ぶつかりその度に体が吹き飛ばされそうになる。そしてまた動かなくなる。

 

 

「せぁッ!」

 

 

 背中に思いっきりナイフを深く刺す。その瞬間、ドスファンゴが倒れる。素早く飛び降り、振りかえってドスファンゴを見る。牙は欠けていて頭部も所々変形している。体じゅうの毛に血が滲み、所々禿げていた。

 頭を正面から狙い、撃つ。一発目。頭蓋骨で弾丸が滑り、逸らされたのだろうか。弾丸は額に吸い込まれた後、背中から出てきた。二発目。先程よりやや下の部分を貫く。ドスファンゴはゆっくりと力を失い動かなくなる。先程までこちらを殺意に満ちていた目は生気を失った。必死に動かされた脚は重力に負け、地につく。

――なんとか勝てたようだ

 ドスファンゴにゆっくりと近付き毛皮と牙を剥ぎ取る。毛皮は見た目より固く、それなりの面積を剥ぎ取るのは思いの外大変だった。

 

 

「ミドリ大丈夫かな……」

 

 

 討伐の報告をするために、必要ならミドリの手助けをするため力なく帰路に着いた。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

「ソロ……かぁ……」

 

 

 この近くでドスファンゴとアオアシラが見かけられたらしい。二人がかりで各個撃破が定石だが、見かけられた地点が村と近すぎるのでそれは出来ない。アオ曰く縄張りから追い出された個体だそうな。稲妻を纏った獣なんて正直信じられない。

 

 

「アオ、頭うったのかな……」

 

 

 空を泳いでいた龍に関しては本当に信じられなかった。確かに余りにも突発的な嵐だったけどそんなこと起こせるわけ……

 

 

「考えても仕方ないか……今はアオアシラだし。」

 

 

 目撃地周辺。辺りには痕跡は一切……あ、ハチミツ。ハチミツが落ちていた。幾つもの大きめの雫が点々と。

 

 

「辿っていけば見つけられるかな」

 

 

 ドスファンゴの狩猟に向かう時のアオ程ではないだろうけど体は震えているはず。怖い。

 僅か数回の狩りだけど無条件に背中を預けられる程アオを信頼……依存、していた。背後を注意しないといけない。それだけのことなのに底なしの恐怖を感じられた。

 

 

「ドスジャギィと違って手下がいるわけじ……」

 

 

 そこまで自分に言い聞かせようとした所でアオアシラを発見した。全身を青色の毛が生えていて、上半身は青色の装甲が覆っている。腕はハチミツを固めたような色。

 間違いなくアオアシラだ。アオアシラは私の頭程もありそうな大きな蜂の巣を幸せそうに舐めていた。一瞬羨ましいと思ってしまうがすぐに思考を戻す。

 

 

「すぅ……はぁ……」

 

 

 深呼吸をする。体の隅々まで新鮮な空気が行き渡り、視界がクリアになる。辺りにはアオアシラが一体。側面を向けている。全力で走れば四秒程度の距離。片足を軽く踏み込み両手を地面につけ、前傾姿勢になる。限界まで足に力を入れ、地面を思いっきり蹴る。

 距離を半分以下にまで詰めたところでアオアシラがこちらを振り向く。その振り向いた頭めがけて両の剣を抜き、振る。側頭部を浅く斬った。そのまま速度を回転に変え、アオアシラの腰の辺りまで回りながら斬る。僅かな量の血がでるがアオアシラは意にも介さずこちらに向きなおした。

 

 

「グァーッ!」

 

 

 アオアシラは両足で立ち上がり腕を振り上げ吠えた。

威嚇だろうか。両腕は刺々しく、殴られたらただではすまないだろう。アオアシラは右手を振りかぶり、こちらを薙ぎ払おうとしてきた。

 とっさに伏せ、避ける。頭上を多量の風切り音をはらみながら腕が通った。通りすぎた瞬間、がら空きのお腹に両手の剣を振るう。斬った直後、かなりの量の毛と血がばらまかれる。

 

 

「グァ!?」

 

 

 予想外だったのだろうか。単純に痛いのだろうか。アオアシラは二、三歩後退する。しかし、すぐに立ち上がり今度は左手を振りかぶった。

 次は距離をとることで避ける。振り切ったのを確認して一歩踏み込んだ直後、アオアシラが右腕も振り始めていた。

 とっさに後ろに避けようとするが一度前に踏み出してしまった以上、すぐには移動できない。

 体を反らすがアオアシラの右手は胸の装甲を深く抉り、装備の皮……インナーの、一部までも吹き飛ばした。胸の辺りが軽く切れるが控え目なサイズなのでかすり傷で……

 

 

「絶対に許さない……」

 

 

 コンプレックスに触れた獣を忌々しく睨みながら、両手の剣をしまい、距離をとる。こちらの殺意に怯えでもしたのだろうか、アオアシラは様子を伺っているようだ。

 ポーチから強走薬をとりだし一気に飲み干す。僅かだが蓄積されていた疲労感がとれる。そのまま剣を抜き振り上げ鬼人化。強走薬を飲んだため、まったくつかれない。

 滑り込むようにアオアシラとの距離を詰める。アオアシラはまた腕を振りかぶるがすぐに跳び、アオアシラの振りかぶってないほうの腕を踏み更に跳ぶ。

 踏んだ瞬間、体を横に捻り、空中で回る。飛び上がっている途中に二回の斬撃、頭付近の装甲に深い傷をつける。

 そして、重力に負け、落ちる。そのまま背中を転がるように斬りながら着地。上半身の装甲の一部が割れ、血が流れる。アオアシラは倒れこむが腕をついて耐えた。

 その隙を見逃さず、お尻の辺りだろうか、をひたすら斬り刻む。返り血が青色の毛を赤く染め上げていく。

 アオアシラが上体を起こし、片方の腕上げた。薙ぎ払われる!という直感に従い、後ろに軽く跳ぶ。そうすると目の前を直感の通り両腕が振り抜かれた。突きだされた頭を少し跳ねながら斬る。

 

 

「グァアッ!?」

 

 

 肉を斬る感覚とも違い、装甲を斬った感覚とも違う感覚があった。――右目を斬った。そう思ったと同時に右目のあった場所の辺りから大量の血が噴き出す。

 アオアシラは怯んだ後、すぐに回れ右をして後ろを向いた。逃げ出すつもりだろうか。すぐに剣をしまい、全力で地面を蹴る。数歩で全速力に達し、すぐにアオアシラと肉薄する。軽く脚を曲げ跳び、今度は踏むのではなく背中に乗る。背中にナイフを突き立て、言う。

 

 

「逃がすと思った?」

 

 

 背中に乗られたことに驚いたのだろうか、上体をまた起こし、手で振り払おうとしてくる。しかし届かない。一ヶ所に狙いを定め、剥ぎ取りナイフを何回も何回も振り下ろし、抜く。その度に装甲が砕け、血が噴き出す。

 途中で白色の……骨? が見えた所でアオアシラは力なく倒れた。完全に動かなくなった。なんとか一人で討伐できたようだ。アオアシラの毛……血で染まっていない部分を剥ぎ取る。そして今の狩りを少し振り替える。

 

 

「……自分でもちょっと引きそう」

 

 

 少し、いやかなり狂ってた。モンスターより自分が怖い。そこまど考えたところで怪我を思いだし胸の切り傷に薬草を塗り込む。余りにも傷が浅かったためだろうかあっという間に治った。そのことに嬉しいやら悲しいやら何とも言えない気分に浸りながら呟く。

 

 

「アオ、大丈夫かな……」

 

 

 同時に狩りに向かった幼馴染……あるいは……を想い、ルルド村への帰路につく。

 

 とても危険なことにアオアシラは村の近くにいたため、帰りも早かった。そうすると目の前から疲れた様子の深い青の髪で所々赤色の……

 

 

「アオ!? どうしたの!?」

 

「へ? て、わっミドリ!?」

 

 

 アオは上半身が真っ赤に染まっている。あろうことか頬までも仄かに赤い。

 

 

「その大量の血! どうしたの?」

 

 

 アオはガンナーである。返り血は浴びないはずだからまさか……

 

 

「全部返り血だよ! そんなことよりミドリ」

 

 

 返り血がついている理由について小一時間問い詰めたいが。アオの指はこちらの胸を……

 

 

「……ッ! バカっ……」

 

 

 大胆に露出していた。とっさに腕で隠す。思考が恥ずかしいという単語で埋まっていくなか、アオは言った。

 

 

「……まだ成長期だから諦めないでね」

 

 

 哀れんだ目で。アオは私に雨具を投げ渡すとそのまま村の中に入っていった。

 

 

「……」

 

 

 黙ってアオについてく。雨具を羽織り、紐をきつめに引っ張り結んでから。

 

 

 ルナちゃんの家。今日は縁側にはいなかったため玄関で呼ぶ。

 

 

「アオ、ミドリ! お帰りなさ……い!」

 

 

 ルナちゃんの顔が目に見えてひきつった。アオの返り血のせいだ。

 

 

「返り血です。気にしないでください」

 

「そうなの……よかった……」

 

 

 不意にここにいる三人とは別の声が聞こえる。

 

 

「ミドリにアオイくん。心配しました。無事でよかった」

 

 

 数週間前まではしゅっちゅう聞いていた声。紅い髪の女性は優しい言葉で言った。

 

 

「……え? 師匠?」

 

 

 あの日、私が、勝手に飛びだし、勝手に命の危険に遭い、それをなにも言わずに救い村に送り……運び届けてくれた張本人。

 

 

――スカーレット師匠

 

 

「ミドリ……会いたかったよぉッ……」

 

 

 師匠は私に抱きついてきた。


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