モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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第四章
六十三話 緑玉


「ふぅ……終わった?」

 

「討伐確認、お疲れさまでした!」

 

 

 ドスジャギィ、討伐完了。

 僕は村に滞在しているハンターと狩りをしにきていた。ルナが出した依頼を村にいるハンターでひたすら消化しているのだ。

 ここ最近、ジャギィやランポスといった小型モンスターが異常なペースで増えている。

 大型モンスターが大きく減ったのが原因なのだとか。

 

 

「ドスジャギィは大型モンスターの中では弱い部類のはずだが、ここまでジャギィが多いと流石に手強かったな」

 

「でもガンナーの援護射撃のおかげでどうにかなった」

 

「二人がジャギィがこっちにこないようにしてくれたからです」

 

 

 三人でドスジャギィ及びジャギィの群れの狩猟に来ていた。

 ジャギィの数がとにかく多く、数十体という単位で狩ったと思う。

 パーティを組んだのは強面のランスさんとボーイッシュなカタナさん。もちろん実名ではない。ランスさんの意向で名前を名乗らないことになっているのだ。

 曰く、噂で知り合いの死を聞くのはもう疲れたのだという。

 

 

「早く剥ぎ取りを済ませて村に戻るぞ」

 

「分かったよランス。ささ、ガンナー。早く剥ぎ取りをするよ」

 

「あ、うん」

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 依頼を二つほどこなした仲間と別れた。仕事仲間、といった感じだったな。

 特に友情とかそういったのが芽生えることもなく、淡々と報酬を三分割し別れることになった。

 

 

 ……リオレイアを討伐してから二週間経った。

 それは手紙が来てから一ヶ月経ったことを意味する。その手紙には二週間後に帰ってくるねとあった。

 頼んだ飲み物を飲み干す。

 

 

「ミドリ……」

 

 

 飲み物を飲むと口の動きが滑らかになったのか、思わず声が出た。その声にナイトさんが反応した。

 

 

「手紙ではもう帰ってきてるはずなのにね」

 

「うん……そうなんだけど」

 

 

 まだかなー? いっそ会いに行こうか? でも場所も宛先も知らないし……。あっ。

 アルフの手紙、返信してない。なんならアルフから手紙が来たことを二人にも言ってない。

 どうしようかと空っぽのコップを持ったままでいると離れたところで呑んでいたマリンさんがこちらに近づいてきて話しかけてきた。

 

 

「ミドリってもしかして最近活躍してるあの娘?」

 

「へ? 知ってるの?」

 

「獣、女神。あるいは拡散弾。色んな呼ばれ方してる子でしょ」

  

「……それみんな別人じゃないかな」

 

 

 獣も女神も拡散弾も全く違う意味じゃないか。

 

 

「そう思うじゃない? でも名前も、戦闘スタイルも、武器まで一致してる。それに時間軸に矛盾もない。これは間違いないと思うね」

 

「へぇ、ミドリ、そんなに活躍してるんだ……!」

 

 

 ミドリも順風満帆なんだな。……。

 こういうこと考えるべきじゃないんだろうけど、僕が近くに居ない方が皆上手くいってるように思えた。

 

 

「活躍といえば活躍だねぇ」

 

 

 マリンさんはそう言ったきり、おつまみを食べ始めた。……含みのある言い方が気になるんだけど。

 

 

「……もうそろそろ遅い時間だ。アオイ、そろそろ帰ったらどうだい?」

 

「ん。そうする」

 

「私も帰るー」

 

「そうかい。お休みなさい」

 

 

 席を立ち、コップをナイトさんが取りやすいように移動させた。ナイトさんはありがとう、と呟きそのコップを取っていった。

 マリンさん、今日は帰るのか。この前はお酒に溺れてそのままタダ働きさせられていたっけ。

 ナイトさんが少しだけ残念そうなのはそのせいなのかな?

 

 食事処を出ると、ちょうどティラさんが歩いてきていた。

 

 

「アオイ! 朗報ですよ!」

 

「ティラさん。何かあったの?」

 

「明日の朝、ミドリ達が帰ってくるよ!」

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 うず、うず……。

 

 

 

 ……うずうず。

 

 

「もう一度言ってあげようか、朝日が昇るまではこないよ」

 

「まぁ、うん。……クイーンをe7に」

 

「ナイトをd7に、チェック。この時期だから後一時間くらいだよ」

 

「でも布団にいても眠れないんだ。キングc8に」

 

「子供じゃないんだから……あ、ルークa8へ」

 

「あはは……あれ、もう詰むんじゃ?」

 

「久々に楽しかったよ。いつの間に腕上げたの?」

 

 

 大きめのハンデもらってたのに。ルナは一切盤を見てないのになぁ……。

 チェスは駒落ちはできない。だからこのハンデ。ルナは頭に盤面を完全に記憶した状態で打ち続けていた。

 ついでに、一手でも駒の場所を覚え間違えていたら負けのルール。

 僕はルナの方に向き直り、盤を地面に置いた。

 

 

「そんな落ち込まない。私、途中から結構本気で挑んだんだよ?」

 

 

 ルナそう言い、ペロっと下を出し、上の方を指差した。……やられた。

 上を見ると、鏡があった。チェスの盤がバッチリ映ってる。

 僕はルナに駒の位置の記憶を曖昧にするために会話をして、チェックも控えていたのを完全に利用された。

 本当にやられたよ。

 

 

「不正は今更だけど、それでも自分で言い出したハンデを潰しちゃうのは酷くない?」

 

「ハンデ有りじゃもうそろそろアオイに負けちゃいそうで」

 

 

 回数を重ねるごとになんとなく勝ちに近づいているはずなんだけど、それでも遠い。

 

 

「ねぇ、ちょっと散歩しない?」

 

「うん、分かった。でも僕、ずっと上の空だよ?」

 

「いいよ。でもねぇ、上の空ではいられないと思うよ」

 

 

 ルナはそう言って軽やかに歩きだした。僕もそれについていった。

 ……ルナはどうしてこんなに僕に接してくれるのかな。あれだけ自責に駆られていたのに。なんていうか、ルナは狂ってる。

 

 

「アオイさ、この川がどこでできて、流れてくるのを見たことある?」

 

「そういえばないね。今まで一度も見たことない」

 

「私もないの。登れないし、空からも見えないからね。でも村の一番奥にある滝は見たことあるでしょ?」

 

「うん」

 

 

 二人で水路を遡って歩いていく。水量自体は水路というより川に近い。

 村を見下ろすとこの水路は何本にも別れ、村中に張り巡らされている。生活用、農作用。澄んだ水は磨かれたかのように艶やかな石の水路の上を流れていく。

 村にある数多の水流は朝日を反射し、輝いていた。

 

 

「……アオイ?」

 

「あぁ、ごめん」

 

 

 気がつけば足が止まっていた。ルナは不思議そうにしたが、すぐに歩き始めた。

 

 滝の轟音がよく聞こえるようになってきた。ここまで近づいて見上げるのは、今までで初めてかもしれない。

 高さは五メートルくらい。でも水量は尋常じゃない。

 

 

「アオイ、底のあたりをよーく見てみて」

 

「ん?」

 

 

 流れ落ちる水が水面を荒らげ、気泡がまるで底を見るのを邪魔しているようだった。でもよく目を凝らすとうっすらと何か見えた。

 

 

「……緑色の宝石みたいなアレ?」

 

「うん。沢山あるでしょ。二つだけ、取ってきてくれないかな」

 

「いいけど、危なくない?」

 

「底浅いから大丈夫だよ」

 

 

 大丈夫かなぁ? 

 慎重に入ってみると膝上くらいだった。水はとてもひんやりとしている。でも体が少し熱くなるような感覚がある。回復薬を飲んだときに似ている。

 珠のあったあたりを手探りで探すと、幾つかあった。その内の二つを取り、でてきた。

 

 

「二つでいいの?」

 

「うん。どんな影響あるか分からないから」

 

「そう。はい」

 

 

 透き通った深い緑色の石。へこみや歪みが殆どない。横から見るとひし形、縦で見ると正方形の八面体。

 縦に入れればコップにピッタリ入りそう。

 

 

「石自体はひんやりしているのに手が熱くなってきた」

 

「手が熱く……代謝が上がる……形の不自然な整い方……」

 

「ルナ?」

 

「これってもしかして薬草のエキスが固まった物……?」

 

 

 これが? 確かに言われてみればそういう色をしているし、触れているだけで薬草を食べたような熱さもある。

 

 

「でもなんで固まった?」

 

「なんらかの不純物に回復の成分がくっついて、ここで対流に揉まれてる内にこうなったのかな」

 

「ふーん」

 

 

 石を太陽に透かして見るとうっすらと丸い珠が見えた。殆ど同じ色だけど微妙に違う。

 

 

「どうしたのアオイ?」

 

「別に。なんでもないよ」

 

 

 この丸い珠が何かしらの不純物なんだろうな。

 

 

「取ってくれてありがとうね。そっちのはアオイにあげるよ」

 

「ありがとう。……ん?」

 

 

 山の稜線からチラっと影が出てきた。

 それは飛行船だった。乗っているのは三人。もしかして。

 

 飛行場まで全速力で走った。何度か転びそうになりつつ、辿りつくとちょうど飛行船が着地するところだった。

 近づくにつれ、焦れったい気持ちが安堵に変わると歩みも自然と遅くなった。

 

 飛行船から新緑のような色の髪の少女が降りてきた。

 少女は僕の姿を見ると青色の瞳を丸くした。

 

 

「おかえり、ミドリ!」

 

「え? アオ?」

 

 

 ……そういえば僕はまだ怪我で動けないはずだったんだね。たぶんそれで驚いているんだよね。

 

 

「怪我が結構早く治ったんだ」

 

「それは良かったね。……本当に、本当に良かった」

 

 

 ミドリは安心したように息をついた。そんなに心配してたのか……。

 ちょっとだけ気恥ずかしくなって視線を変えると二人飛行船から降りてくるのが見えた。

 厳密には一人がもう片方をおんぶしているのだけれど。

 おんぶされているのはメリル。特に変わりない様子ですやすやと気持ち良さそうに寝ている。

 おんぶをしているのは黒色の帽子を深く被った少女。

 季節外れの長袖のワンピースを着ていて不気味な印象がある。

 少女が顔をあげた。そうすると真っ赤な眼と視線がかち合った。

 肌は比喩ではなく、本当に真っ白。眼は薄い赤色。

 

 

「やぁ、アオイ」

 

「アルフ!」

 

 

 訓練所で僕は四人でパーティを組んでいた。僕とフラムとルーフスと……最後の一人がこの子、アルフだ。

 

 

「まさかミドリの話してたガンナーさんがアオイだとは。世間って狭いねぇ」

 

「狭いおかげでまた会えたね。久しぶり」

 

「久しぶり。で、まぁちょっといいかい?」

 

 

 アルフは困った様子で視線を横に滑らせた。釣られて僕もそちらを見るとそこには誰もいなかった。

 正確にはさっきまでいたはずのミドリが既にいなかった。

 

 

「今すぐ武具を準備するんだ。可能ならミドリを捕まえてくれ」

 

「……?」

 

「このままじゃミドリが危ない」

 

 

 ……? どういうことなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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